とある補給艦娘の物語   作:h.hokura

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霧の中を一隻の客船が航行していた。
視界は悪く、船はかなり速度を落としていた。
「何も見えないなあ。」
船上に佇む1人の少女が呟く。
客室にいても何もする事の無い少女は暇を持て余して船上に出来たのだった。
「それにしても急に引越しって・・」
家庭の都合で急遽引越しが決まり少女は少々不満気味だった。
そんな時だった、風切り音がして前方に水柱が上がる。
「え!?」
少女はそれを呆然と見る。
そのころ船橋では船員達が右往左往していた。
「くそっ何でこんな所にあいつらがいるんだ、面舵一杯、機関全速。通信士救難信号を打て!」
「こちら三河海運所属ましゅう、深海棲艦に襲撃を受けつつあり、至急救援を請う。繰り返す・・」




れーるがんですか!?

「れーるがん?聞いたことの無い子、いえ装備ですね。」

ある日工廠の明石さんに呼び出された私はれーるがんなる物のについて聞かれました。しかし私にも記憶の無いでした。

少なくても私には装備されていませんし。

「そうか。ましゅうさんも知らないとすると・・こいつ一体何なんだうね。」

私達の前には砲らしき物に様々な機器が付けられた巨大な謎の物体があります。なにやら禍々しい感じがするのですが。

「本来ならこんな物即座に廃棄してやるんだけども。」

確かに気持ちは分かりますね。しかしそう思わない方も居て。

「何を言っているんだ明石。どんな物でもまずは試してみなければならないのだぞ。」

それは提督さんでした。謎の物体の前に仁王立ちし明石さんに力説しています。

「未知の物を恐れては科学は進歩しないんだぞ!」

ウンザリした顔をして明石さんはぼやきます。

「未知の物すぎるでしょうが。第一起動方法しか分からないんですよ。うんなもの危なくて使えませんよ。」

「だからこそ試す価値があるものだ、戦いに必要になるかもしれん。」

明石さんのぼやきを他所に提督さんは更にヒートアップして行きます。

「そうですよ明石監督、試すべきです。」

「明日の科学の発展の為に危険を承知でもやるべきです。」

「明石工廠ばんざい!我科学の発展の為礎にならんと。」

何故か妖精さん達も提督さんに加勢しています。

あ、明石さんの額に青筋が、相当お怒りの様です。

「こいつらは・・」

でも提督さんも妖精さん達もそれに気づいていないのか更に

ヒートアップしている様です。

このままにして置くとんでもない事態になりそうなので取り合えずここに呼ばれた理由を聞きます。

「それで私は何をすればいいんでしょうか。」

「ああ、実はこいつの試験を手伝ってほしくてね。」

明石さんが申し訳なさそうに理由を教えてくれました。

「普段はこういう物の試験は夕張さんに手伝ってもらうんだけども。」

そんな明石さんの言葉を受けて、謎の物体の横に居た夕張さんが肩を竦めて話を引継ぎます。

「こいつ起動するのにとんでもない電力つかうんだけども、私にはそんな電力出せないしね。」

一呼吸入れて夕張さんが私を見ながら続けます。

「それで鎮守府内の艦娘を調べたら唯一それだけの電力を出せるのはましゅうさんだけと判ったんだ。」

夕張さんそう言って今度は明石さんを見ます。

「ましゅうさんの艤装の中にあった発電機、前に調べさせてもらったことがあったけど、報告通りならそれで動かせるかもしれないわけ。」

夕張さんの話を引き取って明石さんが説明してくれます。

確かに私はガスタービン発電機とディーゼル発電機を合わせて四基積んでいます。なるほどそれで私が呼ばれた訳ですか。

「分かりましたそれでは協力させてもらいますね。」

明石さんはほっとした表情を浮かべます。

「助かるよましゅうさん、こんな物早く試験して、駄目っていう事にして破棄したいからね。」

「何っているんだ明石、もしかすると画期的な艤装・・」

提督さんが抗議してきましたが。

「それじゃ試験の用意を始めてちょうだい。」

明石さんはそれを無視すると妖精さん達に指示します。

「ううう・・明石が無視する。」

ああ、提督さんが座り込んで床に何か書いてますけど。

「ましゅうさん行きましょう。」

夕張さんもまったく気にする事無く私を声を掛けてきます。

まあ、何時ものことらしいですけど。

 

