しかし遅いのだ。この作品はもうオリジナルを突き進むと決めたのです!
「はい、皆さん揃ってますねー。新学期が始まりますよー」
1月初旬。
全員揃っているとはいえ、その大半がまだ目を擦っている中、真耶が教室へと入ってきた。
「最初は始業式ですっ。皆さん、準備してください!」
「はぁーい」
千冬と時守、そして本音と一夏は生徒会の準備でいない。
良くも悪くも教室内の雰囲気を支配していると言ってもいいメンツがとことんおらず、一年一組は真耶に急かされるまま廊下に並んだ。
「今日はいったい何の話をするんだろうな」
「さぁ?学年末のイベントとかじゃない?」
「…その可能性が、一番高い…かな。生徒会長決定戦もあるし」
「ついに、1年生も終わりますのね…」
「あはは…。まだ三学期始まったばかりだよ?」
「うむ。まだまだ精進せねばならん!」
箒、鈴、簪、セシリア、シャルロット、ラウラの順で言葉が交わされる。
始業式と言ってもただ形式上のものでは無い。
今回の始業式は、生徒会長である更識楯無から直々に重大発表があると通告されていたのだ。
「うぅ…。緊張するなぁ…」
「ん?どうしたんだ?シャルロット。それほど始業式に緊張するのか?」
「ううん。そっちじゃないんだ。今日の放課後にね、剣と模擬戦するから…」
「え…?剣、確か今日織斑先生ともするはずじゃなかった?」
「僕のは『輪廻の花冠』の最終調整…っていう名の結構本気の模擬戦なんだけど、織斑先生との模擬戦は剣の卒業試験のようなものらしいよ」
「何ッ!?師匠は卒業してしまうのか!?」
シャルロットの一言に、ラウラが大袈裟に反応してしまう。
「違うよラウラ。剣ってずっと織斑先生の弟子ってなってたけど、もう教える必要がなくなるかもってこと」
「なんだ、そういうことか。紛らわしい言い方をするな!」
「えぇ…」
自分の勘違いをさりげなくシャルロットのせいにしようとしているラウラを見て、シャルロットが苦笑いをする。
一年一組全員で講堂の中に入ると、すでに大半のクラスが講堂の中に揃っていた。
そこからしばらくして、全クラスが講堂に揃ったところで、壇上に生徒会の面々が現れた。
『さあさあ、皆集まってくれたね。これから三学期の始業式を始めるわよ』
決して大きくわないがマイクを通された楯無の声は、ざわついていた講堂を鎮めるには十分なほどに透き通っていた。
『二、三年生はわかっているとは思うけれど、一年生のために話しておくことがあるわ』
楯無のその一言と共に、彼女の背後に出ていた巨大なスクリーンに文字がデカデカと現れた。
『IS学園、生徒会長決定戦よ!』
言い終わると同時。講堂が湧いた。
『知っての通り、三年生は卒業するから参加できないわ。基本的に一、二年生がメインになるの』
後ろのディスプレイに、細かいルールが書かれたスライドが表示される。
『でも、せっかくの三年生最後の行事に参加できないのはつまらない。そう思い、生徒会の方でなんとか策を練りました』
まず一行目に書かれているのが、三年生の参加についてだった。
『操縦者としての道を進む人は選手として、技術者としての道を進む人はサポートとして、参加資格を与えさせてもらうわ。もちろん、ただ参加するわけではないわよ?すでに進路が決まっている人も、結果が良ければ今後IS学園の方から支援をさせてもらうわ』
一、二年生のための大会だが、三年生も参加資格が無い訳では無い。
もちろん生徒会長に選ばれることは無いが、結果が良ければ卒業後も個人としてIS学園から支援を受けることが出来る。
『そして、メインの一、二年生ね。皆も、基本的に参加は自由よ。強制することはしない。でも、一般生徒の皆でもしっかりとした結果を残すことが出来れば、代表候補生になれるかも知れないからね』
