まー、とにかくなぜか課金が進みますね。楯無さんの限定ISなんて来たら出るまで回しますよ。
「えーっと、なになに?『私は飼い猫を女子の大浴場へと放ってしまった犯人です』…。一夏アンタ、何したの?」
「あ、あはは…。ちょっとシャイニィがさ」
「ワンサマの目を盗んで、セシリーが入ってる大浴場に入ってもてん」
IS学園の女子の大浴場前の廊下で、一夏はそう書かれたプラカードを首からぶら下げて立っていた。
「えっ、じゃ、じゃあもしかして…」
「覗いてねぇよ!?」
「ワンサマがそのまま突入して行こうとしてたから、代わりに俺がいった」
「あ、あー…。…まあ恋人同士だもんね」
「恥ずかしがってるセシリーマジ天使」
「は、入るのなら入る前に一声掛けて欲しかったですわ…」
「それはほんまごめん」
事の顛末を言うとこうだ。
部屋から抜け出したシャイニィを探していた一夏が、女子大浴場の更衣室へと入って行くシャイニィを発見。
そのまま覗きに行きそうだった一夏を、偶然通りがかった時守が止め、更衣室に誰かいないか声をかけてみたところ返事が来なかったのでそのまま突入。
しかし、更衣室に人は居なかったのだが、浴場にセシリアがいたのだ。そのため、浴場に入ったシャイニィを捕獲するため、時守が再び突入。
無事、一糸まとわぬ姿のセシリアと出会ったのだ。
「…なんか新鮮やった」
「剣さんっ!」
「見慣れてるもんじゃないの?」
「あの美しさを見慣れる訳ないやろが!」
「なんで怒鳴られんのよ」
「うぅ…恥ずかしいですわ…」
自身のことを誉められて嬉しく思う反面、彼のストレートすぎる言葉に照れて頬を染めるセシリア。
そうは思っていても、やはり不意打ちで裸を見られたことについては思う所があった。
「…いくら剣さんとは言え、急に見られるとさすがに驚いてしまいますわ」
「…うん。ほんまごめん」
「で、す、の、で。剣さんに罰ゲームですわっ!」
「喜んで!」
「…セシリア。多分アンタから何してもこいつには罰ゲームにならないわよ」
「むぅぅう〜!」
互いにべた惚れなため、肉体的、精神的に大きな負荷のかかる罰ゲームを用意する気は、セシリアには存在しない。
そのため、セシリアの考えうるどんな罰ゲームでも彼が喜ぶ光景は目に浮かぶようだった。
「剣さんっ!」
「はいっ!」
「こ、この週末、わたくしとここに行ってもらえませんでしょうか…」
そう言ってセシリアが差し出したのは、横浜にあるテーマパーク『Deパーク』のワンデイパスポートだった。
「あっ…横浜…」
「ぽ、ポジハメパーク…」
「ダメ、ですか…?」
「ふ、二人っきりで…?」
「もちろんですわっ!」
鈴が察したのは、他でもない時守の心情である。
今年、無事にセ・リーグを制することが出来た虎。2000本安打を達成したベテランや盤石のリリーフ陣、開花した中堅や新人達がとにかく活躍しまくり、4勝2敗で日本一になることが出来た。
「…ポジ、ハメ…。うん、ええよ。…行こか」
「剣さん、どこか具合でも?」
「いや、大丈夫や…」
基本的に関西にしか出店していない某家電量販店のCMの呪いも見事に乗り切ったかと思った、このオフ。なんとCSや日本シリーズでも活躍したユーティリティプレイヤーが横浜にFA移籍したのだ。
時守の贔屓の選手だっただけに、ショックは大きい。
と言っても、その代わりに2年目のピッチャーが人的補償で来たのだが。
「まっ、来年もウチが勝たせてもらうし、可哀想やからその分行っとたるか!」
「…可哀想?」
「野球よ野球。セシリア、詳しくは知らないでしょ?」
「知ってますわ!」
「イギリスは…強かったか?」
「強くなくても知ってますの!」
セシリアの知っているは、存在やルールを知っているかどうか。
鈴の知っているは、応援歌やどんな凄い選手がいたかどうかを指している。
言葉が多少足りなくても理解できてしまう日本語のせいで微妙に差が出るが、大したことではない。
イギリスが野球が強いか、というのも問題ではない。
では、何が問題か。
「…ねぇ、剣。セシリアと二人っきりでデートに行くって…ホント?」
「あっ…しゃ、シャル…」
「…なーんて、冗談だよ、冗談。そ、の、か、わ、り。ちゃんと僕達ともデートすること、ね?」
「どこ行く?ハワイとか?」
「そ、それは気合い入りすぎだよっ!」
他でもない、シャルロット、刀奈、簪のことである。
彼女達4人のうち、セシリア一人とデートするとなれば当然、他の3人もそうして欲しいという意見が出てくる。
