口下手提督と艦娘の日常   作:@秋風

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 実は今回も水着回ではない……すいません!
 少しテンションが上がってしまい、少し長めです。
 それでもいいという方のみお進みください。


第三十話 出発

「短い時間ではございますが、快適な陸の旅をお約束致します」

 

 嬉々としてバスに乗り込む少女たちに相好を崩したまま、一号車担当であろう運転手は提督に向かってそう告げた。

 小さく軍章の刺繍が入った制服に皺はなく、両手にはめられた白の手袋の先では制帽が下げられている。

 早朝であるとはいえ、夏のこの時期に汗ひとつかかずに恭しく頭を下げる白髪の男性に、提督は感謝の意をもって同じように頭を下げた。

 

「よろしくお願い致します」

 

 見れば、男性の後ろに立つ二号車と三号車の運転手もこちらに向けて礼を返している。

 旅行は行って帰ってくるまでが旅行だとよく言われるが、この人たちがそれを一番よく理解しているのだろう。

 何事も初めと終わりが重要なのは変わらない。

 

「提督、全員の乗車が確認できました」

「ありがとう大淀。よし、これで出発できるな」

「といっても、私は二号車ですけどね」

「な、なぜ少し不機嫌そうなのだ?」

「別になんでもありません」

 

 なんでもありませんと言っているわりに、大淀にしては珍しいふくれっ面で、恨めしそうに一号車を眺めている。

 が、昨日の大抽選会に参加していない提督にとっては彼女の心の内がわかるはずもなく『もしや出発前のメンバーの最終確認を任せたことが気に障ったのだろうか』と見当違いなことに頭を悩ませている。

 ある意味いつも通りの光景である。

 そんな提督の心境に気が付いたのか、大淀ははっと顔を上げたかと思うと何度も謝りながら逃げるように二号車のバスへと消えて行ってしまった。

 

「ほっほ。随分と慕われているようですね」

「いえ、彼女たちには気を遣わせてばかりで。情けない話ですが、支えられているのはいつも私の方です」

「人ひとりを支えるには相応の努力と『支えたい』という想いが何より重要。幹の細い支えはすぐに折れてしまうもの。この老いぼれの目からも、ここの少女たちは皆、人ひとりを支えるには十分な幹をお持ちに見えましたが」

「……私も精進します」

 

 提督の巌のような表情と言葉に運転手は苦笑しながら去り際に、老いぼれの戯言だから気にしないように、と付け加えて運転席へと戻って行った。

 

「ヘーイテイトクー! なにしてるネー! そんな暑い所にいつまでもいないで早く出発するヨ!」

「こ、金剛、重いからのしかからないでくれるかな」

「ノー! ワタシ重くないデース! 時雨よりは重いかもですケド……平均値なんだからネー!」

「ご、ごめん、そういう意味で言ったわけじゃ……提督、みんな待ってるから早く行こ、ね」

 

 金剛と時雨の催促に連なるように、他の者達も窓を開けて騒ぎ始める。後ろを振り返れば、一号車だけでなく二号車や三号車からも声がかけられていた。

 こちらはこちらで、

 

『一号車よりも二号車の方が快適だよ』

『三号車には美味しいお菓子が一杯あるよ』

 

 と、最後まで地味な努力を続けている辺り、諦めが悪いというか逞しいというか。

 そんな健気な彼女たちをいつものように、すまないと一言で意気消沈させた提督は、一度だけ鎮守府の方を振り返った。

 夏の朝陽に照らされる鎮守府に一礼だけ添えて、すぐにバスへと向き直る

 

「それでは行くとしよう」

 

 誰に告げるでもなく、短くそう呟いて、提督はバスへと乗り込んでいく。

 総勢百名を超える我が鎮守府の夏の一大イベントともいえる、一泊二日の慰安旅行へ向けて。

 

 いざ、出発!

 

 

 

 バス内は提督が想像していたよりも遥かに快適だった。

 適切な温度に保たれた空調、ゆったりとしたリクライニング付きのシート、各座席に取り付けられたモニターは映画などの視聴のみならず外部との通信も可能となっている。前方に取り付けられた二つのスクリーンもモニターと同じ機能を備えている。

 更に、座席を回転させれば四人での談笑もできて、バス特有の騒音や振動もほとんど感じられない。

 快適さだけでいえば、新幹線にも引けをとらないだろう。

 

 だというのにバスの最前列――提督と大鳳の座る席の間には、なんというか微妙な空気が流れていた。

 

「大鳳、落ち着かないようだが大丈夫か」

「え、あ! いえ大丈夫です!」

 

