IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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原作の福音ってもっとやばいと思うんだ。
今回から読者の方からの感想で、『これは他の人も気にしてそうだな』と思った疑問などを、後書きで答えていきます。


ブリーフィング

 

花月荘にある宴会用の座敷部屋。

そこは普通の座敷部屋よりもかなり広く、相当な人数が収容可能である。が、今のこの部屋には人が入ることの出来るスペースはかなり限られている。

レベルAの特命任務。そのためにこの部屋に入れられた大型の機材。空中ディスプレイを展開するための装置に、展開スペースの確保。そしてディスプレイの前に座るIS学園1年教師陣の面々。そして集められた一夏達1年専用機持ち8人。これらが原因で、座敷部屋は元の広さの見る影もない。

部屋の中央に置かれたテーブルの側に立つ千冬と、その反対側に座る一夏達。

座っている順番は、千冬から見て右からラウラ、鈴、シャル、セシリア、箒、一夏、剣だ。

 

「では、現状を説明する」

 

周りで忙しなくキーボードを叩く音の中で、千冬の声が凛と響いた。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼動中だったアメリカ・イスラエル共同開発中の第3世代IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』…以後福音と呼ぶことにする。その福音が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱した、との報告が入った」

 

一夏と箒、2人の戸惑いを他所に、6人の表情は真剣そのものだった。特にラウラと時守の2人。軍人であるラウラの雰囲気は完全に軍人のそれであった。そして時守は真剣に話を聞きながらも、自分の考えの及ぶ範囲で起こりうる最悪の事態を想像していた。彼自身、自他共に認める鋭さがある。普段は無駄なツッコミやボケにそれが当てられているだけであって、このような場面でもそれは発揮される。IS学園に入学してからの変化の1つ、と言ってもいいだろう。

 

「その後衛星からの情報で、時間にして今から50分後に福音はここから2km先の空域を通過することが分かった。学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処することとなった。教員は学園の訓練機を使用し、空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ち、つまりはお前達に担当してもらう」

「えっ?」

 

一夏の呆然とした声が響く。…これが本来の反応なのだ。軍やら作戦の要やら、そんなものとは全く無縁の生活を送ってきた者の、普通の反応だ。

 

「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

「はい」

 

千冬にそう言われ、すぐさま手を挙げたのはセシリアだった。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「分かった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。情報が漏えいしたと見られたら、諸君には査問委員会による裁判と、最低でも二年の監視がつけられる」

「了解しました」

 

若干1名、その機密のさらに奥まで知っている者がいるが。とは千冬は今は言わなかった。

未だ状況が飲み込めていない一夏に対し、代表候補生の面々と教師陣は開示されたデータを見ながら相談をはじめる。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型…わたくしのISと同じくオールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃、機動の両方に特化した機体ね…、厄介だわ。しかもスペック上ではあたしの甲龍を上回っているから、向こうの方が有利…」

「この特殊武装が曲者って感じだね。ちょうどフランスからリヴァイブ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

「うん…しかも、制御下を離れてるから…多分人間の動きを超えた機動が出来る…かも。普通にやってたら、多分かすりもしない…と思う」

「しかもこのデータでは格闘性能が未知数だ。…持っているスキルすらも分からん。…偵察は行えないのですか?」

「無理だ。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう…どうした時守?」

 

代表候補生達が案を出す間、何かを考えていた時守に、千冬が声をかける。

 

「…先生。福音の搭乗者は?」

「…ナタルだ」

「やっぱり…!…ふぅ、すいません。落ち着きました。搭乗者がナタルなら、ここにある以上のスペックデータは少しなら分かります」

「本当か?」

「はい。この前模擬戦をした時に色々と話したので」

 

力が未知数のISのスペックを知っている、ということでその場にいる者全ての視線が時守に集中する。

 

「福音の特殊型ウイングスラスターを使用した攻撃、『銀の鐘』は360度、全ての方向に計三六の一斉射撃が可能です。しかも元々軍用ISとして開発されたので、SE、動力エネルギー共に競技用ISとは桁違いに高く、1対1や、2対1では恐らく勝ち目はないかと」