一瞬ヒヤッとした時守だったが、シャルロットからの意見をすぐさま採用し、セシリアだけでなく3人とのデートも決まった。
「では剣さん。この週末に」
「おう。…って言っても明後日やし、明日も会うし、なんやったら今から帰る部屋一緒やけどな」
「……言わないでくださいまし」
◇
「ついに来たか…」
「ついに来ましたわ!」
週末、セシリアとの約束通りDeパークで待ち合わせをし、無事合流した時守。
その彼の視界に入ってきたのは、ブルーのワンピースにホワイトのコート、そして唇に薄いピンクの口紅をつけた女神と、横浜に本拠地を置くプロ野球チームのユニフォームを着たマスコット達だった。
「…舞い上がりたい反面、ぶん殴りたい」
「どうしましたの?」
「いや、何でもない。ほな行こか、セシリア」
「っ、はい。…剣さん」
不意に、普段呼んでいるあだ名ではなく本名で呼ばれたセシリア。
最初は少し驚いていたが、その差し出された左腕を優しく抱き寄せると、彼の隣に密着し、その表情をよりうっとりとしたものに変えた。
「やはり、素敵ですわ」
「ん?…ここのこと?」
「いいえ。なんでもないですわ」
「そか。じゃ、早速」
最近にどこを回る、などは全く決めていないが、ぐい、と歩き始めた彼の身体に引っ張られる。
計画性がないとも言えないこともないが、まだパークに入園して間もない。園内をぶらつきながらでも決まるだろう。
IS学園に入る前のセシリアが知らなかった男性の良さが、そこにはあった。
「あっ、悪い。ちょっと引っ張ってもた?」
「いえ、大丈夫ですわ。…むしろ、もっとわたくしをエスコートしてください」
「…ほう。なら、俺には大人しいエスコートは期待しやんといてな」
「そんなこと、剣さんとお付き合いを始めた頃から分かっていましたわ」
「きびしーっ!」
笑い合いながらも、彼の足はどんどんと前へと進んでいく。
「…剣さん」
「おん?」
「随分と、お身体が逞しくなられましたわね」
「まあ常日頃からちっふー先生にボコられてるからな」
「それでも、ですわ。…本当に、素晴らしいお身体ですわ…」
「ちょいセシリア。まだ朝。まだ朝の10時やから。良い子もいるから」
「分かってますわっ!それは、今日の夜で、す…わ……」
「…うん」
顔を真っ赤にしながらのセシリアの言葉は、その照れが時守にも伝わるほどに、2人にとって凄まじいものになった。
セシリアの爆弾発言により始まった2人のデートは、誰にも邪魔されることなくスタートした。
「で、ではまずは、このドッグパークというところに行きましょうっ!」
「おぉ。…犬か」
「剣さんは猫派…でしたか?」
「いや、どっちも好きやで。…ただ」
「ただ?」
「小学校の帰り道で猛犬がおったこと思い出してな」
「ま、まさか噛まれましたの!?」
「ちゃうちゃう。その猛犬にめっちゃ懐かれてさ。そいつの子供1匹引き取ってん」
なんでもない話を広げながら、2人の足はドッグパークへと向かった。
「その子供もなー、普通に可愛かってんけどなー」
「どうかしましたの?」
「死んでもた時のおかんの泣き方が恐ろしすぎてトラウマやねん」
「…ま、まあ悲しいのは分かりますが…」
「泣きすぎて暴れてたら俺の部屋の窓ガラス割れてさ」
「だ、大丈夫でしたの!?」
「そのあと脱水症状でぶっ倒れて大人しくなってん」
「…け、剣さんの御家族も、凄まじい個性をお持ちですのね…」
ペットを飼うに当たって、いつかは必ず訪れてしまう別れ。
時守もしっかりとそれは理解していたし、世話を見ていた分悲しみも大きかった。
しかしそれ以上に自分の母親の号泣の方が印象に残ってしまっているのだ。
「セシリアも意外と号泣しそうやな」
「…そうですわね。きっと、自分が好きになって一緒に過ごすのですから、別れの時にはきっと泣いてしまいますわ」
「…せやな。今なら、よう分かるわ」
「わたくしも、そして刀奈さんや簪さん、シャルロットさんも、今なら良く分かりますわ」
セシリアの彼の腕を抱きしめる力が強くなる。
それにより、セシリアの胸の膨らみが時守の腕に押し付けられることになるが、今は両者に邪な気持ちなどは出てこない。
「強ならなあかんなぁ…」
「もちろん、わたくしもそのつもりですわ。まだ第二形態移行の兆しは見えませんが、いつか必ず追いついてみせますわ!」
「あぁ、待ってる。まあ俺も頑張るけど」
「ならば、わたくしは剣さんよりも頑張りますわ!」
「んじゃ俺はさらにそれよりも頑張―」
