IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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一夏墜つ、時守――

花月荘のビーチに、1つの白と1つの紅が佇んでいる。

そのビーチは昨日の賑やかさが打って変わったように静まり返っていた。…その雰囲気だけでなく、人の数も、そして使用される目的も違う。…ただ、海に出ていく者を送るため、そして海から帰ってくる者を迎えるため、という意味だけで見れば同じだった。

 

「…軍用IS…か…」

「大丈夫だぞ、一夏。何せ私と紅椿がいるんだからな!」

 

 

 

出撃を目前にして一夏が重々しい雰囲気を漂わせ、箒が嬉しそうに一夏に語りかけているまさにその時、2km沖合で時守は既に激戦を繰り広げていた。

 

…そう――――

 

 

 

 

 

 

 

「あかんあかんあかん!!めっっちゃう〇こしたい!やばい!」

 

 

 

 

謎の腹痛と。

 

 

「キリキリするヤツや…!あっ…ぉおぉぉう…!!暴れてるぅ…。ギュルギュル言うとる…あかんもう出そかな。有機物やしな…肥料になるんちゃうか?…!いやあかん!……どないして拭こ…紙ないやん…。もういっそのこと垂れ流そかな…いやでも流石に拭きたいし…!!やっべ…開いてる!!開きかけてるから!」

 

 

軍用ISとの戦闘を目前に控えた者の言動とは思えないが、本人は至って真面目である。真面目に真摯に腹痛と向き合っているのだ。

 

 

「卍解しかけてる…、こんにちはしてるて…こんちにはしてからこんばんはしてまうて…」

 

 

そう、ただ来たるべき戦いに備えて体調を備えようとしているのだ。そしてここで時守に奇跡が起こる。

 

 

『操縦者バイタルに異常発見。操縦者保護システムにより、身体状態を一時的に安定に保ちます』

「お?…おぉ!!」

 

 

彼の専用機『金獅子』が、腹痛を治めてくれたのである。

 

 

「ISマジすげぇ!!めっちゃ感動したわ!腹痛止まるとかマジで神やろ!!」

 

 

 

そして本来の戦いに向け――

 

 

 

「…ふぅ。さてと」

 

 

赤と白が金と邂逅し―

 

 

 

 

 

「剣!!来たぞ!」

「行け!一夏ぁ!!」

「一発行こかぁ!!」

 

 

 

 

 

福音との戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 

『零落白夜』を発動させた雪片弐型が空を斬る。暴走状態にある福音が直線軌道から急に方向を変え、円を描くように飛翔したのだ。

今回の作戦の要である『一夏の零落白夜による一撃必殺』はひとまず失敗した。

 

 

「切り替えや!フェイズ2に移行すんで!」

「了解!!」

「一夏!私は左から行くぞ!!」

 

 

フェイズ2『撹乱しつつSEを削り、相手の隙を作る』

箒が口頭で言ったように福音の左へと飛び、刀『雨月』による打突でエネルギー刃を放出する。そして『紅椿』の次に機動力の高い『白式』を纏う一夏が福音の次の行動を待ち、時守がその一夏のサポートに回る。

 

 

「敵機確認、迎撃モードへと移行。『銀の鐘』稼働開始」

「っ!一夏!箒!!」

 

 

オープンチャンネルを通じてきた無機質な機械音声に時守が過剰に反応する。

『銀の鐘』を発動させた福音の翼に、淡い光の粒子が集まる。

 

 

「今度は俺からだ!」

 

 

一夏が再び、三度、零落白夜の刃で福音に迫るが、福音はひらりと、そして時にはぐるりと周り、ほんの数ミリといった差で避け続ける。零落白夜はその見た目から所謂『ビームソード』のような物になっているが、当たらなければ碌にSEを減らすこともできない。

 

 

「箒!一夏のサポートや!!」

「分かっている!!」

一夏はもうちょい発動時間を気にしろ!持たへんぞ!!」

「了解!」

 

 

一夏が正面から、箒が左から、そして時守が右から、さらには『ランペイジテール』で福音の行く手を可能な限り絞りながら攻め続ける。

 

「くっ!はぁあ!」

 

 

しかし、焦るが故に攻撃は上手くはいかない。

唯一の一撃必殺武装『零落白夜』も時間制限がある。その事を知っている一夏はさらにそのいらいらを募らせる。

人の手で操作される『白式』と暴走状態ではあるが機械が操っている『福音』

冷静さを欠けた方が、先に隙を見せた。

 

 

「なぁっ!?」

 

 

一夏を光の弾幕が襲う。その数実に36。暴走状態にあるためそれほど狙いが高い制度とは言えないが、ほぼ同時に打ち出される弾丸を避けるのは至難の業であり、なおかつ受ければ文字通り一撃で装甲を持っていかれる。

