黒十字と雷の妖精   作:ジェネクス

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予期せぬ邂逅

「リリィ~どこ行ったの~?リリィ~?」

 

フィオーレのとある山中で少女が誰かの名前を呼びながら彷徨っていた。ボリュームのある金髪をポニーテールに纏め、髪の一部を留めている十字架の髪留めが印象的である。神秘的な印象を与えるエメラルド色の瞳はしかし、困惑と焦りに彩られていた。

 

「もぅ~、ちょっと珍しいものがあるとすぐ飛んでいく癖はどうにかしてほしいかなぁ。自分が方向音痴だってこと自覚して欲しいよ」

 

そう言って溜息をつく少女。しかしそうのんびりしてもいられない。なにしろ――

 

「ここってもうフィオーレ領だよね…?私がうろついてるところが見つかったら問題あるよね…でもリリィを放っておくことも出来ないし…あ~こんなことならもっと魔力探知を鍛えておくんだったなぁ~」

 

彼女はリリィの魔力を追って、彼女にとっては他国であるフィオーレ王国に侵入した形なのである。いくらフィオーレが入国に対して大らかな国といったところで、少女の所属から考えれば見つかれば面倒なことになりかねない。

 

「とにかく今はリリィを探そう。誰かに見つかったらただの旅人としてやり過ごす。ちょっと気が引けるけど、下手に身分を明かして問題になるよりはずっといいはずだし…」

 

少女はそう結論付けて、再びリリィを探すことに専念するのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

パメラとラクサスの二人が対峙する。パメラはその聖剣を抜き放ち、ラクサスは体に雷を纏わせて、お互い既に臨戦態勢といった感じだ。

 

「…はぁっ!」

 

先に動いたのはパメラの方だった。無数の魔力の剣を生み出してラクサスを狙うも、ラクサスは慌てずにいくつかは回避し、いくつかは雷撃で撃ち落として攻撃を凌ぐ。しかしその時既にパメラはラクサスの背後に回っており、彼に対し斬撃を加えようとする。

 

「…シッ!」

 

ラクサスはそれも予見済みとばかりに雷を纏った拳で叩き落そうとする。しかしその次の瞬間にはパメラの姿が掻き消えていた。

 

「こっちよ!」

 

中空から現れたパメラはその勢いのままラクサスに迫る。体勢を崩されたラクサスは咄嗟にその身を雷に変えその場を離脱する。

 

「…今度はこっちの番だ!」

 

復帰したラクサスはそう叫ぶやいなや、地面を伝ってパメラの足元から雷で攻撃する。パメラは冷静にその攻撃を回避すると、再び魔力の剣を生み出して反撃する。

 

「残念、まだ私のターンよ!」

 

パメラは今度はその剣たちと共にラクサスに向かって突っ込む。ラクサスはパメラごと魔力の剣たちを迎撃しようと巨大な雷を前方に放つ。剣たちはその一撃であらかた全滅したが、その場にパメラの姿は存在しなかった。

 

「…せいっ!」

 

低い姿勢でラクサスの足元に現れたパメラは、そのまま剣でラクサスの足を払う。しかしその瞬間ラクサスがニヤリと笑った。

 

「かかったな…!」

 

ラクサスが指を鳴らすと、ラクサスの周囲から雷光が上がる。これはパメラも流石に避けきれずに直撃を喰らう。

 

「くぅっ!」

 

直撃を受けふらつくパメラに対し雷を纏った拳で追撃を加えるラクサス。しかしパメラもすぐに体勢を立て直してその場から離脱する。

 

「……………」

 

再び対峙する二人。しばらくの間睨み合っていたが、パメラが一息つきながら聖剣を鞘に納めた。

 

「…ふぅ、今日のところはこの位にしておきましょうか」

 

その言葉と共にラクサスも体の力を抜く。先ほどまでの張りつめた緊張感が一気に弛緩する。

 

「悪かったわねラクサス。私の実戦稽古に付き合ってもらっちゃって…」

 

