二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

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03.御使の笛

 IS学園文化祭が無事、とは言えないものの大きな被害出ることなく終了したその日の夜。楯無は寮長室を訪れていた。用件は言わずもがな今日のことである。

 楯無は寮長室のドアをノックし声をかけると中から寮長である織斑千冬から返答があった。

 

「織斑先生、今よろしいでしょうか?」

「更識姉か入れ」

「失礼します」

「ああ、なんの用だ? 一夏の生徒会副会長就任についての挨拶にでも来たか?」

 

 千冬の言う通り詳細は省くが、今日一夏は文化祭のイベントにより生徒会副会長になった。そして楯無はこの学園の……学園内の生徒で最強の者がなれるとされている生徒会長である。

 

 のだが、もちろんそのことを伝えに来たわけではない。一夏が生徒会副会長になる数時間前の話、亡国のオータムが逃亡するのと入れ違いでやってきたアイツの話である。

 

「そうなんです、と言いたいところですが今回は真面目な話です……のでビールの缶を置いてもらえないでしょうか?」

 

 楯無は若干ジト目になりつつも、立て膝で座っている千冬の右手に持たれた缶ビールを見つつ指摘した。

 そう、この寮長すでにオフモードである。楯無に用件を聞いたときに一夏のことを名前で呼んでいることから察せるが完全にオフモードに入っている。

 普段の学園での姿はスーツで凛としているが、現在はジャージ姿で片手にビールである。恐らく一般生徒が見れば現実を認めず真っ先に己の目を疑うだろう、憧れである人間が飲んだくれにしか見えないのだから。

 

「チッ、真面目な話か。10秒待て」

 

 千冬はそういうやいなやビールの缶を一気にあおって残りを飲みほし、空になった缶を握りつぶしてからゴミ箱へと投げ捨てた。

 

「…………えぇー」

「よし、話を聞こう」

「あー、今日の文化祭で亡国の襲撃があったのは既にご存じかとは思うのですが」

「白式を狙ってきたそうだな。お前には礼を言わんといかんな、感謝する」

「いえ、生徒会長として当然です」

「素直に受け取っておけ、姉としての感謝だ。お前も姉ならわかるだろ?」

「……そうですね、そういうことなら素直に感謝されておくことにしておきます。それに世界最強からの謝辞なんて珍しいでしょうし」

「お前は余計な一言多いな」

 

 楯無は千冬の姉としての感謝を受け取っておくことにした。楯無も簪という一歳下の妹のいる姉であり、妹のためならばたとえ火の中水の中原子炉の中。

 矢の雨が降っていようがマグマの海を泳ごうが妹のもとへならマジキチスマイ、満面の笑顔で駆けつける自信がある。

 ただ今は関係が良好でなく妹に避けられているのだが。

 正直その原因は自分のせいとはいえ、そろそろ簪ちゃん成分が枯渇して暴走モードへと移行しそうなので仲直りをしたいと常々思っている。

 

 閑話休題、本題は亡国の爆発したオータムの話でもなければ、もちろん楯無の妹のことでもない。

 某蜘蛛型ISが爆発したあとにきたアイツのことである。

 

「亡国のアラクネに乗っていた操縦者は逃がしてしまったのですが、そのあとにもうひとり来ていたんです」

「なに……?」

「アレシア・コロナーロ、織斑先生が棄権した第二回モンド・グロッソの優勝者、二代目ブリュンヒルデです」

 

 それを聞いた千冬は一瞬目を見開いた、がすぐにいつもの表情に戻る。

 

「元イタリア代表のアレシア・コロナーロか……アイツは何をしに来た?」

「亡国の人間を助けにきたように見えましたがはっきりとは……アイツ? お知り合いだったのですか?」

「モンド・グロッソで顔を合わせた程度だがな、そういえば出会い頭に下ネタをかましてきたぞ」

 

 懐かしそうに語る千冬だが、楯無はアレシアの未だ捉えきれないキャラにドン引きである。

 

「……それと彼女から織斑先生へ伝言です。アレシア・コロナーロは決着を求める、と」

「そうか、あのときの決着か……」

 

 あのときとは当然ながら千冬が、誘拐された一夏を助けにいくために棄権したモンド・グロッソの、アレシアとの決勝戦のことである。

 ただし決勝戦を棄権し誘拐された弟を助けにいったという選択を間違っていたとは思わない。千冬は今あのときに戻れたとしても同じ行動をするし、そのせいで世界から石を投げられ白い目で見られることになろうとも微塵も気にしない。

 

 姉にとって弟を助ける以上に優先するべきことなどないのだ。

 

