だが戦いの中三人の姉妹は散っていき、私だけが生き残った。
私は激しく慟哭した、何故私だけが生き残ってしまったのかと。
やがて時と世界を超えて私達は再び出会う事が出来た。
私はその時誓った、今度は1人も失わせない。
例え私の命を掛けてでも・・・
演習一日目・E-117岩礁
その日、私ことましゅうは沿岸海域にある岩礁に来ていました。
攻略支援艦隊の演習の支援の為です。
これは岩礁に集結している深海棲艦の補給艦艇を駆逐艦達が襲撃するというもので、私は支援と敵側の補給艦艇役です。
何時も私の護衛役を務めてくれる吹雪さんも一緒にです。
「何時もありがとうございます吹雪さん。」
岩礁に向う途中私は傍を航行する吹雪さんに声を掛けます。
「き、気にしないで下さいお、おねえ・・いえましゅうさん。」
・・・何だか変な呼び方が混じった様ですが、スルーしました。
そうする中に前方に目的地の岩礁が見えて来ます。
既に攻略支援艦隊の方は到着されているみたいです。岩礁の上に数人の艦娘さん達が見えます。
私と吹雪さんは艤装を解除し、艦娘に戻ると海上を疾走し、岩礁に上陸します。
「ようこそいらっしゃいました、今回の演習部隊旗艦を勤めさせて頂く妙高です。」
上陸してきた私達に岩礁で待っていた艦娘さんが話しかけてきます。
おっとりした感じの優しそうな方です。
妙高型重巡洋艦・妙高さん、妙高型のネームシップとお聞きしています。
後ろには四人の姉妹艦の方々が控えています。
「貴様がましゅうか。私は那智。よろしくお願いする。」
妙高型2番艦の那智さん、いかにも武人という艦娘さんです。
「足柄よ。砲雷撃戦が得意なの。ふふ、よろしくね。」
妙高型3番艦の足柄さん、きりっとした美人の艦娘さんです。
「羽黒です。妙高型重巡洋艦姉妹の末っ娘です。あ、あの…ごめんなさいっ!」
妙高型4番艦の羽黒さん、大人しい性格の艦娘さんですね。あと、何で謝っているのでしょうか。
「それから第六駆逐隊の皆さんです。」
妙高さんが隣に控えていた娘達を紹介してくれます。
妙高型の皆さんと比べて幼い方々ですね。
「暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね!」
何だか微笑ましい方ですね、レディーとしてですか。
「響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ。」
銀髪が印象的でクールな感じの方ですね。
「雷よ!かみなりじゃないわ!そこのとこもよろしく頼むわねっ!」
はあ・・かみなりさんじゃなくていかづちさんですね。
「電です。どうか、よろしくお願いいたします。」
何だか雷さんに良く似た方ですね、呼び間違いしてしまいそうです。
そして次に私達の自己紹介です。
「部隊支援艦隊・直援艦娘の駆逐艦吹雪です。」
「同じく部隊支援艦隊・補給艦ましゅうです。」
妙高型と第六駆逐隊の皆さんに敬礼し挨拶をします。
「それでは第一日目の演習内容ですが。」
妙高さんが今日の演習を説明し始めてくれたのですが・・・
私は妙な違和感を皆さんに感じていました、いえ妙高型の方々は普通というか、如何にも姉妹艦同士言う感じですが、第六駆逐隊の方々の間には何というか壁の様な物を感じます、と違いますね、響さんと他のお三方の間にですね。
とはいえ他の方々の事ですので私がどうこういう事では無いと思い気にしない様にしたのですが、後にこれが事件の発端になるとはこの時は気付きもしませんでした。
演習内容の説明が終了し、私達はそれぞれの配置に付きます。
今回の想定は、深海棲艦がこの岩礁に補給拠点を設けたので、駆逐艦部隊による強襲作戦を行なうというものです。
強襲部隊は第六駆逐隊の方々、拠点防衛部隊が妙高型の方々です。
つまり私と吹雪さんは岩礁に待機中の艦役という事になります。
「つまり標的艦ですね私達・・・」
吹雪さんはため息を付きます、まあ駆逐艦である彼女としてはただの標的というのは、納得のいかないものかもしてれませんね。
