黒十字と雷の妖精   作:ジェネクス

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ティアの甘さ

「雷竜の顎!」

 

ラクサスの雷を帯びた拳の一撃により合成獣(キメラ)が倒れ伏す。雷耐性を持つ相手だったこともあり少々手こずったものの、ラクサスは合成獣(キメラ)の殲滅に成功していた。

 

「ふぅ、こいつで終わりか…しかしこりゃあ一体なんだ?いきなり夜になった、ってわけじゃねぇはずだが…」

 

自身の周囲が突如闇に包まれたことにラクサスも困惑する。そこにパメラが合流してきた。

 

「ラクサス!…どうやら無事みたいね」

 

「あぁ、お前さんも大事無いようだな。…しかしこいつは一体何が起きてやがんだ?」

 

パメラの無事にとりあえず安堵しつつ、ラクサスは今のこの事態の疑問をぶつける。パメラは顎に手を当てて思案しながら答えた。

 

「私もよくわからないけど…この感じ、どうも旧伯爵城の雰囲気に似てるわ」

 

「旧伯爵城?それってゼッペリン伯爵の城ってことか?」

 

「えぇ、ゼッペリン伯爵は闇を操る魔法が使えたんだけど、その膨大な魔力は伯爵城周辺を永遠の闇で覆うほどだったのよ。伯爵が死亡した今もその残滓で伯爵城周辺は未だに闇に覆われたままらしいわ」

 

「そりゃまたとんでもねぇ話だな…しかしその伯爵城周辺と同じ雰囲気がするってことは…」

 

「…えぇ、推測だけど多分あの子だと思うわ」

 

ラクサスの言葉にパメラも肯定の意を示す。伯爵は既に死亡しているためこの魔法を使うことはありえない。となると残るはこの魔法を使い得る別の誰かの可能性――

 

「…ティアしか考えられねぇよな…」

 

「スピリティアは先の“魔女の夜”で、実際に伯爵と交戦してるわ。その際に伯爵の魔力を奪っていたとしても不思議じゃない」

 

「しかしそんな魔力を使うなんて、ひょっとしてティアの奴苦戦してんのか?正直言って想像つかねぇが…」

 

「わからないわよ。相手は強敵の上に何してくるかわかんない奴だから、予想外の攻撃に追い詰められているのかも…」

 

そんなパメラの口ぶりに疑問を感じたラクサスが尋ねる。

 

「その口ぶりだとティアの戦闘相手に心当たりがあるようだが、何か知ってることでもあんのか?」

 

「えぇ、相手はおそらく私の元同僚よ。名前はシェラハ。一瞬だったけどあの顔と馬鹿力、持ってた馬鹿でかいハンマーとくればまず間違いないわ」

 

「元同僚って、相手は黒十字の一員だったのか?」

 

「あんまり仲は良くなかったけどね。…あの女、普段はまるで働かずに酒飲んでるばっかだし、教皇様の命令を無視して勝手にバトルしに出かけたり…あいつの勝手な振る舞いに私やレヒトがどれだけ苦労したことか…!」

 

何やら話が脱線してきたのでラクサスが軌道修正をする。

 

「…まぁ、そいつが色んな意味でとんでもねぇ奴だってのはわかった。そんな奴とやり合ってるとなると確かにちょい心配にもなってくるな」

 

「まぁスピリティアなら心配することも無いと思うけど、相手が相手だしね…これほど強力な魔力なら辿っていくのは難しくないわ。急ぎましょう」

 

そう言ってパメラとラクサスは魔力を辿りティアの下へ駆け出して行った。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「それじゃあ見せてもらおうじゃないの…伯爵の魔力ってやつをね!」

 

戦鎚を構え直してシェラハはティアに突進していく。しかしその出鼻をティアが挫く。

 

「地獄の炎よ!」

 

ティアの周囲に凄まじい炎の嵐が巻き起こり、周辺の木々を一瞬で焼き払う。シェラハは咄嗟に距離を取って難を逃れたが、ティアの予想外の行動に少々驚いているようだ。

 

「…随分と思い切ったマネするわねぇ。よその国の森を焼き払っちゃったりしたら問題あるんじゃないのぉ?」

 

シェラハの挑発めいた言葉にもティアは不敵な顔で答える。

 

「問題ないよ。この森を焼き払ったのはギドの仕業ってことになるからね!」

 

シェラハはその回答に一瞬呆気にとられた後、実に愉快そうに顔を歪めた。

 