鎮守府・艤装試験区画

れーるがんと呼ばれる艤装が設置され試験の準備が進められます。

それにしても大きい艤装ですね、とても普通の砲には見えないのですが。

「これって作動原理とか分からないんですよね。」

設置されたれーるがんを見ながら私は明石さんに聞いてみます。

「まったくね。ただ砲弾を装填して電力を供給すればいいみたいだけど。それにしたって装薬を使わないって、どうやって砲弾を飛ばすんだか。」

妖精さん達に指示を与えながら明石さんが答えてくれます。

確かに砲弾を発射するには装薬必要、と実は私はここでそれを始めて知ったのですが。

補給艦である私には砲は搭載されていないので詳しくは私も知らなかったのです。

「明石監督、設置完了です。」

設置準備をしていた妖精さんが報告してきました。

「明石さん標的船準備出来ました。」

吹雪さんが沖に標的、廃船を駆逐艦吹雪で曳航し終え、艤装を解除して報告に来ました。

「了解、ましゅうさん用意をお願いね。」

「はい。」

明石さんから指示を受けた私はれーるがんの設置された高台から海岸へ向かい、海面に降りると艤装展開し補給艦ましゅうに変わります。

そして艤装試験区画にある岸壁に港湾妖精さんの指示で接岸します。

「電源接続準備いそげ!」

「おーかかれ!」

高台から引かれているケーブルを持って妖精さん達が私の艤装に上がって来ます。

「接続よーし!」

妖精さんが発電機にケーブルを接続し終えた事を連絡してきます。

「発電機始動開始、問題無し。」

私は発電機を始動した事を明石さんに連絡します。

「了解、こちらも問題なし。規定電圧を確認。」

「規定電圧を確認。起動手順第二段階へ。」

明石さんと妖精さん達が起動手順を進めて行きます。

「起動可能状態にまだ足りません明石監督。」

「くっ、ましゅうさんもう少し出力上げられるかしら?」

妖精さんの報告に明石さんが舌打ちして私に聞いてきます。

「可能ですけど、その状態では長時間は無理です。」

既に四台ある発電機は限界まで稼働しています。このままでは焼き切れてしまいそうです。

「三分持たせて、そうすれば起動出来るわ。さっさと動かしなさいあんた達。」

明石さんがそう私に答えながら妖精さん達を叱咤しています。

「起動手順第三段階、最終安全装置解除。発射可能です。」

「直ちに発射。総員注意!」

「発射!」

妖精さんが叫ぶと同時に目視出来ない光と衝撃が!?

私は慌て明石さん達のいる高台を見ます。

あ、吹雪さんが高台から吹き飛ばされて海面を「っぽい?、っぽい?。止まらないっぽい?。」と悲鳴を挙げて転がって行きます、「っぽい?」??

妖精さん達も同じ様に海面を転がっています。

明石さんと夕張さんは何とか踏み止まっていますが、スカートが派手に捲れて・・い、意外に可愛いのお二人とも履い、いえそういう事ではなくて。

提督さんは壁に叩きつけられたらしくぴくりとも動きません。

これは一体なんのでしょうか。状況に付いて行けない私でしたが、はっと気づいて標的の廃船の方を見ます。

ズガガーン

そこで私が見たものは・・廃船を粉々に粉砕しながらもそのまま飛び続た砲弾が、遥か先で着弾して上がった巨大な水柱でした。

「・・・・・・・」

最早言葉を発する事の出来ない私です。いえ、ふと周りを見ると、全身ずぶ濡れで立っている吹雪さんも、スカートが捲くれたままの明石さんと夕張さんも同じ様にその水柱を言葉無く見ています。提督さんと妖精さん達は相変わらず動きません。

何とも言えない沈黙が辺りを包みそして・・

「こんなもの使えるか!!!!!!!!!!!」

鎮守府内どころか外まで届いたのではないかと思われる明石さんの絶叫が響いたのです。

 

艤装を解除した私は海面にぷかぷか浮いていた妖精さん達を救助して陸に上がりました。

救助した妖精さん達を埠頭妖精さん達に預けていると、水柱が立った付近の哨戒を終えて上がってきた吹雪さんと出会いました。彼女も疲れきった表情でまだ全身ずぶ濡れ状態のままです。

「お疲れ様です、吹雪さん。」

「はい、ましゅうさんもお疲れ様です。」

互いに顔を見合わせ苦笑いを浮かべる私達です。

吹雪さんの話では付近には鎮守府の艦を出ておらず、民間航路とも離れていた為被害は無かった様です。

ただあの水柱は鎮守府の外からも多数目撃されたらしく、作戦本部や関係機関から問い合わせが殺到し、大淀さんは対応に追われている様です。彼女の今夜のお酒の量は倍増しそう、とは吹雪さんの弁。・・ご同情さしあげます大淀さん。

