黒十字と雷の妖精   作:ジェネクス

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シェラハ強襲

「…ねぇパメラさん、さっきはありがとうね」

 

ギドのアジトへ向かっている途中、ティアが唐突にそんなことを言い出した。

 

「ふん…何よいきなり…」

 

相も変わらずそっけない態度で答えるパメラ。ティアは構わずに話を続ける。

 

「さっきの私、リリィが捕まっちゃったかもしれないって思ってすごく動揺してたから…本当は私が一番冷静にならなきゃいけないのに、頭に血が上っちゃってて…あの時パメラさんが一喝してくれなかったら、私は当てもなく飛び出して行って、結局また迷子になっちゃったかもしれないから…だから、ありがとう」

 

「…ふん、あの時あなたが勝手に飛び出して行って、万一他の誰かに見つかったとしたら、帝国にもフィオーレにも迷惑かかるかもしれないじゃない。それを止めただけよ」

 

パメラの態度は変わらずキツいものの、先ほどまでの突き放すような感じは見受けられない。そう思ったティアはもう一度問いかけてみる。

 

「…パメラさん、元黒十字のあなたが、エルカーエス所属の私を嫌うのは何となくわかるよ。それでももう、エルカーエスと黒十字が嫌いあう理由なんてないと思うんだ。勝者の驕りだ、なんて思われちゃうかもしれないけど、それでも人と人が嫌いあうなんて、やっぱり悲しいから…だから、私はパメラさんを受け入れたいし、パメラさんにも私を受け入れてほしい」

 

「……………」

 

「…ダメ、かな…?」

 

そんなティアの問いにしばらく沈黙を続けていたパメラだったが、やがて重い口を開いた

 

「………パメラよ」

 

「え…?」

 

「あなたにさん付けで呼ばれるのってなんか変な感じがするの。だからパメラで構わないわ…スピリティア」

 

「…うん!これからよろしくねパメラ!」

 

そう言って笑うティアに対し、パメラは照れ臭そうにそっぽを向いた。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「この森の奥にギドのアジトがあるのか…?」

 

森の中の獣道を歩きながらラクサスが一夜に尋ねる。

 

「えぇ、ギドの郎党がこの森に頻繁に出入りしておりましたので、そのうちの一人を捕らえて尋問してみたところ、どうやらこの森の奥の洞窟を研究施設に改造しているようです」

 

「なんだってわざわざこんなところに…」

 

「さて…理由は私も存じ上げませんが、大方この辺りに清浄な水や魔力が流れ込んでいたり、あるいはアカデミーの監視を逃れるためとか、そんなところでしょうな」

 

ラクサスの疑問に一夜も若干自信なさげに答える。と、その時全員が異変を感じてその場を飛び退いた。

 

『ゴガアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

その直後、木々をなぎ倒して異形の怪物が姿を現す。シルエットだけは狼に似てなくもないが、体の各パーツは狼には程遠く、更には体高も2m以上ある。

 

「こいつが例の合成獣(キメラ)…!?」

 

パメラが驚きながら剣を構える。が、その直後にラクサスの雷が合成獣(キメラ)を狙い撃つ。

 

「レイジングボルト!」

 

ラクサスの雷に撃たれ合成獣(キメラ)は声も上げずに倒れ伏す。動く気配はないのでどうやらこの一撃で仕留めたようだ。

 

「…割とあっけなかったわね」

 

拍子抜けしたパメラがついそんな呟きを漏らす。

 

「流石はラクサス殿、お見事です」

 

「何、大したことじゃねぇ…しかしこんなもんがいきなり飛び出てくるとは、どうやらこの森の奥が本命ってのは間違いないようだな」

 

「みたいだね。じゃあみんな急ごう!リリィがここにいるのかどうかだけでも確かめないと…!」

 

そうティアに急かされ、一行は森の捜索を再開した。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「あらら、あっさりやられちゃったわねぇ」

 

