二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

4 / 19
04.ディザストロ

 面倒くさい、それがアレシアとマドカの心情であった。亡国機業の上からの命令により北アメリカ大陸北西部にある地図にない基地(イレイズド)銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を奪うために侵入していた。

 殺すなという命令があるので、手加減が苦手なマドカの代わりに、アレシアが絶妙な威力のテンペスタデコピンで兵士たちを昏倒させていく。

 

「あー、めんどくさいし肩凝るわぁ……これ手加減ミスると頭吹き飛ばしちゃうから神経使うったりゃありゃしない!」

「何気に恐ろしいことしてるな!?」

「マドチの実弾で瀕死になるよりマシだって、それに手加減だけじゃなくてこの任務もやりたくないんだよねぇ。めっちゃ私情だけどなぁ! よし、マドチーこの速度で通路突っ切るぜぃぃぃ!」

「了解だ」

 

 そしてついにデコピンで意識を奪うことを諦めたアレシアは、通路を突っ切って通過時の風圧でなぎ倒していくことにした。最悪の場合でもきっと恐らく死なない絶妙な速度で駆け抜ける……打撲とかめっちゃ痛いだろうけどたぶん死なない。

 そうして視界に映るマップ通りに進むとひときわ大きな通路へ出た。そこにはひとりの女のシルエットが見え、姿を確認した直後――マドカの、ゼフィルスの右肩に羽の形をしたエネルギー体の矢が突き刺さり爆発した。

 

「あっちゃあ……やっぱぁ出てくるか、マドチ下がっててぇよ」

 

 アレシアはそう呟くと自身を目掛けて撃ち込まれた第二射、マドカを狙い撃ち込まれた第三射。それを左右の腕の装甲を滑らせ当たりを逸らす。逸らされた光の矢は壁と天井にそれぞれ突き刺さり爆ぜた。

 

「あー、ハロゥー? 何て言うか奇遇ねぇ、ナターシャ?」

「えっ、あなたは……あ、アレシア・コロナーロ!?」

 

 通路の先に見える女性、『銀の鐘(シルバー・ベル)』試作壱号機・腕部装備砲バージョンを両腕で抱え、生身で撃ち続けていたナターシャ・ファイルスへとアレシアは挨拶をする。いや、さすがに生身ではなく強化スーツらしきものは着込んでいるようだ。

 ナターシャはアメリカのISのテストパイロットであり、アレシアは元国家代表。昔に何度か仕事で顔を合わせたことがあったのだ。

 

「どうして行方不明になっていたあなたがこんな……いえ、相手が誰であってもあの子は渡さないわ!」

「アッハッハ! そっちは相変わらずでいいねぇ!」

「おいアレシア! 呑気に話している場合か! 早く銀の福音を奪っていくぞ!」

「えー、あたしとナターシャの知人程度の縁に免じてここはやめとくとか駄目かねぇ? 正直あたし的に一番楽しそうにIS乗ってるから好きなんだけど、なんか和むぞぅ?」

「いや駄目だろ……」

「……これは撃っていいのかしら?」

 

 アレシアが急に言い始めた駄々のせいで一時お互いの攻防が止まる。

 

 ――そこに不意を突く形で通路の壁を突き破り新たなIS、アメリカの第三世代ファング・クエイクがナターシャを庇うかのように彼女の前に現れた。

 壁が砕けて飛んでいった瓦礫がガスガスとナターシャに当たる。

 それと同時にファング・クエイクからナイフが投げられアレシアがまたも装甲で逸らし……マドカの装甲に突き刺さる。

 

「やっべ、ミスった。ま、マドチぃ避けろよな!」

「私が普通に避けようとしたら、避けた方向にお前がナイフを逸らしたんだろ!?」

「ナ、ナタル大丈夫か!? ボロボロじゃねーか!?……てめぇら、よくもナタルをやってくれたな」

「イーリ……あなたよ、あなたが吹き飛ばした瓦礫が私に当たりまくったのよ」

 

 お互いにフレンドリーファイアのようなことを起こし、お互いにその原因である人間は責任転嫁をしようとしている。

 しかし国家代表であるイーリス・コーリングが現れたことにより、アレシアとマドカの任務達成の難易度が急上昇した。元からひとり既にやる気がなくなってきていたが。

 

『アレシア、M。聞こえるわね?』

 

 突然スコールの声が響く、プライベート・チャネルからの通信である。

 

