三人の姉妹に先立たれ、私は異国の地へ向かい、そこで一生を終えた。
やがて私は何かの因果か、再び三人と出会うことが出来た。
しかし私がその時とった行動は、今思えば酷いものだった。
私は単に三人を守りたかっただけなのだが、結果的に皆を苦しめる事になり、私達姉妹はばらばらになる寸前だった。
それを救ってくれたのが彼女だった。もし彼女が居なければ私は今ここには居なかっただろう、そして残った姉妹達に二度と消えない傷を負わせいただろう、かっての私が受けたのと同じ傷を。
今私は絶望の淵から救ってくれた、あの素敵な笑顔の彼女に再会する為にその地に降り立とうしている。
再び絆を結べた姉妹達に背を押されて・・・
鎮守府に銀色の嵐が降り立った時・・・
私ましゅうは午前中の訓練を終え、吹雪さんと大鯨さんと昼食を取っている最中でした。
それはあまりにも完璧な奇襲で私は完全に不意を衝かれる事になりました。
「やあましゅうさんここに居たんだ、約束通り会いに来たよ。」
「ひ、響さん!?何でここに?」
唖然とする私を何故か愛しそうに見つめる響さん、両脇で響く何かが割れる音、そして突然掴まれる両腕。
その瞬間私はとんでもない嵐の中に放り込まれるのを感じました。
「ふーん、それであの方が暁型駆逐艦の響さん、演習で一緒になったという?」
「まあそうらしいわね、何だか様子が変だけど。」
千歳さんと千代田のお二人が隣のテーブルで話しているのを聞きながら私は驚きと困惑に包まれていました、確かに様子が変です、特に私の両腕を先ほどから痛い位に抱え込んでいる吹雪さんと大鯨さん。
これが私が困惑している理由です。
そしてお二人は私が驚いている理由である響さんを睨み付けています。
もっとも響さんはそんなお二人に気にするでも無くお茶を飲んでいます。
この場には千歳さんの仰った通り、何かが渦巻いているのですが、その原因が分かりません、発生源は吹雪さんと大鯨さんの様なのですが・・・
助けを求めて周りを見ますが、千歳さんと千代田のお二人は困った様子で見ているだけです。
食堂には他に香取さんと厨房に間宮さんがいらっしゃるのですが、香取さんは我関せずという感じで食事中、間宮さんは忙しくてそれ処では無い状態と、誰も助けてくれない様です。
私はため息を付くと取り合えず両腕のお二人に言います。
「あの・・・痛いのでそろそろ離して頂けると助かるのですが。」
これに対しお二人の答えは・・・
「いやです。」
「ましゅうさんはお嫌ですか?」
まったく取り付く島もありませんでした。仕方なく今度は私の前に座り先程から何が楽しいのかにこにこされている響さんに話を振ります。
「あの・・・響さん、今日は一体どの様な御用で鎮守府へいらしたのですか?」
響さんは私の質問に頷くと、飲んでいたお茶をテーブルに置きじっと見つめて答えてくれました。
「決まっているじゃないか、ましゅうさんに会う為だよ。」
ぎゅう・・・
更に両腕の抱き付が強くなったのは言うまでもありません。
そんな時食堂に誰かが入って来るのが分かりました。
「ああ、響さんこんな所に、あれほど執務室でお待ち下さいと言ったのに。」
それは大淀さんでした。響さんを見つけてほっとしているようです。
「それは申し訳ありませんでした、時間が有ると思って休憩を。」
響さんはそう言って立ち上がり、大淀さんに謝罪します。
「いえお気になさらずに、では提督がお待ちですので。」
「はい。それでは行って来るよましゅうさん、また後でゆっくり話そう。」
ウィンクしつつそう言って響さんは大淀さんの後に付いて食堂を出て行きました。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「吹雪さん、大鯨さん・・・」
依然私の両腕を拘束して何も言わないお二人に恐る恐る声を掛けてみたのですが、何も言ってくれません。
それどころかお二人とも私の腕でだけでなく身体にまで抱き付いてきて私はますます困惑させられます。
そんな状況の中、私を助けてくれたのは以外にも・・・
「吹雪さんに大鯨さん、それくらいにしておきなさい。ましゅうさんを困らせるだけですよ。」
我関せずという態度だったと思っていた香取さんでした。
「あ・・・御免なさいましゅうさん。」
「私ったら・・・あの許してましゅうさん。」
吹雪さんと大鯨さんは、はっとした表情をすると腕を離してくれました。
「いえ私は別に・・・」
何て答えれば分からず私はそう言うだけでした。
そんな私達を苦笑いを浮かべ香取さんは言います。
「まあお二人の気持ちはお察ししますがほどほどにね、あとましゅうさん、これは貴女のせいでも有るんですからね。」
「え・・・それは一体?」
訳が分からずに聞き返した私に、やれやれと肩を竦める香取さん。
「貴女はもう少し相手の自身へ向けられる気持ちを理解出来る様にした方がよろしいですね。」
「・・・・・」
両横の吹雪さんと大鯨さんを見ると、私をじっと見つめて、『その通りですましゅうさん。』と目で訴えている様です?
