二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

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08.イングリュシャー!

 朝食後、アレシアは酒の臭いが充満した部屋の片付けをしていた。

 

「樽のワインとか久々に飲んだわぁ、明け方に飲んだ筈なのに記憶が途中からないけど……さすがに樽のイッキはキツかったか」

 

 取り敢えず目につくゴミすべて拡張領域(バススロット)に入れていくアレシア。ISを知るものなら誰か拡張領域は四次元ポケットでもゴミ箱でもないことを教えてやってほしいと言いそうだ。

 

「おい、お前ゴミをどこにやってるんだ」

「あ、部屋が酒の臭いがして嫌だから消臭剤を撒いて換気しにいったマドチーじゃないか」

「なんだ、そのやけに説明臭い感じは……それでお前ゴミをどこに片付けている?」

「拡張領域」

「待て、普段からお前酒もいれてるが拡張領域はそんな便利に使えるものじゃないだろ!?」

 

 そう、拡張領域はISの武装を量子変換(インストール)し、自由に取り出すことが可能となる。 そして拡張領域に収納可能な物量は各機体の量子変換容量に依存する。

 まあ、そう考えれば武装に酒やゴミなどいくらでも入るのだが……ゴミはともかく酒はどう量子変換してるのであろうか?

 

「え、マドチー知らないの? それ以外にもコアの“好み”があるんだぜぃ?」

 

 アレシアの言う通り量子変換領域以外にもコアの“好み”のようなものがあり、それによって装備を取り込めるかどうかが決まる。

 しかしアレシアの返答はマドカの疑問の解答にはなっていない、なので改めて聞く。

 

「それはそうだが酒を量子変換できる理由にはならないだろ。いや、ゴミもだが……」

「あぁん? そんなもん理由はひとつだろうが、あたしがセカンドシフトするとき『拡張領域がもっと四次元袋みたいになりゃ便利だよなぁ』って頭の片隅で思ってたらそうなったんだよ」

「セカンドシフトってそんな便利なものだったか? いや、それはもう置いておく。前から聞いてみたかったんだが、セカンドシフトするときはどんな感じだった?」

 

 もちろん、セカンドシフトはそんな便利なものではない……とは言い切れないのがISである。

 なにしろISコアはISが発表されてから今の今までほとんど解明されておらず、それの発明者である稀代の天災とも言われている篠ノ之束ですら完全には理解していない謎の多いものだ。

 更にコア自体にも意思らしきものがあり自己進化していくという。

 ので、アレシアのテンペスタがセカンドシフトしたときにそういう機能が追加されてもおかしくはない……ないはずである。

 

「こう、ISの中の人と喋ったな」

「は? 中の人……ISの意思か?」

「そんなんそんなん。セカンドシフトしたときには、あたしの意識がISと通じたんだったかぁ? それでディザストロと話したんだよ」

「そうなのか……それで何を話したんだ? ISは、ディザストロはどんなやつだったんだ?」

「おおー、かつてないほどマドチーに質問されてらぁ。これは師匠として答えねばぁぁ!」

 

 などとは言ったもののどこから説明するか悩ましいものであるとアレシアは思う。

 ともかく、そのときはひたすら勝ちたくて勝ちたくて仕方なくて……ふと気がつけばISの見せているであろう空間にいたのだ。そこでテンペスタ、現在のテンペスタ・ディザストロと会話して意識が現実に戻るとセカンドシフトしてたのだ。

 アレシア本人もさすがに驚いた出来事であった。

 

「まあ気がつけばディザストロの見せてたんだと思う空間にいたんだわ」

「どんな場所だったんだ?」

「フッフッフー、そいつぁ秘密だ。あたしとディザストロのなー」

「そうか……」

「……と、勿体ぶること言わずに教えてやるからそう残念そうな顔するなよマドチぃ。本が山積みになった部屋にディザストロはいたよ」

 

 アレシアは懐かしそうに言う。急に景色が変わったと思えば、足元にも部屋にある棚にも本が山積みになっている部屋にいたのだ。アレシアは自分で自分の頭がおかしくなったのかと思ったりもした。

 

「本が山積みの部屋、書庫か? それにしてもディザストロという名に対して本を読んでいたとはイメージが出来ないな」

「んん、まあそうか。でもディザストロの制御って知識というか経験いるんだぞぅ?」

「翼スラスターが六機もあればな……それでディザストロはどんなやつだったんだ? 何を話したんだ?」

「ディザストロの見た目は……ちょうどマドチくらいの年齢、中高生くらいだったな。それで真っ黒な床につきそうな長さの髪にワンピース、真っ赤な目にハードカバーの本を持ってたな」

