二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

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09.地層の色

 アレシアがセカンドシフトしたときの話を聞いたマドカは自身のIS、サイレント・ゼフィルスの訓練を行っていた……アレシアと。

 ここでマドカの『IS操縦者としての強さ』について触れておくと決して彼女は弱くない。むしろ現在では代表候補生レベルならば相性によっては、IS学園の1年生の専用機持ちを複数人相手にすることも可能であろう。国家代表クラスの相手にも相性やその他の条件さえ悪くなければ渡り合うことが出来る。

 そして今マドカの乗る機体はサイレント・ゼフィルス。イギリスが開発したBT二号機であり端的に言えばIS学園に在学中のセシリア・オルコットが乗るブルー・ティアーズの上位互換である。

 

 だからもちろん理論上はサイレント・ゼフィルスもBT兵器の精神感応制御(サイコ・シンパシー)による偏向射撃(フレキシブル)を撃つことは可能とされており――マドカはその偏向射撃を撃つことが出来る。

 

 前回キャノンボール・ファスト襲撃時にはセシリア・オルコットとの戦闘となり偏向射撃を使わずに終わらせた。逆にセシリアはそのときに偏向射撃を修得したようで一矢報いられることとなったが、それは置いておく。

 何はともあれ、マドカはそれまでも偏向射撃を(おおやけ)の場では使ったことはない。

 

 それはいっつも訓練のたびに頭おかしいことをしてくるアイツの不意をつき、まさにセシリア・オルコットが自身に行ったように一矢報いたかったからであった。

 

 ――あった、過去形である。

 

 

 

「なんで、お前は! 初見の! 背後からの偏向射撃を避けるんだー!」

「甘いなぁマドチィ! ハイパーセンサーがある限り死角などないということを知らなかったかぁぁぁ!」

 

 タイミングはよかった。マドカのライフルと六機のビットによる射撃をアレシアは腹立たしいことに難なく避け攻撃に転じようとしたそのとき、ビームを曲げアレシアの背後より撃ち抜こうとした。振り返ることなくスラスターを噴かし身を最小限に捩るだけで避けられた。

 無論、マドカもそのまま終わられる気などなく更にビームの軌道を捻り曲げアレシアを撃ち抜かんとしたがそれは断念せざるを得なかった。

 ライフルとビットによる偏向射撃をかわしたアレシアが瞬時加速により距離を詰めてきたからである。

 

 マドカはライフルを構え直し正面より迫るディザストロに狙いをつけようと――無手のまま上段の構えでアレシアが突っ込んできているのが目に入る。

 

「……ッ!」

 

 その無手の上段が振り降ろされる寸前マドカはゼフィルスの翼スラスターを右に全力で噴かし左へ弾かれるように飛びその場を離脱する。

 直後、無手であったはずの『星砕き(ビスケットハンマー)』を握りマドカがいたところへ振り降ろされた。

 

「ちぃ! このパターンは読まれたかぁ、っとぉ!?」

「そう何度も似た手にはかからんぞ……なっ!」

 

 マドカは思い返す、あれは何度目の模擬戦だっただろうか。無手のまま振りかぶり振り降ろしてくる腕を無視してライフルで迎撃しようとしたあの時を。

 気がつけば医務室にいた、後に聞いた話によればアレシアは大きく振り回すのに向かない武装を降り下ろし叩きつけるときにコールしていたそうだ。

 

 そして今あのときと同じ攻撃が繰り出され回避に成功した。空振りしたアレシアはというと、『星砕き』が手からスッポ抜けた。アレシアの手より解放された星砕きは勢いそのまま、しかし重力に従い訓練場の地面へと着弾し轟音を轟かせる――すっ飛ばした本人は盛大に抉れ地層がむき出しになった様を見て冷や汗をかいていた。マドカもそれを見て冷や汗を流す。

 

「やっべぇ、あとで直さねぇとスコールに怒られるぅぅぅ!?」

「い、今の一撃ハンマーのブースター全開で来たな!? じ、地面の地層の色が変わるとこまで抉れて見えてるぞ!?」

「『星砕き』のヘッドの部分を一回り大きくしてブースターの出力も1.3倍にしたから速度も少しは上がったはずなんだけど……避けるたぁマドチィやるな!」

「殺す気かぁぁぁ!?」

「おぉぉぉぉ、つぁッ!?」

 