 提督の問いかけにぶんぶんと両手を振って否定する大鳳だが、その様子は明らかにおかしかった。

 両足はぎゅっと閉じられたまま足先だけが何かを求めるようにもぞもぞと動いており、両肩には力が入りっぱなし。何か言おうとしては空気だけが吐き出される口元に加え、視線はしきりに提督を気にしているのが窺える。

 そんな様子の大鳳を横目に提督は一人思案顔。

 

(体調が悪いわけではなさそうだが……やはり原因は私か。いくら心根の優しい大鳳といえど、ずっと上司の隣では気疲れするのも当然。ここは私がさり気なく立つべきだな)

 

 原因としては間違っていない、間違った思考のまま立ち上がろうとする提督の服の裾が何かに引っ張られる。

 

「た、大鳳?」

「……駄目です」

 

 違和感を感じた裾を大鳳が握っていた。ぷるぷると左右に振れている表情は耳まで真っ赤に染まっている。

 短い言葉ではあったが、大鳳の発した一言に提督は深く反省した。このネガティブな思考は自身を信頼してくれている艦娘に対する裏切りだと先程学んだばかりではないか。

 一度強く拳を握ったあと提督は静かに座席に座り直し、そのまま大鳳の絹のような髪をゆっくりと撫でる。

 

「ありがとう大鳳」

「ひゃえ!? あ、えと! こちりゃこそ! いつも感謝しておりますです!」

 

 提督の突然の行為と礼に大鳳は嬉しさと焦りを通り越して、言語に異常をきたしていた。頭からはぼふんと蒸気のようなものが舞い上がっている。

 いきなり馴れ馴れしすぎたかと心配するが、大鳳の表情に嫌悪感はなく、提督は先程までの違和感が消えたことに安堵の息を漏らす。

 

「最近鎮守府ではどうだ? きちんと休養はとれているか?」

「は、はい。少し前は艦載機の錬度もまだまだだったのですが、最近は上手く波長を合わせられるようになってきたと思います」

「大鳳は真面目だな。そこが君の美点でもあるのだが」

「ふふっ。提督にそれを言われるとは思いませんでした」

「ぬぬ?」

「休暇もきちんと頂いています。最近近くに美味しいおぜんざいを出してくれるお店を見つけたんですよ」

「む? それは興味深い話だな」

「本当ですか! でしたら今度の休日にでも一緒に――」

 

 こんな時こそ親睦を深めようと、渾身の一撃で放った提督の、まるで親戚のおじさんが言いそうな会話の種に大鳳が花開いた向日葵のように明るい表情で応えていく。

 ここにきてやっと旅行の様相を呈してきた雰囲気に穏やかな表情を見せる提督は気がつかない。

 席を挟んだ横と後方に四十八の魑魅魍魎が、今にも爆発しそうな表情で二人の話に耳を澄ませていることに。

 怨嗟の念でねじ曲がりそうな空間に一人の少女が立ち上がる。

 

「ヘーイテイトクー! 真面目で素直で可愛らしい大鳳のお相手もいいですケド! ワタシたちを忘れたらノーなんだからネー!」

「む? 金剛か」

 

 声の主は言わずと知れた金剛型戦艦姉妹の長女、金剛だ。鎮守府一のお騒がせ娘と名高い彼女の印象は提督の脳内にも焼き付いており、姿を視認するまでもなく声だけで反応する。

 隣では褒められた大鳳が素直に頬を染めているが、今問題なのはそっちではない。

 

「別に君たちを忘れているわけではないのだがな」

「とのことデスガ、皆さんどう思いますカー?」

 

 提督の返しに金剛がニヤリと笑い、煽るように周囲へと反応を促している。

 

「いやっぽいー! 夕立にももっとかまってほしいっぽいー!」

「蒼龍にも自慢できるから私もお話したいかなーなんて」

「べ、別にこの叢雲を差しおいて他の娘と話したって別に……ってなんでみんなこっち見てニヤニヤしてんのよ!」

「昔みたいに提督と話するのも北上さん的にはありかなー」

「私もたまには提督さんとお話がしたいです……いえすいません! では、私はこれで……」

「雪風はしれえの膝の上がいいと思います!」

「提督とは一度腹を割って話がしたかったところだ。あのバカ姉のことでいろいろ思うところもあるだろうしな」

 

 バス内の至る所からクマクマニャーニャーキソ―と騒がしい主張の声が響いてくる。

 そのどれもが提督の落ち度にはならないただの願望に満ちた要求であるのだが、場の雰囲気が提督に謎の責務を押し付け、思考を鈍らせる。

 あまりの圧力に唸る提督にすかさず金剛が本題へと話を持っていく。こういう時まで優秀でなくてもいいのだが彼女の脳内には提督の二文字しかないのだから仕方ない。

 

