艦隊これくしょん -Blue submarine-   作:イ401

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第9話の一部を修正、加筆しました。


第10話

イオナ達が調査に出発して3日目。

 

彼女達は、今だ太平洋を進んでいた。

 

「1番2番、撃て」

 

 

──バシュウン!!

 

 

船首魚雷発射管から、2本の通常弾頭魚雷が発射。海中…正確には海中に潜む2隻の潜水艦型深海棲艦"ソ級"へと突き進む。

 

魚雷の接近を感知したソ級だったが、120ノットで侵攻する魚雷を避けられる筈も無く、呆気なく轟沈した。

 

「状況終了」

 

CICに光が灯り、それと同時に妖精の一人が溜め息を付いた。

 

「きのうからしんかいせいかんがおおいですー」

 

「そうだな…これも異常発生の影響だろう、魚雷の残弾はどうなっている?」

 

「つうじょうだんとうぎょらいにじゅっぽん、しんしょくだんとうぎょらいじゅっぽん、じゅうこうあつだんとうぎょらいがごほんだよー」

 

「思ったよりも消費しているか…時間も時間だ。何処か一息付ける場所を探すぞ。昼食はその後だ…?」

 

その時、イ401のソナーが新たな深海棲艦の姿を捉える。

 

「………へんだよ、いおなー」

 

「…ああ。10km先の真正面に艦艇一、捕捉。駆逐艦だが…単艦?妙だな…今まで遭遇してきた深海棲艦のどの兆候にも当てはまらない」

 

イオナ達が今まで遭遇してきた深海棲艦は、全て2隻以上で構成されていた。それがいきなり単艦、それも駆逐艦だ。

 

「…哨戒艦、か…?だとしたら、異常発生の原因が第一予測海域に存在する可能性が高まるな…」

(だが…この違和感…一体何だ?)

 

腕を組み、熟考を始めるイオナ。

 

「敵駆逐艦の様子は?」

 

「ついさっきまでうごいていたみたいですー。いまはせいししてますねー」

 

「そうか…ん?」

 

その時、違和感の正体に始めて気が付いた。

 

「距離は10kmで間違いないのか?」

 

「そうですよー?」

 

「…なら、一体どうやって"ソナーの有効範囲の半分まで詰めれた"?」

 

その瞬間、CICから音が消えた。

 

「…船首発射管1番2番に通常弾頭魚雷、3番4番に侵食弾頭魚雷装填。発射管はまだ開くな。戦闘出力をいつでも出せるようにしろ」

 

「りょうかーい」

 

CICが再度暗闇となり、ディスプレイとモニターの光のみが照らすようになる。

 

(ソナーの有効範囲は半径約20km…精度はほぼ間違い無い。だが、奴は有効範囲の半分までソナーに掛かる事無く、我々に接近していた…偶々私達が見逃していただけ、では片付けられない程の距離だ…余りにも詰められ過ぎている…)

 

(…考えているだけじゃ状況は変わらないな)

 

「船首発射管1番のみ解放。直進射で発射」

 

船首発射管の解放と同時に、一本の通常弾頭魚雷が発射。深度10まで浮上の後、まっすぐ駆逐艦へと突き進む。

 

「とうたつまでにひゃくごじゅうびょうですー」

 

(どう動く…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イオナがソナーで捉えている、海上の駆逐艦らしき艦艇。

 

「…来たか」

 

主砲の砲身に腰掛けていた"彼女"はそう呟くと、甲板へと飛び降りる。

 

そして、機関が急速始動。出力を急速に上げ、右二つのスクリューが回転。

 

船体が大きく左へ傾斜しつつ、全速で右へと旋回。

 

180度ターン仕切った瞬間、真右を一本の魚雷が通過した。

 

右スクリューの回転が低下し、代わりに左スクリューの回転が開始。旋回速度が遅くなってゆき、360度ピッタリで旋回を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か…かいひされたよー!!」

 

「…無誘導の直進射とはいえ、120ノットだぞ?静止状態から完全な回避を行える機動性…音紋、採れたか?」

 

「ばっちりー」

 

それを聞いた瞬間、イオナの身体に紋章(イデア・クレスト)が展開。採取した音紋をデータベースで検索する。

 

「駆逐艦型深海棲艦のデータにヒットしない…いや、それどころか全データのどれにも"一致していない"だと…?」

 

しかし、採取した音紋はデータベースにあるどの音紋にも一致する事は無かった。

 

「…いおなー」

 

その呟きに、妖精の一人が呼びかける。

 

「どうした?」

 

「しんかいせいかんのなかでも、ほとんどのでーたがとれてないかんしゅがひとつあるよー。さいきょうのしんかいせいかん…」

 

「…罪禍悪鬼…深海棲艦の司令塔が、何故此処に?」

 

「ぎょらいすいしんおんかくにーん!!かんろく、いおなにまっすぐきてるよー!!」

 

「私に…?船首発射管1番再装填、船尾発射管1〜4番に通常弾頭魚雷装填。目標、敵魚雷。撃て。続けて船首発射管3番4番発射、仕留めるぞ」

 

水平に4本、垂直に4本の魚雷が発射。それぞれが目標へと突撃を開始。

 

127秒後、接近していた6本の魚雷に命中。残りの侵食魚雷は、真っ直ぐと罪禍悪鬼へと向かう。

 

2本の魚雷が散開。左右から挟み込むルートを取り、接近。

 

罪禍悪鬼は回避行動を取ると同時に、 対空機銃を魚雷へと向け、迎撃を開始。

 

しかし、イオナが瞬時にプログラミングした魚雷は、一切の被弾を許さず、狩人の如く詰めて行く。

 

 

 

 

「なるほど」

 

 

 

 

"彼女"がそう呟いた瞬間。船首と船央が重力波による侵食が開始。何の対抗策も持たない装甲は瞬時に崩壊。船体を抉って行く。

 

 

 

 

「確かにこれは本物だ…だが──」

 

 

 

 

異様に落ち着いた様子で、罪禍悪鬼はそう呟いた。死ぬというのに異様な落ち着き。そして、悟ったような口調。

 

それらは"自分が死ぬとは毛頭も思っていない"様な、あるいは"死んだとしても平気である"様な、そんな印象を与える。

 

 

その瞬間、重力波が消失。船体が爆発崩壊を始め、船を包む大爆発が発生。船央を粉々に砕き、船を真っ二つに割った。

 

そして、轟音を上げながら船体は海中へと沈んで行く。

 

 

「…状況終了」

 

その様子を見ていたイオナは、CICに光が灯るのを自覚しながら、考えていた。

 

「…機関全速、急ぐぞ」

 

「いそぐのですかー?」

 

「ああ…司令塔が護衛無しでこんな所にいる事自体が不自然だ…何もない筈が無い。一気に突破する。すまないが、昼食は抜き──」

 

「あらてがせっきんー!!そきゅうさんせき、よきゅうにせきー!!」

 

「船首発射管1番2番に通常弾頭魚雷、3番に重高圧弾頭魚雷を装填。蹴散らすぞ」

 

 

再び海中に、爆発音が響いた。

 

彼女達は止まらない。自らの目的の為に。

 

 

 

犯した重大な間違いに気付かず、唯々真っ直ぐと。


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