とある補給艦娘の物語   作:h.hokura

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艦娘の艤装展開については、人との接触が始まった直後から研究が行われてきたが、現在至るまで満足のいく結果は出ていない。
様々な仮設が出されたがどれも事象を完全に説明出来なかった。
この中で最も有力なものが、艦は別の世界にあり、この世界の艦娘と艤装展開して入れ替わるというものだが、艦に艦娘の意思が宿るのを説明出来ずこの説もまた完全でなかった。
だがその研究過程で出てきたある仮設が問題だった。
それは深海棲艦もまた何者かが艤装展開して出現したものではないのか、というものだった。




初めての艤装展開です!?

皆さんの挨拶が終わった後、私は支援艦娘部隊の待機室に案内してもらいました。

「まあ支援部隊だからここで常時待機というのは少ないんだけど。」

旗艦の明石さんが笑って説明してくれます。

ちなみにここには私と明石さんと大鯨さんがいるだけです。

他の方々はそれぞれの任務に向かいました。

千歳さんと千代田さん姉妹は定期訓練の為に既に出発。

秋津洲さんは二式大艇ちゃん(?)の整備の為工廠へ。

間宮さんと伊良湖さんは皆さんの昼食の準備で食堂へ。

この後明石さんと大鯨さんは待機室や作戦室などの艦隊司令部内の案内と、この後の私の艤装展開の訓練に付き添ってくれます。

「さてこんなものかな。後はおいおい案内するわ。」

明石さんはそう言って私と大鯨さんを見ます。

「それじゃそろそろ行きましょうか。」

いよいよ私の初めての艤装展開の訓練が行われる様です。

 

鎮守府・岸壁

どこまでも青い海原が広がっている光景。

何だか私は気持ちが高ぶってくるのです。

「何だかましゅうさん嬉しそうですね。」

大鯨さんが微笑みながら私の顔を覗き込んできます。

「え、そうですか?・・そうですね気持ちが高揚してくるといいうか。」

何なのでしょかこの気持ち。私は不思議な思いに駆られます。

「それは当然だと思いますよ、だって私達は船ですよ。」

大鯨さんは微笑みを更に深くしながら話してくれます。

「海を見てそうそう思わない艦娘はいませんよ。」

なるほど、そい言われればそうですね、なにせ私は船。

元々は海上を行くのが当たり前なのですから。

そんな高揚した気分でいた私は、次の瞬間を驚愕させられました。

「さていきますか。」

「はい。」

明石さんと大鯨さんはそう会話するとそのまま岸壁から海へ降りていきます。

「え、お二人とも?」

驚く私の前でお二人は海に降り立つとそのまま海面の上に立って・・えっ立ってる??

そう明石さんと大鯨さんは海面に立っているのです。

私は呆然とその光景をみていました。

「ほら、ましゅうさんも来て。」

そう言って明石さんが手招きしますが、私は一歩も動けません。

いやだって私にも同じ事をしろと言うのでしょうか。

躊躇している私を見てお二人は・・

「あ、そうか。いきなりそう言っても驚くのは当たり前か。」

「そうですね、ましゅうさんにとっては生まれて初めてでしょうから。」

お二人は納得した顔で頷きあっています。

「あの・・明石さん、これって。」

「まあ驚くのも分かるよ、これって私達艦娘の能力の一部。」

恐々と聞く私に明石さんが笑って答えます。

これが艦娘の能力なんですか?