「…へぇ、しばらく見ないうちに黒い事も考えられるようになったのねぇ…お姉さん嬉しいわ!」

 

シェラハが笑いながら近くの樹を引っこ抜いてティアに投げつける。ティアは慌てずその樹を炎で燃やし尽くす。

 

「さぁ、潰れなさい!」

 

シェラハはその樹の陰に隠れて跳躍し、上空からティアを叩き潰そうとする。しかし

 

「光よ!」

 

ティアがその身を光に変えてワープしてしまいシェラハの一撃は盛大に空ぶってしまう。更にシェラハが思い切り叩いた地面から巨大な火柱が立ち上る。

 

「うわっちっちっちぃ!」

 

その炎の直撃を受けたまらず飛び退くシェラハ。しかしティアは既に次の行動に移っていた。

 

「闇よ!」

 

言葉と同時にシェラハの周囲に闇が生まれる。抵抗する間もなくシェラハは闇に呑みこまれた。

 

(…これは、ただの闇じゃない…五感を遮断する結界…!このままじゃまずい…!)

 

シェラハがそう警戒する間もなく、シェラハの足元から猛烈な炎が立ち上る。五感を封じられていたシェラハにとっては完全に奇襲に等しく、成す術無くはるか上空に吹き上げられた。

 

「…これで、終わりだよ!」

 

上空に舞い上がり身動きの取れないシェラハの背後にワープしてきたティアは、そのシェラハに向かって巨大な火球を撃ち放った。その炎に身を焼かれながらシェラハは地面に叩きつけられた。

 

「ガハァッ!」

 

地面に叩きつけられた衝撃で血を吐くシェラハ。何とか身を起こそうとするもうまく体に力が入らない。

 

「…まだ続ける?これ以上は本当に命にかかわるよ?」

 

地面に着地したティアがそう語りかける。これ以上の戦闘は本意ではないが、まだ向かってくるのならば容赦はしないといった目をしている。

 

「……それは正直御免したいわねぇ。死ぬこと自体は別に怖くはないけど、死んじゃうのは困るのよ。もう戦えなくなっちゃうからねぇ」

 

そう言ってシェラハは仰向けに寝転ぶ。その姿を見てティアもようやく戦闘態勢を解除した。

 

「…この勝負は私の勝ちだね。今回は私の事に従ってもらうよシェラハ」

 

髪の色が元に戻ったティアがそう宣言する。同時に森一帯を包み込んでいた闇も晴れる。

 

「しかし随分と派手にやったわねぇ。そこら中にあなたの放った炎が燃え移ってるわよ。このままじゃでかい山火事になるんじゃないの?」

 

「私だってその事はちゃんと考えてるよ」

 

ティアの髪の色がピンク色に染まる。それと同時に周囲の気圧が急激に下がっていく。

 

「リーベスシュトゥルム!」

 

たちまち猛烈な嵐が巻き起こり、燃え広がろうとしていた炎を鎮火していく。その様子を見ていたシェラハが呆れ声で呟いた。

 

「…やれやれ、本当に何でもアリねぇあなたは。それってリーベアの魔法でしょう?」

 

「…この力は正直あんまり好かないけど、有効活用できるならしていかなきゃね」

 

ティアは自嘲気味にそう呟く。その髪の色は既に金に戻っていた。

 

「…やれやれ、私がエルカーエスを出たときはまだガキもいいとこだったのに、いつの間にか私をここまで圧倒するようになってたとはねぇ。お姉さんちょっとショックだわ」

 

「シェラハが出ていった時って私はまだ12やそこらだったじゃないの…その時と一緒にしてもらったら困るよ」

 

そう言って苦笑するティア。昔の話が出てきて多少緊張もほぐれたようだ。

 

「さ、リリィのところに案内してもらうよ。もう嫌とは言わせないからね?」

 

「わかってるわよ、そう急かさないでちょうだい。あなたにこっぴどくやられて起き上がるのもつらいんだからね」

 

暗に起きるのを手伝え、と言っているシェラハにティアは苦笑しながら手を差し伸べる。

 

「もう、仕方ないなぁ。…ほら、手に捕まって」

 

そうして差し出された手にシェラハも腕を伸ばす、が次の瞬間、弾かれたように起き上がりそのままティアの喉を鷲掴みにした。

 

「…っ!か…はっ…!」

 

「フフフ…ちょっとは成長したかと思ったけど、その甘すぎる性格は本当にいつまでたっても治らないわねぇ…さっきまで本気で戦ってた相手にそんな無警戒に近寄っちゃダメじゃないの。たとえ相手が元仲間だったとしてもねぇ」