 

 

「一夏は左から!箒は右から攻めろ!!俺が正面で時間を稼ぐ!」

「「あぁ!!」」

 

 

『オールラウンド』を両手で持ち薙刀のように振るう時守。福音が動きを止め、その手で受け止めた瞬間に一夏と箒が両隣から襲うが、攻撃はかすりもしない。制御下を離れたとはいえ、危険認識能力の類いのものはあるらしい。

恐らく最上位は『零落白夜』のみ、その次に未知の『紅椿』。時守の操る『金獅子』は、その操縦技術こそ卓越しているが、高火力武装『グングニル』を使えない状態にあるため、優先順位はかなり下になっているのであろう。

だが機械であるが故にその『受け止める』という行動が、既に隙となっていたのにも気づかない。自身が最良の判断として行った行動がそうなるとは微塵も思っていないからだ。

 

 

「はぁっ!……一夏!今だ!!」

 

 

時守の攻撃で動きを止め、そこを箒に追撃され、瞬時加速で接近中の一夏の目の前に駆り出される。

――が、一夏は攻撃せず、まっすぐ海面へと向かった。

 

 

「何をしているんだ一夏!?せっかくのチャンスに―」

「船だ!先生たちが海域を封鎖したはずなのに―ちくしょうっ!密漁船かよ!」

 

一夏はそのまま船へと向かい、白式の力で移動させる。船と一夏が先ほどまでいた場所に、福音の弾丸が降り注いだ。

そして、その爆発により打ち上げられた水しぶきが海面に落ち着くのと同時に、『雪片弐型』の光の刃『零落白夜』が消えた。

 

 

「…っ!緊急フェイズ『退避』!一旦戻るぞ!」

「待て一夏!!馬鹿者!なぜ犯罪者などを庇ったのだ!!」

「箒!…そんな、そんな寂しいこと言わないでくれよ。力を手にしたら弱者のことが見えなくなるなんて…全然らしくないぜ」

「わ、私は……」

「おいごら!!聞いてんのか!!」

 

 

時守が1人で福音を止めていた時、事態はさらに最悪となった。

一夏の『零落白夜』の使用不可。

そして紅椿の『具現維持限界』つまりはエネルギー切れ。少し動かすぐらいならできるが、もう防御に回すエネルギーも、武器を展開するエネルギーも、箒の紅椿には残っていなかった。

 

 

「ぐぁっ!…やっべぇっ!」

 

 

時守を蹴りで吹き飛ばした福音は、明らかに動揺している箒に標準を定めた。

 

 

「箒ぃぃぃっ!!!」

 

 

福音から放たれる弾丸を、箒に当たる直前で追い抜かした一夏は箒を抱きしめ、その攻撃から彼女を守る。

 

 

「ぐああああっ!!」

 

 

追い抜かした時に使用した瞬時加速が最後のエネルギーだったのだろう、一夏の無防備な背中に爆発光弾が降り注いだ。

 

 

「一夏っ、一夏ぁっ、一夏あっ!!」

「箒!!とっとと一夏連れて花月荘に戻れ!!お前もそうなるぞ!」

 

 

白式が解除され海に落ちそうになった一夏を、今度は箒が抱きとめる。そしてそのまま泣きじゃくる彼女に、時守は心を鬼にする。

 

 

「何…?じゃ、じゃあ剣は…?」

「俺のはまだエネルギーに余裕がある!!お前のはもう具現維持限界迎えとるやろが!!」

「だ、だが…!」

「だがちゃうわ!!今のお前はお荷物や!」

 

 

箒を一瞥し、福音の方へと振り向く時守。その眼前には既に爆発光弾が迫っていた。

 

 

「け、剣!?」

 

 

先ほどの想い人のように、また1人がアレの餌食になってしまった。――かのように箒には見えていた。

 

 

 

 

「……俺をあんま舐めんなよ?福音」

 

 

そこにいたのは金色の球体――その隙間から僅かに内側にいる時守が見えるので完全な球体ではないが。

時守は『ランペイジテール』を自身を中心に球形に伸ばし、その爆発光弾を防いだ。この状態だと時守は攻撃できないが、相手の攻撃もそう簡単にはもらわない。

 

 

 

「…箒、一旦はよ戻れ。そんな動揺してたらマジで巻き込まれるからな」

「………すまない…」

 

 

 

時守に一言、様々な意味が乗せられた謝罪の言葉を告げると、箒は現在出せる限界ギリギリの速度で離脱した。

――そして、今始まろうとしていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いけるか?これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――金と銀の死の円舞曲が―


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