「ふむ…そうなると全員で出撃するのが好ましいが…」

「それもダメです。向こうは最高速がマッハを軽く超えますし…高速機動のパッケージがある機体、元からスペックが高い機体を前衛に置き、後方支援にロングレンジでの正確な狙撃が可能な機体。そして、最悪の場合を考え、ここ花月荘を守る機体を後衛に置いた陣形がいいかと」

「…だがなぁ…」

「問題は早く倒さなければならない…ってことっすよねぇ…」

 

いつもと違って千冬と真面目な会話をする時守に一同は驚くが、顔には出さなかった。出してはいけない、そういう時だと分かっていたからだ。

 

「…どういうことですか?」

「仮にもアメリカ・イスラエル共同開発のISが日本の、しかもIS学園の臨海学校の場所に暴走して向かってきてるんすよ?国際問題にならんわけないやないですか。どこも大損しまくり、早いとこ事態を沈めないとってことっす」

「あー、じゃあ一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

時守に理由を聞いた真耶のそのセリフに、全員が一夏の方を見る。

 

「え……?」

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

「それしかありませんわね。ただ問題は――」

「どうやって一夏を運ぶか、だよね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうし、移動をどうするか」

「…それこそ、高機動パッケージが必要…」

「その状態でも目標に追いつけるか、だな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺なのか!?」

「当たり前やろ。…本来なら俺でも『グングニル』2、3発全力で投げたら装甲をある程度壊すことはできるやろうけど…マッハ超えに当てれるわけないわ。『ラグナロク』やったら火力不足やしな」

 

時守は自嘲するかのように笑う。

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」

 

姉のその一言は、弟を奮起させるのには十分すぎた。

 

「やります。俺が、やってみせます」

 

姉に言われたから、ではなく。確固たる覚悟を持って返事をした。それを合図により細かな作戦が練られていく。

 

 

 

――が、

 

 

「ちょっと待ってちょっと待ってちーちゃーん!はっはっはー!この大天災束さんのお脳に愉快で素敵な作戦があるんだよー!!」

「死ね」

 

 

天災の登場で、その作戦はいとも簡単に崩れ去った――

 

 

 

 

「ちーちゃんちーちゃん!今!私の脳にはもっといい作戦がナウ・プリンティングされてるんだよ!!」

「出ていけ。…この世から」

「流石に酷くないかな!?」

 

 

天井からリアルガチで降ってきた束さんは、先ほどまで組んでいた作戦よりもいい作戦という物を千冬姉に提案しようとしていた。

 

 

「まあツンツンデレ子さんのちーちゃん!聞いて聞いて!ここは断っ然、紅椿の出番なんだよ!?」

「なに?」

「紅椿のスペックならパッケージなんか要らなくても超高速機動ができるんだよ!!紅椿の展開装甲を調整して〜ほほほほいっと!じゃーんっ!これでスピードも問題無いね!!」

「展開…装甲?」

 

剣が俺たちの言いたいことを代弁するかの如く、すぐ束さんに聞いた。

『展開装甲』

まだIS学園に入ってほんの少ししか経っていないが、聞いたこともない単語だ。

 

「説明しましょ!そうしましょ!展開装甲ってのはこの束さんが作った第4世代ISの装備なんだよ!」

「第……4!?」

「はーい、ここで束さんの解説ー。いっくんのためにね!まず第1世代は『ISの完成』を目標とした機体。第2世代は『後付け武装による多様化』。第3世代は『操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装』だね!BTとかAICとかだよ!…で、第4世代ってのは『パッケージ換装を必要としない万能機』という絶賛机上の空論上のもの。はい、いっくん理解できましたね?先生はいっくんの理解が良くて嬉しいです!」

 

えっと…まだ良く分かってないんだが…

 

「そ、それってめちゃくちゃ…」

「うん、めちゃくちゃ強いよ?機動、攻撃、防御…全部に対応できるからね。展開装甲はいっくんの雪片弐型にも突っ込んだし、全身がそれだしねー。最強……って訳にはいかないけどめちゃくちゃ強いね」

 

あのぉ、束さん…今世界各国がようやく第3世代の試作機を作ったところなんですが…?ってか今さり気なく光るすごいこと言わなかったか?雪片弐型にも使われてるのか!?