「聞きましたカーテイトクー? 皆、テイトクとのスキンシップが足りなくて悩んでいるデース。そうデスヨネー時雨?」

「そ、そうだよ! 提督はもう少し僕らとコミュニケーションをとるべきかな!」

 

 普段あまり主張の強くない時雨の指摘が効いたのか、提督はぐうっと更に呻いている。

 その裏で金剛が時雨に右手の親指を立てていた。間違いない、この二人、事前に示し合わせていたのだ。

 証拠に時雨が小さく『ごめんなさい提督』と呟いているが本人には聞こえていない。

 

「そんなテイトクのために素敵なクイズを用意したヨー! 名付けて『提督はどれだけ艦娘を見てくれているかなクイズ』デース!」

「な、なんだそのいかにも怪しそうなクイズは」

「フフ、それはとりあえず彼女たちも揃ってから説明しマース」

 

 言いながら金剛は車両前方に取り付けられた二つのスクリーンを軽快な仕草で操作していく。

 数分後、画面一杯に見慣れた顔が映し出された。

 

『ほう、本当に提督が映っているぞ。走行中でも通信が可能とは、流石のビッグセブンである私も驚いたぞ』

『あらあら、到着まで提督とお話するのはお預けかと思っていたけど、金剛もたまにはやるじゃない』

 

 映し出された映像は二号車と三号車のバス内の映像。同時に音声まで耳に届く。

 長門と陸奥の後ろからは大勢の仲間達がこちらに向けて手を振っている。通信が可能とは聞いていたが、ここまで鮮明な映像と音声を送れるとは大本営の技術も並ではない。

 意外なところで海軍の技術力の高さに舌を巻いていると、金剛が一枚の用紙を手渡してくる。

 その内容を読み終え、提督は珍しく不敵に微笑んだ。

 

「なるほど、このクイズはさながら君たちから私への挑戦状というわけか」

「流石はテイトク、察しが早いネー」

 

 同じく楽しそうに笑う金剛を見ながら、提督は内心で感心していた。

 形はどうあれこれは、鎮守府の全員が楽しめるレクリエーションの要素を多分に含んでいる。人数の都合上どうしても三台のバスに別れざるを得ない状況で、きっと彼女たちが必死で考えたのだろう。

 本当に仲間想いの良い子たちばかりだと内心で称賛を送りながら、提督はクイズの概要を頭の中で整理する。

 纏めるとこうだ。

 

 一、このクイズは事前に艦娘側が用意した問題を提督が答える一問一答式で行われる。

 二、内容は全て明確な答えのある問題になっており、抽象的な回答が答えとなることはない。

 三、問題内容は提督がこの鎮守府に着任してから本日までの全ての期間、全ての出来事を範囲とする。

 四、回答は全て、艦娘本人かそれに付随するものに限定され、提督の知らない事は問題とならない。

 五、あくまで旅行中の娯楽なので提督が覚えていなくても怒らない。

 六、提督は三回まで質問をパスできる。

 七、回答時間は三十秒。ゲームは三十分一本勝負。

 八、制限時間内に三回間違えるか、パスを全部使い終わった後に一回でも間違えると提督の負け。三十分経過した時点で提督の勝ち。

 九、罰ゲームは勝った方がその場で考える。

 

 改めて考えても、提督に不利なゲームといってしまって間違いはないだろう。

 ようは提督の記憶力と艦娘との信頼関係を問うクイズなのだが、いかんせん期間と範囲が広すぎる。普通なら不公平だと騒ぎたくなるものだが。

 あろうことか提督は静かに、それでいて自信に満ちた声音で驚くべきことを言ってのけた。

 

「私にパスはいらない。それと最後の罰ゲーム、もし私が勝っても別に要求するものは何もない。君たちが旅行を楽しんでくれたらそれでいい」

 

 無茶な、と誰もが思った。

 だが、提督の表情は不敵に微笑んだままで誰も口を挟む者はいない。スクリーンの奥で誰かが『カッコいい……結婚して』と呟いていたが誰もツッコまない。

 

「オー! いつにも増してカッコいいですネ! でも後悔先に立たず、ワタシたちが勝ったらどんな要求が待っているかわかりませんヨ?」

「男に二言はない。その時は私の身をもって全ての要求に応えてみせよう」

 

 全て、という単語にバス内とスクリーンがざわつく。

 どうやら煩悩にまみれた何人かがよろしくない妄想を働かせたようで、一部分が血に濡れている。スクリーン内では同時に『また大和(加賀)か』という呟きが響いている。

 

