では、続きをどうぞ
「さて、そろそろギブロックに着くな…ん?」
ギブロックの村に近づいてきたラクサス達が異変に気付いた。進行方向から煙が何条か上がっているのだ。あれは焚き火や火事の煙の上がり方ではない。
「あれってもしかして…!」
「何か良くない事が起きてるのかも知れねぇ。急ぐぞ!」
二人は大急ぎで村に向かって走り出した。
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ラクサス達が着いたギブロックの村は狂乱に満ちていた。依頼書にあった山賊達が襲撃をかけてきたのだ。村の各所からは煙が上がり、食料や金品は根こそぎ奪われ、若者たちは奴隷として男女問わずに捕らえられていた。その事態に二人、特にパメラは激しく憤慨する。
「あいつら…!」
「山賊どもは俺がやる!パメラは村民たちの救助と避難誘導に当たってくれ!」
「わかったわ!」
応えてパメラは駆け出した。今のパメラならば雑魚の山賊どもには遅れは取らないだろう。ラクサスもまた山賊達が多く集まっているところに向かって駆け出した。
「目ぼしいモンはどんどん狩り取れ!容赦なんてするんじゃねぇぞ!」
中央の広場には多くの山賊達が屯していた。ここを潰せば村中に散らばっている山賊達の動きも鈍るはず。そう判断したラクサスは広場に奇襲を仕掛けることにした。
「こいつで一網打尽にしてやらぁ!」
広範囲に雷撃をばらまく魔法を広場に叩き込む。その一撃で広場の山賊達は大半が行動不能になる…が、中央辺りにいた茶髪と赤髪の山賊は平然としたままだった。
「てめぇ…やってくれやがったな…!」
「ヒャハハ!一人で俺たちの相手をしようなんざ命知らずな奴だぜ!やっちまおうぜ兄貴ぃ!」
茶髪の方が怒りを込めた目で、赤髪の方は嘲笑しながらラクサスを見る。どうやらこいつらが例の5人兄弟の内の二人らしい。
「てめぇ、
茶髪の侮蔑の篭もった台詞にも、ラクサスは平然として答える。
「フン、今までの連中と一緒にすんなよ?お前ら如き俺一人で充分だ」
「よく言った!俺の名はガルヴァ!こいつは弟のゾッドだ!俺たち“
そして戦闘が始まった。
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「はぁっ!」
裂帛の気合いと共に女性を連れ去ろうとした山賊を切り伏せる。今のパメラは山賊の一人から奪った剣で戦っている。主に村民を連れ去ろうとする山賊を中心に相手取り、一人ひとり確実に救出していく。
「早く安全なところに避難して!連中は私が引き受けるから!」
「あ…ありがとうございます…!」
お礼を言いながら女性は避難する。せっかく捕らえた奴隷を逃がすまいと山賊達が群がるが、パメラの妨害によりそれは叶わない。
(でも…こんなことで一体何人の人が救えるのか…私がこの聖剣を使えたら…!)
パメラの魔法は聖剣ヴァイスジルバーを介して発現する。聖剣が使えないということはパメラは魔法を使えないのと同じなのだ。この聖剣が使えたらあんな山賊どもなどあっという間に殲滅出来るのに――そんな思考がパメラを覆う。
(…っ!今は余計なことを考えない!村の人たちを救出することに専念しなくちゃ…!)
頭に浮かんだ弱気な考えを振り払い、パメラは村民を救うために駆け出した。
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「ジャイアント・ハンド!」
茶髪の山賊――ガルヴァの声と共に地面から巨大な岩の腕が現れる。その腕を使いラクサスに強烈な一撃を加えようとする。
(思ったより速えぇ…だが喰らわねぇよ!)
その一撃を潜り抜け、一気にガルヴァの下に駆け始める。だが
「
突如放たれたガルヴァからの魔法に、ラクサスは一瞬驚き咄嗟に回避する。そこに先ほどの岩の腕が迫ってくる。
「ちぃっ!」
その一撃も紙一重で回避する。体勢を立て直すために大きく距離を取る。
(遠隔操作系の魔法は発動中は他の魔法を使えないのが基本だ…確かに相当な腕前のようだな)
ラクサスは相手の実力を冷静に分析する。そこに
「兄貴に気ぃ取られてんじゃねぇ!派手に燃えちまいなぁ!」
赤髪の山賊――ゾッドが多数の炎弾を放つ。その攻撃もうまく回避すると同時にゾッドに向けて雷撃を放つ。
「させるか!」
ガルヴァがゾッドの前面に岩の壁を生み出して雷撃を防ぐ。即座にゾッドが壁の後ろから飛び出し炎の蛇を生み出し、放つ。
「プロミネンススネーク!そいつが絡み付いたら燃え尽きるまで離れないぜぇ!」
「ンな事言われて誰が捕まるか…!」
「無論ンな事思ってねぇよ!本命はこっちだ!」
炎の蛇の回避に気を取られてしまい、岩の腕に対しての反応が遅れてしまう。その巨大な拳がラクサスに叩き込まれる。
「ヒャハッ!潰れた潰れたぁ!すり潰してミンチになっちまったぁ!」
その様子を見たゾッドがイかれた叫びをあげる。だが…
「…生憎だったな。誰も潰れちゃいねぇよ」
「なっ!」
岩の下からのラクサスの声にガルヴァが驚きの声を上げる。同時に強烈な雷が岩の腕を木端微塵に粉砕した。
「…なかなか重い一撃だったが、あんなんで潰れるほど柔な体はしてねぇんでな」
「……ふん、確かに今までの連中とは格が違うようだな…ゾッド!」
「ヒャッハァ!やっちまうか!?俺たちの切り札使っちまうか兄貴ぃ!」
ゾッドがガルヴァの近くに移動し二人が地面に手をつく。途端に二人の魔力か大きく高まっていく。
(
あまりの事態にラクサスが驚愕する。それをよそに二人は術を完成させる。
『其の豪腕は全てを灼き尽くす巨人の鉄槌…ジャイアント・ハンド・レッド!』
二人が生み出したのは先ほどの腕を遥かに上回るほど巨大な溶岩の腕だった。その腕が先の岩の腕を上回るスピードでラクサスに襲い掛かる。
(さっきよりもずいぶん速い…さすがに切り札というだけの事はある…!)