その様子を偵察用の合成獣(キメラ)を通してみたシェラハはそんなことを呑気に呟いた。

 

「404号型は量産型の中でも最強の合成獣(キメラ)…並みのギルドのS級程度では相手にならないくらいの性能は備えていたはずですが…」

 

同じく様子を伺っていたギドも、少々驚いた様子で呟く。

 

「まぁ何となく予想はついてたけどね。例の化け物ちゃん程じゃなくても、他の3人もかなりの実力の持ち主みたいね。まぁそのうちの一人は知ってるんだけど」

 

「ふむ、他にも知り合いがいらっしゃるのですか」

 

「えぇ、あの赤髪の女の子。彼女も私と同程度の実力者だから注意が必要ねぇ。他二人は知らないんだけど、どっちも侮れない相手であることは間違いなさそうねぇ。…フフフ、全員私が頂いちゃいたいくらいだわ」

 

そう言って舌なめずりをするシェラハ。中々狂気的な印象を与えるがギドは特に気にしなかった。

 

「私としては是非ともそうして頂きたいところですね。研究成果を徒に浪費するのは本意ではありませんから」

 

「いや~、さすがにあの4人全員を一辺に相手取るのはこの私とても無理だわね。だから当初の予定通り私はスピリティアだけ相手にするわ。あの子さえ抑えておけば他はまぁ何とかなるでしょ」

 

「しかしあの4人が分かれて行動する様子は今のところありません。一体どうするつもりですか?」

 

そんなギドの問いに対し、シェラハは実にあっけらかんと答えた。

 

「フフン、要は無理やり引きはがせばいいだけよ。まぁそれは私に任せときなさいな」

 

そう言ってシェラハは部屋を出る。その体は戦いが待ちきれないといった感じに震えていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「しかし意外に広いなこの森。外から見たときにはこんな風には見えなかったが…」

 

森に侵入してから2時間、ラクサスはそんなことを呟いた。

 

「そうね…行けども行けども似たような景色ばかり…外からは普通の森にしか見えなかったのに、ここまで変化が見受けられないのは異常ね」

 

その言葉にパメラも同意する。これまでの捜索で何も手がかりを発見できていないので少々苛立ちを感じているようだ。

 

「ギドは空間魔法を得意としていると聞きます。もしかするとそれでこの森の広さを拡大しているのかもしれませんな」

 

「空間魔法なんて普通は閉鎖空間にかけられるもんだろ?森みたいな開放空間にかけられるなんて相当な腕前だぞ…」

 

一夜の推測にラクサスが唸る。その推測が正しければ、ギドの魔法の実力は聖十大魔導に迫るレベルかもしれないのだ。

 

「ギドはあくまで研究者肌の魔導士ですから戦闘面では大したことはないでしょう。捕らえるのはそう難しくはないはずです。奴の持っている手駒次第ではありますが…」

 

「しかしこれは計算外だな…最悪の場合は夜営の必要も出てくるかも知れねぇ」

 

「それは!………うん、そう…だよね……」

 

ラクサスの言葉にティアがためらいがちながらも頷く。夜を徹しての捜索は危険だと解ってはいるが、リリィの事を考えるといても立ってもいられないのだろう。

 

「…ティア、あんまり悪いように考えるな。リリィってやつの無事を常に信じてやれ。信じる者は救われる、ってわけじゃねぇが、そういう心を持ってないといずれ精神の方が耐えられなくなる。それよりもリリィが見つかった時の文句の一つでも考えてやりな」

 

「…あはは、そっか、そうだよね。私がもっとしっかりしないとダメだよね」

 

ティアがラクサスに礼を言う。その直後

 

 

 

「さぁ、揺らすわよぉ!!」

 

 

 

凄まじい轟音と共に地面が狂ったように揺れ始める。思わずたたらを踏んだ四人のところに猛烈なスピードで影が走る。その影はラクサスの頭を鷲掴みにすると、信じられない力を発揮して彼を遥か彼方に投げ飛ばした。

 

