艦隊これくしょん -Blue submarine-   作:イ401

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少々執筆に苦戦した今回。


第6話

日本領海。

 

「あれが…日本…?」

 

潜望鏡から見える、コンクリートの灰色に塗られた街。

 

しかし、その街は廃墟と化しており、それどころか爆発跡の様なものが街のそこら中に広がっている。

 

「…見るだけ、とはいかなくなったな。両舷最微速。右舷7度回頭」

 

イオナの指示と妖精達の操作により、2ノットという速度で捨てられた港へと向かう。

 

「不審な動きは無し…60秒後に浮上開始。私が下りたら潜行し、エンジンを停止しろ」

 

「はーい」

 

イ401は海面へと浮上。静かに海面へと姿を現すと同時に、イオナも甲板に現れる。

 

イ401から港まで、直線距離で100m。人間からしたら絶対に届かない距離だ。

 

 

──ドンッ!!

 

 

人間ならば、だが。

 

 

──スタッ。

 

 

4秒後には、既にイオナは港にその姿を移していた。

 

イオナがやった事は、ただ「飛んだ」だけ。それだけで、100mの距離を移動しただけだ。

 

いざ行かんと右脚を踏み出そうとしたが、ふと自身の服装を見る。

 

「…この服装だと目立つか?」

 

そう思ったイオナは、ネットワークから服装を適当に検索し、現在着ているセーラー服のナノマテリアルをリセットし、再構成を開始。その過程による淡い光がイオナの身体を包む。

 

そして数瞬後に淡い光が消え、セーラー服から「KAMONEGI」がプリントされたオレンジ色のTシャツ、茶色のショートパンツ、白黒のオーバーニーソックスになっていた。

 

服装を変え終え、今度こそ右脚を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…かなりの被害だな。復興させようとした形跡さえ殆ど無いとは…人の居住が確認出来た区画も廃墟を利用しているだけに過ぎない)

 

街の探索から5分。

 

イオナは、港近くにあったビルの屋上から見下ろしていた。

 

街は、かつて輝いていたであろうその姿を失い、今はただ、ボロボロになった廃墟を映すのみ。

 

内地に近い区画には人の居住も確認出来るが、それも廃墟を利用して住み着いているだけの、劣悪な環境だ。

 

(…)

 

イオナは屋上から別の屋上へと飛び移り、それを何回か繰り返していき、そして居住区の手前に着地し、居住区へと入り込む。

 

居住区は廃墟区域と比べると損傷は少なく、至る所に人々の居住場が見られ、そして何十何百、いやそれ以上の人々が露天商売などをしている。

 

(食料、金属、生活用品、用具…電気までも商売道具にしているのか)

 

居住区を見渡しながら歩いていると、自身を見ている視線に気付く。

 

(…この服装も目立つものか?)

 

「おーい、そこの嬢ちゃん」

 

すると、建物の中に食料店を構えている隻眼の男性が声を掛けた。

 

「…私の事か?」

 

「そうそう。嬢ちゃん見ない顔だけど、新入りかい?」

 

「ああ」

 

「へぇ…っと、とりあえず来な。リンゴでも奢るから」

 

手招きをする男性に、イオナは特に断る理由も無く食料店の中へと入り、用意された椅子に座る。

 

「最近此処に来たって事は…もしかして、海洋技術総合学園関係かい?」

 

(海洋技術総合学園?)

 

すぐさまネットワークの検索エンジンに掛けて検索。

 

ヒット。内容を要約すると以下の通りである。

 

 

──海洋技術総合学園──

2012年、横須賀に設立。海洋技術全般の継承、及び「提督」の発見を目的とする学園。政府による直接管理、運用が行われており、学園に所属する生徒、及び関係者には一定の特権が与えられる。

主に一般生徒が属する「一般科」、成績優秀者が属する「特進科」、「提督」の素質が認められる者のみが属する「特殊研修科」がある。その中でも特殊研修科に属する生徒は貴重な人材であり、保護の意味合いも兼ねて多くの特権が与えられる。

 

 

(なるほど…)

 