先ほどまでの戦闘はパメラの勘を取り戻すための実戦形式の稽古だった。この二人は一緒に旅をするようになってから、一日一度はこのような手合わせを行っていた。

 

「いや、気にするな。俺の方も同レベルの相手との手合わせはいい鍛錬になるからな」

 

「そういってもらえるとありがたいわね」

 

そう言いながらラクサスの近くに歩み寄る。ラクサスは肩を軽く回しながら話しかけた。

 

「しかしお前さんがここまでやれるとは思わなかったな。俺と互角に渡り合える女なんてエルザ位しか思い当たらねぇからな」

 

「これでも異端狩り専門部隊の黒十字の隊長だったからね。…って、エルザって誰よ?」

 

知らない名前にパメラが眉を顰める。

 

「俺のいた魔導士ギルド…妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女魔導士だよ。腕は俺と互角に立つ。妖精女王(ティターニア)の異名を持つフィオーレじゃかなり有名な魔導士だが…さすがに神聖バルディア帝国までは届いちゃいないか」

 

「ふーん…妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強ねぇ…」

 

顎に手を当てて何やら考え込むパメラを見て、ラクサスはふと思いついたことを言ってみた。

 

「そういやお前さんとエルザって割と似てる部分があるなぁ」

 

「え?そうなの?」

 

「あぁ、どっちも長い赤髪だし、剣を使う戦闘スタイルもそうだし、お前もエルザも真面目で堅物だしな…後、ちょいとバカっぽいところとかな」

 

「バ、バカっぽいとは何よ!失礼ね!」

 

さらりと言った言葉にパメラが激昂する。そんなパメラを見てラクサスがクックと笑った。

 

「そんな風にすぐ挑発に乗るところとかもな」

 

「このパメラを侮辱する気!もう一勝負よラクサス!今度は完膚なきまでに叩きのめして土下座させてやるわ!」

 

途中そんな一騒動があったものの、二人は特に問題も無く旅を続けていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

フィオーレと帝国の国境沿いに位置する村マシューに辿り着いた二人は、今日はここで宿を取る事にした。

 

「最近野宿が続いてたから、屋根のある場所で眠れるのはありがたいわね」

 

とはパメラの弁。元来お嬢様であるパメラにとっては、獣臭い場所で眠るのはあまり気分が良くなかったのだろう。

 

「もし、そこの御二方…旅の戦士か魔導士かとお見受けしますが…」

 

と、そんな二人に話しかける人がいた。ラクサスとパメラは同時に振り返る。そこにはやや背が低めの老人がいた。

 

「何の用だ?じーさん」

 

「実は、御二方にお頼みしたい事が…」

 

頼み事があるという老人。今夜の宿を提供してくれるということで、二人はとりあえず話だけでも聞いてみることにした。

 

 

 

老人の話によると、近頃村の近くで怪しい連中がうろうろしているらしい。今のところは村に何か危害を加えてくることはないのだが、見るからにいかつい風貌の男たちが目的もわからぬままうろうろしているというのが、村の人たちにとってはかなりの不安とストレスになっているようだ。特に何か被害があったわけではないので、国やギルドに調査を依頼するというのも気が引ける。そこでたまたま村に立ち寄ったラクサス達に調査を依頼したい、というような内容だった。

 

「まぁ事情は大体分かった。それで依頼の報酬の件だが…」

 

「あくまで個人的な依頼ですのであまり高額は用意できません…30万Jで何とか…」

 

「う~ん…その金額じゃあなぁ…」

 

出された報酬にラクサスは難色を示す。調査となるとある程度は時間がとられるし、相手が何者かが見当もつかない以上、危険度もそれなりに高い。出来ればその三倍の報酬が欲しいところだが、一個人の依頼としてはこれ以上を要求するのも難しいだろう。ラクサスがそんな風に思っていると

 

「別にいいじゃないのよラクサス、受けてあげれば」

 

などとパメラが横槍を入れてくる。ラクサスは尚も難色を示したままだ。

 

「いや、さすがに報酬が安すぎる。調査となると結構な時間がかかるし、そうなるとその分経費もかさむしな…」

 