『状況はモニターで見てるけど、これ以上時間をかけるのは得策じゃないわ。今回は引きなさい』

『ヒャッホゥ! いよっしゃあ!』

『了解、よっし』

『なんでそんなに嬉しそうなのよ……』

 スコールからの撤退命令にアレシアがプライベート・チャネルで歓喜の声をあげた。

 

「じゃあそういうことで帰るわナターシャ!」

「逃がすか! ……あ、お前アレシアか!?」

「おー、なんだその虎柄のIS見覚えあると思ったらイーリス・コングじゃんかぁ! 久しぶりぃ、元気してたかぁ?」

「イーリス・コーリングだ! 誰がコングだ!? ゴリラじゃねーぞ!」

「ふふ、似合ってるじゃないのイーリ? ほら助けに来た親友に瓦礫を当てる脳筋なとことか」

「根に持ってるな、ナタル……」

「今のうちに逃げられるんじゃないか?」

 

 そういいつつマドカが後退し逃亡しようとしたところに、イーリスが反応し瞬時加速でMへと迫り来る。

 

「逃がすかよ!」

 

 しかしMは器用にスラスターを前面に向け後退の瞬時加速を行い距離を詰めさせない。

 そしてアレシアは普通に前向きに瞬時加速を行いイーリスとすれ違い、ナターシャの眼前で急停止する。

 それをすれ違い様に反応するイーリス。しかし自身も瞬時加速を行ったこともあり、アレシアを止めることが出来ず方向転換も難しい。

 何よりも後退の瞬時加速をしているMから放たれる高速射撃を弾くことで手一杯であった。

 

「なっ!? あの野郎!」

「ナターシャには悪いけど手土産なしだとさすがに怒られそうなんだよねぇ……だからゴスペルっちは置いてくけどこれは貰うよぅ!」

「え、あっ!?」

 

 アレシアはそういうとナターシャの使用していた『銀の鐘(シルバー・ベル)』試作壱号機・腕部装備砲バージョンを担ぎ上げて逃走を開始する。

 

「アッハッハ! マドチーみたいにわざわざ通路沿いに出ていく必要なんてぇぇぇない!」

 

 そう言うやいなやテンペスタの右腕に通常のモノより一回り小型の五十六口径パイルバンカー『小人の(ドロイヒ)杭打ち(パイルバンカー)』が現れる。これは反動を抑え連射速度を上げるために作られたものだが、ナターシャからある程度離れると上を向き、

 

「貫けぇ小人の杭打ちィィィ!!」

 

 常識のない人間は、本来ISのシールドすら打ち砕きかねないことから、シールドピアスとも呼ばれるそれを天井に打ち込んだ。

 パイルバンカーを削岩機の如く打ち出し続け分厚い天井を砕ききり地上へと出ると同時、イーリスへシールドビットの自爆攻撃を食らわせ離脱するマドカが目に入った。

 

 それを確認したアレシアも即座に6機の(ウィング)スラスターがあるアレシアだけの最速の瞬時加速、三段瞬時加速(トリプル・イグニッション・ブースト)を行い半ば無理矢理ながらも、本来追走は不可能に近い停止状態から、即座に超音速飛行状態のマドカに追いつき並走する。

 

「おー、マドチも無事逃げ切れてよかったよかった」

「いや、お前は天井を打ち砕きながら出てくるとか何やってるんだ……それにパイルバンカーから煙が出てるぞ?」

「一番手っ取り早かったんだ……けど、さすがに連射しすぎたぁ。放熱間に合ってねぇしメッチャ熱そうだなぁコレ。だが、ほれ! ナターシャの持ってた装備パクってきた」

「そういうとこは抜け目ないんだな」

「これが強さの秘訣、我を貫きつつも怒られないように最低限のことはやるのさぁ!」

「いや、それは違うだろ」

 

 何はともあれ手土産の出来たアレシアとマドカは拠点へと戻ったのであった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 その晩、アレシアの自室へスコールが訪れていた。

 

「で、今日のことだけど」

「ぷっはぁ! どしたねスコール?」

「取り敢えず酒を置いてくれないかしら?」

「おーけぃ、10秒待ってぇい」

 

 そういうと缶ビールをものの数秒で飲みほし、空になった缶を握り潰してゴミ箱へ投げ捨てるアレシアであった。

 

「うん……もうそれでいいわよ。話は今日のことよ、あなた銀の福音を奪うのを嫌がったでしょ?」

「あ、うんアイツからは盗りたくねぇーと思っちゃったぜ。いやはや凍結されてるんだからナターシャもさすがに諦めてると思ったら予想外だったわぁ、ホント自分の乗るISに愛着持つの変わってないなアッハッハ!」