 ただでさえIS並の大きさがあり重量の半端ないハンマーである『星砕き』だが、アレシアはそれをさらにサイズを大きくした。当然重量を増え追い打ちとばかりにブースターの出力を上げたと言いやがった。

 それに半分以上本気で命の危険を感じたマドカは大型ライフル『星を砕く者(スターブレイカー)』とBT兵器の六機のビットをかつてない集中力で駆使。始めにライフルの実弾を撃つ。当然のように避けようとするアレシアの動きをビット六機のビームを全て偏向射撃で捻り曲げ、球体状の籠のようにアレシアを六機分のビームが通り過ぎるまでの一瞬であるが行動を制限する。

 

 ――そして命の危機を感じたマドカはここで過去最高の精度、速度で『星砕く者』でディザストロの脚を撃ち抜いたのであった。

 

「うげッ、ついに被弾しちまったなぁぁ。いやぁマドチィ今のはえげつねぇぜぃ?」

「は、始めて当たった……!」

「やー、アレやられたらどう避けてもどっかに当たるわ。まあエネルギー効率は凄ぶるワリぃだろーからそこが改善点だなぁ。あと初見じゃないと効果は半減だろぉけど」

「死ぬ思いをしたことであれだけの集中力が発揮された……!? しかし、けど、それを認めるとこの頭おかしい訓練が正しいと、いや確かにアレシアと訓練をしてからは実力も伸びた実感はある、あるんだが認めたくない……!」

「おーい、マドチィ聞いてるかぁぁぁ?」

 

 マドカはアレシアと模擬戦を始めてから避けられるでもく逸らされるでもなく有効打が入ったのはこれが始めてであった。

 しかし、それがアレシアの滅茶苦茶な一撃による危機感から発揮された極限状態の集中力によるものとは認めたくなかった。いやマドカもわかってる、この色々と頭おかしい訓練によってあの攻撃が成立したとはわかってはいるのだ。

 ひとまず、そのことは忘れ……ることはできないがアレシアの助言を聞こうと彼女の方を向き直ると――。

 

「なっ!? アレシア! お前、ディザストロの脚部が……!」

「ん? ああ、もろもろブッ壊れてんなぁ。もう中身の配線見えてんぜコレ。ま、スラスターはギリ無事だし問題ないぜぃ」

 

 ――そう、『星砕く者』に撃ち抜かれたディザストロの左脚の装甲が砕け吹き飛んでおり、配線は剥き出しで火花を散らしている。

 本来ならばいくら大型ライフルの直撃を受けたとはいえ、ISの装甲は一撃でこうまではならない。しかしディザストロは機動力に特化している反面、装甲が極限まで薄く脆く削られているのだ。

 故に一発の直撃で装甲は塵紙の如く吹き飛ばされる。

 

「アッハッハ! ディザストロはねぇ、当たらないことを前提にしてんだ。当たらなければどうということはない。けどなぁ、それは裏を返せば一撃当たるだけで致命傷になりかねねぇ……そういうこったぁなぁ?」

「だからお前は全て避けるか逸らすかをし一撃も貰わないのだな」

「ああ、セカンドシフトしてから直撃でダメージもらったのは久々だわ。素直に誇れよマドチィ! 避けることを主点に置いた戦闘スタイルの世界最強(ブリュンヒルデ)に一撃当てたんだ」

 

 確かにそれは嬉しい。アレシアが亡国機業に来てから無理矢理始められた訓練ではないるが今の今まで直撃はなく避けられるわ、ビームだというのに装甲の上を滑らせ逸らされるわといった思い返すと割りとあり得ないこともされていた。

 しかしついに一矢報いることができた。本来は今日まで一度も見せていなかった偏向射撃で決めたかったのだが……まあ良しとしよう。

 

「ああ、そうだな。それは素直に喜ぶとしよう……だから次は本気のアレシアに一撃を入れさせてもらうぞ!」

「あらら……?」

「ふんっ、単一仕様能力もスコールのゴールデンドーンのバリアを打ち抜いたという武装も使わずに本気だったとは言わせんぞ?」

「アッハッハ……はぁぁぁ、スコールめぇぇそれは秘密にしとけっつたのによぉぉぉ!」

「安心しろ、詳細までは聞いていない」

 

 ゴールデンドーンはスコールの専用機であり《炎の結界(プロミネンス・コート)》という球状のバリアを纏う。

 

