艦隊これくしょん -Blue submarine- 作:イ401
イオナ達が調査に出発して3日目。
彼女達は、今だ太平洋を進んでいた。
「1番2番、撃て」
──バシュウン!!
船首魚雷発射管から、2本の通常弾頭魚雷が発射。海中…正確には海中に潜む2隻の潜水艦型深海棲艦"ソ級"へと突き進む。
魚雷の接近を感知したソ級だったが、120ノットで侵攻する魚雷を避けられる筈も無く、呆気なく轟沈した。
「状況終了」
CICに光が灯り、それと同時に妖精の一人が溜め息を付いた。
「きのうからしんかいせいかんがおおいですー」
「そうだな…これも異常発生の影響だろう、魚雷の残弾はどうなっている?」
「つうじょうだんとうぎょらいにじゅっぽん、しんしょくだんとうぎょらいじゅっぽん、じゅうこうあつだんとうぎょらいがごほんだよー」
「思ったよりも消費しているか…時間も時間だ。何処か一息付ける場所を探すぞ。昼食はその後だ…?」
その時、イ401のソナーが新たな深海棲艦の姿を捉える。
「………へんだよ、いおなー」
「…ああ。10km先の真正面に艦艇一、捕捉。駆逐艦だが…単艦?妙だな…今まで遭遇してきた深海棲艦のどの兆候にも当てはまらない」
イオナ達が今まで遭遇してきた深海棲艦は、全て2隻以上で構成されていた。それがいきなり単艦、それも駆逐艦だ。
「…哨戒艦、か…?だとしたら、異常発生の原因が第一予測海域に存在する可能性が高まるな…」
(だが…この違和感…一体何だ?)
腕を組み、熟考を始めるイオナ。
「敵駆逐艦の様子は?」
「ついさっきまでうごいていたみたいですー。いまはせいししてますねー」
「そうか…ん?」
その時、違和感の正体に始めて気が付いた。
「距離は10kmで間違いないのか?」
「そうですよー?」
「…なら、一体どうやって"ソナーの有効範囲の半分まで詰めれた"?」
その瞬間、CICから音が消えた。
「…船首発射管1番2番に通常弾頭魚雷、3番4番に侵食弾頭魚雷装填。発射管はまだ開くな。戦闘出力をいつでも出せるようにしろ」
「りょうかーい」
CICが再度暗闇となり、ディスプレイとモニターの光のみが照らすようになる。
(ソナーの有効範囲は半径約20km…精度はほぼ間違い無い。だが、奴は有効範囲の半分までソナーに掛かる事無く、我々に接近していた…偶々私達が見逃していただけ、では片付けられない程の距離だ…余りにも詰められ過ぎている…)
(…考えているだけじゃ状況は変わらないな)
「船首発射管1番のみ解放。直進射で発射」
船首発射管の解放と同時に、一本の通常弾頭魚雷が発射。深度10まで浮上の後、まっすぐ駆逐艦へと突き進む。
「とうたつまでにひゃくごじゅうびょうですー」
(どう動く…?)
イオナがソナーで捉えている、海上の駆逐艦らしき艦艇。
「…来たか」
主砲の砲身に腰掛けていた"彼女"はそう呟くと、甲板へと飛び降りる。
そして、機関が急速始動。出力を急速に上げ、右二つのスクリューが回転。
船体が大きく左へ傾斜しつつ、全速で右へと旋回。
180度ターン仕切った瞬間、真右を一本の魚雷が通過した。
右スクリューの回転が低下し、代わりに左スクリューの回転が開始。旋回速度が遅くなってゆき、360度ピッタリで旋回を終えた。
「か…かいひされたよー!!」
「…無誘導の直進射とはいえ、120ノットだぞ?静止状態から完全な回避を行える機動性…音紋、採れたか?」
「ばっちりー」
それを聞いた瞬間、イオナの身体に
「駆逐艦型深海棲艦のデータにヒットしない…いや、それどころか全データのどれにも"一致していない"だと…?」
しかし、採取した音紋はデータベースにあるどの音紋にも一致する事は無かった。
「…いおなー」
その呟きに、妖精の一人が呼びかける。
「どうした?」
「しんかいせいかんのなかでも、ほとんどのでーたがとれてないかんしゅがひとつあるよー。さいきょうのしんかいせいかん…」
「…罪禍悪鬼…深海棲艦の司令塔が、何故此処に?」
「ぎょらいすいしんおんかくにーん!!かんろく、いおなにまっすぐきてるよー!!」
「私に…?船首発射管1番再装填、船尾発射管1〜4番に通常弾頭魚雷装填。目標、敵魚雷。撃て。続けて船首発射管3番4番発射、仕留めるぞ」
水平に4本、垂直に4本の魚雷が発射。それぞれが目標へと突撃を開始。
127秒後、接近していた6本の魚雷に命中。残りの侵食魚雷は、真っ直ぐと罪禍悪鬼へと向かう。
2本の魚雷が散開。左右から挟み込むルートを取り、接近。
罪禍悪鬼は回避行動を取ると同時に、 対空機銃を魚雷へと向け、迎撃を開始。
しかし、イオナが瞬時にプログラミングした魚雷は、一切の被弾を許さず、狩人の如く詰めて行く。
「なるほど」
"彼女"がそう呟いた瞬間。船首と船央が重力波による侵食が開始。何の対抗策も持たない装甲は瞬時に崩壊。船体を抉って行く。
「確かにこれは本物だ…だが──」
異様に落ち着いた様子で、罪禍悪鬼はそう呟いた。死ぬというのに異様な落ち着き。そして、悟ったような口調。
それらは"自分が死ぬとは毛頭も思っていない"様な、あるいは"死んだとしても平気である"様な、そんな印象を与える。
その瞬間、重力波が消失。船体が爆発崩壊を始め、船を包む大爆発が発生。船央を粉々に砕き、船を真っ二つに割った。
そして、轟音を上げながら船体は海中へと沈んで行く。
「…状況終了」
その様子を見ていたイオナは、CICに光が灯るのを自覚しながら、考えていた。
「…機関全速、急ぐぞ」
「いそぐのですかー?」
「ああ…司令塔が護衛無しでこんな所にいる事自体が不自然だ…何もない筈が無い。一気に突破する。すまないが、昼食は抜き──」
「あらてがせっきんー!!そきゅうさんせき、よきゅうにせきー!!」
「船首発射管1番2番に通常弾頭魚雷、3番に重高圧弾頭魚雷を装填。蹴散らすぞ」
再び海中に、爆発音が響いた。
彼女達は止まらない。自らの目的の為に。
犯した重大な間違いに気付かず、唯々真っ直ぐと。