「それでこそワタシのテイトクデース! 時雨、準備はイイですカ?」

「うん、司会は金剛さん、質問は僕が担当するからね」

「ああ、いつでも大丈夫だ」

「それでは、ミュージックスターット!」

 

 金剛の張りのある声に続いて、バス内に陽気な音楽が流れ始めた。

 ふと時雨と視線が重なる。今、その綺麗な蒼の瞳に、容赦の色は存在しない。

 一度小さく頷いて、時雨は首にかけた銀時計のスイッチを押す。

 

 勝負が始まった。

 

「質問、この鎮守府に最初に着任した艦娘は誰?」

「電だ。彼女が初期艦で良かったと今でも私は思っている」

「正解」

 

 即答。

 周囲からはおおっと感嘆の声が上がっている。

 二号車の奥では電がうるると涙目になっているが、提督からは遠すぎてわからない。

 

「まあこれくらいは常識的な範囲かな? どんどん行くよ」

「うむ」

「質問、一週間前の南西諸島への出撃でMVPをとったのは誰?」

「羽黒だな。中破した仲間を庇いながらの奮闘は見事だった」

「正解」

「し、司令官さん、覚えていてくれてるんだ」

 

 またしても即答。

 一週間前とはいえ、ここまで覚えているものなのかと周囲のざわつきが大きくなる。

 当初の予定では、この機会に提督に無理難題を吹っかけて甘えちゃおうというのが命題だったのだが、若干雲行きが怪しくなってきている。

 金剛と時雨は視線だけで『遠慮はいらないデース!』『了解!』と意思疎通をはかっているようだ。

 どう考えても二人とも煩悩にまみれているが、指摘するものは誰もいない。

 

「ここからちょっと難易度上がるよ」

「任せたまえ」

「質問、今では恒例となっている月一回の間宮さん手作りのデザート新作発表会ですが、その第六回に出された新作デザートとは何だったでしょう?」

「自家製ミルクを使った濃厚バニラアイス、だな。当時はその名前のせいであらぬ噂が流れて大変だった覚えがある」

「せ、正解」

「て、提督! それは忘れてくださいっていったのに!」

 

 間宮の珍しい大きな声に周囲が驚いている。

 いったいどんなものだったのか近くに座る磯風が尋ねるも、耳を真っ赤にしたまま首をぶんぶん振って何も答えようとはしない。

 流石にこれを即答されるとは思っていなかった司会の二人の瞳から余裕の色が消える。

 そこからはもう怒涛の質問攻めだった。

 

「質問! 毎回使用に提督の許可が必要な野外演習場、今までで平均して一番使用頻度が高いのは誰!?」

「一番は神通、二番が朝潮、次いで那智だな。三人とも自分に厳しい尊敬に値する人物だ」

「正解!」

「そ、そんな……顔が火照ってしまいます」

「朝潮の心は常に司令と共にあります!」

「ほう? 三番目とは嬉しいものだな。どうだ貴様、今夜にでも一杯」

 

「質問! 各艦毎に性能の異なる艦娘ですが、駆逐艦のなかで一番戦果をあげているのは誰でしょう!?」

「戦果でいうと夕立だな。キス島沖での撤退作戦での彼女の活躍は今でも鮮明に覚えている」

「正解!」

「提督さん覚えててくれたっぽい!? 夕立感激して涙がでそう~!」

 

「質問! 三か月前、南方海域への鼠輸送遠征において大成功をおさめた立役者は誰だったでしょう!?」

「皆頑張ってくれていたが、立役者は鬼怒だ。彼女がドラム缶と共に奮闘してくれたおかげで大成功といえる物資の補給ができた」

「正解!」

「提督の顔見ると、やる気が出てくるからね! マジパナイよ!」

 

「質問! 我が鎮守府の中でも練度の高い金剛型四姉妹ですが、演習時において一番被弾率が高いのは誰か!?」

「それは金剛だな。普段の出撃ではそうでもないのに、なぜ演習時にあそこまで被弾するのか私にも原因がわからないのだが」

「正解!」

「……それって」

「……つまり」

「単に金剛お姉さまが提督に良い所を見せようとしすぎて空回りしているだけでは?」

「ちちち、違いマース! ワタシはちょっとダケ、そう、ほんの少しテイトクの視線が気になっているだけデース!」

 

「質問! 我が鎮守府でも無類の航空戦力を誇る空母機動部隊ですが、その中で一番最初にMVPに選ばれたのは誰か!?」

「鳳翔だ。今でこそ前線を離れて店の運営とサポートに回ってくれているが、当時はまぎれもなく我が艦隊の筆頭空母だった。今でもよく空母の子に指導をしてくれている。あの凛々しい表情が私の記憶から消えることはない」