「更識姉、アレシアのやつの機体はセカンド・シフトしたテンペスタのままだったか?」

「はい。翼スラスターが6機ついていて装甲のかなり薄いテンペスタで、機動力も速度も第二世代とは思えないものでした」

「変わってないな。モンド・グロッソでも防御を捨ててスピードを特化し、基本的に合理性を捨てて火力を上げた装備で戦っていたぞ」

 

 例えばパイル・バンカー、例えばため(・・)に時間のかかるビーム砲、下手をすれば自分も巻き込まれる威力のグレネード。どれも当たれば無視できないほどシールドエネルギーの削られる武装ばかり好んで使っていたアレシアだった。速さで翻弄しチマチマ攻撃するのではなく、速さで翻弄しながら必殺の威力といって遜色ない高火力の攻撃がクリティカルで当たるまで繰り返すのである。

 

「私も同じ国家代表のつもりでしたけど……正直今のままでは勝てそうにありませんでした」

「厳しいだろうな、国家代表はISを所持している国の数いるがセカンド・シフトを成し遂げたのは私と一夏の織斑姓を除けばアイツだけだ」

 

 世間では運だけの戦乙女(ラッキー・ブリュンヒルデ)と呼ばれているが、セカンド・シフトは運だけで成し遂げられることではないぞ、と千冬はいう。

 現在、世界では例外である強制された福音を除けばセカンド・シフトをさせた人間は3人。

 世界のISが乗れる人間、女性が3億人としても女のなかでは1億5千万分の1、一夏をいれても1億分の1の人間なのだ。運だけでは済ませられないナニかがある。

 

「そうですね……それで織斑先生はどうなさるのですか?」

「ん? 今までまったく行方の掴めなかったやつが私との決着を求めて出てきたんだ、事と次第によっては引き受けるつもりさ……それに私自身アイツとは手合わせしてみたいからな。話は以上か?」

「はい、それでは。失礼しました」

 

 その返答を聞いた楯無は寮長室をあとにした。アリーナがブリュンヒルデ同士の戦闘に耐えれるのか想像し冷や汗を流しつつ。

 

 

 そして楯無が去った寮長室で千冬は親友へと久々に自分から電話をかけた。その相手とは――

 

『もしもしひねもすー! 世界は束さんによって終わりの日を向かえ――』

 千冬は何やら耳元で雑音(ノイズ)聞こえたので電話を切った。

 

「ふむ、携帯の調子が悪いな。近々修理に出すか……」

 

 そういいながら携帯を机の上に置こうとすると誰からか電話がかかってきたので一応出ることにする。

 

「もしもし」

『私だよ束さんだよ! なんだよちーちゃん! 久々にちーちゃんから電話をかけてくれたと思ったらイタズラ電話なの!?  さすがの束さんもビックリだね!』

「いや、お前に電話をかけたと思ったのだが耳元で世界が終日を向かえるなどといった雑音が聞こえたのでな。あと終日(ひねもす)は終わる日という意味ではないぞ?」

『それ束さんの声だから! ひねもすの意味も知ってるし、束さんの声は雑音じゃないよ!』

「すまん、聞き分けがつかなかった」

 

 千冬が素直にそう言うとさらに電話の向こうの相手はヒートアップしたので、ひとまずスピーカー状態にしてビールを取りに行く。そうして生返事をしつつもビールを飲み終わる頃にようやく相手もクールダウンしてきた。

 まあその電話相手とは先程から自分で名乗っている、IS開発者にして世間では稀代の天災と呼ばれる篠ノ之束である。

 

『……ってことなんだよ!』

「んーあー、そうかそうか」

『生返事……圧倒的生返事……! はぁ、もういいや。でどうしたのさ? ホントにちーちゃんから電話なんて珍しい』

「ああ、久々の電話で申し訳ないがひとつ頼みがあってな」

『えー、頼みごとのためだけに束さんに電話したのー?』

 

 そう言って拗ねたような反応をする束だったが次に発せられた千冬のお願いを聞き反応が変わる。

 

「暮桜を直してほしい」

『……え?』

「暮桜を直してほしいんだ」

『……どうして? ずっと暮桜が動かなくなってから私に見つからないように隠してたのに』

 

 暮桜、千冬が乗ってきた専用機であるが第二回モンド・グロッソのあの事件を期に原因不明で動かなくなっていたのだ。束から隠していた理由は――

 

「隠してた理由はわかれ、お前が修理すればまともに直さんだろう。どうせ第四世代だのそれを越えるものに改造するのが目に浮かぶ」

『そ、ソンナコトナイヨー』

「片言になってるぞ」

『気にしちゃ負けだよ! それで今さら直してほしい理由は? それが聞けないと私は直さないよ』

「過去の決着をつけるためだ、第二回モンド・グロッソのな」

『ああ、いっくんが拐われたあのときの……いいよ、でも束さんからも条件がひとつ』

「……なんだ?」

 

