黒十字と雷の妖精   作:ジェネクス

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これからの旅路

パメラがガルヴァに向かって駆け出していく。それに対しガルヴァは再び岩の腕を作り出して応戦する。

 

「ハッ、あの雷野郎ならともかく、てめぇがこいつに潰されりゃ間違いなくミンチだろうな!」

 

「それは私を捉えられれば、の話でしょう?」

 

パメラは現れた腕の攻撃を容易く掻い潜り、一気にガルヴァに肉薄する。

 

「チッ!舐めんな!サンドバスター!」

 

ガルヴァが放った砂の嵐にパメラが呑み込まれる。が

 

「遅いわ」

 

既にパメラはガルヴァの背後に回っており、そのままガルヴァに斬撃を加える。

 

「ガハッ、てめぇ…!」

 

「そんな動きと反応じゃあ私の動きは捉えられない。おとなしく縛についておけば、これ以上痛い目は見ずに済むわよ?」

 

「…っざけんな!人を見下しやがって…!俺の本当の力を見せてやらぁ!」

 

パメラの言葉にガルヴァは怒りを露わに術を使う。するとガルヴァの体に岩が次々と張り付き、巨大な岩の鎧となってガルヴァの体を覆い尽くす。

 

「ハハハッ!見たか!この岩の鎧の前にはお前のその細い剣じゃあ到底貫けまい!てめぇがどこまでちょろちょろ逃げ回れるか見物だなぁ!」

 

鎧を纏ったままガルヴァがパメラに襲い掛かる。パメラはその攻撃を掻い潜ると一旦距離を取った。

 

「…なら見せてあげるわ。あなたにこのヴァイスジルバーの真の姿を…!」

 

パメラはその刀身に手をかけ、高らかに言い放った。

 

目覚めよ(ヴァッフアーフ)!」

 

途端に細身だった聖剣が巨大化し、バスタードソード並みの大きさとなる。しかしガルヴァは気にせず突っ込んでいく。

 

「多少巨大化したところで、てめぇの細腕でこの鎧が突破できるかよぉ!」

 

パメラは岩の腕と共に突っ込んでくるガルヴァに対し最上段の構えを取る。

 

「白銀に…」

 

ガルヴァにはその時、パメラの構えた剣がさらに巨大化したように見えた。

 

「散りなさい!!!」

 

パメラが構えた聖剣を振り下ろす。大地を割るほどのその一撃は、ガルヴァをその鎧と岩の腕ごと断ち切った。ガルヴァは悲鳴を上げることも出来なかった。

 

「これがこのヴァイスジルバーの真髄…あなた如きに使うには惜しい技よ。光栄に思いなさい」

 

パメラが聖剣を鞘に納める。そしてラクサスとジオウの戦いを見届けるのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「クク…タイマンに持ち込んだ程度で俺に敵うと本気で思ってんのか…?」

 

ジオウは尚も余裕の態度を崩さない。今のラクサスの満身創痍の姿を見れば無理からぬことだ。

 

「ハッ…そういうセリフは実際に俺を倒してから言うんだな…!」

 

ラクサスがジオウに対して雷撃を放つ。ジオウは変わらず水の盾でその雷撃を防ぐ。

 

「少しは学習したらどうだ…?雷は俺の水には通用しねぇってな…」

 

「生憎俺は捻くれもんでな…てめぇなんぞのいう事なんか聞くかよ…!」

 

尚もラクサスは雷撃を放つ。その雷は悉くジオウの水に阻まれる。

 

「だから無駄だと何度言えば…」

 

ジオウのその言葉は途中で遮られる。ふと気づけばラクサスの姿が消えていた。

 

「雷竜の鉤爪!」

 

その瞬間にラクサスはジオウの背後に回り、手に強烈な雷を纏わせ叩きつける。先ほどの雷の連打はジオウの気を散らすためのコマセであった。

 

不意を衝いての渾身の一撃、しかしその一撃が届いた瞬間、ジオウの体が水になって弾け飛ぶ。

 

「…!こいつは…身代り…!」

 

「ククク…てめぇの浅知恵なんざお見通しだよ…接近戦なら俺にも攻撃が届くと思ったんだろうが…残念だったな…」

 

