艦隊これくしょん -Blue submarine-   作:イ401

4 / 16
第3話

「さて、状況の確認だ」

 

拠点から東20km地点にある海底谷。その海底に、イ401は潜んでいた。

 

イ401戦闘指揮所のメインモニターに地図とイ401の現在地、そして深海棲艦の位置情報が表示される。(イオナは艦長席に座っている)

 

「私達の攻撃目標は、深海棲艦 重巡洋艦《リ級》2隻、駆逐艦《イ級》4隻。計6隻の艦隊」

 

「目標艦隊は現在20ノットで西進中。拠点が目標艦隊の攻撃範囲内に入るまでの猶予は53分14秒後」

 

「対してこちらは、霧の艦艇とはいえ単艦だ。いくら敵が弱かろうが、思わぬ痛手も食らいかねない。油断せずに挑むぞ」

 

それを聞いていた妖精達は、静かに頷く。

 

「さて…どう切り崩していくか」

 

目標艦隊は複縦陣を組んでおり、2隻のリ級の前後に4隻のイ級が展開している形となっている。

 

「周辺の地形データを」

 

メインモニターの表示が変わり、地形データが映し出される。データによれば、ここの一帯は複雑な形の海底谷であり、海上からのソナー感度は低下、もしくは無力化できる可能性がある。

 

「…この地形を使わない手は無いな」

 

地形データに矢印が表示され、どんどんと伸びていく。

 

「このまま海底谷に沿い、目標艦隊の進路上に回り込んで奇襲し、一気に殲滅する。船首魚雷発射管1番2番、船尾発射管1〜4番に侵食弾頭魚雷、5番6番に重高圧弾頭魚雷装填。装填後発射管解放」

 

「りょうかーい!!」

 

「エンジン始動。静音航行」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上にて、20ノットで巡航するリ級2隻、イ級4隻、計6隻の艦隊。

 

その艦隊の役目は、人類が支配する海域への強行偵察。その為に高速艦の編成だ。

 

艦隊は強行偵察の成功度を上げる為に、敢えて通常のルートから逸れ、そこから海域へと侵入を試みていた。

 

しかし、それはあまりにも悪手だった。

 

 

 

その行動は、彼女達に目を付けられる事になったのだから。

 

 

 

一隻のイ級のパッシブソナーが、海中を突き進んでくる6本の魚雷航走音を検知し、全艦に報告する。

 

旗艦であるリ級が回避運動を指示するが、120ノットで突き進んでくるそれを回避するには、あまりにも遅過ぎた。

 

先に発射された2本の重高圧弾頭魚雷が、艦隊の中央付近、深度10mで炸裂。炸裂によって生まれた強力な衝撃波によって、海中が掻き回されて大波を生み、艦艇を大きく揺さぶって行動を抑止。

 

そこに、追撃の4発の侵食弾頭魚雷が、4隻のイ級に向かう。そして回避も出来ず、船底に着弾。

 

 

その瞬間、着弾地点周辺の空間に強力な重力波が出現。イ級の船体を容赦無く抉り取る様に侵食してゆく。

 

 

重力波が消失した瞬間、大爆発を起こし、轟沈。たった数秒で4隻を失い、残りはリ級2隻。

 

そこにまた、海中から2発の侵食弾頭魚雷が接近。態勢を立て直したリ級は、急いで機関全力で回避行動を取るが、やはり無意味だった。

 

 

数秒後には、二つの爆発音が海上に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全目標撃沈確認。状況終了」

 

それを艦長席に座って見ていたイオナは、静かにそう告げた。

 

「おつかれさまー」

 

「この程度なら問題ない。浮上開始。深度0」

 

イ401はゆっくりと浮上を開始し、30秒後には海面に浮上した。海上は先程の戦闘の影響か、少し荒れている。

 

「帰還する。左舷回頭、両舷前進…いや、待て」

 

「どうしたですー?」

 

「レーダーに何か反応はあるか?」

 

「ないよー」

 

「…ついでに機関のテストを行う。左舷回頭後、メインリミッター解除」

 

 

──キィィィィィィィィィ。

 

 

「総員、対衝撃準備」

 

周りの妖精達は何かに掴まり、イオナもクラインフィールドを利用して身体を固定する。

 

「行くぞ。機関出力最大、最大戦速!!」

 

その瞬間、イ401の後部スラスターが大きな咆哮を上げ、急加速。その加速度は凄まじく、どんどんと加速してゆく。

 

「そくど、さんじゅうのっと、さんじゅうごのっと、よんじゅうのっと…まだまだかそくちゅうですぅぅぅぅぅぅ!?」

 

その時、イ401の船体が波によって一瞬浮き上がり、その衝撃でモニターを見ていた妖精の何人かが転がる。

 

「…45、50、55、60…最大速度確認。60ノット。機関出力30%、減速開始!!」

 

イ401は減速を開始。しかし60ノット、時速換算で111キロものスピードで突き進む船体の速度は中々落ちない。

 

しかし何も無かったのが幸いして、1分後にはリミッター設定時の巡航速度、18.2ノットまで減速。

 

「…思ってたよりも速かったな」

 

身体を固定していたクラインフィールドが消え、軽く手首を動かし、現在地の確認。拠点から僅か1km地点にイ401はいた。

 

「皆、大丈夫か?」

 

「だ、だいじょうぶですー。いてて…」

 

「…拠点はもう目の前だ。後は私が全部操縦するから休んで構わない」

 

「そうさせてもらうよー」

 

再びイ401は潜水。数分後には地下拠点のドック内に入っていった。




用語解説
・侵食弾頭侵食
着弾地点の空間に強力な重力波を発生させ、範囲内に存在する物質の構成因子を崩壊させる。
その威力は、霧の艦艇にもダメージが与えられる。

・強制波動装甲
ナノレベルの材質によって構成された超常装甲。クラインフィールドを展開可能。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。