一、二年生。特に今の一年生には専用機持ちが多く、一般生徒達は操縦者として学内の大会で優勝することを諦めているものが大半だ。
しかし、そんな中でも諦めずに頑張る姿を見せることで、各国の目に止まるかも知れないのだ。
『もちろん、ハンデはありよ。…でもそれは、参加する専用機持ち達が、決められた範囲内で自身で決めること。ここが、この大会の肝よ』
普通とは違うハンデ戦。
その概要が説明される。
『まず専用機持ち達には、生徒会長決定戦の前段階として、順位付けのためのリーグ戦を行ってもらうわ。そこで一位になったものからハンデが厳しくなっていく、というものよ』
つまり、強ければ強いほど、拘束が厳しくなるということだ。
『具体的に言えば一位の選手に課す最低限のハンデは、武装一種類、SE半分スタート。ここから更にハンデを厳しくして結果を残せば、それだけその選手にもIS学園から支援をさせてもらうわ』
自分と相手の力量の差を理解しつつ、どの程度のハンデならば勝ち進むことが出来るか。
その判断を求められる大会なのだ。
『ハンデはもちろん戦闘だけじゃないわよ。技術者を何人雇うか、というのも対象に入るわ。詳しいことはまた大会開始前に言うけど、学年末にある最後の成果発表の場となることは間違いない。もう一度言うけれど、専用機持ちでない一般生徒達にももちろん活躍の場となるわ。…皆の参加を、待ってるわね』
詳しいことを言うにはまだ時期が早い。
しかし、今からモチベーションを上げておくに越したことはない。
ハンデ次第では、一般生徒達が専用機持ち達にジャイアントキリングを起こすことも夢ではないのだ。
『さて!生徒会長決定戦の話は一旦置いておきましょう!』
真面目な声色から一転。手をパンと鳴らし、その顔に笑みを浮かべた楯無。
『今日はこれから、いつも通り授業があるわ。しかし!今日は放課後に大きなイベントが2つ待っています!』
生徒会長決定戦の大まかなルールが書かれていたスライドが切り替わり、3人の名前とアリーナの場所、そして時間が書かれたスライドが出てきた。
『まずは第一戦目。フランスでの出来事はみんな知ってるだろうから割愛するけど、『輪廻の花冠』のシャルロットちゃんVS『金色』の時守剣くんよ!』
シャルロットが胃がある腹部をさする中、周りの生徒達が一気に湧いた。
『専用機持ち同士の本気の戦いよ。時間があれば、是非とも見に来てほしい。このあとにある、時守剣くんと織斑先生の対決もね』
楯無の言葉に、今度はまるで息を飲んだかのように静まり返る講堂。
生徒同士の戦いならまだしも、あの二人が戦うとなれば、ただ騒いで見るだけでは勿体ない。
『どちらの試合も、見て絶対に損は無いからね。もちろん、アリーナに入れなかった人のために、各施設のモニターで生中継をするわ』
IS学園にあるアリーナにも、もちろん収容可能人数というものがある。
そのため、観客席に入ることが出来なかった人への救済措置が取られている。
『これで今回の私からのお話は終わりよ。各自、生徒会長決定戦などのことも考えておいてね』
今日のこれは始業式。
皆さん、冬休みは学生らしく過ごしましたかなどという無意味な事を、世界の最新を突っ走るIS学園が聞くことはなく、印象に残ることと言えば楯無の話だけとなり、始業式は終わった。
「……胃が痛い」
「大丈夫ですの?シャルロットさん」
「うん、ありがとうセシリア。…言っちゃったら、織斑先生と剣の模擬戦の前座だから、緊張しちゃって」
「でも対戦相手はアイツなんだし、緊張しなくて良くない?」
「…うん。そう言われると気が楽になるよ」
良くも悪くも、シャルロットの対戦相手は自分の彼氏でもある時守剣。
彼の強さや実質的には前座ということを考えれば緊張するが、時守だということを思い出せばそれも和らぐ。
「頑張ろうね、『輪廻の花冠』」
「…頑張って」