「オーバーワークだと分かり次第、再び全員でお仕置きですわよ」
「……ごめんなさい」
他愛もない話を進めながら2人はドッグパークへと入っていった。
2人を待ち構えていたのは、小型から大型まで様々な種類が揃った可愛らしい犬達だった。
「まあっ!」
するりと時守の腕から離れ、ポメラニアンやヨーキーといった小型犬の元へと駆けていくセシリア。
そのうちの1匹をひょいと抱き抱え、時守の方へと振り向いた。
「見てください剣さん!可愛らしい子達ばかりですわ!」
「おいしょ。おー、ほんまや。ちゃんと躾られとるし、可愛いやつばっかや」
時守も彼の元へゆっくりと近づいてきたパグを慣れた手つきで抱き上げ、セシリアの元に向かう。
「うりうり」
「わふっ!」
「おっ、何吠えとんねん。…セシリーを取っておきながら…」
「わうっ!」
「このアホ犬め」
「もう、剣さん。安心してくださいまし。わたくし立ちは、剣さん以外に靡きませんわ」
「ハッハッハ。見たかアホ犬。これが俺の女神や」
セシリアが抱いているヨークシャーテリアの頭をわしわしと撫でると、ヨークシャーテリアも負けじと時守の手に頭を押し当ててきた。
「お、なんや。遊びたいんか?」
「わうっ!」
「…あふっ」
「おー、お前もか。んじゃほい」
セシリアがヨークシャーテリアを下ろすのとほぼ同時に時守もパグを下ろす。
すると、その二匹だけでなく様々な小型犬が時守の足元へと寄ってきた。
「俺の足からジャーキーの匂いでもしてんのか?」
「きっと、動物に好かれる体質だと思いますわ」
「俺が犬やったら絶対セシリアの方行くけどなー。ほれ、どした」
遊んでほしいとアピールする犬達の中で、先程まで時守に抱えられていたパグが大人しくじっと時守のことを見つめていた。
それに気づき、しゃがんで目線を近づける。
「遊びたくないんかー…っとぉっ!?」
すると、いきなりそのパグが時守の顔面へと襲いかかった。
その衝撃に尻もちをつかざるをえなかった時守は、しばらくの間されるがままに顔を舐め回されていた。
「ちょ、おい…」
「うふふっ。好かれましたわね、剣さん」
「鼻ん中に舌突っ込むなぁっ!」
時守が仰向けに倒れても舐め回しは止まることを知らず。
結果、時守がさらに数匹の犬達にもみくちゃにされて、2人はドッグパークを出たのだった。
◇ ◇
「あー、凄まじかったわ。あのパグ」
「まるで剣さんのようなわんちゃんでしたわね」
「そうか?」
「えぇ。いつの間にか人に寄り添い、こちらが構っても流したかと思えば、急に猛アタックを仕掛けてくるような…」
「…ごめん。俺そんな厄介みたいな存在やったとは…」
「そ、そういう意味ではありませんわ!全て、いい意味で、です!」
「ははっ、こっちも冗談や。じょーだん」
2人並んでパーク内を少し練り歩き、良さげなベンチが無いかどうかを探す。
「あっ、剣さん。ここはいかがですか?」
「んー…」
セシリアが指さした場所は、確かに悪くない。しかし。
「いや、あっちにしよ」
「あちら…ですの?いいお天気ですわよ?」
「やからこそ、や」
時守がセシリアの手を握って歩き出した方向にあったのは、日陰であり、さらにパラソルの下にテーブルが置かれている少人数用のスペース。
せっかくの晴天がもったいない、とセシリアは考えていた。
「どうしてここにしましたの?」
「まあ見ててみ」
時守が視線を向けた方向に、セシリアも顔を向ける。
そこには既に人が座っており、カバンの中から弁当を取り出していた…のだが。
「…あ、あらまあ…」
「こういう遊園地のハトってのは、時間帯やら場所やらで、美味い餌が食えるっての分かってるからな。晴れの日なら尚更寄ってきて食事にならへんねん」
「少しなら上げても構いませんが…」
「目ぇ離した隙に死角から奪われるってこともあるからな」
まるで狙いを付けられていたかのように、数十匹のハトが一斉にそのベンチの周りに群がり始めたのだ。
動物に餌をやる程度なら、と思っていたセシリアだが、その自分達の昼食すら危うくなってしまうかもしれない光景を目の当たりにして考えを改めた。
「物知りですのね」
「ただやられたってだけやねんけどな…」
「それは大阪のテーマパークで、ですか?」
「ん?せやけど…」
「でしたらわたくし、来年の夏にでも行ってみたいですわ!」
「おぉ、ええな。ほなそん時は」
「えぇ。もちろん皆さん揃って、ですわ」
2人揃って笑い合う。
こうして平和な遊ぶ予定を話し合える時間すらも、付き合っていながらあまり無かったのだ。