「そういう私情で動かれたら困るのだけれど……そもそも貴女ってあまりこういうとこに向いてないと思うのだけれどどうして入ったのかしら?」

「殴り込みついでで再就職さぁー、ISまで自分で持ってきてたから泣いて喜ばれたわよぅ?」

「それってあなたが殴る蹴るしたあとだから泣いてたんじゃないの……?」

 

 その通りである、決勝戦を不戦勝した原因である組織の本部を八つ当たり気味に強襲したあとであり、再就職先として受け入れないとそのまま潰されそうだと錯覚した本部が受け入れたのだ。今では頭を抱えているに違いない。

 

「はぁ、あなたは亡国機業きっての最高戦力だけど扱いづらくて困るわ」

「しゃーない、しゃーない! そんなこと忘れてスコールも飲もうぜ!」

「なんで他人事なのよ……ふぅ、ワインはあるかしら?」

「あるある取ってくるよぅ。ぐへへぇ、今日のスコールのパンツに合わせて白でいっかぁ」

「ちょっと待ちなさい、なんで知ってるの?」

 

 まあ、スコールも彼女は扱いは厄介ではあると思っているが嫌ってはいない。

 アレシアが強襲した本部のように本来の目的を忘れて甘い汁を吸うことしか考えてない奴等よりは、常識をかなぐり捨てたような性格ではあるが、自分のやりたいことため全力で突き進んでる人間の方が好みなのだ。しかし本部、亡国の上の人間のほとんどには色んな意味で嫌われているだろう。

 そして全力で突き進んだ結果の被害が、こちらへも飛んで来がちなのは目下の悩みだが。

 

「さぁー、スコールぅ? お互いに大人な女同士腹割って話そーぜぃ!」

「何故かしら、あなたが大人とは頭ではわかってるのだけど同じ大人な女とは認めたくないわ」

「アッハッハ! スコールったら酷いなぁー」

「そう思うなら取り敢えずグラスをくれないかしら? ワインボトルを目の前に置かれても困るのだけど」

「え、ラッパ飲みしないのか?」

「しないわよ」

 

 ちぇー、と言いながらグラスを取り出すアレシアを見ながらため息をつくスコール。あれで本当に世界最強なのか疑わしくなるときがあるが、残念ながら真実なのだ。

 風の噂では初代ブリュンヒルデの織斑千冬もよく酒を飲み私生活はだらしないと聞く。世界最強ほどの強さまで上り詰めると、私生活に悪影響が出る呪いでもあるのだろうか?

 

「スコール、どっちがいいー?」

「右手のグラスよ、左手に持ったジョッキは片付けなさい」

「あいあいー、じゃお好きに飲んでねぇ」

「ええ、いただくわ……ん、結構美味しいわね?」

「金ならあるからぁ、安物から上物まで揃えてるのさぁー」

 現在、アレシアの金の使い道の5割ほどが酒である。まあ買うものがないという理由もあるが。

 

「それであなたが腹を割ってまで私と話したいことって何かしら?」

「察しいいなぁ、いやまあ今の亡国について?」

「どういうことかしら?」

「そのままの意味だよ、今の亡国機業のあり方についてどう思うかってこと。

 本来の亡国機業ってさ、過度に世界のバランスが崩れそうになったときに、裏方で誰にもその存在を察知されることなくバランスを保てるよう暗躍する。だからこそ『亡霊の仕事(ファントム・タスク)』って呼ばれてたわけなんでしょ?」

「あなたはあなたで、どこでそういうことを知ってくるのかしらね……ええ、その通りよ。でもその在り方は変わったわ、変わってしまった……って言うべきかしら?」

 

その切っ掛け、切っ掛けとすらいえないまるでそこが世界のターニングポイントであるかのように、世界のバランスをいとも簡単に崩しれた事件。

 

「それが白騎士事件だったね」

 

 それを期に元々人に知られず暗躍すること自体に不満があったもの、なかでも幹部クラスの女性が自分たちの在り方も変わるべきだと主張し始めた。そして『ファントム・タスク』は誰にも存在の知られることない存在から、知るものは少ないとはいえ存在を知られる犯罪組織へと変わった。

 亡霊の仕事は亡国機業というシステムへと変貌した。

 

「こんなところかしらね、ISが出回りはじめてから亡国機業の存在も知られ始めたのはそのせいよ」

「ほっほぅー、なんか思ってた以上に面白い話が聞けたなぁー……そんな話してよかったのぅ?」

「腹割って話そうって言ったのはあなたよ? 次は私が聞くわ、どうしてそんなことを聞いたのかしら?」

 

