黒十字と雷の妖精   作:ジェネクス

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出会い

(―――おまえを破門とする)

 

 

 

祖父であり妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドマスターでもあるマカロフからそう告げられ、ラクサスは帰る家を失った。

 

その気になれば帰る事も出来たのかもしれない。しかしラクサスは今更フェアリーテイルに残る気にはなれなかった。

 

(…今は、あいつらに会わせる顔がねぇからな…)

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)を最強のギルドにする―――己が力の自負と渇望から、彼はフェアリーテイル全体――マグノリアの町全域も巻き込んだ大抗争を引き起こした。

 

フェアリーテイルの女性陣を人質に取り、弱者をふるい落とすために仲間内で争わせ、神鳴殿を用いてマグノリアの町すらも破壊しようとする暴挙を見せつけ―――

 

破門で済ませたのはむしろマカロフの温情とも取れる措置であった。その事をラクサスはよく理解している。だからこそ彼はフェアリーテイルに戻るつもりはなかった。

 

今は一人で自らの在り様を見つめなおす。そうしなければ自分はあいつらの“家族”にはなれない―――その思いからラクサスは独り孤独な旅を続けていた。

 

 

 

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(…?何の騒ぎだ?)

 

旅の途中、ラクサスは騒ぎの音を聞きつけた。現場に駆けつけると、野盗と思しき連中と赤髪の少女が大立ち回りを演じている。少女の動きが酷く乱れているのが気にはなったが、見たところ実力差は歴然と言った感じで、野盗共は少女に次々と打ち倒されていた。

 

手助けは無用か――そう思った矢先に少女の体が縄に絡め取られる。どうやら野盗の中に魔導師がいたらしい。身動きの取れなくなった少女に野盗が次々と群がっていく。

 

(…やれやれ、俺もお人よしになったもんだ)

 

見たからには放っておくこともできない。ラクサスは嘆息しながらも少女に手を伸ばした野盗に雷撃を食らわしたのだった。

 

 

 

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「なっ、なにしやがんだてめぇ!」

 

「とりあえずはてめぇらの邪魔だな。いちいち御託は言わねぇからさっさとかかってこい」

 

「舐めやがって!構わねぇ、やっちまえ!」

 

野盗たちが一斉にラクサスに襲い掛かる。ラクサスは最初に来た相手を強烈な手刀で叩き伏せると、群がってくる野盗を鉄拳の一撃で次々と吹っ飛ばしていく。

 

「話にもならん雑魚共だな。俺とやり合いたいならせめてその100倍の人数を連れてきな」

 

そう言い終わった矢先に、ラクサスの体に縄が絡み付く。例の魔導師の魔法だ。

 

「バインド・トリック!これでてめぇの体はピクリとも「…ふんっ!」…は?」

 

ラクサスの体が一瞬放電し、縄が黒焦げになって崩れ落ちる。呆然とする相手にゆっくりと近づき、強烈な頭突きを食らわして昏倒させる。

 

「ちっ近づくんじゃねぇ!来たらこの女をぶっ殺す!」

 

生き残った一人が縄に絡め取られたままのパメラにナイフを突きつける。そんな野盗をラクサスはつまらなさそうに見つめていた。

 

「…やってみろ。出来るもんならな」

 

「ハッタリだと思ってんのかぁ!殺すっつったら本当に殺すぞ!」

 

野盗がパメラの首を掻き切ろうとした瞬間、ラクサスの姿が消える――と思った瞬間には、野盗の顔面にラクサスの拳が叩き込まれていた。

 

 

 

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「ふん、つまらんな。軽いウォーミングアップにもなりゃしねぇ」

 

そう吐き捨てながら、ラクサスはパメラに近づき縄を引きちぎる。パメラの表情はまだ放心したままだった。

 

「ほれ嬢ちゃん、もう終わったぜ」

 

そう声をかけるもパメラは応えない。時折何かをぶつぶつと呟いており、完全に心ここに非ずといった感じだ。ラクサスは頭を掻きながらも問い続ける。

 

「何があったかは知らねぇが、そんな様じゃ一人旅なんて無理だ。悪いことは言わねぇから、故郷に帰った方が身のためだぞ」

 

「………」

 

やはりパメラは応えない。何の反応も無いのでラクサスは強引に彼女の手を取り立ち上がらせる。

 