その腕を回避しつつけるラクサスだったが、なかなか反撃の糸口を掴めない。
「ヒャハハァ!ただ逃げ回るだけかぁ?無様だな雷野郎ぉ!」
「生憎こいつはただ殴りつけるだけだったジャイアント・ハンドとは違う!行け!」
溶岩の腕から無数の溶岩弾が放たれる。その弾も何とか避け続けるラクサスだったが、一瞬体のバランスを崩してしまう。
「トドメだ!」
その隙を逃さずに溶岩の腕が渾身の一撃を叩き込む。途端に溶岩がラクサスの体を完全に包み込んでしまう。
「ヒャハハハハァ!燃~えた燃えたぁ燃え尽きたぁ!雷野郎は溶けちまったぁ!」
「…フン、確かになかなかの腕前だったが、所詮俺たち兄弟の敵じゃあ「――言いたい事はそれだけか?」…何?」
突然の落雷。その落雷が広がっていた溶岩を完全に吹っ飛ばし、その中から“雷神”が姿を現した。
「…ったく、お気に入りの上着が燃えちまった。――落とし前はつけてもらうぞ」
そう言い放つラクサスに二人は気圧されてしまう。ガルヴァが隠し切れない焦りを滲ませてラクサスに問いかける。
「まさか…俺たちの切り札がきいてねぇのか…!?」
「いや、正直面食らったぜ。まさかお前らが
そう答えてラクサスがゾッドの方へ突っ込んでいく。ゾッドはこれまでの態度から一転して情けない悲鳴を上げる。
「ヒィッ…!」
怯えるゾッドの顔面に拳を叩きつけ、吹っ飛ばされたゾッドに追撃の雷を食らわせる。ゾッドは碌な抵抗もできなかった。
「…チッ、あっちはさっさと逃げやがったか。弟見捨てて薄情な奴だ」
その一瞬をついてガルヴァはさっさと離脱していた。ガルヴァが逃げ出すのを見た残りの山賊達も我先にと逃げ出していく。
「どうやら何とか片付いたか」
山賊達の気配が消えたことでラクサスも安堵する。しかし同時に懸念もあった。
(…この二人の実力は確かに相当なもんだった。話によると5人兄弟らしいから、あのレベルの奴を少なくともあと4人は相手しなくちゃならんってことか…ちぃと厳しくなりそうだな…)
その懸念を胸に抱え、ラクサスはパメラと合流をしに向かった。
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“
「…で、お前はゾッドを見捨てて一人逃げ出してきたってわけか…」
痩身の男がガルヴァを見下している。ガルヴァはその威圧感にただひたすら頭を下げ続けるばかりだ。
「ほ、本当にすまねぇ兄貴。正直俺じゃゾッドを救える気がしなかった…あの雷野郎強すぎるぜ…」
ガルヴァはただただ弁明を行っていた。痩身の男の隣にはそれぞれ大柄で筋肉質な男と、右頬に傷のある男が控えている。大柄な男が痩身の男に話しかけた。
「兄貴!四の五の言わずにもう一度攻め込もうぜ!ゾッドの敵討ちだ!」
「落ち着いてくださいミストラル。ゾッドが死んだと決まったわけではありませんよ」
傷の男が大柄な男――ミストラルを窘める。痩身の男が言葉を紡いだ。
「…そいつは
「だけどそれじゃよぉ…」
「…無論ただ相手を出迎えるってわけじゃねぇ…あいつがここに来たら………」
痩身の男が淡々と語る。その場にいた全員が息を呑む。
「な、なるほど…さすが兄貴だ…」
「あの村にももう用はありませんからね。そろそろ新しい狩場を探さないといけませんね」
「あの村には見張りを立てておけ…いつでも行動に移せるようにな…」
そうして痩身の男を残して全員が散っていった。残された男は独り呟く。
「…しかし相手は雷使いか…ククッ、俺とは相性がいいなぁ…」
痩身の男は薄く笑った。楽しい獲物を見つけたと言わんばかりに―――
バトルを書くのは難しい…そしてパメラの完全復活はいつになるのか…