 アレシアは一応の形として亡国機業へ入るとき実力を測るためという名目で試験を受けた。その相手が亡国機業内ナンバー1の防御力を誇るスコールであり見事打ち勝った。

 いや、正直にいえばバリアが抜けずに苦戦したのだが、普段から高火力なものを好んで使っているディザストロの虎の子を使用した。結果として本来別の攻略法があるゴールデンドーンのバリアを力付くでぶち抜き勝利したのだ。

 

「はぁぁ、まあ詳細いってないならいいか……マドチィ、スコールと戦ったときに使った武装が見たいだってぇぇぇ?」

「あ、ああ」

「アレの比にならん威力だけどいい?」

 

 アレシアはそう言いながら『星砕き』がまさに星を砕かんとす勢いで穿った地面を指差す。

 

「…………すまん、初めて攻撃が当たったから調子に乗った。やめよう、やめておこう」

「だよなぁ、さすがのあたしもマドチィを病院送りにはしたかねぇよ」

「ホントにどんな威力だ!?」

 

 強いて言うなればIS学園生徒会長でありロシアの国家代表である更識楯無が手こずるバリアを、ただの物理的な暴力でありながら圧倒的な超火力で打ち抜く武装というだけで推して知るべし。

 

「まー、今日はこれまでにしとこーか。マドチィも集中力切れただろ?」

「そうだな」

「よし、ならあたしは地面を直してから戻らぁ。先に戻っとけマドチィ」

 

 アレシアはそういい地上へ降りていく。それを見届けたマドカは先に戻るが……単一仕様能力について上手くはぐらかされたことには気づかなかった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 アレシアは訓練場の地面を直したあとに全員が好きに使える、いわゆるリビングがわりの部屋へ酒を片手に行ったのだが……懐かしい人物がいた。

 そいつは誰か来たことを察知したのか振り返ると――いかにも「ゲッ」といった顔をした、いや実際口に出していった。しかしアレシアはそんなこと気にせず飛びつく、避けられそうになるが甘い。世界最強は既に目標をロックしているのだッ!

 

「オォォォォウ、タッァァァァムゥゥゥゥ!」

「来っんなぁぁぁぁゴプゥ!?」

 

 ――二代目世界最強型弾頭アレシア着弾。アラクネの改修が完了し、しばらくぶりに帰ってきたオータムの横腹へアレシアズヘッドが突き刺さり、ふたりして転がる。

 

「久しぶりだなぁぁ、オータムぅ! しばらく見なかったもんだから心配したぞぅぅ!」

「てっんめぇぇぇ! 相変わらずだなこのアマ!? 心配したも何も今てめぇのせいで死にかけたぞ!」

「よっし、酒飲もう! 今日はお祝いだぜぃ!」

「人の話聞けよ!?」

 

 そうして言葉のドッジボールをしているとマドカが部屋の扉を開け…………閉めた。

 

「待て、おいコラ! エム! こいつの弟子なら何とかしろよ! してくれ!」

 

 それを見たオータムは必死にマドカを呼び止める。下手をすればこのままアレシアは酒を飲み始める、そしてさらに絡まれる。それはごめんなのだ。

 嫌そうな顔をしつつマドカは再びドアを開く。

 

「……はぁ、アレシア離れてやってくれ。オータムからレズが移るぞ、さすがに周りにいる三人ともがレズだと私が耐えれん」

「おい」

「しゃーねぇなぁ」

 

 マドカにレズが感染すると言われアレシアは離れたがオータムは何故か納得がいかない。いや、確かにレズではあるが。

 アレシアはそんなオータムの気持ちなど露知らず、酒を飲み始める。

 

「くっはぁぁぁ、動いたあとのビールはいいねぇぇ!」

「結局飲み始めやがった……」

「諦めろ、こいつと酒はセットのようなものだ……知ってるか? こいつ拡張領域に酒入れてるんだぞ?」

「あら、アレシアにエムも帰ってきてたのね」

 

 ふたりは残念な大人を見る目で酒を飲むアレシアを見ていると声がかかる。ここに住んでる四人のうち残りのひとり、言わずもながスコールである。

 

「みんな揃ってるならちょうどいいわ」

「宴会を始めるかぁぁぁ!」

「座りなさい」

 

 立ち上がりはしゃごうとするアレシアの両肩をスコールが押さえつる。オータムは膝裏を蹴り、膝カックンの要領で、アレシアの踏ん張ったまま伸びた状態で硬直している膝を折り曲げ脱力させる。

