港の岸壁で私達が待機していると、一隻の駆逐艦が入港してきます。どうやら特型駆逐艦の娘らしいですね。
彼女は艤装を解き岸壁に上がってきます。
「臨時補給部隊・直援艦娘の吹雪です。」
「お疲れ様です、偵察部隊・旗艦神通です、早速ですが補給艦の方は?」
お互いに敬礼を交わし、私は吹雪さんに尋ねます。
「沖合いに居ます、大型艦なのでこの港では接岸出来ないので、私が皆さんをお連れします。」
「分かりましたお願いします、皐月さんと三日月さん準備を。」
「「「了解。」」」
吹雪さんは再び海面に降り艤装展開を行い、私は皐月さんと三日月さん共に重傷者の方を吹雪さんの艤装上に搬送します。
そして私達を乗せ吹雪さんは離岸すると港を出て沖合いへ。
やがて前方に大型の艦が見えて来ます。
「大きい艦ですね。」
皐月さんが感心した声を上げます。確かに大きな艦です。
攻略支援艦隊の金剛さん並ではではないのでしょうか。
「あれがそうなんですか?」
私が念波で吹雪さんに聞きます。
「はい、補給艦のましゅうさんです。」
その吹雪さんの答えを聞いた瞬間、私は衝撃のあまり絶句しました。
ましゅう・・あの少女と共に海に消えた船。未だに残る悔恨。
七年前、私は今回と同様に偵察部隊・旗艦としてある海域に居ました。そして飛び込んで来た緊急通信。
その頃近海に出没し始め居た深海棲艦達に襲われた客船、それがましゅうでした。
直ちに救援に向った私達は深海棲艦を撃破、乗客の救助に入りました。
そして艤装を解除し船上に上がった私は乗客の皆さんを誘導中、避難する人達と反対方向に向う少女に気づきました。
私は少女に駆け寄ると腕を掴み話し掛けます。
「何処へ行くつもりなの?早く救命ボートに行って。」
腕を掴まれた少女は涙目の顔で私を振り払おうとします。
「お母さんが居ないの、まだ船の中に居るかもしれないの。」
「貴女のお母さんは私が助けますだから・・」
何とか少女を説得しようとしたいた私でしたが、突然襲ってきた衝撃に彼女の腕を放してしまいました。
少女は腕が放されると再び船内へ向います。
「待って!行っては駄目です。」
私は少女を追いかけ様としましたが、再度の衝撃とその為動けなくなった乗客の救助の為、追いかけられませんでした。
やがて船は急速に沈没、結局私は船には二度と戻れませんでした。
救助作業終了後、私は駆逐艦の娘達の艤装上に収容された乗客の中を、あの少女を捜して回りましたが、見つけられませんでした。多分あのまま船と共に・・・
結局助けられなかった・・私は暫くの間悔恨に晒されたものです。
そして再びその名を聞く事になろうとは・・これは何かの偶然なのでしょうか。
「神通さん?」
吹雪さんの声に我に帰ります。
「いえ、何でもありません。ごめんなさいね。」
「はあ、いえそうならいいんですけど。」
「吹雪さん、ましゅうです。そちらを確認、左舷側へ来て下さい、タラップを下ろします。」
私の様子を心配した吹雪さんに曖昧な返事を返していると、別の方の念波が入ってきました。この方がましゅうさん?
「あの・・・ましゅうさん、私は神通と申します。」
躊躇しましたが私は思い切って話し掛けてみました。
「はい、はじめまして神通さん、私は補給艦のましゅうといいます。以後よろしくお願いします。」
ましゅうさんは私の挨拶に丁寧に返してくれます。
「今回は大変助かりました、感謝します。」
「いえ、神通さん達のお役に立てたのなら嬉しいです。」
彼女は本当に嬉しそうに言ってくれます、私は何だか好感を持ちます。
そうしているうちに吹雪さんは、ましゅうさんの左舷側へ。
そこには既にタラップが下ろされています。
接舷されると私達は重傷者の方を艤装上へ搬送します。
やがて艤装を解除して上がってきた吹雪さんに案内され艦内へ入ります。
「これは凄い設備です。」
「医療器具も機器も見たことの無いものばかりです。」
治療の為同行して来た妖精さん達が、ましゅうさんの医療室に感嘆しています。確かに私達の艤装にある医療室とは比べられない豪華さです。
「町の大病院にだっても引けを取りませんよ。」
吹雪さんが自分の事の様に自慢するのも分かります。
とはいえ感嘆ばかりしていられません。私に促されて妖精さん達は、ましゅうさんの念波による説明を受け、早速治療に入ります。
妖精さん達と設備の優秀さもあり、重傷者の方の手術は全員無事終了、その後、島に待機していた他の負傷者さん達が運ばれて来て治療が行なわれ、全ての方が終ったのは日も沈みかけた頃でした。
私は一息つく為艤装上に出ていました。既に治療の終わった方々は、再び艤装を展開して接舷中の吹雪さんに搬送を終えています。
ましゅうさんの医療室には入院設備もあるのですが、夜間の海域は危険が考えられるので、負傷者の皆さんを念の為陸上に運ぶ事にしたのです。
「お疲れさまです神通さん。」
海を見てぼんやりしていた私にましゅうさんが念波で話しかけて来ます。