 

「束…言ったはずだぞ?やり過ぎるな、と」

「てへへ〜ごめんちゃーい。でもいーじゃん、最強じゃないんだし」

「なっ…!どういうことですか姉さん!!」

 

千冬姉に怒られた束に問い詰めたのは、今まで黙っていた箒だった。

 

「紅椿は…紅椿は…!」

「箒ちゃんの言いたいことは分かるけど…物事に絶対なんてないんだよ?ねぇいっくん。全身が雪片弐型と一緒って言ったけど、どういうことか分かってる?」

「えっと…零落白夜と似たような…って!まさか…」

「そのまさかだよ。どうやってもフルパワーでの稼動時間を伸ばせなくてねー、展開装甲を使いっぱなしだと長時間戦えないのが難点かな〜。それに、多分もう第3世代で止まると思うよ?紅椿以外は」

「え?…どういうことですか?」

 

こんなに強いIS…第4世代ISをなんで作らないんだ?…という俺の問に答えたのは千冬姉でも、束さんでもなく…剣だった。

 

「第4世代は万能を謳っているが燃費に難がある。…でも第3世代は『イメージ・インターフェイス』を利用してるからな、操縦者の意志、技量、操縦時間等の様々な要因が入って第4世代を超える成長をするかも知れへん…ってことやろ?」

「ピンポンピンポーン!剣ちゃん大正解!まあ第4世代にも成長はあるんだけどね。今回は箒ちゃんが『今すぐ欲しい』って言ってくれたからねー、すぐ使えるように作ってたらこんなんなっちゃったんだー。てへっ…あっ!でも安心してね箒ちゃん!!現行ISのスペックでは、確かに全てのISを上回っているからね!」

 

それは安心していいんですか!?束さん!物騒すぎますよ…ってIS学園にいる時点で物騒か…。納得してしまう自分が居るのがちょっと嫌だな…。

 

「では篠ノ之の紅椿も含めて作戦を立て直す――が、出撃するのはまあ織斑と篠ノ之、後は時守だな」

「なっ!織斑先生!!」

 

千冬姉が俺、箒、剣の名前を呼んだ時、また箒が声を荒らげた。

 

「私と一夏だけで―」

「ほう?軍用機をISに乗りたての初心者2人で倒せると?それに時守には学園よりもさらに上から出動命令が出ている。…それを無視させた時の書類、データの処理等を全てお前が引き受けてくれるのか?」

「……」

 

―が、千冬姉に一瞬で言いくるめられた。そうだよな。…敵は、軍用IS。とんでもないスペックの持ち主なんだ…!

 

「では織斑先生。俺、一夏、箒の3人が前衛。フレンドリーファイアや、慣れない連携によるミスを防ぐためにもこの人数で?」

「そうだな。残った凰、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、更識にはここの護衛をしてもらう。と言っても敵が来たら、だがな。何も無ければ私と山田先生と共にこの部屋でオペレーターのために残っておくように」

『はいっ!』

「束、時守の機体の速度は?」

「なんの問題も無いよー!『グングニル』を封印してその分のエネルギーをスラスターに持っていったらいっくんの白式に近いスピードは出るよ!元が低燃費だし、全然オッケー!」

「よし。では時守は万が一に備え先に教員部隊を配置場所まで護衛、その後福音の進路付近で待機。織斑と篠ノ之は時守と福音が衝突するタイミングで戦いに参加できるようにしておくこと。―以上だ。各員、直ちに準備にかかれ!!」

 

作戦が決まった。

 

 

 

 

千冬の作戦はこうだ。

 

1.時守が教員部隊を封鎖海域の配置場所まで護衛、終わり次第福音の進路上で待機。

2.時守と福音がぶつかる時にちょうど3対1になれるように織斑、篠ノ之が出撃。

3.残る専用機持ち達はオペレーターとして3人の戦闘を補助と、花月荘の護衛。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今までこういった事件で…あいつと一夏が揃ったら良いことが無いが…杞憂、だといいんだがな…」

 

 

 

 

 

 

各々が準備に駆り立てられている中で一人座敷部屋に残った千冬は、少し俯き呟いた。

 

 

 

 

 

――作戦開始(一夏、箒出撃)まで、あと15分――




Q.ドルとユーロの価値がおかしいのでは?

A.時代は変わったのです。

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