大淀さんにどう声を掛けようかと考えつつ、私は吹雪さんと共にれーるがんの所に向かいます。

そのれーるがんですが・・

『危険』『廃棄』『さわるな』『悪霊退散(?)』

沢山のお札が貼られていました、明石さん廃棄する気満々ですね。

「だからこんな物使えるわけないでしょが。」

「何を言っているんだ明石!これがあれば深海棲艦なんか一発で撃破だぞ。」

「あれじゃ味方も巻き込んでしまいますよ、危なくて撃てません。」

提督さんと明石さんがれーるがんの前で議論しています。

夕張さんも傍に立ちうんざりした表情で提督さんと明石さんの議論を聞いています。

「大体あれをどの艦に乗せるんですか?動かせるのはましゅうさんだけなんですよ、補給艦の彼女にこんな危険な装備載せるつもりですか?」

「う・・そうだな、それは駄目だな。やはり装備化は断念しよう。」

「だから危険過ぎて乗せられ・・あの提督、今何て言いました?」

「だから装備化は断念すると言ったんだが。」

何だか明石さんが提督さんの言葉を聴いて固まっています。

傍に立っていた夕張さんも驚愕の表情で固まっています。

「し、司令官が・・信じられませんっぽい?。」

いえ吹雪さんも驚愕の声を、語尾のっぽいって何なんですか?

「そ、そうですかでは廃棄ということでよろしいですね。」

何とか立ち直った明石さんがそう言ってれーるがんを見ます。

どうやら議論も終わりそうですね、と思ったのですが。

「いや廃棄は勿体無い、後の為に残して置くべきだ。」

「一体何処に置くんですか、倉庫もう一杯なんですよ。」

あ、また始まってしまいました、これじゃエンドレスですね。皆さんお疲れの様ですし、私は提督さんに声を掛けてみます。

「あの提督さん、明石さんの言われる通りにした方がいいと思います。何かあったからでは遅いですし。」

提督さんは私を暫く見ていましたが、明石さん向き直り、

「分かったそうしてくれ。」

「・・では廃棄しますね。」

明石さんは再び固まっていましたが、何とか気を取り直した様です、でも明石さんも夕張さんもどうしたのでしょうか。

あ、吹雪さんもですが。

「えーと本日はこれで終了しましょう、ましゅうさんと吹雪さんご苦労様。夕張さんちょっと残ってくれないかな。」

私が考えこんでいると明石さんがそう言って皆を見渡します。

「ただし提督は執務室に行って下さいね、大淀さんが待ってますから。」

顔は笑っているんですけど、目が怖いです明石さん。

提督さんも同じなのか顔が引きつっています。

「おっと俺には用事があったんだっけ。」

そう言って身を翻して提督さんは走りだしました。

明石さんはそれを見ても何の行動も起こしません。

「あの、いいんですか?」

そう聞いた私に明石さんは、それは素敵な笑顔でこう答えてくれました。

「大丈夫よ、香取さんは絶対逃がさないから。」

「んぎゃー!!」

提督さんの姿が消えて場所から上がる悲鳴、何が起こったんでしょうか。

聞こうと思いましたが、怖いので止めておきました。

だって明石さん全然目が笑っていない笑顔をずっと浮かべていらっしゃるんですから。

「では失礼します明石さん。ましゅうさん行きましょう。」

吹雪さんはたいして気にしていない様ですね、流石です。

「そうですね、行きましょう吹雪さん。」

だから私はそれ以上考えるの止めて吹雪さんと一緒に寮に戻りました。今日は本当に疲れました。

 

残された明石と夕張の会話

 

「ったく何であの提督はこうも毎回厄介ごとを起こしてくれれるんだか。」

明石がうんざりした表情でぼやく。

「何時もの事と言えばそうなんですけどね。」

夕張も同様な表情を浮かべて答える。

暫し考え込む様にしていた明石が夕張の顔を見て言う。

「今日の提督変だったわね、まあ何時もだけど・・」

「どうかしましたか?」

難しそうな顔をして唸る明石に夕張が聞く。

「れーるがんの採用の事、ましゅうさんに搭載するのかと言ったらあっさり断念したでしょ。」

はっとした様な顔をする夕張。

「そういえば何時もは子供みたいに何時までもごねますね。」

それで堂々巡りになり、最終的に大淀も含めての説得でやっと提督は断念するのが通常だったのだ。

「廃棄の件もましゅうさんが意見具申したら直ぐに納得したし。」

明石と夕張は顔を見合わせて考え込む。

「・・提督もしかしてましゅうさんに惚れた?」

「いやまさかあの提督が?」

奇妙な艤装開発にめりこみ、艦娘には必要以上に関わってこないのがここの提督だった。

「暫くは要注意ね。」

「はい、明石さん。」

二人は深くうなずき合うのだった。

 

 




言い訳という名の後書き

レールガン (Railgun) とは、物体を電磁誘導(ローレンツ力)により加速して撃ち出す装置である。
(Wikipediaより一部抜粋)

もしこんな兵器があったら艦これの世界で最強ですね。
まあチートすぎますか、霧の艦隊とも互角かな?

今回は少々調子に乗りすぎたでしょうか。まあ、冗談だと思ってお許し下さい。

なお、今回はこの作品の題名の元ネタになった小説に因んで書きました。
私はインデックスよりレールガンの方(特にアニメ第一期)が好きです。

それでは。


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