ジオウはその身代わりとなった水を操り、巨大な渦と化してラクサスを包み込む。

 

「切り刻め…ウォーターサイクロン…」

 

「ぐおおぉぉ!」

 

強烈な水の渦に体を切り刻まれ、とうとう片膝をつくラクサス。その様子を見てジオウが愉快そうに含み笑いを漏らす。

 

「ククッ、所詮てめぇはその程度…てめぇにゃ雷竜なんてふさわしくねぇ…せいぜいデンキウナギがいいとこだ…」

 

しかしラクサスはまだ戦意を失っていないとばかりにジオウを睨み返す。

 

「ハッ、何勝ち誇ってやがる…まだ勝負はついてねぇだろうが…!」

 

「何度やっても同じだよ…てめぇの雷は俺には届かねぇ…これまで散々証明してきたと思うがなぁ…?」

 

「…それはどうかな…?もう、仕込みは済んだよ…!」

 

ラクサスがパチンと指を鳴らすと、たちまち周囲が帯電したかのように皮膚が震えだす。

 

「なっ…なんだこりゃあ…!?」

 

「雷の戦陣結界…雷属性の魔法の威力を増幅させる結界だ。さっきてめぇに攻撃を仕掛けるふりしながら仕込みをやってたんだが…気付かなかったか?」

 

ラクサスがしてやったりといった表情で笑みを浮かべる。それを見たジオウは苛立たしげに歯を鳴らす。

 

「こいつで俺の魔法の威力を増してやりゃあ、てめぇの水の防御も打ち破れるかもなぁ…!」

 

「…やってみろ!どんな小細工をしでかそうが、俺に雷は効かねぇってことを思い知らせてやる…!」

 

ジオウがラクサスの攻撃に備えて魔力を高める。ラクサスもまた全力をつぎ込む覚悟で魔力を高め

 

「雷竜の…」

 

大きく息を吸い込み

 

「咆哮ぉ!!」

 

特大の咆哮を叩きつけた。

 

「ウォーターシールド!」

 

ジオウもその咆哮に合わせて巨大な水の盾を展開する。しかしラクサスの全力の咆哮はその盾すら貫いてジオウの下に向かって行く。

 

「馬鹿な!この質量の純水のシールドを貫く雷など…があああああああ!!!!!」

 

結界により威力を増幅された雷の咆哮、到底耐えきれるものではなく、ジオウはこの一撃で戦闘不能となった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「…ハッ、ざまぁみやがれ…」

 

ジオウが倒れるのを見届けたラクサスもまた、力を失い倒れそうになる。が、パメラが素早くそこに駆けより肩を貸す。

 

「…パメラか…すまん、お前のおかげで助かった…」

 

肩を貸してくれたパメラに対し礼を言う。しかしパメラは軽く首を振りこう言った。

 

「うぅん、むしろ私の方が礼を言わなきゃ…ラクサスの助言のおかげで私は自分の誇りを取り戻せたもの…」

 

「俺はなんもしちゃいねぇよ…お前が立ち直ったのは紛れも無くお前自身の力だろ…」

 

「そのきっかけをくれたのはラクサスの言葉よ。私一人だと間違いなくあのまま押しつぶされて駄目になってた…今こうしてあなたに肩を貸せるのは、あなたが私に対して言葉をかけてくれたから…だから、今、この場でお礼を言わせて」

 

そこでパメラは一旦言葉を区切り、万感の思いを込めて礼を告げた。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

決して大きくはない声。しかしその声は何よりも強くラクサスの心に響いた。

 

(…人の素直な感謝ってのは、こんなにも心地よくなるもんなのか…ジジィ、俺も少しくらいは成長できたと思っていいのかな…)

 

今もまだ妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいるであろう自分の祖父を思い、ラクサスは空を仰いだ。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

ギブロックの村に帰るとラクサス達は盛大に迎え入れられた。村の人々から次々と感謝が述べられ、今宵は盛大に宴を催すからぜひ参加してくださいと誘われた。ラクサスが今日は疲れているからもう休ませてくれと言うと、村長たちは急いでラクサス達が休めるように準備に取り掛かった。その張り切りすぎた様子に二人は思わず苦笑しながら、今日はもうそのまま休んでしまおうと思い眠りについた。