検索を開始し、閲覧を完了させるまで僅か0.1秒。この速さも、メンタルモデルだからこそ成せる事だ。

 

「そんな所だ。私の従姉妹が入学出来てね」

 

「特権絡みか」

 

「他の人達には悪く思うけど、そうじゃないと苦しいから」

 

「違いないな…ほら、リンゴだ」

 

「ありがとう」

 

男性から輪切りにされたリンゴを置いた皿を受け取り、一つ口にする。ほんの僅かだけ水分を失ってはいるが、その旨味は失われていなかった。

 

「嬢ちゃん、いくつだい?」

 

「15」

 

「って事は、大海戦後の世代か」

 

(大海戦…)

 

 

──大海戦──

2010年、深海棲艦の出現により海域の閉鎖の危惧により、主要各国と国連軍、海域防衛軍によって編成された連合軍「国際最終決戦艦隊」と深海棲艦による、史上類を見ない大規模海戦。

深海棲艦に損害は当たれられたが、結果は人類側の敗北で終わり、国連軍の海上戦力はほぼ全滅。主要各国も致命的な損害を被る事となった。

 

 

「そうだな」

 

「…もう、あの海戦から20年経つのか」

 

男性も近くの椅子に座り、小さな瓶に収まっている酒を飲む。

 

「…つかぬ事を聞くが、その時、その場に居たような口調だが…」

 

「…」

 

イオナがそう問いかけた瞬間、男性の動きが止まる。

 

「すまない、気分を害するつもりは無かった」

 

「いや、気にしなくていい。こっからは独り言みたいなもんだ、聞き流してもいい」

 

 

そう言って、男性は再度酒を一口飲んだ。

 

 

「20年前、大海戦の海に、俺は海上自衛隊の一員として居た。本来ならあの時の派遣は憲法に反しかねない行動だったが、そんな事も言ってられない情勢だった」

 

「太平洋に現れた、深海棲艦共の大群。それを認識した瞬間に、決戦艦隊は先手必勝とばかりに総攻撃を開始した。あっという間に空は戦闘機とミサイルの排煙で埋まった」

 

「だが、奴等には効果の1割しか効かなかった。そして、今度は深海棲艦の反撃さ」

 

「奴等の攻撃は砲撃。砲台から放たれる砲弾は、装甲が薄いイージス艦や空母によく効いた」

 

「火力も防御も劣る決戦艦隊は、あっという間に総崩れ。殆どの艦艇が海に沈んで、俺が乗っていたイージス艦もギリギリ沈まなかったが、轟沈寸前の大破。俺自身も片目を失ったが、まだ運が良かった。戦死者の殆どが、遺体が遺族の元に帰って来なかったからな」

 

「結果は、惨敗。人類は海域から追い出され、陸に残された資源に縋り、資源を求めて争う時もあった。あの時は、そりゃあ悲惨だった」

 

「それを打破してくれたのが、艦娘と提督の存在だった。深海棲艦を沈めてくれたあの姿は、ここの街にいる全員がその目に焼き付けている」

 

「深海棲艦を沈められる希望、海にある資源を確保できる希望、人類の反撃の希望…数えるのもキリが無い。そのくらい、艦娘は頼りになる存在だよ」

 

「…これ以上は長くなり過ぎるからやめておくか。すまないな、こんな事に付き合わせて」

 

「いや、有意義な話だったよ。従姉妹に話せば勉強になるだろうから。リンゴ、ありがとう」

 

イオナは立ち上がり、空になった皿を男性に返した。

 

「行くのか?」

 

「他にも見回りたいからな。また来る機会があったら、何か買って行くよ」

 

「その時はよろしく頼むぜ。そういえば嬢ちゃん、名前は?」

 

「イオナ。霧乃イオナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、街の探索を終えたイオナは、港へと戻っていた。服装は既に元のセーラー服になっている。

 

(あれが、今の日本の現状…)

 

(人類…深海棲艦…艦娘…提督…そして、()…)

 

その時、イ401が海面から姿を表し、イオナは飛び移り、船内へとその姿を消した。

 

直後、イ401も海中へとその姿を消して行った。


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