「お前のテンペスタのカラーリングと同じか」

「だねぇ、いやテンペスタがディザストロの髪と目の色と同じになったんだろぉねぇ」

 

 マドカのいう通りディザストロは艶のある黒を基調とし赤のラインが走っている。

 もともとのテンペスタのカラーは全くの別物なのだがこれもセカンドシフトの際に変化したのだ。

 これはアレシアの影響というより、別段カラーリングに関してはアレシアはなにも考えてなかったことから、ディザストロの意思によって変わったと思われる。

 なかなか自己主張の激しいISである。

 

「そうそう、それで話した内容……の前にディザストロの性格でも言っとくかねぇ。ISコアによって意思はあるっていうからたぶん性格もそれぞれ異なるだろうしねぇ」

「ああ、頼む」

「なんてっか猛進果敢というか、これと決めたら一直線に突っ走るようなまっすぐな性格してたような……いや慌ただしいだけだったか? 思い出補整かかってる気がするな」

 

 アレシアは思い出す、セカンドシフトしたあの日のことを。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 それは唐突であった、急に目の前が霞んだ、なにも見えなくなって瞬きをすると本に囲まれた部屋にいた。

 おかしい、今日は専用機のテンペスタに乗り模擬戦を行っていたはずであった……アレシアは思い出す。

 模擬戦をしていて、ひさびさに負けそうになっていたのだ。意地でも勝ちたくて負けたくなくて、割りと無茶な機動を繰り返して撹乱してた。瞬時加速と高速横回転移動擬きの同時使用といった失敗すれば大怪我を負うような機動を繰り返していた。

 

 ――あれ? あたし操縦ミスって死んだ?

 

 空笑いをしつつ頬と背中に冷や汗を滝のように流していると不意に声をかけられた。振り替えるとビシッと効果音のつきそうな敬礼をしている少女がいた。

 

「こんちゃー!」

「Oh?」

「だからー、こんちゃ! こんにちはを適当に縮めた挨拶だよ!」

「Chi è Lei?」

「わー!? 日本語じゃない!? 日本語が通じてないだけだった!? あああア、アイムノットスピークイングリュシャー! 製作者の意向によって私は日本語しかわからないんだよぅー!」

 

 アレシアは後ろから声をかけてきた少女の姿格好を眺める……艶のある真っ黒な髪に燃えるように真っ赤な目、黒のワンピースを着ている。ちょっと不安になるくらいに白い肌を含めても赤と黒、白の三色しか色が見当たらなかった。

 

 その少女は絶賛暴走中、初めは不意に声をかけられ何を話しているかわからなかったのだが意識して聞くと日本語ということがわかった。

 

「いや、んな焦らなくたってあたし日本語喋れるぞ?」

「お、おお! 助かったぁ! 私の(つたな)い英語じゃ伝わるか不安だったからね」

「英語ぉ? お前話してたのEnglishですらない新しい言語イングリュシャーじゃね? あとあたしはイタリア人だから英語じゃねぇかんな!」

「うぇ!? 外国人には英語を話しとけばいいのじゃなかったのかぁ……青天の霹靂だぁ」

 

 その少女は外国人なら英語で全部通じると思っていたのか本気で驚いている。まあ、英語も話せていなかったのだが。そして青天の霹靂の使い方も少し間違っていることに少女は気づかない。

 

「で、赤目の黒髪少女。お前は誰でここどこだ?」

「レッドアイズブラックガールって読めそうな呼び方はやめて!?」

「じゃあ名前教えろよなぁ、あたしはアレシア・コロナーロだ」

 

 アレシアが自己紹介をすると少女は微笑む。

 

「それは知ってるよ。貴女とずっと一緒にいたんだもん」

「お前、まさか……とかいう展開はねぇからな? あたしは察しが悪いんだ、遠回しにいっても伝わんねーぞ」

「えー仕方ないなー……んんっ、では自己紹介を。テンペスタだよ、正確には貴女の専用機のISコア人格。コアナンバー15番だよ! そしてここは私の部屋、私というISコアが暮らす私の世界だよ」

「長い」

「私はテンペスタ、ここは私というISコア意識のなか!」

 