 あわやそのまま尻餅をつきそうなところへマドカが蹴飛ばした椅子を滑り込ませ見事着席させる。

 

「…………Oh、不覚」

「チッ、椅子なんざなしで地べたに座らしときゃよかったのによ」

「そうもいくか」

「はいはい、ふたりも座りなさい。オータムの帰還祝いの前に真面目な話よ」

「クソゥ、あたしの六感が面倒臭そうな雰囲気をビシバシ伝えてきてるんだけどぅ?」

 

 座らさせられた手前、話は聞くことにしたのかアレシアは頬杖をついてブー垂れつつも聞く姿勢をとる。

 

「当たりよ。亡国機業本部が篠ノ之博士と接触したわ」

「そうか……ん? 篠ノ之博士といえば他人に対する無関心さでも有名だったはずだが……」

「それがどうしてかはわからないんだけど交渉に応じたみたいなのよ……博士の要求は広大な土地、それとまあ普通に現金ね」

「あぁん? それが天災って呼ばれるやつが望むもんかよ? えらく普通じゃねぇか」

「…………そこはどうでもいいぜぃオータム。亡国機業(うち)の本部が受け取ったもんはなんだぁ? あっちの要求が普通ってなら、こっちの方がまともじゃねぇ気がしてならねぇぞスコールぅ」

 

 頬を少し引きつらせながらアレシアは聞く。本部が受け取ったものがナニか良くなさそうだと思うのはほぼ直感である。

 だがアレシアの直感は基本的に大まかには当たる。それは本人も自覚しているし、しているからこそ外れてほしいと願いながらもスコールへ問いかける。

 

「えぇ、とびっきりよ……ISの無人機よ」

「は、はァ!? 無人機だとスコール!? そんなものが」

「あるのよ。IS学園がクラス代表対抗戦を行ったとき、襲撃したのが無人機よ……そして今回亡国機業が受け取ったものはそれをバージョンアップしたもの。第三世代相当、もしくはそれ以上らしいわ」

「天災……名に違わぬ滅茶苦茶さだな」

「でもよぉ、うちの本部がそれを受けとることになんの問題があんだよスコール? むしろ戦力強化できていいんじゃねえか?」

 

 オータムのいうことは最もである。亡国機業としては悪くない、いや間違いなく良いことだろう。

 ――ただスコールとアレシアのふたりは亡国機業を抜けようとしている。その抜けようとしている組織が武力を手に入れるのはどうにも具合がよくない、下手をすれば今回受け取った無人機が仕向けられるだろう。

 問題はそれをどうマドカとオータムのふたりに伝えるかなのだが、アレシアはプライベートチャンネルを繋ぐ。当然、相手はスコールだ。

 

 

『テステス、こちらアレシアー。スコールぅ、聞こえるかぁぁ?』

『ええ、どうしたの? っていってもふたりにどう伝えるかよね?』

『いえっす、正直もうちっと具体案が練れるまで伏せときたかったんだけどぉ……限界じゃねぇかなぁ、もう話してもいいんじゃねぇの?』

 

 ふたりとも亡国機業のために身を粉にして働くタイプというわけでもないが組織に所属していると組織が潰れるときには共に潰れてしまう。組織に属するとはそういうことなのだ。

 そして、良くも悪くもしっちゃかめっちゃかに掻き乱す天災が接触してきた、今ここが瀬戸際であるとアレシアは考える。

 

『あなたの考えは置いといて、直感的にはどうかしら?』

『おい……いや、まあそろそろ伝えて準備した方がいいんじゃねぇの? 天災が絡んできた以上予測なんて無理だろぉしなぁ、勘もまともに働かねぇよ』

 

「なら決定ね。オータム、エム聞きなさい」

「なんだよ、改まって?」

「アレシアと私でね、前々から話してたことがあるのよ」

「アレシアとか。珍しいな」

 

 アレシアは気づく。スコールのやつ……!

 

「――亡国機業抜けるわよ、着いてきなさい」

「ドストレートに言いやがった……!」

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
亡国機業本部の扱いが雑になってるのは自覚あり、ただそこに無駄に触れる気もなくこんな扱いのまま行きます。
スコールとアレシアの戦闘はいつか書きたい、火力でゴリ押し。バリアがなければ即死だったぜ的なのを。


一応明日には本物の二代目ブリュンヒルデが登場する10巻が出ますね、まあそのうち購入します。しました。

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