 

そう笑いながらティアの喉を締め続けるシェラハ。ティアは喉を握りつぶされまいと必死に抵抗している。

 

「まぁそういうところもあなたの可愛いところだと思うけどね。どうしても相手を信用しちゃおうとするところ…人としては美徳かもしれないけど、戦いの場においては害にしかならないから気をつけなさいな」

 

そう言ってシェラハは手を放す。と同時に持っていた戦鎚を大きく振りかぶり――

 

「さぁ、お星さまになりなさい!!」

 

ティアを思いっきりぶっ叩いた。ティアは先ほどの一夜を遥かに超えるスピードで彼方に飛ばされていってしまった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「アッハハハ♪よく飛んだわねぇ♪」

 

愉快そうにそう笑うシェラハは、続いてやってきた乱入者に目を向ける。

 

「まさか…さっきのはティアか…!」

 

やってきたのはティアと合流しようとしてきたラクサスとパメラだった。そのラクサスが一連の流れを見て驚きの声を上げる。

 

「シェラハ!さっきはよくもやってくれたわね!」

 

パメラはシェラハに向かって怒りの声を上げる。それをシェラハは笑って受け流している。

 

「フフッ、久しぶり…ってわけでもないわねぇパメラお嬢様。そっちのワイルドな男の人は初顔合わせになるわよね?私はシェラハ・フューラーよ。よろしくね」

 

にこやかにそう語りかけるシェラハ。ラクサスはそれに構わずシェラハに問いかける。

 

「てめぇ…ティアに何しやがった!」

 

「何って、見ての通り思いっきり吹っ飛ばしたんだけど?」

 

「まさかあなた一人でスピリティアを倒したっていうの!?あのスピリティアがこうもあっさり…!」

 

「簡単ではなかったわよ?流石にスピリティアは手強かったわ。でもあの子も結局のところ私には勝てなかったってことよ。ほら、私ってば超強いじゃない?この私の手にかかればエルカーエス最強といえどもこの通りってわけね。アハハハハ♪」

 

尚も笑いながら語るシェラハに対し、パメラは業を煮やしたという感じで語りかける。

 

「だったら次は私たちが相手してあげるわ。とってもお強いシェラハ様は2対1だからって文句は言わないでしょう?」

 

そんなパメラをシェラハは笑って受け流す。

 

「うーん、心情としては是非ともお願いしたいんだけど、ティアとの戦闘で流石にこっちのダメージもでかいからねぇ。今回はパスさせてもらうわ」

 

「逃げる気なの!」

 

「どうしてもやり合いたいってのならギドのラボまで来なさいな。そのための地図はあげるわよ。それさえあればこの森の中でもそう迷わずにラボまで辿り着けるわよ。それじゃあ待ってるわ♪」

 

そう言ってシェラハはパメラに地図を投げつける。二人がそれに気を取られた一瞬にシェラハの姿は消えうせていた。

 

「逃がすかよ…!」

 

「やめときなさいラクサス。シェラハが本気で逃げたらまず追い切れないわ。それよりもギドの研究所で待ってるっていうんだから、素直にそっちに行った方がいいと思うわ」

 

シェラハを追おうとするラクサスをパメラが制する。ラクサスは歯痒そうにしながらもパメラに尋ねた。

 

「ギドのラボで待ってる、か…信用できるのか?その地図」

 

「多分ね。シェラハはこういったことでは嘘はつかない。あいつの行動原理ってなんだかんだでわかりやすいからね。だからこの地図も多分本物よ」

 

「そうか、ならお前を信じよう。それでティアは…」

 

「…どこまで飛ばされたかわからない以上、スピリティアの捜索は時間がかかりすぎるわ。あまり時間をかけすぎるとリリィって子の身が危うい。ここはスピリティアの無事を信じて、私たちはギドのところへ行くのが最善だと思うわ」

 

「…そうだな。あのティアがそう簡単にくたばるわけねぇか。だったらさっさとギドとシェラハって野郎をぶちのめしに行くか…!」

 

そう結論付けて二人はギドの研究所へ向かうのだった。




シェラハ様って割と勝つための手段を選ばない感じがします。本人としては勝ち負けそのものにはこだわらないけど、それでも勝つためには不意討ち騙し討ち何でもありみたいな感じがグッドだと思うんですがどうでしょう?

次回はRKSキャラの設定やらを軽く紹介します。一応要望もあったことだし、話の方も一区切りついたので。

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