IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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少し短めですが。次回は長くなる…予定…。


200%

 

 

 作戦開始の目的地である山岳部まで向かうイギリス空軍特務IS部隊のヘリの中。

 二班に分かれた一同は、千冬からの無線により作戦内容の確認に当たっていた。

 

「それではおさらいだ。織斑、凰、篠ノ之、ボーデヴィッヒ、時守の5人は衛星軌道上の目標、『エクスカリバー』に向け、重力カタパルトで上昇する。指揮は一応時守に任せてはいるが、各々最適だと思ったら自分の判断で動くように。攻撃が接近部隊に集中している間に、オルコットはBT粒子加速器によって地上から超長距離射撃を行う。この作戦の要は、すべてオルコットだ」

 

 無線から聞こえてくる千冬の声に時守の隣に座るセシリアの体が強張っていく。

 先日簪にしてもらったように、時守が緊張によりずっと握り締められていたセシリアの左手を、自らの両手で優しく包んだ。

 

「大丈夫や。セシリーが当てられるまで、何回でも俺が止める」

「剣さん…」

 

 決して浮かれたような雰囲気はそこにはなく。ただただ真面目に彼女を励ます姿がそこにはあった。

 そこに割り込むように、空中投影ディスプレイが開かれる。

 

「これが、目標の画像だ」

「…なるほど。やからエクスカリバー」

「そうだ」

 

 宇宙に漂う、一本の剣。

 全長15メートルという場違いなほどに長いそれが、太陽光を吸収、収束させ、地上に一気に放つという。

 

「こんなんが生体同期型とはなぁ…。政府もえげついモン作りよるわ」

「なんだ、今更になって怖気付いたか?」

「んなわけあるか。…ただ、ちょっとは厄介やろな」

 

 マドカも軽く時守に悪態をついて見せるものの、先ほどのような仲間割れを引き起こしかねない発言は避けていた。

 時守たちの撃墜は、すなわち地上にいる自分たちの死も表している。

 成功か、はたまた失敗(全員死亡)か。その二択だった。

 

「ま、味方は今だけやけどな。お前も頼むぞ?」

「ふん。私とて、お前たちとは決着をつけたいからな」

 

 いずれはっきりとした決着をつけるために。そのために、今は休戦し、一つの目標を遂げる。

 千冬がいない、最年長がチェルシーというこちら側のヘリは全員にとって程よい緊張感に包まれたまま、目的地に着陸した。

 

「よっと。…おー、でっか」

 

 人里離れた山林の奥ち。そこにあったのは、まるで宇宙望遠鏡とでも言わんばかりの巨大な装置だった。

 

「これが今回の作戦の一番のメイン、BT粒子加速器であり、絶対対空砲『アフタヌーン・ブルー』だ」

 

 ほぼ同時に千冬が別のヘリから降りてきて説明を交えながら合流した。

 時折彼女の視線がマドカに向いていたことは皆が気付いていたが、あえて言いはしなかった。

 

「では、各自準備に取り掛かれ!ブルー・ティアーズ各機は『アフタヌーン・ブルー』との接続を、上昇斑は『O.V.E.R.S.』の最終調整に入れ!」

 

 ついに、宇宙。

 そんな思いとは全く別の意味を孕んだ胸の高鳴りを、時守は感じていた。

 

「さてと。んなら俺らも最後の作戦会議といこか」

「あぁ」

「と言っても師匠。作戦などあるのか?」

「まあな。一応ってもんやけど、俺らのメインは箒や」

「わ、私か!?」

 

 他の四人、一夏、箒、鈴、ラウラを集め、最後の話し合いを行う時守。

 国際連合代表しか着ることを許されていないウインドブレーカーが、嫌に目立った。

 

「『O.V.E.R.S.』が何のためにつけられてるか、ってのは大丈夫か?」

「まだ完全に理解できてるわけじゃないけど、あれでしょ?紅椿の『絢爛舞踏』を『O.V.E.R.S.』搭載機にもって感じの」

「まあせやな。でや。今回のコレは、実践仕様になっとる。ってことは」

「消費するエネルギーも増える、ってことか?」

「そゆことそゆこと」

 

 規格外のパワーを誇る『エクスカリバー』

 そんなものに試合用の調整がされたISで挑むなどというようなバカな真似は誰も考えていない。

 そのため、普段はあまり使い慣れていない、実践仕様での戦いとなるのだ。

 