「こうやって海上に出て、沖の方に行かないと艤装展開出来ないからね。」

「・・?」

それってどういう意味なのでしょうか。だんだん混乱してきました。

そんな私を見て大鯨さんが説明してくれます。

「私達が艤装展開すれば元の艦になります。その時陸にいたらどうなるかわかりますか。」

「・・あ!!」

そうですもしここで艤装展開をしたら・・私は動けなくなってしまいます。

「今、ましゅうさんが考えている通りです。だから海上をある程度移動して、適切な所で艤装展開するんです。」

なるほど理解は出来ました、でもだからといっても。

「あの私もお二人の様に・・?」

出来るんでしょうか?とても不安です。

「大丈夫ですよ、先ほど明石さんが言われた様にこれは艦娘の能力の一部なんですから。」

大鯨さんが笑って手招いてくれます。私はその笑顔に励まされる様に海面へ降り立ちます。

「・・・・」

そして私はお二人の様に海面に立っています。

「どう?問題ないでしょう。」

明石さんが笑みを浮かべながら聞いてきます。

「何か奇妙な感じですね。」

海面に立ち、波に上下に揺られる状況に私は戸惑いを隠せません。

「それじゃ行きましょうか。」

私達を先導しながら明石さんが言います。

「はい。」

私はそう返事して、いざ動こうとして。

「あの、どうやれば進むのでしょか?」

「進みたいと念じれば良いんですよ。」

動けない私に大鯨さんが答えてくれます。

その言葉通り私が前に進みたいと思うと、すっと進み始めます。

「行きたい方に意識を向けて、あと慣れない内はスピードに注意してね。初めて海に出て艦娘がやる失敗はスピードの出しすぎだから。」

明石さんが注意してくれます。私はスピードを控えめにしながらお二人の後に付いて行きます。

「この辺でいいでしょう。」

明石さんは停止すると私に振る向いて言います。

海岸からある程度離れた場所に私達は立っています。

「ではましゅうさん始めましょうか。」

どこまでも広がる海原を見ていた私に明石さんが簡単に説明してくれます。

「もう既に知っていると思うけど、私達が元になった艦の姿になる事を艤装展開と言います。」

元になった艦、私で言えば補給艦のましゅうの姿でしょうか。

「とりあえずやってみましょう。」

「はい、でどうやればいいのでしょうか?」

明石さんの言葉に私はどうすれば良いのかお聞きします。

「先ほど海面を移動した時と同じです、ましゅうさんがそう念じれば艤装展開出来ます。」

大鯨さんがそう説明してくれます。

「私達は一旦離れ距離を取ります。合図したら艤装展開して下さい。」

そう言って明石さんと大鯨さんが離れて行きます。

十分な距離を取ったお二人が手を振っています。私は気を静める様に深呼吸すると、艤装展開する様に念じます。

最初は何が起こったか分かりませんでした。急に身体が拡散する様な感覚が起こりそして・・

私は周りが真っ暗になっている事に気づきパニックを起こし掛けます。

「ましゅうさん、具合はどうですか?」

「え、明石さん何処にいるんですか?」

明石さんの声に私は気を取り直し問い掛けます。

「ああ、大丈夫ですよ。落ち着いて精神を集中してみて下さい。」

そう言われた私は何とか落ち着こうします。

やがて落ち着いてくると、周りが明るくなってきます。

そして眼前に見えてきたのは・・大きな塔が六本立ち並び、その間に様々な構造物がある艦の姿でした。

「これが私・・補給艦ましゅう?」

自分の姿は知っていたつもりですが、実際見るとこんな感じなんですね。

「旨くいった様ね、ましゅうさんどうかしら。」

明石さんの声が聞こえてきます。姿は見えないのですが。

「はい大丈夫だと思います。」

「分かりました、それじゃましゅうさんの艤装にお邪魔させてもらいますね。」

お邪魔ですか、それって?私が考えていると、眼前の艤装に上がってくる二つの人影に気づきます。

「見えるかしらましゅうさん。」

「お邪魔しますね。」

明石さんと大鯨さんのお二人です。

「はい見えます、お二人とも。」

お二人は艦上を興味深げに見渡しています。

「なるほどこれがましゅうさんの艤装か。大分私達と違うね。」

「それにしても大きいですねましゅうさんの艤装。」

「そうね金剛型戦艦並は有るね。」

お二人はそう言って私の艤装の上を歩いてきます。