 そう問われたアレシアは少し考えたあとワインの残りを一気に飲みほしボトルを机に叩きつけるかのように置いた。その様子をスコールは眺つつ、よく急性アルコール中毒とかにならないわね、IS世界最強になると内臓も強くなるのかしら? などとぼんやり思っていた。

 

「ぷへっ、スコールの考え方によってはあたし撃たれる気がするけどぉぉ、いっかぁ!」

「はい?」

「だからぁー、あたしが今の亡国に不満があるからさっきの質問をしたのよぅ?」

「……そう、たしかに私が今の亡国の在り方をよしとするならアレシアは反乱分子ね」

「アッハッハ! ……やるかい?」

 

 アレシアの雰囲気から酔いが顔を潜め、その場の空気が引き締まるかのような錯覚をスコールは感じた。

 目の前にいるのはブリュンヒルデだと肌で感じとれ、先程までの酔っ払いはどこに行ったのだと聞きたくなる。

 

「あなた切り替えよすぎないかしら? あと、やらないわよ」

「ありゃ、そう? なら飲み直そっと、ぷはっ! んでスコールは今の亡国に不満あるの?」

「どっちでもってところね、前の裏方も楽しかったし今もそれなりに楽しいわ」

「へぇ、やっぱり裏方のときからいたんねぇ。でも今はそれなりぃ?」

 

 スコールが戦意を否定した直後、またいつものアレシアへと戻る。そういつも通り酒をラッパ飲みしている、どこかに真剣とバカ、酔うと酔わないのスイッチでも内蔵されてるのではないだろうかという切り替えである。

 

「そうね、それなりよ。ISという乗り物(おもちゃ)は楽しいわ。でもそれを使って甘い汁吸うことしか考えてないようになった上は嫌いね、私が楽しくないから。それにそう考えると既に『ファントム・タスク』は無くなってるわね」

「まー、あたしもそういうやつらは嫌いだ。うちの国にもいたよ……うし、なら次はあたしの番だ。一緒に今の亡国変えねぇ?」

「は……?」

 

 飲みに誘うかのような軽さでアレシアから放たれた言葉をスコールは理解できなかった。いや、理解は出来たのだが頭の処理が追い付かない。

 たしかにスコールは今の亡国に不満があるところがあるとは言った。しかし、そこそこに楽しいとも言ったのだ。もし今のアレシアの発言を本部へとスコールが伝えれば、自分の地位が惜しい上のやつらは彼女を殺しにかかってくるかもしれない。

 いや、それは飛躍した考えかもしれない。だが確実にアレシアには不利益な事態に陥るだろう。

 

 スコールはそんな発言を気軽にするアレシアの真意が、考え方が、在り方が理解できなかった。

 

「あなた、その提案はさっきの不満どうこうの話とはわけが違うわよ……どういうつもり?」

「あー? そのままの意味だってぇ、スコールも不満がある、あたしも不満がある。なら変えようぜぃ? こう実際入ると色々不満が湧いてさぁ、いや元から嫌いだけどな」

「反対して私がその発言を本部へ伝えたとしたら?」

「その場合は……逃げんじゃないかなぁ? そだ、マドチあたり連れてくよぉ、それで亡国機業ぶっ壊して織斑千冬とふたりで戦うのもいいかもしんないねぇ」

「そう、でもそれこそ無理よ。あなたは知らなかったでしょうけど――あの子の頭には監視用ナノマシンが埋め込まれているの。命令違反をすれば本部の人間の指先ひとつで数秒で脳中枢が焼き切られるとびっきりのやつがよ」

 

 ――ストンとアレシアからナニかが抜け落ちた。

 

「今なんつった、おい?」

「ッ!?」

 

 アレシアから放たれた絶対零度の声音にスコールは臨戦態勢となる。今度こそ先程の比ではない、本当の戦意を肌に叩きつけられている。

 スコールはアレシアがマドカに対して思い入れがあることは察していた、察してはいたがここまでのものとは思っていなかった。

 

「なあスコール、あたしはマドカのことが気にいってんだ。アイツのほっとけばいっつも仏頂面ばっかしてる顔をさ、アイツの復讐をどうにか丸く果たさせてやって最後には笑わせてやりたいんだわ」

「……ええ。予想よりはるかに思い入れがあるようね、たった今思い知ったわ」

「なのになんだ、指先ひとつで殺せる? ふざけんなよ」

 