簪からの激励を受け取り、シャルロットは放課後の模擬戦に備えるのだった。
◇
「なー、金ちゃん。シャルの『輪廻の花冠』ってやっぱ強い?」
『それなりになー。物理とエネルギーの両方持ってるし、胸ちっこい方の金髪は武装の切り替え早いから厄介やで』
「…今度シャルのことそんな呼び方したらお前の待機状態に鼻くそ付けるからな」
『嘘嘘嘘嘘っ!冗談やん、じょーだん』
時は流れ、そして場所も変わり、『金色』が創る『完全同調・超過』での精神世界。
装備としてのIS『金色』の調整がてら、この精神世界で一戦交えていたのだ。
『でやでや剣ちゃん。今日はどこまで解放すんの?最後まで!?』
「んなわけないやろこのドアホ。…今まで通りや」
『ちぇ〜。こないだのドイツでのちっふーとの模擬戦ん時も全っ然本気出さんかったやん』
「そりゃな」
胡座をかく『金色』と向かい合いながらラフに座る時守の顔は、真剣なものだった。
「今のままでも、十分すぎる程に強い。新しいのは敵をちゃんと見つけれてからや」
『ふーん。てことはマジの戦闘ちゃう限り本気は出せへんってことか』
「そうなるわ。…雷とか、普通の模擬戦でやってええもんとちゃうからな」
『まあせやけどさー。ウチかて本気でやりたい時もあるやん?』
「…亡国機業と戦う時や。次、もしアイツらとの戦闘になったら、そん時に本気を出す」
立ち上がり、ちょこちょこと短い歩幅で時守の元へと近づく『金色』。
ゆらりと、彼女の長い髪が揺れる。
「今、まさに今や。手の内を知られたらあかん。やからこそ、IS学園から離れてるロジャーにしか報告してへんねん」
『ほへ〜。我が操縦者ながらすんごい考えてる…』
「脳筋のパートナーやから賢ないとあかんやろ?」
『殺したろかコイツ』
時守の額を小突き、歯を見せて笑う『金色』。
その八重歯が映える。
『てかさ剣ちゃん。んなこと言うてても亡国に勝てるん?』
「さあなー。……でもまあ、負ける気はせんやろ?」
『…うん。そりゃ、な』
一瞬伏し目がちになりながらも、彼に微笑みかける。
そんな『金色』を見て少し疑問に思いながらも、話を続ける。
「アイツらがもっと強なって、さらに戦力をかき集めてるって言うんやったら別や。けど、そうやない限り俺は負けん」
『ん。このままでも、剣ちゃんとウチは誰にも負けへんよ』
「そか。…それってシャルにも?」
『当たり前やん。あの娘には悪いけど、流石に三次移行してて単一仕様能力も出てるウチらとやったら比べもんにならんわ。…まっ、デュアル・コア搭載機の実力ってのを見せてもらおか』
「いや、何様やねん。まあでもせやな」
―簡単に勝たせるわけにはいかんよな。
その言葉を聞き、『金色』は微笑んだ。
『ったり前やん。…まあでも、対策ぐらいは立てとこか』
「せやな。武装ってどんなんあったっけ?」
『えっとな、エネルギーシールド『花びらの装い』、四八口径ハイブリッド・ダブル・ライフル『ヴァーチェⅡ』、三二口径十連装ショットガン『タラスク』、近接デュアルブレード『ジキル・ハイド』、デュアルパイルバンカー『グレースケールⅡ』、マルチウイングスラスター…やな』
「アホやろそんなん。天使ちゃうわそれ、悪魔や悪魔」
『まあでも食らわんかったら勝てるで?』
「そりゃまあ……せやけど」
こちらが攻撃を食らわなければ勝てる。
作戦もへったくれもないが、事実時守の戦法は『完全同調』を会得してからはこうだった。
『てことは、いきなり『雷動』解放する?』
「いんや、最初は『完全同調・超過』だけや。シャルの強みは高速機動戦闘やからな。シャルには悪いけど、それを強引に乗り越える」
『か〜っ。趣味悪ッ!相手の土俵に立った上で完封すんの?』
「そうなるわな。俺かて勝ちたいし」
『…絶対あの子の方が剣ちゃんに勝ちたがってると思うわ』
「そんなんどっちも思てるやろ」