「ではましゅうさんの艤装を調べさせてもらうけど良いかな。」

「調べるですか?まあそれは構わないですけど、明石さんと大鯨さんのお二人でですか。」

結構広いので少々心配したのですが。

「いや調べてくれるのはこの連中だよ。」

明石さんがそう言うと艤装の上に新たな人達が上って来ました、ああ妖精さんの方々ですね。

二頭身の妖精さん達は明石さんの前に整列し敬礼をします。

「ご苦労さん、それじゃ始めてちょうだい。」

敬礼を返し明石さんが妖精さん達に指示します。

「はい、久々の調査・・気分が高揚します。」

「神秘の艤装調査、ここは譲れません。」

何だか異様に興奮している妖精さん達に私は何か危険を感じてしまうのですが。

「あのね毎回言って言っていると思うけど、変なことをしたら全員工廠内に逆さにしてぶら下げるからね。」

「イエスマム!」

明石さんが睨みつけて言うと妖精さん達は姿勢を正して返事をしています。

「では開始。何かあれば直ぐ報告すること。」

「イエスマム!」

妖精さん達があちこちに散らばっていきます。一方明石さんはノートらしき物を取り出します。

さて私はこの後どうしていればいいのでしょうか。

そんな事を考えていると大鯨さんが話しかけてくれました。

「退屈でしょうから少しお話でもしましょう。」

「そうですね・・ってあれ?」

そういえば先ほどから私はお二人と何でも無い様に話をしていますけど、私は艦になっているんですよね。一体どうやって会話をしているんでしょうか。

「?ああ何で話が出来るか不思議なんですね。」

私の戸惑いを察して大鯨さんが説明してくれます。

「これは念波、艦娘の能力の一つです。これで艦になっても普通に意思疎通が出来るんです。」

「そんな能力があるんですね、何か不思議な感じがします。」

私のそんな感想に微笑みながら大鯨さんが更に説明してくれます。

「まあ普通は艦に装備されている通信機を使うんですけど、非常時や艦娘達だけで話をしたい時によく使います。」

ちなみに艦娘形態の時にも使えるそうとのこと。

「ただ通信機に比べれば通信距離も短いですし、周りにいる艦娘達全員に話が伝わってしまうのだけど。」

結構制約が有りますと大鯨さんは笑っていました。

その後私と大鯨さんは様々な事を話しました。

大鯨さんが支援している潜水艦娘方の事やこの鎮守府の施設についてとか。

私自身の話はあまり記憶が定かでないのであまり話せなかったのは残念でしたが。

「おしゃべり中申し訳ないけどいいかな。」

すっかり話しに夢中だった私達に明石さんが話しかけてきました。

「調査の方は一応終了。詳しい分析はこれからだけどね。」

明石さんそう言ってノートを閉じます。

「今日はご苦労さん。二人とももういいから。」

肩を叩きながら明石さんが私達を促します。

「はい分かりました。」

「ご苦労様です明石さん。」

私達の返事を聞き明石さんが答えます。

「あ、それからましゅうさんは後日またお願いすると思うから。今日の分析を元に艤装の改修をしたいからね。」

他の艦娘さん達と違いが有るので私の艤装をそれに合わせる必要があるそうです。

後日のスケジュールを私は明石さんと打ち合わせます。

それが終了後、お二人は艤装を降りて行きました。

「ではましゅうさん、艤装を解除してもいいわよ。」

海面に降り立った明石さんの指示で私が再び念じると・・

何時の間にか海面に立っている自分に気づきます。

「じゃ戻りましょうかましゅうさん、そうそうさっき話した間宮さんの甘味食べていきませんか。」

「はい、良いですよ。でも夕食前ですけど大丈夫でしょうか。」

大鯨さんのお誘いに返事しながら、夕食に影響しないかと思って聴いたのですが。

「甘味は別腹ですよ、艦娘にとっては。」

と謂われ言われしまいました。はあ、何となく納得ですが。

そして明石さんに挨拶をし、私達は手を繋ぎながら間宮さんの所へ向かったのでした。

今日は新しい事が一杯あり少々疲れましたが、間宮さんの甘味は凄く美味しかったですし、何より大鯨さんとても仲良くなれて充実の一日でした。

 

 




言い訳という名の後書き

これでましゅうの出撃準備は出来ました。でも次回は出撃しませんが(笑)。
一話別の話を入れてから出撃です。
それでは。

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