「正解!」

「なんだか照れてしまいますね。でも提督にそう思って頂けて私は本当に幸せ者ですね」

 

「質問! 昨年の夏の大規模戦闘での祝賀会で酔い潰れて大泣きしたのは誰!?」

「蒼龍だな。彼女は酒に弱いが雰囲気を楽しむためによく飲んでいるみたいだが、あの時は流石に驚いた。女性の大粒の涙を見たのは久々だったから一瞬硬直してしまった」

「正解!」

「や、やだやだやだあ! 私そんなことしてた!? 記憶にないんだけど本当なの飛龍!?」

「本当っていうか、自覚なかったの蒼龍?」

 

「質問! 間宮さんすら配属されていない最初期時代、食事は提督が作っていたこともあるそうですが、そこで一番最初に艦娘に出した手料理は何!?」

「チャーハンと出来合わせの野菜炒めだな。今考えてもあれを料理と呼ぶことに抵抗があるぐらい不出来な代物だったと記憶している。電と加賀と北上には申し訳ないことをした」

「正解!」

「いえ、あの日は素晴らしい一日でした。流石に気分が高揚します」

「提督のチャーハン、ハイパーな北上さんになった今でも覚えてるよー。アレは美味しかった」

「なのです! 司令官さんの野菜炒め、電は大好きなのです!」

『三人だけずるくない!?』

 

「質問! 全艦娘の中で一人だけ、間違えて提督用のシャワー室を使用したことのある人がいますが、誰でしょう!?」

「……大和だな。あの時はたまたま私が使用したあとだったから良かったが……まあ間違いは誰にでもあるだろう」

「正解!」

「確信犯だ!」

「確信犯にゃ!」

「確信犯クマ!」

「ち、違います! 大和は決して不埒な想いで提督のシャワー室を……ってそんな目で見ないでください!」

 

 どれだけ答えただろうか。

 その後も矢継ぎ早に繰り出される質問に、提督は一問たりとも黙することなく答え続けた。

 結果、

 

「も、もう無理だよ。提督の勝ちでいいよね金剛」

「し、仕方ないデース! 周りも叫び過ぎと褒め殺しでノックダウンしてますネ……今回は勝ちを譲るデース」

「む?」

 

 一時間を超える延長の末、司会進行役が根をあげるという結末でクイズ大会は幕を閉じた。

 改めて周囲を見渡しても、にやけたまま荒い呼吸を繰り返す艦娘たちで埋め尽くされており、いかにこのクイズ大会が危険だったかを物語っている。

 スクリーンの奥でもほぼ同じような光景が広がっており、生き残っているのは鳳翔や榛名など自制心を保つことができた精鋭のみ。

 

「最後の方は最早質問でもなかった気がするが……む?」

 

 途中でふらりと提督側に身体を預けてきてそのまま眠ってしまった大鳳を介抱しつつ、窓の外に映った光景に提督はふうと溜息を一つ。

 どうやら思った以上に時間が経過していたらしい。

 

 すぐ後ろで、クイズ大会を最後まで楽しんでいた雪風がなおも元気な声で提督の脳内の言葉を代弁する。

 

「しれえ! 海です! とっても綺麗ですね! 雪風、わくわくが止まりません!」

 

 雪風の陽気な声にあてられたのか、次々と窓の方へ少女達が集まってくる。

 そのまま、示し合わせたかのように全員が満面の笑みと共に、大きな声を張り上げた。

 

 

『海だー!!』

 

 

 いつも見慣れている光景とは違う、透き通った蒼の世界。

 視界一杯に広がる白い砂浜を眺めながら、提督はむくりと起き上がった大鳳へ定番の挨拶を一つ。

 

「おはよう、大鳳」

 

 天気は晴天、空は快晴。

 絶好の海水浴日和に提督は思わず頬を緩ませる。

 そのまま四十八人の少女と一人の提督を乗せたままバスは目的地へと向かって行く。

 

 窓の外ではカモメが二羽、全員を歓迎するようにゆったりと飛んでいた。

 




 ただのバス回。

 でも旅行の時ってこういう時間が楽しかった覚えありませんか?
 ともあれ今回も水着回ではなかったことは申し訳ないです。
 この一連のお話は前々から書きたかったものの一つなため、じっくり丁寧に書いていたら遅々として進まない(悲

 次はきっと水着が登場するはずなので! たぶん!
 それまでゆっくりとお待ち頂けたらと思います。

 ※前話までの感想返信は今日か明日には必ず。
 
 

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