とある補給艦娘の物語   作:h.hokura

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「え・・?」
私は突然夢から覚めた様に周りを見渡しました。
「どうしましたか姉さん?」
傍らに居た少女が話し掛けてきました。えっとこの娘は確か・・・
「貴女おうみよね?・・私の妹の。」
私に聞かれた少女は一瞬きょとんした顔をしますが、笑みを浮かべると少し意地悪げに答えます。
「はい、おうみです。貴女の妹のね、忘れましたか?」
「・・ごめんなさい、何だか夢を見ていたようで。」
おうみの言葉に私は謝ります。何を呆けていたのでしょか。
「まあ姉さんは何時もそうですから怒ってはいませんよ。」
「それって姉に対して酷くないかしら・・・」
少し拗ねた私をおうみは楽しげに見ています。
これは私達姉妹の何時もの日常の風景・・・?



ましゅうと姉妹艦ですか!?

 

雨が先ほどから強くなってきました。私は自分の体をぎゅっと抱きしめます。

「千歳お姉・・・」

私は姉の名前を呟きます、しかし答えてくれるわけはありません。

だってここには千歳お姉は居ないのですから。でもそれでも私は呟きます。

「千歳お姉ごめんね。」

「千代田さん。」

お姉とは違う呼び方でも思わず千歳お姉に呼ばれた気がしてしまい、どきりとした私は思わず呼び掛けて来た方を見詰てしまいます。

彼女はましゅうさん、私共々ここに隠れる羽目になった方です。

どうしてこうなってしまったかのか、それは数時間前まで遡ります。

 

ある海域で行なわれた掃討作戦、攻略主力艦隊の支援の為に私達は作作戦海域にある補給拠点に進出していました。

そして攻略主力艦隊旗艦さんの要請を受け、航空戦艦と搭載水上機の補給を行なう為、私とましゅうさんは拠点を出発したのですが。

攻略主力艦隊の護衛艦娘さんと合流する前に深海棲艦と遭遇してしまい・・・私とましゅうさんは逃げ惑った挙句にここに隠れる羽目に陥ったのです。

何時見つかるかもしれないという恐怖、それと共に私にあったのは・・・

何故千歳お姉と喧嘩なんかしてしまったか、という後悔でした。

原因は些細な事でした、千歳お姉にお酒を控えて欲しいと言った私にお姉は付き合いだからと反論してきて・・・

「じゃ千歳お姉は私よりお酒の方が大事なんだ!?」

あとは何時もの如く私が感情的になってしまい、

「千歳お姉なんか大嫌い・・・」

喧嘩別れの状態での出撃となってしまったのです。

分かってはいます、千歳お姉にとって明石さんと大淀さんと飲み会は息抜きであり大事なコミニケーションの場である事くらい。

構って欲しいからあんな事を言ってしまったのだと自覚はしています。

でも補給拠点ではつい意地をはってしまい、私は千歳お姉を避けて話をしようともしませんでした。折角出撃前に会いに来てくれたのに。

そして出発直前ふと港の方を見た私が見たのは、岸壁に佇んで心配そうな顔でしていた千歳お姉でした。

その時になって私は激しい後悔に襲われたのです。

「千代田さん大丈夫?」

再度のましゅうさんの呼びかけで私は我に帰りました。

「え・・・大丈夫ですよましゅうさん。」

無理に笑って答えたのですが。

「・・・無理しないで下さい、怖いのはお互い様ですよ。」

どうやらましゅうさんには見破られてしまっていた様です。

「はい、ありがとうございます。」

だから私は素直に頷きました・・・何でしょうか彼女の前ではつい素直になってしまいます。

そんな事が気になり私はそっと横に座るましゅうさんを見ます。

実は私はましゅうさんに始めてお会いした時から、何だか身近の誰かに似ている様な気がしてならなかったのです。

でもその時点では分かりませんでした、その後一緒に行動する機会が何度もあり、彼女が良く気配りの出来る方で私は好感を持ったのですが、それにより一層誰かに似ているという思いが強くなっていきました。

