ある町の沖合いに突如深海棲艦の艦隊が大挙現れた。
人々は残された僅かな戦力を動員して立ち向かったが、所詮は無駄な抵抗だった。
瞬く間に蹴散らされ、人々は抵抗する術を全て無くした。
そんな人々に、深海棲艦は砲を向ける。最早逃れる事も適わないと思われた時だった。
艦隊の真ん中に突然の火柱が立ち、深海棲艦達は全滅した。
呆然とした人々の前に現れる新たな艦隊。だがその艦隊は人々の前で忽然と姿を消す。
そして代わりに現れたのは、様々な年齢の女性ばかりの集団。
驚く人々に彼女達はこう名乗った。
「私達は古の戦舟の魂を受け継いだ、艦娘です。」
私がこの鎮守府に来てから一週間たち、いよいよ着任の日を迎える事になりました。
「明日1100に迎えに来ますね。」
私の世話係になった吹雪さんが嬉しそうに言います。
「あと、大淀さんが不自由な思いをさせて申し訳ないと伝えてくれと言ってました。」
「あ、いえそんな事はないです。吹雪さんや鳳翔さんに色々と良くしてもらったので不自由は感じませんでしたし。」
本当にお二人にはお世話になりました。
吹雪さんには毎日来てもらって、着任や艦娘について教えてもらいました。
その中で私が一番驚いたのが、艤装展開についてでした。
これを行う事で艦娘は元の姿、私で言えば補給艦ましゅうになるらしいとの事。
人から艦の姿へ変わるというのですから。
そんな戸惑う私に吹雪さんは、
「最初は誰でも戸惑います。私もそうでしたし。」
と笑って「大丈夫ですよ。」と言ってくれました。
それから鳳翔さん。
事情を察してくれて、事有る毎に私の事をフォローしてくれました。
艦娘の生活についても色々と教えて頂きました。
特に食事については色んな意味で衝撃的でした。
艦であった私にとって食事を取るという行為そのものが今まで無かったのですから。
因みに鳳翔さんの食事は大変美味しかったです。
とはいえ、美味しいという概念はその時初めて知ったのですが。
「それでは明日。着任楽しみにしていますから。」
吹雪さんはそう言って帰られていきました。
さて、この後はどうすべきなのでしょうか。
そう思案していると、扉を叩く音がします。
「ましゅうさんよろしいでしょうか?」
どうやら鳳翔さんが尋ねて来てくれた様です。
「はい、どうぞ。」
私の返事を聞き、鳳翔さんが入って来られました。
両手に食事の載ったお盆を持っています。
ああ、もうそんな時間でした。
「ありがとうございます鳳翔さん。」
お盆を受け取り私はお礼を言います。
「どういたしまして。明日の準備とか大丈夫ですか?」
鳳翔さんは私の礼に、頬に手を当て微笑んで答えます。
本当に和服の似合う美人さんで、私には眩しすぎます。
「えっと大丈夫と思うんですけど。」
実際何を準備すれば良いか私には分からないのですけど。
服は最初から着ていた物で良いようですし、というかその服。
ちょっと丈が短い気がするのですが。
鳳翔さんのスカートは膝上で有る意味健康的な感じがするのですが、私の服はかなり上なのです。
吹雪さんも同じ様ですが、彼女は可愛くて似合っているので。
正直言って歩くのが恥ずかしくてしょうがありません。
鳳翔さんに歩き方を何度も注意されてしまいましたし。
それ以外は、青いリボンや赤の配色など気に入っているのですが。
「分かりました。じゃ食事を済ませてお風呂に入って下さいね。」
鳳翔さんはそう言って微笑むと出て行かれました。
それを見ながら、鳳翔さんが言われたお風呂の事で少々憂鬱になってしまいました。
食事と並んで今まで経験の無い行為なので、最初は大変でした。
何より服を脱ぐ、裸になるという事が分からなかったのでそのまま入ろうとして鳳翔さんに止められてしまいました。
まあその後も、自分の身体を見て恥ずかしさのあまりのぼせかけたのは・・誰にも言えない話なのですが。
兎に角、鳳翔さんの用意してくれた食事を食べて、お風呂に行くことにしました。
ところで私の入浴時間なのですが、まだ他の艦娘さん達に存在を秘匿する為に真夜中になります。
部屋も奥まった、両隣が空き部屋になった所を使わせもらってます。
だから食事も鳳翔さんにわざわざ持って来て頂いているのです。
誰にも見つからない様注意しつつ、入浴を終え早めに床に入りました。
明日はどんな出会いが私を待っているのでしょうか。
不安と、そして隠しきれない期待を抱きながら私は眠り付きました。
翌日朝
早めに起床し、身支度を整え私は鳳翔さんの朝食を頂ます。
「それでは私は先に行きますね。まあ緊張なさらずにね。」
朝食を持ってきた鳳翔さんに声を掛けられます。とはいえ緊張するなと言うのは無理な注文です。
「そ・・そうですね。が、がんばります。」
ガチガチの状態の私に鳳翔さんは苦笑いしていました。
そして待つ事1時間後。吹雪さんが迎えに来て下さいました。
「ましゅうさん準備は良いですか?」
「はい、大丈夫・・だと思います。」
緊張の抜けない私に吹雪さんは励ましてくれました。
「そんなに緊張しないで下さい・・と言っても無理ですね。
まあそんな時は開き直るんです。」
「・・と言った自分が着任時に大ポカをやらかして、暫く鎮守府の話題になったんですが。」
何だか余計不安になる事を言われてしまいましたが、吹雪さんの照れ笑いを見ている中に少しは落ち着いたみたいです。
「それじゃ吹雪さんお願いしますね。」
「はい、お任せを。」
私たちは部屋を出て寮の外へ出ます。
そういえば私は外の・・といいっても鎮守府の中ですが、初めて目にする事になるのですね。
思わず興味深げに辺りを見渡してしまいます。
艦娘として目覚めた日は真夜中まで工廠で過ごし、人目に付かない様に、注意して移動していたので辺りの景色など見ている暇などありませんでした、かなり暗くなっていましたし。
遠くに港が見えます。そして様々な建築物が立ち並び・・
見た事が無い風景の筈なのに何故か見覚えのある気がしてしょうがないのです。
「鎮守府については後でご案内しますから。」
そんな私の姿に吹雪さんが笑って言ってくれました。
「はい、お願いしますね・・」
ちょっと恥ずかしくなった私は声を小さくして返事をします。
まずは着任をきちんと終えないと。私は気を引き締めます。
しばらくして入り口上に『艦隊司令部』と表示された建物についます。
「ここに提督の執務室、最初にましゅうさんを案内した所や会議室、作戦司令室なんかがあります。」
そう言って吹雪さんが説明してくれます。中々立派な建物ですね。
「吹雪さん、ましゅうさんお早う。」
艦隊司令部の前で待っていた大淀さんが私たちに挨拶をしてくれます。
「お早うございます、大淀さん。」
吹雪さんが元気のいい挨拶を返します。
「お早うございます、今日はよろしくお願いします。」
私も吹雪さんに負けじと気合を入れて挨拶を返します。
「うん、どうやら問題無いようですねましゅうさん。」
私の返事に大淀さんは安心した様な微笑を返してくれます。
「それじゃ行きましょか。」
大淀さんは私達を先導して建物の中に入っていきます。
私の部隊支援艦隊への着任がいよいよ迫って来ました。
言い訳という名の後書き
今回はこれまで。
いよいよ他の艦娘達との顔合わせです。果たして何が待っているのか?
それでは。