「いえ、ましゅうさんこそお疲れさまです。」
「私はただ漂泊していただけで楽なものですよ。」
そう私が返事すると、彼女はおどけて返してくれます。
そんな会話をしながら私は、知り合って間もないましゅうさんが明るくて気さくな方だと分かりました。
「隊長、出発準備完了です。」
ましゅうさんと他愛の無い会話をしていると、皐月さんが報告に来てくれました。
「分かりました、それではましゅうさん後ほど。」
私は皐月さんと共に吹雪さんに乗り移ります。後は艤装解除したましゅうさんを回収して島に戻るだけです。
「ましゅうさんよろしいですよ。」
「はい、それではお待ち下さい。」
私の念波にましゅうさんが返事して艤装解除を始めます。
淡い光が視界一杯に広がり、あの大きな艦が消え、その場には佇む一人の艦娘さん。何て事の無い艤装解除のシーン。
しかし私は現れた艦娘さんの姿に、今度こそ心臓の止まる思いをしました。
「あ・・あ・・・」
脳裏に七年前の光景が蘇ります、涙目で私を見る少女の顔。
駆逐艦吹雪さんの傍に佇んでいる艦娘さんはその時の少女そっくりなのです。
驚愕に打ち震えている私に気付かずその艦娘さんは吹雪さんの艤装上に上がり、皐月さんと三日月さんと挨拶を交わし、ふと私に気付き近寄って来ます。
「神通さんですね、改めて私がましゅうで・・」
「あ、貴女は七年前の!?」
突然大声を上げた私にましゅうさんは目を白黒させていました。
港に到着した私は同行していた皐月さんと三日月さん、ましゅうさん達とで負傷者さん達を運び上げ、艤装解除した吹雪さんと共に先ほどの広場へ向いました。
そこには既に睦月さんと如月さんが、治療中にましゅうさんが積んできたというテントを設置して、救護所兼避難所を設けていてくれていました。
搬送して来た重傷者さん達を寝かせると、早速食事の準備に入ります。といっても私達は食料を持参して来なかったので、皆で手分けして廃墟を掘り起こし食料や水を調達、妖精さん達が調理して配膳しました。
ちなみに私達艦娘は島の方々を優先し、食事は取りませんでした。まあ艦娘は一昼夜食事や水分補給をしなくても活動可能だからですが。
ようやく一段落してから私はましゅうさんと港に来ました。
「さっきは御免なさいましゅうさん。」
動揺しましゅうさんに詰め寄ってしまった私。駆逐艦の子達に止められて非常に恥ずかしい思いをしてしまいました。
「いえ、気にしてはいませんから。神通さんも気になさらずに、ね。」
あんな事があったというのにましゅうさんは大して気にしていないのか何度も謝る私を慰めてくれます。・・これじゃどっちが先輩か分かったもんではありませんね。
「それにしても・・そんなにその娘に私似てるんですか?」
ましゅうさんが聞いて来ます。
「あ、貴女は七年前の!?」
「へっ何の事ですか?」
「助かったの?でも捜しても見付からなかったのに。」
「ですから一体何をおしゃって・・あ、あの手が痛いです。」
「隊長落ち着いて下さい、ましゅうさん痛がっています。」
その後、ましゅうさんから引き離され私は我に帰り謝罪、事情を話したのですが、その時点で港に到着し、結局話はそこで一旦中断してしまったのです。
そして負傷者の方の食事が終わり、ひと段落して所でましゅうさんに声を掛けられここで話をする事になったのです。
「ええ、ほんとうにそっくりで私驚いてしまって。」
しかしよく考えて見れば七年前の少女が、その当時の容姿のままいる訳が有りません。
「うーんそうなんですか・・でも私が艦娘として目覚めたのは最近ですから。」
ましゅうさんはそ言って笑います。私はふとあの少女も笑うとこんな感じなのだろうかと考えてしまいました。
「それにしても不思議な話ですね・・私と同じ名前の船、似ているその娘さん。」
そう言うとましゅうさんはとても悲しそうな顔をしました。
何時も明るい彼女が密かに抱える悲しみを私はふと見てしまった気がその時しました。
でもそれは一瞬、ましゅうさんは表情を戻すと、
「話して下さってありがとうございました。」
と笑って言ってくれたのです。
この時私はましゅうさんを支えて上げたいという思いが湧き上がってくるのを感じていました・・とて強く。
翌朝私達の鎮守府から病院コンテナを伴った部隊が到着し、
ましゅうさんと吹雪さんは帰られて行きました。
多少寂しかったですが、彼女と再会を約束出来たので、その時を楽しみにして、笑顔で別れる事が出来ました。
・・帰ったら川内姉さんや那珂ちゃんに話さなくてはいけませんね。
私がここで出会った、笑顔の素敵なあの娘の事を。
言い訳という名の後書き
今回は長くなってしまいました、いや書くのが大変でした。
何といっても戦闘シーン、自分の文章力ではあれが限界でした。
あとタグにガールズラブとして置きながら、そういう描写が今まで無かったので今回最後に匂わせ・・られたのかな?
次は第六駆逐隊の銀髪の娘とましゅうの話でも書こうかと思っています。
それでは。