「まあましゅうお姉らしいらしいと言えばそうですね。」
「ふふふ、そうねそこはましゅうさんの一番困ったところね。」
何だかお隣で妙に納得されている姉妹がいます、いえ厨房から一連の状況を見ていた間宮さんも『そうですね・・・』なんて表情をされています、っていうかこれ全て私の責任になるんですか?
周りの皆さんにそんな疑問を抱いて見渡したのですが、
「「「「その通りです、ましゅう(さん、お姉)。」」」」
そうだと皆に即座に返され、一撃で私は轟沈させられたのでした。
その後、私は次の非番に吹雪さんと大鯨さんに一日付き合う事を香取さんと間宮さん、千歳さんの前で約束させられました、何て言うかお三人方にやにやしすぎです。
あと千代田が「それじゃ私もましゅうお姉。」と言い出して、吹雪さんと大鯨さんの機嫌が悪くなりひと悶着あったのはもう思い出したくないです。
ようやく皆さんから解放され、私は疲れ切った感じで岸壁に出て来ていました。
「・・・・・」
こうして海を見ていると不思議と落ち着いてきます。
前に大鯨さんに『海を見てそうそう思わない艦娘はいませんよ。』と言われましたが、本当にその通りだと思わずにいられません。
「ふふふ・・・ここから海を見ていると心が癒されますね。」
思わずそんな事を呟いたとたん後ろから声を掛けられました。
「そうかここがましゅうさんのお気に入りの場所と言うわけだ。」
「え・・・響さん?」
振り向いた私が見たのは、満面の笑みを浮かべ見ている響さん。
「いい事を聞いた、これはとても幸運だ。」
「へっ・・・!!?」
それってどういう意味、いえ一体何時から見てたんですか?
「?ああ、岸壁に立って海を見つめ始めた時からだよ。」
つまり最初からですね、何て言うか恥ずかしいです。
っというより聞かねばならない事が響さんにありました。
「それより響さん、ここまで来られたのは一体?」
何故攻略支援艦隊の響さんが部隊支援艦隊のあるこの鎮守府に来たのか?