「やから、常にエネルギーを回復してくれる箒が重要ってことや」

「実践仕様ならば、嫁の『零落白夜』も凄まじい威力になるしな」

「俺の単一仕様能力も、全部軒並み強化できるからな」

「ふむ、なるほど…。責任重大だな」

 

 言葉だけ聞けば、ただ絢爛舞踏を発動さえすればいい。

 しかしそれは同時に、絶対に撃墜してはいけないということなのだ。

 

「…ん。そろぼち準備せなあかんっぽいな」

「じゃあ、行くか」

 

『O.V.E.R.S.』の最終調整へと向かうため、それぞれ自分の重力カタパルトへと向かう。

 

「時守代表!」

「お?ノーラさん。お久ー」

「そ、そんな気軽でいいんですか!?」

「いいんすよ」

 

 時守の重力カタパルトには三次形態移行の時にお世話になった人物の一人であるノーラがいた。

 彼女も時守の担当作業員として、この場に呼ばれていたのだ。

 

「そういうノーラさんは?」

「私は、今調整が終わったところですね」

「ほなちょうど良かった」

 

 そう言って、ウインドブレーカーを脱ぐ時守。

 

「これ、持っといてもらえます?」

 

 そこには、他の者とは違う襟元に国際連合の旗のマークが描かれたISスーツを着た、正真正銘国際連合代表としての時守剣がいた。

 

 

 ◇

 

 

「それでは作戦を開始する!」

 

 地面に刺さった三つの突起物。正三角形にその重力アンカーが配置されている中心に、各人が待機する。

 それぞれ五基の重力カタパルトにIS展開状態で上昇班が身構える。

 

「発射まで、10、9、8、7、6……」

 

 真耶と共に施設の内部でオペレーターを務める簪の秒読みが、やけにはっきりと聞こえる。

 

「……」

 

 ただ一点。ハイパーセンサーで捉えている『エクスカリバー』の姿を見上げ、首の骨を鳴らす時守。

 重力カタパルトに力が集中し、くらりとした一瞬の浮遊感の後、内側に向いていた重力アンカーが一斉に外側へと開いた。

 

「3、2、1――発射ッ!」

 

 どんっ、という短く大きな音と共に射出。

 一気に限界速度まで達した五機は、成層圏を離脱するべく『O.V.E.R.S.』を起動、加速を維持する。

 

「これって、どのくらい役に立つんだ?」

 

 飛翔を始めてしばらく。どこか呑気な声で、一夏が持たされたシールドの耐久性への疑問を口にした。

 

「相手は超高出力熱線(メガハイ・ビーム)なんだろ?アイスみたいに溶けないよな…」

「さあなー。俺は要らんからつけてへんし」

「一応、この物理シールドはISのエネルギー・シールドと接続することでその効力を何倍にも引き上げるという代物だからな」

 

 対応策を持っているので必要ないと言って断った時守とは違い、他の四機はそのシールドを装備している。

 時守とラウラのその表情は、いつにも増して引き締まっていた。

 

「箒―」

「分かっている。いつでも、絢爛舞踏を発動できるようにはしている」

 

「来るぞっ!」

 

 一夏がそう叫び、五機は散開する。

 先ほどまでいた空間は圧倒的火力を誇る熱線に薙ぎ払われ、空間がびりびりと震えていた。

 

「な、なんだこの出力…!」

 

 明らかに想定していたものとは違う。

 疑問を抱いたラウラが『エクスカリバー』のデータを読み込むと。

 

「想定の3倍!?」

「ッ、くそが…仕事せえやほんまに!」

 

 そこには、ありえない数値が並んでいた。

 ラウラのその言葉を聞き、時守が地上で『エクスカリバー』の観察に当たっていた者に悪態をついた。

 

「はっ!」

 

 乱雑に放たれる熱線。

 地球、もしくは他四人に当たる可能性のあるものだけを、最大出力まで引き上げた『雷轟』で弾き飛ばす。

 

「完全に『O.V.E.R.S.』頼りの戦いかたやけどしゃあないやろ…!」

「くそっ、近づきさえすれば…!」

 

 相手は過去史上最大のIS。そう言っても過言ではない敵に、一夏が瞬時加速で近づく。

 

「はあああ―、なっ、ぶ、分離した!?」

 

 しかし、その瞬間に『エクスカリバー』がその刀身を四つに分けた。

 それぞれが子機の役割を果たす、多機能攻撃衛星に姿を変えたのだ。

 