変な話ではあるが、皆が皆初めてできた恋人同士。まだまだぎこちない所が多い。
「まあ、後それ以外にもこの場所を選んだ理由はあんねんけどな」
「と、言うと?」
「あ、その前にセシリア。髪に何か付いてるわ」
そう言って、反対側に座るセシリアの髪を触るために身を乗り出す時守。
首元の髪に時守の指先が触れ、そのまま彼の手のひらがセシリアの後頭部へと回った。
「えっ…。っ、んんっ…ちゅっ…」
「んっ、ぷはっ。…こうやって、人目を気にせずキス出来るからな」
完全に不意を突かれたセシリアは、少しの間何をされたか理解出来なかった。
後頭部を優しく掴まれたかと思えば、気づけば唇を彼に奪われており、その彼は今いたずらっぽく微笑んでいる。
「…こんなの、ズルいですわ」
「ズルい俺は嫌い?」
「そんなことないですわ。…ですが、心臓に悪いですから…。キスをしたいのならば、もっと近くに来てくだされば…」
「ん。りょーかい」
対面に座っていた所から、セシリアと同じベンチ、それもお互いの肩が密着してしまう程近くに座った時守。
「剣さん。好きですわ…」
「俺も。好きや、セシリア」
再び2人の距離が無くなるのに、時間は要らなかった。
◇ ◇ ◇
「ふぃ〜。遊んだ遊んだ」
「日本のテーマパークも素晴らしかったですわ」
「テーマパークだけちゃうで?」
昼食の後、ホラーアトラクションや絶叫マシン、絶叫マシンと観覧車に絶叫マシンと乗っていき、夕暮れ。
帰り始めている人もちらほらと出てきている中で、2人は園内をただ歩いていた。
「ふふ、剣さん」
「ん?どないした?」
「ただ呼んでみただけですわっ」
「…そか」
2人の手は繋がれたまま、ゆっくりとしたペースで歩く。
国連代表としての責務、多方面から押し寄せるインタビューなど、そして、世界初の2人の男性操縦者のうちの1人としてやらなければならないこと。
年末だからこそ抱えてしまう様々な問題を忘れられるこの瞬間が、時守はたまらなく好きだった。
「セシリア」
「はい?」
「…ありがとな」
「…ふふっ。どういたしまして、ですわ」
繋いでいる右手に自然と力が入る。
細く、しかし柔らかく、美しいとしか言いようのないセシリアの手。
そんなものを今、自分が掴めているということに少しの優越感を覚える。
時守がそんな感情に浸っていた、まさにその時だった。
「ん?…あっぶね」
突如時守とセシリアの元に、光が飛来した。
セシリアの肩を抱いて体の向きを変えることでそれを避ける。
それと同時にISを起動だけして、敵を確認する。
「国籍…イギリス?…セシリア、なんか知ってるか?」
「いえ…で、ですがあの機体は…」
「『ダイヴ・トゥ・ブルー』…。なるほど。どうやら、また亡国にイギリスのISが巻き込まれたみたいやな」
園内にある他の施設は決して狙うことなく2人を襲撃した下手人は、セシリアのよく知る人物だった。
「…チェルシー。一体何の真似ですの?ブルー・ティアーズの3号機まで持ち出して」
「お迎えに上がったのです、お嬢様。お嬢様…いえ、ここではセシリア・時守・オルコット様と呼びましょうか」
「ぜひ」
「この場面で普通その名前にする?」
振り返った先にいたのは、イギリスでのセシリアの専属メイドであるチェルシー・ブランケット。
シリアスな雰囲気から一転。彼女の口から放たれた一言は、その空気を少しばかり緩めることとなった。
「少なくとも、後3年のうちにはそうなるのですから良いのです。それよりもセシリア様。私も目的達成のためには、あなた様が必要不可欠なのです」
「目的?」
「今は言えません。それはまた、イギリスでお会いしたときにでも」
チェルシーがそう言うと、突如として彼女が機体ごと空間に沈むように消えた。
「ワンオフ、か」
「剣さん?」
「前にちょっとだけイギリスのIS開発施設を視察させてもらったことがあってな。確か予定やったらイギリス代表が乗る予定やったはずやけど…」
「チェルシーは国家代表ではありませんわ。…となると」
「またなんか起きたってとこやな」
また剣さんが無茶をしますのね、とセシリアは頭を抱え。
新機体と戦えるかもしれねぇなんて、オラワクワクすっぞ、と時守は密かな興奮を抱いていた。
今まで立ててたフラグやらが上手く行けばこの11巻でどんどんと回収していけるかもです。
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