演習二日目・E-117岩礁上テント
近くに低気圧が有るとの事で海は朝から荒れています。
その為演習は中止、私達は待機です。自分達にあてがわれたテント、これは私が積んで来た物ですが、朝から吹雪さんとその中で何もする事も無く居ました。
まあ吹雪さんは持って来た本、小説を寝そべりながら見ていますが。
自分も何か持ってくればと、今になって思う私です。
吹雪さんは自分が持って来た小説を読みませんか、と言ってくれたのですが遠慮しておきました。
というのもその小説、女の娘だけの学校?で先輩と後輩が姉妹になるというもので、私には内容が良く理解出来なかったからです。
・・・どうでも良いですが吹雪さんが時々私をお姉さまと呼ぼうとするのは、この小説の影響でしょうか?文中にもそれがよく出てきますし。
「ちょって外の空気吸ってきますね。」
私はそう言ってテントの外に出ようとしました。
「はい・・・あまり遅くならないで下さいね。」
吹雪さんの返答を聞きながら私は外へ、遅くならないでと言われてもそんなに広いところではないのですが。
テントから出て回りを見渡します。
周りには、臨時指揮所や第六駆逐隊、妙高型の方々のテントがあります。
天候のせいか誰も外には出ていられない様です。
1人で考えるには最適だと思いテント群から離れて歩きだしたのですが、
暫くしてそう考えたのが私1人では無い事に気付きます。
テント群から少し離れた場所、海岸に佇む1人の艦娘の姿を見つけたからです。
銀色の髪の神秘的な艦娘、響さんでした。何をするのでも無くただ海を見つめている彼女の表情。一体何を思っているのでしょうか。
そんな響さんを見ながら私はどうすべきか迷ってしまいました。
前日の事もあり話しかけ辛いのですが、かといってそのまま無視するのもどうかと。もっともそんな私の葛藤も杞憂でした。
「やあ、ましゅうさんだったよね。どうかしたのかい。」
響さんから話しかけて来たからです。
「えっとまあ少し考え事がありまして。」
そう言って私は響さんの隣に並びます。図々しいかとは思いましたが彼女は気にする風でもなくそのまま海を見つめ続けます。
その瞳は何を見ていや見ようとしているのでしょうか。昨日の事も含め私は響さんの事がよく分からないのです。
何が彼女をあそこまで・・・単に姉妹達を守る為でしょうか?それにしては暁さん達の反応が余りにも過剰な気がしてならないのです。
そんな私の思いを察したのか響さんがぽつりと話始めたのです。
「・・・君は誰か姉妹艦を亡くした事があるかい?」
姉妹艦・・・ふとまた脳裏に浮かぶあの娘の事、おうみという名の・・・
「いや余計な事を聞いたね、忘れてくれないかな。」
私の沈黙をどう受け取ったのか響さんが質問を取り消そうとします。
「あ別に・・・今までそういう経験は無かったと思います。」
私はそう答えました、まあおうみとは会えないというだけであの娘はきっと別の世界にいるのでしょうから、寂しくないといえば嘘になりますが。
「それは良かったよ。あれは・・・身も心も引き裂かれる。」
「・・・・・」
「しかも自分だけが生き残るんだよ・・・これほど酷い話も無いよ。」
何だか響さんは私に話しているというより自分自身に言っている様な気が私はしました。
「残るのは消えることの無い罪悪感と後悔。永遠に消えない悔恨さ。」
「だから私は・・・私の命を捧げても皆を・・・」
「響さん!!」
このままでは海に身を投げてしまうのではないか、私は思わず彼女の両肩を掴んで叫んでしまいました。
「・・・あ、すまなかった。気にしないでくれると助かる。」
と言われてもそうは行かないとは思いましたが、事情の知らない私にはどうすることも出来ません。
「いえ私も大声を出して申し訳ありませんでした。」
響さんの両肩から手を離し私は謝罪します、自分の無力さをおもいしらされながら。
「君が謝る事ではないさ、くす・・・君は優しいんだね。」
笑みを・・・とても悲しそうな笑みを浮かべ響さんは首を振る。
「そろそろ私は戻らせてもらうよ。話を聞いてくれて感謝する。」
そう言って響さんはテントの方へ帰って行きます。
私はそんな彼女に結局何も声を掛けられずにただ見送るだけでした。
ですから傍に何時の間にか妙高さんが居た事に気付きませんでした。
「彼女は古の戦いで自分以外の姉妹を無くしているの。」
「え・・・!妙高さん?」
突然話しかけられて私は心臓が止まる思いをしました。
「自分だけが最後に残されてね。まあそれは私も同じなのだけれども。」
響さんと妙高さんのお二人は、戦いの中姉妹の方々を次々に失ってしまい、
最終的に自分だけが生き残ってしまったそうです。
「だからあの娘の思いも分かるの。私も未だにそんな思いに囚われるから。」
先ほどの響さんとそっくりな悲しい笑顔を浮かべ、自嘲気味に妙高さんは話されます。
ここまできて私は響さんの取った行為の意味を何となく理解してしまいました。
彼女は二度とそんな思いをしたくない、そんな思いをするのなら自分自身が・・・
彼女の心情は理解できます、でもそれでも・・・それでも・・・
「でもそれじゃ駄目です、駄目なんです・・・それじゃ暁さん達が・・・羽黒さん達が・・・」
「ましゅうさん・・・」
立ち尽くし同じ事を呟きつづける私を妙高さんは見つめています。
「それじゃ・・・駄目なんです響さん。」
演習三日目へ続きます。