 

翌朝、依頼の報酬を受け取り、もう少しゆっくりとしていかれたらどうかと言う村長たちの誘いを丁重に断りながら、二人は村を出た。

 

「ほれパメラ、依頼の半金100万Jだ」

 

「ちょっと、私そんなのいらないわよ。依頼を受けたのはそもそもラクサスじゃないの」

 

「いや、今回の依頼が達成できたのは正直に言ってお前のおかげだ。俺はそのお前の働きに対して正当な対価を支払ってるに過ぎない。まぁゴチャゴチャ言わずに受け取っとけよ。金はあって困るもんじゃないぞ」

 

パメラは暫しの間逡巡したが、やがて嘆息しながら受け取った。

 

「…はぁ、仕方ないわね。それであなたの気が晴れるってのなら受け取ってあげるわ」

 

そんなパメラの様子に苦笑しながら、ラクサスはこう言った。

 

「しかし随分と明るくなったもんだな。今までは見ててこっちが鬱になるくらい落ち込んでたってのになぁ…」

 

「…今までの私は忘れて頂戴…あんなのは私の姿をした偽物よ」

 

「ハハッ、そんだけ元気ならもう一人でも大丈夫そうだな。ギルドへの報告は俺がやっとくから、お前さんはここらで国に帰ったらどうだ?」

 

するとパメラはきょとんとした顔でこう尋ねた。

 

「え?ラクサスについてっちゃダメ?」

 

まるで思いもよらなかった一言に、ラクサスは思わず吹き出してしまった。

 

「いやいやいやなんでだよ!?もう俺についてくる必要なんざないだろ!?」

 

「だって今までの話の流れだとてっきりそうなるものだとばかり…」

 

「その理屈はおかしい!大体他国の人間がよその国をうろつくのは問題あるだろ!」

 

「えー、フィオーレはその辺り大分ユルイ国だって聞いてるわよ?私も今は帝国に戻る気なんてないしね」

 

「なんでだよ!お前の母国だろうが!」

 

「今帝国で幅利かせてるのってエルカーエスなのよね。私あの連中とはそりが合いそうにないし、帝国自体にももう未練は無いしね」

 

「だからってなぁ…」

 

そうぼやくラクサスの言葉を遮り、パメラは言葉を続ける。

 

「…それにね、恩を受けたままさようなら、ってのは私のプライドが許さないわ。少なくとも私を立ち直らせてくれた恩を返すまでは、私はラクサスについていくつもりよ。これは私自身の問題でラクサスは関係ないわ」

 

はっきり言って無茶苦茶な理屈だが、どうやらパメラは絶対に引く気はないようだ。ラクサスは大きなため息を一つついてこう言った。

 

「…はぁ~、わかったよ。お前さんの好きにしな」

 

「ふふっ、ありがとうラクサス」

 

「言っとくがついてきたところで面白いようなもんは何もねぇぞ?」

 

「別にそんなの期待してないわよ。でも淋しい一人旅よりも、道連れが誰かいた方が旅は楽しくならない?」

 

そう言ってパメラが微笑む。そんなパメラを見てラクサスは頭を掻きながらこう思った。

 

(やれやれ…ちょっとしたお節介のつもりがエライもん連れてきちまったな…これから何度こうやって頭を掻く羽目になるのかねぇ…)

 

そう思いながらも、ラクサスはこれからの旅路に若干心を躍らせていた。




なんでこんなに延び延びになったのか…それもこれも白蛇の5兄弟が妙に粘りやがったからだ。パメラ復活のための捨て石の分際で…!

今後の予定ですが、とりあえず本編合流まではもう1エピソード挟みます。それが終わったらいよいよグリモア編(ラストのみ)です。そこでようやく妖精メンバーと本格的に絡みます。まだもうチョイ待っててね。

さて次回ですが、ようやくパメラク以外の原作キャラが登場します(どっちのとは言ってない)。あくまでゲストキャラですのでパメラクパーティに入ることはありませんが、まぁ程々に期待しつつお待ちください。

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