 束から条件と言われて身構える千冬だったが、それはとても単純なお願いであった。子供らしいとも言える。

 

『勝って、私の親友のちーちゃんは最強なんだから』

「任せろ、私も初代ブリュンヒルデ、世界最強だ。そう簡単には負けんよ」

『もし負けたら一緒に宇宙旅行に連れてくからね! 箒ちゃんもいっくんも!』

 

 それを聞いた千冬はふと思い浮かべてみる。色々大変そうだが、昔よく束と箒に一夏と過ごしていたことを思い出し、割りと悪くない気がした。

 

「ふっ、それもいいかもしれんな?」

『えっ、ホント? ……いや、負けたら駄目だからね!?』

「わかってるさ……ありがとう束」

『ちーちゃんからの素直なお礼……!? あ、明日は第三の御使がラッパをピーピーヒャララー ピーヒャララと吹き鳴らして、世界の水の3分の1が苦くなっちゃうよ! ちーちゃんのお礼で多くの人が死んじゃうよ!』

「おい、私がお礼を言えば聖書に載るレベルの災害が起きるのか? あと天使のラッパがやけに軽快だな?」

 

 まあ、そんなわけはなく不意に素直にお礼を言われたことに対する、束の照れ隠しということはわかっていたので千冬も深くはつっこまないが。

 

「なら頼むぞ、束」

『うん任っせなさい! ちゃんと必要最低限の修理にして当時の状態にしておくよ』

「ああ、何から何まですまんな」

『いいってことよー、じゃあ暮桜を回収にくーちゃんに行ってもらうねー』

「ああ、わかっ……くーちゃん? 誰だ?」

『私の娘さ! ばいちゃ!』

「は、はぁ!? ま、待て束!」

 

 電話が切れてから3時間ほど固まっていた千冬だったが、よくよく考えれば最後に束に会ってから今までで子どもが出来て、ここまで来れる年齢に成長しているはずがないと思い、飲んで忘れることにした。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 後日IS学園、秘密の地下室にて。

 

「初にお目にかかります、クロエ・クロニクルです」

「……ホントに来たぞ、おい。どうするんだ、束のやつほんとうに娘が? いやいやアイツの年齢とクロエの推定年齢からしてもそんなはずは……」

「どうかなされましたか?」

「お前は束の娘か?」

「束様にはそういっていただいてます」

 

 そう聞いた千冬は、発言からして実子ではないと確信し安心する。それにしても束が自分たち以外の他人に関心を向けたことに興味が湧いたのでこんど根掘り葉掘り聞くと決めた。

 

「それで暮桜のコアは」

「これだ、よろしく頼む」

「ええ、お任せください。束様にかかればどんなものでも理解の外のものへと変貌します」

「それに関しては同意だが、暮桜がそんなことになったら八つ裂きにすると伝えておけ」

「承知しました、それでは」

 

 そう言うとクロエは姿を霞ませて消え去った。

 

「大気物質に干渉して幻影を見せる能力か、おいクロエ、出口は反対だぞ」

「そうですか、ありがとうございます……何故見えていないはずなのに、私の居場所がわかるのでしょうか」

「束の親友である私を常識で測れると思うな」

「納得です、それでは改めてこれで失礼します」

 

 千冬の言葉に納得し帰っていったのだが……クロエはふと織斑千冬と同じブリュンヒルデというもう一人の人間も同じように常識の外にいるのかと、少し気になったのであった。 

 

 

▽▽▽▽

 

 

「へっぷっし!へっぷっし!」

「どうした、くしゃみなんてして?」

「うぁー、誰かに噂されてんじゃないかねぇ?」

「ふっ、アレシアがか? 間違いなくまともな噂じゃないだろうな」

 

 マドカが鼻で笑いそう言うと、アレシアはそれにイイ笑顔で返事をする。

 

「おっしマドチー、久々に訓練だ! 表出ろぃ!」

「断る! お前の訓練は頭がおかしいんだ!」

「だけどだんだんと癖にぃぃぃ……?」

「ならんわ!」

 

 とアレシアは抵抗するマドカを引きずりながら外へと引きずり出そうとしてると、スコールよりプライベートチャンネルで呼び出しがかかった。

 

「今すぐ部屋へ来いとな? 仕方ないなー、マドチーへの訓練は今度にするかぁ」

「た、助かった……」

 

 呼び出されスコールより伝えられた任務の内容は、アレシアとマドカの二人で『地図にない基地(イレイズド)』への侵入であった。

 

 ――アレシアとマドカはダルそうに返事しつつ任務へと出ることとなった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
原作も織斑姓の姉弟以外は二人目のブリュンヒルデしかセカンド・シフトしてないと思ってた時期もありました。この話を書いたあと楯無が単一仕様能力使ってる巻読んで考える作業を停止しました。

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