艦隊これくしょん -Blue submarine- 作:イ401
罪禍悪鬼の攻撃を一時的とはいえ何とか振り切り、海底に隠れているイ401。
「…被害状況」
しかし、その状況は正に"最悪"の一言に尽きる。
「だいにからだいよんくいき、だいごくいき、だいななくいき、だいじゅうからだいじゅうさんくいきがかんぜんしんすいしたよー」
「きょうせいはどうそうこうのいちぶがはそん、それにおおきなふかがかかってるよー。かどうりつはさんじゅっぱーせんと」
「残りの魚雷はは通常弾頭11本、侵食弾頭3本、計14本のみか…」
(一部区域は完全浸水、センサーの一部は破損、クラインフィールドの稼働率は30%…まともに戦える状態じゃない)
(無限弾薬生産機関と無限ナノマテリアル生産機関を始動させたいが…)
無限弾薬生産機関、無限ナノマテリアル生産機関。この二つは無資源で無尽蔵に生産するという、常識では絶対に測れないスペックを持つが、これには欠点がある。
その欠点は、起動中は膨大な騒音が発してしまう事だ。海上しか行動出来ない艦艇なら然程問題視はしないだろうが、イオナは隠密行動を得意とする"潜水艦"となると致命的な欠点となる。騒音は音波となり、艦艇が搭載しているソナーに捉えられてしまうのだ。
(それ以前に、何故奴が此処に居る…?此処に存在する事自体あり得ない…直撃したんだぞ、重力波で消し飛んだんだぞ、海中に没したんだぞ。なのにどうして短時間で強化されて平然とこちらの前に現れたんだ……!?)
「────!!」
(仮説としては、スペアボディくらいしか考えられん。しかしそれでは侵食魚雷の理由が…だが強化再生では、流石に時間が足りないだろう……)
「いおなー!!」
「──!」
すっかり考えに耽っていたイオナを、妖精が肩に乗って耳元で呼び掛けていた。
「だいじょうぶですかー?」
「…ああ、大丈夫だ」
(しまった、考え過ぎた…罪禍悪鬼は…マズイな、私が隠れた地点を中心に既に大量の機雷を撒いている…このままでは逃げられなくなる)
「船尾発射管1〜3番に侵食魚雷、残りの全発射管に通常魚雷装填。装填後発射管開け。機関始動、出力5%」
(今は、機雷を避けながら動くしかない)
──キィ………ィィン……
エンジンを始動させたが、僅かな音を立てるだけで、イ401を動かせるだけの出力が得られない。
「エンジンがイかれたのか…?出力20%」
──キ、ィィィィィィィィィ…
「よし…操舵は私がする。全兵装、何時でも撃てるようにしておけ」
イ401がゆっくりと動きだし、海底を履いながら機雷源と罪禍悪鬼の目からの突破を開始する。
(確認出来る機雷の数は200以上…広範囲にかけて撒かれているな。これを一つも被雷せず、更に罪禍悪鬼の目を躱してこの海域から離脱しなければならない)
不規則に配置された機雷源は、あらゆる場所に配置されており、イ401の撤退路を塞いでいる。
だが、完全ではない。完全ではないのならば、
イオナの1mm単位の正確無比な操舵により、機雷源に空いている僅かな隙間を掻い潜る。
(罪禍悪鬼の位置は…後方1000m。機雷源の予測最大散布範囲まで2154m。30分凌ぎ切れば、離脱出来る──)
その時。
──ドカォン!!
船体の装甲を纏うクラインフィールドに、突如爆発が直撃。何の変哲もない爆弾だった為、クラインフィールドの防御能力で防げた。
「ッ──!!機関最大、近接迎撃!!強行突破する!!」
(機雷が突然真下に動くなんて、予測出来るか…!!)
しかし爆音により、罪禍悪鬼に自らの位置を知らせてしまった以上、隠密行動は最早意味を成さない。爆発が起こると同時に、機関出力を最大にまで引き上げ、40口径14cm単装砲、25mm3連装機銃、25mm単装機銃で機雷を破壊し、突破口を抉じ開け始める。
同時に、後方にいる罪禍悪鬼から魚雷が発射。その数は──
「72…!?くっ、船尾全発射管発射!!近接迎撃の一部を回す!!」
イ401から発射された迎撃の魚雷は、僅か6本。近接迎撃の一部を回しても、到底迎撃し切れる数でも無い。
「回避行動!!対衝撃準備!!」
次の瞬間、海底と回避行動を取るイ401に多数の魚雷が直撃。多数の爆発と共に、幾つもの重力波の侵食が襲う。
(やはり侵食弾頭も混ざっていたか…!!)
侵食反作用を開始、船体が大きく揺さぶられ、轟音によって一切の音が響く事が無くなる。
──ッドォォォン!!!!!!!
「ッ!!」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」」
一際大きい衝撃が船体を揺さぶらし、吹き飛ばされた妖精達を、慌ててクラインフィールドで抑える。
(何とか耐えたが…クラインフィールド消失…!!だがこの状況じゃ強制波動装甲を修復する時間も無い…!!)
「機関全リミッター解除、出力140%!!エンジンが破損しても構うな、何としても振り切るぞ!!」
船尾の形状が変形。内部構造を一部露出させ、膨大なエネルギーを推進力に変換させ、機雷源を突き進む。
だが。
(──何だと!?)
イオナはソナーが捉えた情報に、一瞬その思考を停止させた。
突如、機雷と思われていた物体が"全方位から一斉にイ401へと突撃してきた"のだ。
「ッ──!!!!」
イ401へと突撃する、機雷ではない兵器群。
その数、118。
すぐさま40口径14cm単装砲2門、25mm3連装機銃3基、25mm単装機銃2挺、計13の銃口からレーザーが連射し、近接迎撃。更に残っていた魚雷をも全て発射。
しかし全てを迎撃仕切るには、余りにも数が多く、そして近過ぎた。
イ401へと次々と特攻し、爆発してゆく兵器群。
装甲と船体の破片を散らし、破壊されてゆく船体。搭載兵器も全て破壊もしくは弾切れとなり、一切の抵抗手段も失ってもなお、止まることの無い攻撃。
そして──。
──ズドォォォォォォォォォ……………ン
これまででも1番大規模な爆発音が、海中を轟かし。
そして、聞こえなくなった。
「デッドコピー程度に、遅れを取るとはな…」
その様子を感知していた罪禍悪鬼は、静かに呟く。
「あの強さ、所詮は性能に支えられていただけに過ぎないのか。あるいは──」
その声色は、何処か呆れも入ったような印象も与える。
「……まあ、それも後で分かる」
そして"彼女"は踵を返し、それに追従する様に船体もまた踵を返す。
「否かどうか、期待させてもらおう──"霧の艦隊 イ401"」
イオナ以外知る筈もないその名。いや、この世界の存在から、それを紡ぐ事自体あり得ない言葉。
罪禍悪鬼は、あたかも知っていて当然と言わんばかりに呟くのだった。