「なんにせよここでボーっとしてたらまた性質の悪い連中に絡まれるぞ。確か近くにフォードの街があったから、とりあえずそこまで送ってってやるよ」

 

「………」

 

やはり無反応ながらも、パメラは自分の足で立ちあがった。やれやれとため息をつきながらパメラの手を引いて歩き出す。

 

「そういやぁいつまでも嬢ちゃんって呼ぶのもあれだな。名前はなんていうんだ?」

 

「………」

 

やはり無言のまま。元から期待していなかったと歩き続けると、やがて彼女が小さく呟いた。

 

「……………パメラ」

 

「パメラ?それが嬢ちゃんの名前か?」

 

「………」

 

無言ながらもパメラは小さく頷いた。少しは調子が戻ったかと安堵しながら、二人はフォードの街に向けて歩き続けた。

 

 

 

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フォードは山間部にありながらも大きな川と湖を有し、それを利用した水運により大きく発展した町である。大通りには多くの人の往来があり、行商の声がそこかしこから上がっている。

 

日が山に入りそうな時刻になったころ、ラクサスとパメラの二人はフォードの街にたどり着いた。

 

「ここまで来りゃもう大丈夫だろ。それじゃあ俺は行くぜ」

 

そう言って去ろうとするも、パメラはラクサスの手を握ったまま話さない。ラクサスは怪訝な顔をしながらも問いかける。

 

「…どうした?まだなんか用でもあんのか?」

 

「………」

 

無言のまま手を握り続ける。その体は小さく震えており、まるで親に置いて行かれるのを怖がる子供のようであった。

 

「…やれやれ、まぁ急ぐ旅でもねぇし、もうちょい付き合ってやるか」

 

そう言って再びパメラの手を引いて歩き出す。今日はもう遅いので泊まる宿を探さなければならない。ラクサスは適当な宿を見つけて中に入った。

 

「ようこそいらっしゃいました!お部屋はいかがいたしましょうか?」

 

「あーっと、とりあえず一番安い部屋を二部屋…」

 

ラクサスの手を握る力が強くなる。若干困った表情になりながらも訂正する。

 

「…やっぱ一部屋でいい…」

 

「かしこまりました!ベッドは一台でよろしかったですね?」

 

「……二台用意してくれ……」

 

ニヤニヤと笑いながら(客商売としてどうかと思うが)そう問いかける女将に、ラクサスはげんなりしながらもそうツッコんだのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「ふぅん、値段にしちゃいい部屋じゃねぇか」

 

ラクサスはそう呟いて手近な椅子に腰かける。だがパメラが座ろうとしない。ラクサスの隣に突っ立ったままだ。

 

「ほれ、突っ立ってねぇで適当に座れや」

 

ラクサスが手近な椅子を用意してやるとようやくパメラも腰かけた。

 

「…で、パメラよ。一体お前さんに何があったんだ?」

 

と、二人が椅子に座ったところでラクサスが本題を投げかける。

 

「野盗に襲われたのがショックだった…ってわけじゃないよなぁ?お前さんの立ち回りを見るにンな事で呆然自失になるようには思えねぇ。それより以前になんかトラウマになるような事でもあったんだろ?」

 

パメラの体がビクリと震える。ラクサスはやっぱりか、と思いながらこう続ける。

 

「俺に何か出来るなんて言わねぇ。所詮会って一日にもならねぇ他人だ。だが親しい人間には言えねぇ悩みってのもあるもんだ。そんな悩みをなんでもねぇ他人にぶちまけりゃ、少しはお前の気も晴れるんじゃないか?」

 

「………」

 

パメラはしばらく無言だったが、やがて小さな声が漏れ出た。

 

「……私は………」

 

ラクサスは敢えて催促せずに言葉が紡がれるのを待ったが、パメラはそれきりまた黙りこくってしまった。ラクサスは嘆息しながらもこう言った。

 

「…ま、どうしても言いにくいってんなら無理には聞かねぇ。とりあえず今日はもう休め。一晩眠っちまえば頭もある程度すっきりすんだろ」

 

ラクサスは部屋の明かりを落としてベッドに入った。パメラがちゃんと眠るのか少々不安になりながらも、ラクサスは眠りに落ちていった。




次回はパメラの過去及びRKSシリーズの概略を入れる予定です。
とはいってもパメラ視点でのお話になるので実際の内容とは若干異なってますし、パメラの過去で曖昧な部分は捏造設定を入れるのでそこはご容赦ください。

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