「そうですか?ただ停泊しているだけで楽じゃないですか。」
呑気に私が言うと、吹雪さんは笑って「そうですね。」と言ってくれましたが。
演習開始。とはいえ標的役の私達にはする事がありません。
ですから私は、ちょっと悪さを始めました。
いえ別に悪戯を考えた訳ではなく、自分の持っている対水上捜索用レーダーを作動させました。要は演習状況を見てみたかったのです。
妙高さんに知られたら怒られるかもしれませんが、皆さんの使われているレーダーいえ電探とは仕様が違うので干渉はしない筈です。
ちなみにこのレーダー、航海用のものと合わせ遠距離における精密捜索と近距離での捜索能力があるという事で艦隊の皆さんに好評です。
曰く、「ましゅうさんと一緒の航海は周囲の索敵が楽ですね。」
その対水上捜索用レーダーで四隻の反応を捕らえました。
強襲部隊の第六駆逐隊の方々ですね、単縦陣でこちらに向かって来ます。
一方防衛部隊の妙高型の方々も動き始めます。
第六駆逐隊の方々と私達の間に入り、同じく単縦陣で向い撃つ様です。
お互いに接近し、射程の長い妙高型の方々が射撃を開始、第六駆逐隊の方々は機動性と速力を生かしそれを回避しつつ接近して来ます。
ちなみに実際には射撃はしていません、ではどうやって命中や回避を判定しているのか、疑問だった私は演習直前に吹雪さんに聞いたのですが。
命中や回避は判定妖精さん達が行なうとの事でした、妙高型と第六駆逐隊、そして私と吹雪さんに判定妖精さん達が乗り込み、それぞれ命中や回避を判定している様です。
なるほどそれで私の艤装上に妖精さん達の居る理由が分かりました。
とそんな事を考えていた私は対水上捜索用レーダーが捕らえていた状況の変化に気付きました。
妙高型の方々が進路を変更し、第六駆逐隊の先頭を航行する艦に射撃を集中し始めた様です、多分先頭を航行する艦は旗艦の筈です、最初にそれを無力化するのでしょう、第六駆逐隊の混乱を狙っての事でしょうか。
それまでは普通でした、ですが次に起こった状況に私は面食らってしまいました。
二番目を航行していた艦が突然、先頭艦と攻撃側の間に割り込んで・・・
「判定!二番艦響攻撃命中、大破により戦闘不能。」
結果的に演習はそこまでになりました、二番艦を除く第六駆逐隊が攻撃を断念し、というより混乱状態になり演習部隊旗艦の妙高さんが演習中止を宣言したからです。
そして事件は皆さんが艤装を解除し岩礁に上がった時に起きました。
パチン!
突然響いた音に私はその方向に振り向き・・・
「あんた何考えてるのよ!?」
叩いたのは暁さん、叩かれたのは響さん、その二人の姿を見ました。
「旗艦である君を守っただけだよ、当然だろう。」
「!!」
叩かれた響さんが淡々と言うと、暁さんは更に顔を真っ赤にして再び叩こうと手を上げましたが。
「二人とも止めなさい・・・響さん私に付いて来て下さい。他の皆さんは宿泊の準備を。」
旗艦の妙高さんが割って入ると暁さんは手を下げますが・・・
「今度と言う今度はあんたには愛想がつきたわ、勝手にしなさい。」
背を向けると暁さんは第六駆逐隊用のテントに歩いて行きます。
残った第六駆逐隊の中、雷さんは頭を振ってため息を付くと暁さんの後を追い、電さんはそんな姉妹達をおろおろして見ています。
この場には重い空気が覆い、私と吹雪さんは顔を見合わせます。
そんな私達に妙高さんが申し訳なさそうに声を掛けてきます。
「申し訳ありませんでした、お二人は宿泊の準備を進めて下さい。じゃ響さん・・・」
妙高さんは響さんを連れて臨時指揮所へ向います。
「あ、あの…ごめんなさいっ!」
羽黒さんが私達に頭を下げて謝ってきます。
「まあ貴様達にも言いたい事はあるだろうが・・この場は私の顔に免じて聞かないでくれると助かる。」
「あの娘達にも色々あってね・・・御免なさいね。」
那智さんと足柄さんもすまなそうに私達に謝ってきます。
こうなれば私達に何も言える訳も無く、頷いて同意するしかありませんでした。
こうして演習一日目は何とも後味の悪い形で終わったのでした。