「しかし困りましたね、私達が行方不明な事は皆さん知っているでしょけど、ここに居る事をどうやって敵に知られず伝えればいいのか。」

ぼんやりとましゅうさんの事を考えていた私は彼女に話しかけられます。

そう私達は今まさに敵のど真ん中に取り残されています。

艤装を解除しここに隠れているのもその為です。本来なら艦のままの方が回りの監視や通信にいいのですが、私もましゅうさんも敵に発見された時の対処が出来ません。

一応私は高角砲や機銃を持っていますが、敵駆逐艦相手でも豆鉄砲にもならないでしょう。ましゅうさんにいったては武器そのものを持っていません。

「前に明石さんに相談して、付けて貰おうかと思っていたんだけどね。」

ましゅうさんは苦笑いをします、まあ装備すると言っても千代田さん達以上のものを装備出来ないし、例え今あっても状況は変わらないでしょうし、とましゅうさん。

ただましゅうさんには代わりに私にない強力な電探を持っています。

しかし今はそれすら危険を呼び込みかねない状況です。

深海棲艦達がましゅうさんの電探を検知して私達の存在を知ってしまう恐れが強いのです、ましゅうさんと私はため息を付きます。

結局のところ私達は救援の艦娘さんが来てくれるまでこうやって隠れいるしかなかったのです。

「・・・震えていますね、寒いですか?」

私の様子を気遣ってましゅうさんが聞いて来ます。どうやら無意識に恐怖に震えていた様です。

「あ、御免なさい。・・・駄目ですね私、一応先輩なのに。」

私は自嘲気味に答えます、艦娘として最近目覚めたましゅうさんに対し私の方が長いと言うのに。

「こういう状況ですしね。あ、でも千代田さんが居てくれて私としては心強いですけど。」

私の心境をさっしてそれと無く気遣ってくれるましゅうさん。

そのせいか私はつい甘えてしまいたくなります、まるで千歳お姉の様に・・・

「・・・え?」

そこまで考えがいって唐突に私は出会った頃からの疑問の答えに行き当たった気がしました。

そう、ましゅうさんは千歳お姉に似て居たんです。

さり気なく私を気遣い、温かく包み込む様に見守ってくれる。

「・・・?どうかしましたか?」

「い、いえ何でもありません。」

慌てて私は俯きます、多分顔は真っ赤になっているでしょう。

何しろ自分より艦娘歴の短いましゅうさんに千歳お姉への恋慕と同じものを感じているのですから。

一方でそんな感情に身を任せるのも良いんじゃないかとも思いました。

「大丈夫ですよ、きっと皆が・・・千歳さんが救助にきてくれますよ。」

ましゅうさんはそう言って、無意識でしょうけど私の肩を抱いてくれます。

「信じましょうお姉さんを・・・」

ああ、やっぱりそうです。この人千歳お姉と同じです、お姉さんなんだなと思いました。

だから私は彼女に身を寄せて行きました・・・千歳お姉に甘える時の様に。

そうしながら私は素朴な疑問が沸いてくるのでした。

「あの・・・もしかしてましゅうさんって妹さんがいっらしゃいますか?」

そうなんです、彼女の私への接し方を見ていると、その姿は正しくお姉さんなんです、という事は妹さんがいたという事で・・・

聞かれたましゅうさんは戸惑った顔をしました。まあ突然こんな事を聞かれたらそうでしょけど。

そんな表情を見て一瞬悪い事を聞いてしまったかと思いましたが、ましゅうさんは戸惑いつつ答えてくれました。

「ハッキリ言ってよく覚えていないんです。確かに姉妹艦、おうみという娘が居たんだとは分かるんですが。」

ましゅうさんはそう言って少し悲しげな表情を浮かべます。

「あの娘と会話したという微かな記憶もあります、ただ所々曖昧で・・・こんな薄情な姉なんかなんて思っているかもしれませんね。」