「無論依頼中の調査の諸経費は全てこちらでお出しします。何とかなりませんか…?」

 

「ほら、そう言ってくれてるんだからいいじゃない。そもそも特に旅の目的があるわけじゃないんだし、こんな風に人助けをするのも悪くないと思うけど?」

 

既にパメラは依頼を受ける気満々らしい。そんなパメラにラクサスは聞いてみる。

 

「パメラ、お前、何か知らんが妙にやる気だな?一体どうした?」

 

「だって、こんな辺鄙な場所で人目を忍んでうろうろしてるなんて、どう考えても悪党じゃないの。たとえ今は実害がなくとも、現に村の人たちが不安に思ってる以上、それを見て見ぬふりは私には出来ないわよ」

 

パメラは持ち前の正義感を存分に発揮してラクサスに食い下がる。こうなったらこいつは何があっても譲らないだろう、そう判断したラクサスは自分が譲ることにした。

 

「…調査の諸経費は全てそっち持ちで、報酬は50万J。これが最低線だな」

 

報酬の値上げをすることも忘れないラクサスであった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

翌朝、調査のために発ったラクサス達はひとまず二手に分かれることにした。

 

(村の周囲をうろつく怪しい連中か…一体何が目的で…)

 

痕跡を調べながらパメラはそんなことを考える。フィオーレの地理には詳しくないものの、この辺りで何か希少品が採れるという話は聞いたことがないし、もし何かが採れるとしたらこの辺りはもっと発展しているだろう。

 

(そういった金儲けが目的じゃないとしたら、あと考えられるのは…)

 

そんな風に考えているときに、突然茂みから人が飛び出してくる。パメラは咄嗟に剣に手をかける。

 

「やばっ…!」

 

飛び出してきたのは金髪の少女だった。その顔には驚きと焦りが現れている。

 

「あなたは…っ!」

 

その少女はパメラの知っている顔だった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

金髪の少女は焦っていた。人に見つからないように細心の注意を払っていたのに、リリィを探すのに集中しすぎて周囲の警戒が疎かになってしまっていた。

 

(とにかくここはやり過ごさなきゃ…ただの迷い人を装ってすぐにこの場を離れて…)

 

咄嗟にそう判断した少女は、相手の先手を取って話しかける。

 

「あはは、すみません、脅かしてしまって。ちょっと道に迷っ「スピリティア・ローゼンベルク!」…ほぇっ!」

 

突然自分の名前を言われて金髪の少女――スピリティアは困惑する。そんなスピリティアにパメラは即座に問いかける。

 

「エルカーエス実行部隊のあなたがなぜこんなところに…まさかエルカーエスの軍事行動!?」

 

「え?は?…えぇっ!?」

 

勝手に斜め上の結論に至ったパメラに驚き困惑する。パメラは尚も捲し立てる。

 

「もしや最近この辺りをうろついてる不審者もエルカーエスの構成員!?まさかこのフィオーレに進軍してくるつもりじゃ…!」

 

「ちょっちょっちょっと待って!いったい何を言っているのか…」

 

スピリティアが何とかパメラを宥めようとするも、ヒートアップしたパメラは止まらない。

 

「くっ!まさかこんなに早く侵略行為をしてくるなんて、やはりエルカーエスは打倒しなくてはならない存在…!あなたたちの野望はこのパメラが砕いてあげるわ!」

 

「だから待ってって!ひとまずこっちの話を「問答無用!」…弁明の余地すら無し!?」

 

相手の話を全く聞かないまま、パメラはスピリティアに斬りかかっていくのだった。




というわけでゲストキャラはRKS主人公を務めるスピリティア・ローゼンベルク、通称ティアさんでした。FAIRY TAILキャラを期待してた人はごめんなさい。パメラと絡ませるならこっちかなぁと思いまして…

そんなわけで次回は、人の話を聞かないパメラと、とりあえずぶん殴ってからのOHANASHIが得意なティアとのしょーもない脳筋バトル。あんまり構えないで見てくださいまし。

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