ずっと不思議だったのです。
「だからましゅうさんに会いに・・・」
「あのそれもういいですから。」
先程と同じ展開に成りそうになり、私はげんなりして答えます。
「くす、悪かったよましゅうさん。半分冗談さ。」
半分は本気だったんですね、もう本当にこの方は・・・
「実を言うと・・・この鎮守府に転属願いを出したんだ。」
「・・・あの今転属願いって?それって誰の?」
私はその時点で答えを分かっていました、そう考えるしかありませんでしたから。
「もちろん私のさ。今日はその為の面談だったんだ。」
ははは・・・やっぱりですか。もう驚くのにも疲れた私です。
とはいえやはり聞いておかねばならない事があります。
「その、暁さん達は?反対されなかったんですか?」
あの時、切れかかっていた絆を再び結び直す事が出来たのに、私がそれを引き裂く事になるのは自分自身が許せなくなってしまいます。
響さんはそんな私の葛藤に気付いたのか笑って答えてくれます。
「大丈夫さ、むしろ行ってこいって三人に煽られたよ。」
暁さん・・・いや姉妹の皆さんは何を煽っているんですか、大事な姉妹さんじゃないんですか。
「私達はもう大丈夫だよ、これからも、何処に居ても決して途切れる事はないと断言できる。」
そう言う響さんの顔に不安も後悔の色もありません。惚れ惚れする位の爽やかな表情でした。
嘘では無いのは間違い無い様です。でも・・・
「それならなお一緒にいるべきです、私なんかの為に・・・」
当然響さんは顔を寄せてくると頬を両手で被って、ってこれって前の時と同じ?不味いと思った時は遅かったでした。
私はまた響さんにキスされてしまったのです、うううこれ二回目でまた不意打ちじゃないですか。
「前に言ったよ、『こんどはましゅうさんを私が助けたいんだ。』とね。」
私の目をじっと見つめながら響さんは言います、その視線に動けなくなってしまいます。
「その為に来たんだ、まあそれ以外もあるけどね。」
「えっ?」
後半の言葉に私は聞き返してしまいます。
「理由は・・・そこで隠れている二人、いや三人かな。」
鋭い視線を私達の後ろにあったコンテナの影に向け問いかける響さん。
「ううう、貴女はまたましゅうさんの唇を!?」
「ずるいです二度もするなんて。」
「あはは、御免なさいましゅうお姉。どうしても気になって。」
影から出てくるお三方、というか皆さんずっと見ていたんですか?
「・・・つね日頃彼女の傍に居られる君達に負けない為だからね。」
お三方と対峙しながら響さんは言います。吹雪さんと大鯨さんの咎める視線を受け止めつつ。
「まあそれも今日までだけどね、今後は君達と同等に戦いたい。」
そう言って響さんは私を見ます、それはとても嬉しそうに。
何だか嫌な予感が先程からするのですが。
「それって?」
吹雪さんがそんな響さんの言葉に首を傾げます。
「簡単な事さ、今度は君達がましゅうさんとすれば良い。嫌なら別にしなくても構わないけど、それだけ私と差がつくだけさ。」
って何と事言うんですか響さん!?
「確かに・・・これは必要ですね、響さんに負けない為に。」
大鯨さん貴女は何を言ってるんですか!?
「そうですねこれは必要ですましゅうさん。」
目の色が・・・吹雪さん正気に戻って下さい。
「わあ、キスなんて千歳お姉ともした事ないなあ。」
千代田まで・・・
三人が私ににじり寄って来ます、何時もと違う雰囲気を伴って。
いや1人は好奇心をまったく隠そうとせずに。
「や、やめて三人とも・・・響さん止めて・・・」
そんな必死な私の声に響さんは肩を竦めて答えます。
「そうはいかないさ、私を含め皆本気だからね。それに何時の間にか妹まで作っていたましゅうさんに対するお仕置きでもあるし。」
何ですかそれ?妹を作っていたって、どうしてそれを知って?
「ましゅうさんの事で知らない事が有るのは見過ごせないからね。それじゃ皆、今後ともよろしく。」
手を振って響さんはその場を離れようとしましたが、ふと振り向くと。
「言っておくけど皆には負ける気はないから、ましゅうさんも覚悟しておいて。それでは。」
不適なそれでいて魅力的な笑顔を残し響さんは去って行きました。
その後に残された私達は・・・
「何見とれているんですかましゅうさん。」
「こうなったらもう躊躇する必用は無いですね吹雪さん。」
瞬く間に吹雪さんと大鯨さんに組み伏せられる私、千代田も嬉しそうに手伝っているし。
「誰か助けて下さい!!!」
絶叫が岸壁に響きましたが、結局誰も助けてはくれませんでした。
その後も響さんに無防備過ぎた罰ととして一晩添え寝をさせられました。ちなみに千代田がちゃっかり混じっていました、貴女まで何をしているんですか。
それにしても一体これからどうなるんでしょうか。
吹雪さんと大鯨さん、千代田に囲まれて一晩すごしながら私はこれからの事が不安でしょうがなかったのでした。
言い訳という名の後書き
いやもてますねましゅうさんは。羨ましいかぎりです。
まあこういうドタバタは好きですね、人の修羅場を見るのはいいです。
次回以降はまたちょっとシリアスっぽくしたいと思っています。
それでは