「そんな事ありません!妹さんは、おうみさんはきっとお姉さん、ましゅうさんの事が大好きな筈です。」

そんなましゅうさんの言葉を聞き、私は思わず彼女の両手を掴んで言いました。

だってこんな優しく相手の事を包み込んでしまう、ましゅうさんを好きになる事はあっても嫌いになんかなれる訳ありません。

きっとおうみさんもそんな姉のましゅうさんが好きだった筈、それは同じ様な姉を持つ私には確信出来ました。

「そうかな・・・?もしそうなら嬉しいだけど。」

優しそうな笑みを浮かべましゅうさんは言います。

ほら彼女だっておうみさんの事を思ってこんな素敵な笑みを浮かべます。きっと素敵な姉妹なんでしょうね、私達の様な何て言ったら恥ずかしいですけど。

「私おうみさんとお話してみたいです。」

そんな私の言葉にましゅうさんが驚いた表情を浮かべます。

「おうみとですか?でも何であの娘と?」

まあましゅうさんがそう言うのも分かりますね、会った事の無い自分の身内に会いたいなんて言われれば。

「おうみさんと私、自分達の姉の事で話が合うと思いますから、お互い大好きな姉のね。」

それを聞いてましゅうさんが顔を真っ赤にしています。

「それは・・・私もだけど千歳さんも恥ずかしいでしょうね。」

それは諦めて貰うしかありませんね、私たち妹をこれだけ好きにさせたのですから。

「・・・!」

次の瞬間ましゅうさんが顔を上げて周囲を見渡します。

「ましゅうさん?」

不安な声を上げる私に大丈夫と微笑みながら、彼女は立ち上がり周囲の海を見て・・・

「千代田さん、やっぱり来てくれましたよ・・・お姉さんが。」

その言葉に私は素早く立ち上がり海に向かいます。そこには・・・

「千代田!!」

艤装を解き一直線に向ってくる姉の姿。

「千歳お姉!!」

私もそう叫んで千歳お姉の元へ、その胸の中に飛び込みます。

「良かった千代田、本当に・・・遅くなって御免なさいね。」

「ううん、来てくれ嬉しい・・・心配させて私こそ御免なさい。」

涙を流しながら私は千歳お姉に思いっきり抱きつきます。

「まったく千歳さん、貴女は無茶しすぎです。海域から敵が完全に去ったか判らないのに。」

抱き合って喜び合う私たちに、後方から千歳お姉と一緒に来たらしい香取さんが追い付いて来て言います。

「まあ見つけるまで見ていてこちらが可愛そうになるくらい必死だったんだからしょうがないでしょう。」

同じく追い付いてきた夕張さんが苦笑いを浮べ香取さんに言います。

「ましゅうさん良かった・・・無事で。」

吹雪さんが私たちの横を抜けてましゅうさんの元に行きます。

「ありがとう吹雪さん、貴女も捜索に?」

「もちろんですよ!私とても心配で・・・」

ましゅうさんの胸に私の様に抱きつきながら吹雪さんは言います。

「貴女もよ吹雪さん、千歳さんといい貴女達は。」

香取さんは心底呆れた表情を浮かべてぼやいています。とはいえ安堵の色は隠せないみたいですけど。

「さあ四人とも戻るわよ、連中がまた戻ってこないとも限らないから。」

夕張さんが周囲を警戒しながら皆を促します。

「はい分かりました千代田いきましょう・・・それからましゅうさん妹を守って頂いてありがとうございました。」

千歳お姉は私の肩を抱きながらましゅうさんにお礼を言っています。

「礼を言われるほどの事は・・・私も千代田さんには助けられましたから。」

ましゅうさんはそう言って千歳お姉を見ます、何時もの笑顔を浮かべながら。

でもその笑顔はどこか寂しそうなものでした。

私と千歳お姉がお互いの無事を確かめている時からそんな笑顔を浮べていたんだと思います。

そしてそれが私にある決心をさせたのです。

 