「っ!『完全同調・超過』、『雷鳴』、『雷動』!」

 

 全員に焦りと緊張が生まれ、結果一瞬だけ止まってしまった。

 その一瞬の硬直の間。一人だけ動けた時守が単一仕様能力を使い、他の四人を強引に散らす。

 

「お前ら、気ぃ抜くなよ」

「うむっ!」

 

 地球へと被害を及ばせないよう、『エクスカリバー』から見て地球とは反対に位置取る。

 

「箒。『O.V.E.R.S.』でのエネルギー供給頼むわ」

「あぁ――くっ!?お、おのれ…欠陥品が!」

 

 時守が箒に『O.V.E.R.S.』の使用を促したその瞬間。紅椿の背中に搭載していた『O.V.E.R.S.』が爆発した。

 ここに来て、今回の作成の一番の要と言っても過言ではないほどの、肝心の『O.V.E.R.S.』すら壊れてしまったのだ。

 

「…はぁ。使えんもんばっか寄こしよって…!」

「剣、作戦は!」

「あるかそんなもん!自分が死なへん程度に、ぶん殴りまくれっ!」

 

 単純明快な作戦。やられる前にやれというもの。

 時守の雷が、箒の一閃が、鈴の双天牙月が、ラウラのレールカノンが、そして一夏の零落白夜が『エクスカリバー』に襲いかかる。

 

「チッ!火力が足らんやんけくそが…!」

「一夏っ!」

「分かってる!」

 

 しかし、そのどれもが『エクスカリバー』を止める有効打にはならない。

 接近しての零落白夜しか、手段は残っていなかった。

 

「ぜらあああああ!」

「あんのアホ…!」

 

 決定打は自分しか居ないと理解し、突っ込む一夏。

 だが、その位置がまずかった。

 

「死ぬ気かお前ぇ!」

 

 一夏が飛び込んだのは、あろうことか『エクスカリバー』の射線上。

 とある細工(・・・・・)により地球にいるセシリアたちが狙われないことを分かっている時守だったが、それでも一夏一人が受けるには大きすぎる熱線だ。

 

「零落白夜で突きながら守れ!」

「あぁっ!」

「『雷轟』―フル・バースト!」

 

 飛び込んだ一夏と『エクスカリバー』の間に出るように、文字通り最大出力の『雷轟』を放つ。

 雷と零落白夜、そして熱線。

 

「く、ぉ、おおおお!」

 

 奇しくも前者2つは後者1つを打ち破るには至らず、僅かながらに削られ、一夏にたどり着こうとしていた。

 

「カァッ!」

 

 だがそれを、全てを受け切る訳ではなく、何にも被害が及ばない方向へと何とか弾いた。

 しかし―

 

「い、一夏?」

「気ぃ失っとるな」

 

 ―エネルギー・シールドに守られているとは言え、尋常ではない熱量とエネルギーに晒された一夏の身体は持つことはなく、意識を手放してしまった。

 

「鈴っ!一夏持っとけ!」

「あ、アタシ!?」

 

『雷動』で移動し、決して『エクスカリバー』に狙いを付けられることなく一夏を鈴音に引き渡す。

 

「…あーあ。このままやったらもう無理やん」

「何か無いのか…」

「くそ…」

「…一応、一夏のバイタルは安定してるわ。このまま粘って、また一夏が起きてくれることを―」

「そんな時間あらへんやろ」

 

 こうしている間にも、『エクスカリバー』は着実にエネルギーを蓄え、地球にいるセシリア達に狙いを定めるだろう。

 

「鈴。一夏ちゃんと守っとけよ」

「…あんた、今度は何を…」

「今やったら大丈夫や。それと箒。俺の合図で絢爛舞踏の発動頼む」

「あ、あぁ!」

「ラウラ。絢爛舞踏の時に箒を守っといてくれ」

「承知した。…それで、師匠は?」

 

 バチリと『金色』の装甲から雷が迸る。

 

「決まってるやろ。…俺が、食い止める」

 

 その一言に反応したのは、地球にいる千冬だった。

 

『おい待て時守っ!お前、何をするつもりだ!』

 

 彼女の叫び。

 怒号にも近いほどの凄まじい声色のそれを、時守はさらりと受け流す。

 

「俺しかおらんやないっすか。ワンオフの相性も、悪くはないですし」

『だがっ!』

「大丈夫っすよ。俺らを、信じてください」

 

 焦りを含む千冬の口調に対して、至って冷静な時守。

 対照的な二人の会話がオープンチャネルで行われていく。

 