いくら恋人同士とは言え、ISでの模擬戦となれば話は変わってくる。
シャルロットは現在フランス国家代表候補生であり、現状のままではモンド・グロッソには参加できない。
もしシャルロットが本気で出場を目指しているのなら、国連代表という目立つ試合で本気で勝ちに来るだろう。
「とにもかくにも、俺らはシャルがどんな出方をしてもいつも通りやる。それだけや」
『せやな!よっし、やったるでえええぇえっ!!!』
「うるさい」
立ち上がり、『金色』のデコにチョップをお見舞いする。
その場でのたうち回る…ことなど無く、さすがはISの自我と言ったところか。ケロッとしたまま時守を見上げる。
『ん、どしたん?もうそろそろ行く?』
「あぁ。あんまり長いこと目ぇ閉じてたら皆も心配するやろしな」
『ん、そか』
『金色』が時守の言葉を聞き入れ、頷いた瞬間。
二人の精神世界は、白い光に包まれた―
◇ ◇
「んぉ…。くぁ…っ!」
「もう、剣くんっ。あと少しでシャルロットちゃんとの模擬戦よ?」
「……真面目にやらないと、多分怒るよ?」
「そうですわ。いくらシャルロットさんが優しいとは言え、剣さんに手を抜かれては…」
「あぁ、それは大丈夫や。今も金ちゃんと作戦立ててきたとこやしな」
目を覚ますと、そこは『金色』との精神統一に入る前に眺めていたピットの光景と全く同じであり、座っている時守の前にはシャルロット以外の3人の彼女が立っていた。
「『金色』ちゃんと?」
「おう。一応、ISバトルに関しちゃ一番近いパートナーやからな。色々と話しとってん」
「…って、ことは」
「『輪廻の花冠』対策も、シャル対策もそれなりには立てられた。ま、ちゃんと見といてや」
「剣さん…」
時守の言葉を聞き、3人の顔が真剣なものへと変わっていく。
休息を取っていたと思っていた彼が、実際は精神世界で自分の専用機の人格と向き合っていたのだ。
つまり、彼女で、かつ代表候補生という立場のシャルロットに対して一切の油断も無いということだ。
『時守剣くんvsシャルロット・デュノアさんの模擬戦まで、後5分となりました!両者、フィールドに出てください!』
「よしゃ、行ってくるわ」
開いたピットをISを展開しないまま進んでいく。
既にフィールド上には、『輪廻の花冠』を纏ったシャルロットが佇んでおり、その双眸はしっかりと時守を捉えていた。
「行こか、金ちゃん」
まさに刹那と言えるほどに短い光。
そんな一瞬のうちにISを展開し終え、シャルロットの眼前まで躍り出る。
「…やっぱり、いざこうして対峙して見るとよく分かるよ。剣が凄まじく強いって」
「そりゃ買い被りすぎやわ、シャル。…いや、シャルロット・デュノアフランス国家代表候補生」
「っ…。じゃあ、胸を借ります。時守国連代表」
「あぁ、存分に実力をぶつけてこい」
じりじりと2人が距離を取る。
両者共に多芸な戦い方が可能なため、出方を伺っているのだ。
「…ふふっ、ねぇ剣」
「せっかくカッコよく決めとったのに…。どした?」
「何か、賭けよっか」
「ええな。…ほな、俺が勝ったらシャルを一日中俺の好きにする権利な」
「えぇ!?…うーん…じゃあ僕が勝ったら、デュノア社の社長を正式に継いでくれる?僕がちゃんと秘書につくから」
「……おう」
かなり重いシャルロットの提案を何とか飲む。
勝てばいいのだ。勝てば、シャルロットを一日中好きにする権利を得ることが出来る。
「…絶対勝と」
「させないよ!」
『試合、開始ィィィィイッ!!』
時守とシャルロットの模擬戦が、始まった。
前回までフラグ、フラグとやたら連呼していましたが、もしかしたら「伏線」の言い間違えかも知れません。
まあ元からこんな作品なので多めに見てくださいませ…。
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