 アレシアは見たこともない無表情でたんたんと語っている。声に起伏が無く、それがまたスコールの警戒心をよりいっそう高める。普段から何をしでかすかわからないアレシアだが、今は本当に読めなかった。

 らしくもなく余計な地雷を踏み抜いてしまったかとスコールは内心で反省しながら話を進める。急にアレシアがキレたせいで途切れたが、話はまだ途中なのだ。

 

「あたしの目標追加だ、織斑千冬と戦う、そんでマドカが笑って暮らせるようにするだ」

「あなたがひとりだけで達成するには難易度が高すぎないかしら?」

「世界最強を嘗めんな、テンペスタ・ディザストロとあたしが本気出せばなんだって出来んだよ」

「ディザストロ……災厄ね。それにしてもあなた察しはよくない方かしら?」

「はっ?」

 

 スコールはニンマリと笑う、いつも良くいえば妖艶、悪く言えば不気味に笑う彼女にしては非常に珍しい笑い方である。

 

「なんで私がわざわざ、あなたひとりでやるには難易度が高くないか聞いたかわからない?」

「わっかんねーな、飲みすぎた」

「ふふ、それは私も手伝ったげるってほのめかしたのよ。まったく気づいてもらえなかったけどね」

「え、マジで?」

「マジよ、今もそこそこに楽しいけどあなたと亡国を変えた方が楽しそうって気づいたのよ。そのついでに手伝ってあげるわ」

 

 アレシアはポケーとした顔でスコールを眺めている、今度はアレシアの頭の処理が追いついていないようだ。

 その初めて見るアレシアの様子がおかしくてスコールはついつい笑ってしまう。

 

「ぷっふふ、アハハハ! あなたのそんな顔初めて見たわ、これだけで手伝う価値があるわよ! アハハハハハハ! ゲホッゲホッ!」

「笑いすぎじゃないかなぁー……あたし珍しく超マジだったんだけどぅ?」

「ゲホッ! ゴッフ、ヒューヒュー……」

「ああ!? スコールが笑い死ぬ!? メディック、メディーック!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分後、ちょっと色々あったが今もスコールは無事生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでまずMの頭のナノマシンだけれど本部に中和剤が置かれているわ」

「あんたスコール、無かったことにしようとしてるけど笑って亡くなりかけてた事実は変わらないぜぃ?」

「それでまずMの頭のナノマシンだけど本部に中和剤が置かれているわ」

「わかった、この10分のことは忘れるからその無表情でリピートするの止めておくれぃ。酒の味がわからなくなる」

「……また飲み直すのね」

「勿論、でその中和剤って盗れるところにあるん?」

「難しいわね、各幹部クラスの人間が理由ありきで保管庫に入れるかどうかってとこよ」

 

 そもそもアレシアもそうだが、マドカもマドカで戦力にはなるが扱いにくさも頭ひとつ抜きん出ているのだ。

 だからこその手綱かわりのナノマシン、それを解除できる中和剤をそう簡単に盗れるようにするわけがない。

 

「ん? 各幹部クラスって、スコール入れるんじゃないの?」

「そうね、入れるわ」

「なら解決だって、スコールが中身ポカリのと入れ換えきゃあいけるいけるぅぅ!」

「いけないわよ!? それに入れるかもわからないわね。保管庫はMの中和剤だけでなく他の重要なものもまとめて置いてあるから……」

「たとえば?」

「ISに関係するもの、設計図や装備も置いてあるわね」

 

 その話を聞いたそのときアレシアの頭にあるひとつのアイデアが思い浮かびかけた。しかし飲みすぎたおかげですぐに酔いによる余計な思考の濁流に流されてしまい思い出せない。

 

「うー……あー、取り敢えず続きは後日にしないぃ? 今日は記念に飲みましょうよぅ」

「そうね、こんなお酒の入った頭じゃいい案もまともに思い浮かびそうにないわ」

「それじゃあー、あたしとスコールの友情に乾杯ぃ!」

「乾杯……ふふ、友情、ね」

 

 そうして考えを思い出すことを諦め、この日はアレシアとスコールの二人は互いにちょっとした暴露話をしつつも夜を更かしたのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を!
『小人の杭打ち』はオリジナル兵装として出しました。ドロイヒはスコットランド語で小人です。スコットランド語と英語の混ざった名称になってしまいましたがドワーフはなんか語感がよくなかったのでご勘弁を。
セカンドシフトしたテンペスタの名前は『テンペスタ・ディザストロ』、日本語で嵐・災厄。名前負けしない傍迷惑さを書けるようにします。

活動報告にてうちのたっちゃんについて書きました、本当に申し訳ない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。