 少女はせっかく仕切り直して真面目に答えたというのにアレシアの返答の雑さに憤慨してかなり略して説明した。

 それを聞いたアレシアは目の前にいる少女が自身の専用機、テンペスタであることを理解する。普通なら信じないところだが何故かストンッと納得できるナニかがあり、アレシアの勘が合っているというのだ。

 そして自分の勘を信じることにしているアレシアは少女の、テンペスタの言葉を信じる。

 

「そうか、世話になってる」

「うん、こちらこそ。それで本題にはいるけど――貴女は力が欲しい?」

 

 その質問を聞いてアレシアは考え込む。力ってなんだ? と。もちろんIS操縦の力量が上がるなら万々歳なのだがドーピング的なアレで肉体的にマッスルな感じになるならいらない、てか嫌だ。

 

「そんなに悩むんだね……貴女の尋常じゃない負けたくないって想いに触発されて此処に呼んだんだけど」

「まーなー、世界最強に憧れちゃったし越えたくなっちゃったし。それは間違ってねぇし力は欲しいんだけど……筋肉ダルマにはなりたかねぇんだよなぁぁ」

「ならないよ!? なんでそんな発想に至るの!?」

「あ、ならねーのか。ならくれ、寄越せ、Dia il potere!!」

「いっそ清々しいくらいの手のひら返し……じゃあどうして? 貴女は、アレシアはどうして力が欲しいの? 何かを守りたいの? それとも何かを手に入れたいの? 何を成したいの?」

 

 テンペスタは先ほどの微笑みとは異なる微笑を浮かべ小首を傾げて尋ねてくる。

 それは純粋な疑問のようであり、もしここに第三者がいればアレシアを試すかのような質問であると感じただろう。因みにアレシアはなにも気づいてない。

 気づいてないからこそか。

 

 それに対してアレシアはなにひとつ迷うことなく即答する。

 

「ただ勝つために決まってんだろ」

「へぇ……どうして勝ちたいの?」

「あぁ? ……今の世界最強の称号を手に入れてるやつのことを知ってるか? あれを見て惹かれて勝ちたくなっちまった、あたしもあそこ(世界最強)に登り詰めたいって。それだけだ」

「うわぁ、単純というか何というか……世界最強に勝ちたいから他全部にも勝ちたい?」

「それだ、上手く言えねぇけどそれだ」

「私も上手く言えないけど感覚で理解したよ」

 

 ふたりは顔を合わせて笑いあう、どうにも感覚派なふたり組なようだ。

 しかしアレシアが力を欲する理由は本当にそれだけなのだ。勝ちたいから勝ちたくて、勝つために勝ちたい。理屈も道理もかなぐり捨てて勝ちによって何かを手にしたいのではなく勝ちだけが欲しいのであった。

 ただそれは少し危険な考え方に思える。事実テンペスタはそう思ったのか勝利の先には何があるのか、何があると思っているのかアレシアに聞く。

 

「でも勝ちを求め続けてそれで勝った先には何があるの?」

「え、爽快感じゃねぇ?」

「……だよねぇ」

 

 何も考えていなかった。

 

「よーし! なら勝とう、私と一緒に! だから私が力を貸し」

「寄越せ、力を! 比類なき最強の力をぅ!」

「なんで台詞を遮って失敗しそうなフラグ建てるかな!?」

「アッハッハ! じゃあまあ改めて頼むわテンペス……テンペスタだと他のテンペスタと被るな」

 

 自分の専用機、自分だけの相棒なので他とは違う名前がいい。

 

「テンペスタが日本語で嵐……ならその上で災厄、ディザストロ。よしディザストロって呼ぶわ」

「唐突な!? いや、テンペスタだって勝手につけられたものだし何かディザストロって強そうだからいいけどさ! じゃあ勝つために力を私、ディザストロが貸してあげる。頑張ろうね! 勝って勝って勝って勝とう!」

「ああ、ありがとな、ディザストロ。んじゃあ、また」

「うん、またね」

 

 テンペスタ改めディザストロと別れを告げると視界が再び霞がかり……意識が現実へ、模擬戦へと戻った。シールドエネルギーを確認するが何故か回復しており周りがやけに煩い。

 相手を見れば固まって動かない。さて、どうしたものかと思っていると試合は中止となり研究者がわんさかと出てきてアレシアを囲んだ。試合を中止にされたことに不満を言おうとしたが研究者たちに先に口を開かれ……聞いた言葉に驚いた。

 

 ――どうやってセカンドシフトをしたのかと。

 