救助に来てくれた香取さん達と共に私とましゅうさんは無事鎮守府に戻る事が出来ました。途中吹雪さんから聞いた話では、私たちが行方不明になった直後、千歳お姉達は攻略支援艦隊の方と現場海域に向かい深海棲艦を除去し、捜索してくれたそうです。

ちなみに千歳お姉は周りが抑えてくれなかったら、単独で深海棲艦のひしめく海域に突っ込みそうになっていたそうです。

「千歳お姉、嬉しいけどあんまり皆に迷惑かけないでよね。」

「・・・御免なさい。」

項垂れてしまった千歳お姉に苦笑いしつつ、そんな姉が愛おしくてたまりませんでした。

そしてましゅうさん、それは貴女にもなんですよ。

 

その夜、二人きりになった時に私は救助直後から考えていた事を千歳お姉に打ち明けました。

流石に千歳お姉も驚いていましたが、結局は賛成してくれました。

むしろ・・・

「そうかもう1人増えるのか・・・ふふ良いわね。」

なんて言って喜んでいました。

 

翌朝・食堂

「・・・あの今何ていったのかな?」

トレイを持って吹雪さんと大鯨さんと一緒に居たましゅうさんが驚いた顔で聞き返してきます。

一緒に居た吹雪さんと大鯨さんも同じ様な顔をでしたけど、私は気にせず繰り返して言いました。

「ですから、ましゅうさんの事をましゅうお姉とお呼びしてもいいでしょか?」

これが昨日から私が考えていた事です、ましゅうさんの事をこれからも姉として慕っていきたい、おうみさんの代わりなんて恐れ多いことは言えませんが、せめて彼女が現れるまで、いえ出来ることならその後でも・・・

「え、でも千代田さんには本当のお姉さんが。というか千歳さんは何て?」

「千歳お姉も賛成してくれました、妹がもう1人増えるのが嬉しいそうです。」

私の言葉にましゅうさんは目を白黒させます。

「・・・やはり駄目ですか?」

戸惑うましゅうさんを見て私は視線と声を落とします。

「うーん、千代田さんがそこまで言うのなら構わないけど。」

優しく微笑みながらましゅうさんは答えます。やはり優しい方です。

・・・ところで何で睨んでいるでしょうか吹雪さんと大鯨さんは?

「ううう・・・第六の娘だけじゃなないの?」

「わ、私が一番に親しくなったのに・・・」

何だか良く分かりませんがましゅうさんは承諾してくれたので、ぜひしてほしいことを頼む事にしました。

「あと、妹なんですから千歳お姉の様に『さん』付けもいりませんから、お願いします。」

「うううう」

「・・・・」

またお二人が唸っていますが、こちらはそれどころでは無いので無視です。

ましゅうさんは一瞬困った様な表情でしたが、私が譲る気が無いのが分かったのかため息を付きながら答えてくれました。

「ええ分かったわ千代田。」

「はいましゅうお姉。」

この鎮守府で私に二人目の姉が出来ました。

 

不貞腐れる私を見ながらおうみは更に笑みを深める。

「姉さん・・・姉さんは何時までもそうあって下さいね。」

突然そんな事を言い出したおうみに私は困惑します。

「姉さんがどこへ行かれても・・・そうあってくれるのが私にとっての幸せですから。」

先ほどとは違う笑み、何故か私には寂しさを含んでいる感じがしました。

「おうみ?」

困惑する私は彼女の顔を覗き込もうとしたのですが。

「ただし・・・本当の妹は私1人です。それをお忘れなく。」

姉さんはそこら中に妹を作りかねませんから、と言ってそっぽを向く。

あまり普段見ないこの娘の態度に私は笑いながら答えます。

「ええそれは永遠に忘れないわよおうみ。」

 




言い訳という名の後書き

今回もガールズラブ?いや姉妹愛だからちょっと違うかな(笑)。
ちなみに私はラブコメが好きです、異性・同姓構わずに。
節操が無いでしょうか。
次回もこりずにやるつもりです、何しろあの第六の娘が再登場しますので。

それでは。

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