「あと何分ぐらいっすか?」

『…10分以上、かかるかも知れん』

「未定ってことは、多少なりともデカいダメージ与えといた方がいいでしょ」

 

 10分以上、というのは時守の行動を縛るための千冬の嘘。

 しかしそれは、声の強弱、話し始めるまでの間、言葉の選び方などから、時守にそれが嘘だということがバレてしまった。

 

「織斑先生。信じられないっすか?あなたが育てた弟子が」

『っ!時、守…』

「もう、大丈夫っす。夏みたいにはなりませんから」

 

 夏みたいに。その言葉を聞いて、今度は鈴が反応した。

 

「ちょっと剣…。あんた、もしかして…」

「やから大丈夫や。そのために、俺らは強なってん」

 

 今こうしている間にも、『エクスカリバー』はその力を強めていっている。

 それに対抗する手段は、一夏がいない今、時守の中では一つしか残っていなかった。

 

「いざとなった時は、頼む。そん時は止めてくれ」

「…はぁ、分かったわ」

『凰っ…。お前も…!』

「信じましょう、千冬さん!」

 

 正直言ってしまえば、今の時守は国連代表としての時守剣だ。

 ゆえに、千冬や鈴などの、立場としてみれば下の彼女たちの意見を無視しても構わないのだ。

 だが、まだ言うことを聞ける今のうちに、意見は聞いておきたいのだ。

 

『…分かった。時守、お前の独断行動を許そう』

「あざっす。完全同調・超過(シンクロ・オーバー)――」

 

 なぜなら――

 

 

「―200%」

 

 

 ――ここで自ら、意識を断つのだから。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「お、織斑先生…」

「……すまん、更識、デュノア…。また、あいつに…」

「…大丈夫です。剣が、そう言ったんだったら、大丈夫ですよ」

 

 千冬と鈴は、時守が『完全同調・超過』を暴走させることは分かっていたのだ。

 夏休みにまだ第二形態の時のエジプトでの『完全同調』の実験で、千冬というストッパーがいるという状況下での200%(・・・・)

 自我がなくなり、ISの暴走状態に身を委ねるという、禁じ手中の禁じ手。

 

「完全同調から完全同調・超過に、確かに進化はした。だが…」

「脳への負担は一切軽減されてないんだよね、ちーちゃん」

「…あぁ、そうだ」

 

 暴走状態でなくても時守の肉体を傷つけてきた『完全同調』

 その進化系の『完全同調・超過』は肉体へのダメージは無い。

 しかし、束が言った通り彼の脳への負担は一切減っていない。

 

「…なら、待ちましょう」

「何…?いいのか、お前たちは」

「はい。もう、信じて待つって決めたんです」

 

 モニターに映る時守は、今はまだ動かない。

 しかし同時に、『エクスカリバー』もまた、動きを止めていた。

 

「それに今は、あそこに鈴もラウラも箒もいます。剣も言ってたように、いざとなったら止めてくれますから」

「一夏も、います…」

「…そう、だな。あいつたちを、信じよう」

 

 過去時守が大怪我を負ってきたのは、少なからず自分に非がある。そう思っていた千冬。

 しかし、教え子二人がここで支援を、一人が狙撃に備え、そして5人が宇宙で戦っているのだ。

 過去に犯してしまった過ちを、今掘り返している暇はない。

 

「よし。それではデュノアは時守たちが帰還した時の受け入れ体制を整えておけ」

「はいっ!」

「更識はそのままオペレートに徹しろ。時守の自我が失われた今、お前が今回の作戦のブレーンだ」

「はい…!」

 

 やっと、いつもの凛々しい顔に戻った千冬。

 そんな彼女に束が声をかけた。

 

「おー、ちーちゃんようやく復活?」

「…私だって、人間だ。悔やむこともあれば、悩むこともある」

「……うん。私もだよ、ちーちゃん」

 

 その二人の会話は、慌ただしい施設内の音にかき消されて他の者に聞かれることはなかった。




11巻も終わりが見えてきましたね…。

12巻は『セブンス・プリンセス/紅椿繚乱』らしいです。
おっ、たっちゃんか?かんちゃんか?たっちゃんに変なことすんのか?お?

…てかセブンスってのほほんさんヒロインに入れる気あるんですか弓弦イズル先生ー!
CHOCO先生みたいな画力があれば挿絵ぶっこむんだけどなぁ…(鼻ほじ)

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