 アレシアは機体の手などを眺める、確かに黒くなり赤のラインが入るなどして変わっている。機体のスペックデータを眺めれば、なるほど比較するのも馬鹿馬鹿しいほど軒並み、特にスラスターや機動関係が上がっている。

 その事実を確認したアレシアは研究者たちを振り切りアリーナを飛び回り雄叫びをあげ喜んだ、世界最強と同じセカンドシフトをしたことに、同じステージに立てたことに。

 

 そのあと研究者を振り切って飛び回っていたアレシアは色んな人に怒られた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ……さて、思い出したのはいいがこれはマドカにありのまま伝えていいのだろうかとアレシアは思う。

 いや伝えることに問題はないのだが改めて思い返すと強さを求めてるマドカに対して参考になる会話をしてただろうか? いや、してない。

 

「どうした?」

「いやー、思い返せば返すほどマドチィが期待してるようなこと言えない気がしてなぁ。ディザストロの性格とかホント明るいけど慌ただしいだけだったわ」

「それでもなにか参考になるかもしれん、話してもらえないか?」

「……んー、まあいいけど。参考なんなくても怒んなよぅ?」

 

 そう前置きしてアレシアは語った。先程思い出したことをそのまま。

 話終わったあとのマドカの反応は……。

 

「昔のお前勝つことに貪欲すぎないか……?」

「おっとぅ! そこにツッコミが入るとは予想外だぜぃ!?」

「冗談だ、そうでなければそこまで辿り着けないだろうからな」

「まぁねぇ、アイツはどうだか知らないけど……っと、特に参考になりそうなことなかったろぅ?」

 

 マドカを口に手を当てて少し考える。先ほどのアレシアとディザストロの会話は要点をあげれば、アレシアが貪欲に力を勝利を望みディザストロがそれに同意して力を貸した、ということのはずだ。

 ディザストロが力が欲しいか、力を求める理由を尋ねたということは返答次第では力を貸してもらえない可能性もあったのではないだろうか。

 恐らくそこに操縦者とISコアの性格的な相性が関係してきそうだとマドカは考える。

 そう考えたところで、ふと口から声が出てしまった。

 

「そうか……私はセカンドシフトは無理かもしれないな」

「ん? 何でだよマドチィ、可能性は無限大だぜ?」

「ゼフィルスは盗んできたもので……それでゼフィルスがこちらを認めるとは思えなくてな」

「そんなこと気にしないんじゃねーの? あたしもイタリアから飛び出してきたけどディザストロが動かなくなるとかねぇしな」

 

 そもそもISコアに意識があってそれぞれの性格があっても愛国心とかあるやつはいないのではないかとアレシアは思う。ディザストロには言葉自体通じなかったし。

 

「たぶんゼフィルスもイギリス語わかってなくて日本人が乗って安心してんじゃね?」

「ふっ、それはさすがにないだろうが……簡単に強くなれないことはわかっていたからな。織斑一夏が既にセカンドシフトをしているんだ、私だって出来るはずだ」

「マドチィがセカンドシフトしたら世界のセカンドシフトした機体は四分の三が織斑家ということに……い、いや他のやつもっと頑張れッ! あたし一人の疎外感が半端ないぞぅ!?」

 

 織斑一夏と結婚すれば全員織斑家に……!? とか口走るアレシア。まあそんな気は微塵もなく、あったとして一夏に言い寄ったとしても一夏はIS学園で絶賛モテモテであり、特に専用機持ちたちがそれこそセカンドシフトしてでも止めに来るだろうが。

 

「さぁて、マドチィ訓練しねぇ?」

「……逃げ出したいところだが受けてたとう。お前にも勝つくらいの気概がないと色々駄目そうだ」

 

 アレシアの頭のおかしめの訓練に気後れしそうになったが、マドカは自分の頬を両手で挟むように叩き気合いを入れ直す。

 

「いいね、いいねぇぇ! ヤル気満々だねぇ! 世界最強が胸貸してやる、ドンと来い!」

「ふん、いつかその胸撃ち抜いてやるさ」

「アッハッハ! その意気だぜマドチィ!」

 

 ふとマドカは世界最強と訓練が出来る現状はかなり恵まれてるではないかと思ったが口にはせず憎まれ口を叩く。

 

 ――感謝はしているが、ただでさえ頭のおかしい機動でアレシアが飛び回る模擬戦で調子に乗られると身が持たないのだ。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
適当に訳すと
Chi è Lei?(訳)お前誰だ?
Dia il potere(訳)力をくれ。

たぶんこんな感じです。

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