「ラクサス!?あなた…っ!」

 

そんなパメラの驚きの声を無視して彼女の首根っこを掴み、ラクサスとは別方向へ投げ飛ばす。さらに勢いは止まらず持っていた巨大な戦鎚をフルスイングし、近くでよろめいていた一夜を思いっきり殴り飛ばした。

 

「メェ~ン!なぜ私だけこんな目にぃぃぃぃぃ………」

 

一夜の叫びはやがて空に呑まれ聞こえなくなる。そこで影はようやく動きを止め、残されたティアに向きなおった。

 

「はい、三丁あがりっと。ハァイ、ティア♪しばらくぶりねぇ」

 

「シェラハ!?あなた、どうしてこんな所に…!?」

 

思わぬ闖入者に驚くティア。そんなティアの様子を見て楽しげにシェラハが答える。

 

「いや~、黒十字がフロイディアに潰されちゃってから行く当てが無くなっちゃってねぇ。古巣に戻ることも考えたけどやっぱ戦いがないとつまんないじゃない?だからちょっと色んな所を放浪してみようと思ってたら、いつの間にかこんな所まで来ちゃってたってわけ。いや~、そしたらこんな所でティアに出会えるなんて、偶然って面白いわねぇ。アッハハハ♪」

 

「………」

 

ティアが鋭い目つきでシェラハを睨む。その様子を見てシェラハはますます楽しげに語りかける。

 

「あら、どうしたのその目?ひょっとしてあなたを騙し討ちして教皇領に連れ去ったこと、まだ根に持ってる?」

 

「…シェラハ、ギドって人と今一緒にいない…?」

 

「え~?ギドって誰ぇ?…あぁ、そういやあのインテリノッポ、そんな名前だったっけ?」

 

ふわふわと掴み所無くシェラハが答える。ティアは弾かれたようにシェラハに質問を重ねた。

 

「リリィは!?リリィは今そこにいるの!?」

 

そんなティアの声は期待と不安、焦りに満ちている。シェラハは面白くて仕方ないといった感じにカラカラと笑う。

 

「リリィなんて子は知らないけど、緑色の可愛い妖精さんなら確かにギドの研究所にいるわよ?」

 

「っ!すぐに返して!リリィを解放して!」

 

「イヤよ♪」

 

即答。楽しげに笑うシェラハをティアはますます厳しい目つきで睨みつける。

 

「…やっぱり、あなた、ギドと繋がってるんだね…」

 

「そりゃああなたの連れを三人纏めて引きはがしたんだからすぐに気づくでしょう?そうそう、あなたがパメラお嬢様と一緒にいるのはびっくりしたわ。あの子ってばエルカーエスを凄く嫌ってたのに一体どういう風の吹き回しかしらねぇ。アハハハハ♪」

 

ティアの目つきがますます鋭くなり、怒りを含んだ声でシェラハに告げる。

 

「…シェラハ、大人しくリリィを解放して。でないと、少し痛い目を見てもらうから…」

 

そんなティアを見てシェラハは口の端を極限まで吊り上げる。最高の獲物が目の前にいると言わんばかりに――

 

「いいわねいいわねぇ。あの時はつまらない命令のおかげで碌に戦えなかったけど、今回は最高に楽しい戦いが出来そうだわぁ…♪」

 

そう言ってシェラハはかけていたメガネを外して懐に入れる。これは彼女にとっての戦闘前の儀式のようなものだ。それを見てティアも構えを取る。

 

「さてと…始めましょうか♪」

 

戦いが、始まった。




本当はシェラハはここで登場させる予定はなかったんだけど、キャラ的に扱いやすいのと後々を考えて登場を前倒しさせることにしました。こういう好き勝手に動けるキャラは私的には話を展開させやすくて助かります。

次回はティアVSシェラハを中心に吹っ飛ばされた皆さんの動向をお送りします。果たしてシェラハは最終鬼畜少女スピリティアに勝てるのか!?…あれ?敵方どっちだったっけ?

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