9月、この時期には文化祭や学園祭といった催し物を行っている学校も多いことだろう。
IS学園でもその例に漏れず学園祭が開かれていた。通常時には学園関係者以外の出入りに関してはとても厳しいIS学園。しかしこの学園祭ではIS企業の関係者ら各国の重役など以外にも、学園の生徒から招待状を貰った人間は軽いチェックのみで学園内に入ることができる。
今回、織斑一夏から白式を奪うためオータムは巻紙礼子という偽名を使い、亡国機業の息のかかった企業の人間として侵入する。
いつもは荒っぽい性格であるオータムだが外面をよくして普段からは想像できない、綺麗なオータムになれるので会話などにも不安はない。マドカ曰く「誰だアイツ」とのこと。ただ不安、というより懸念がひとつある。
「マドチ、マドチー。オータムが使ってる偽名って前に使ってねぇかい? あたし的にそれはヤバそうだと思う。シックスセンスさんが、第六感がもう失敗するって伝えてきてんだけど」
「任務中はエムと呼んで……くれないか、うんわかってたぞ。それと偽名はオータムが横着したからだが、ISが動かせる以外は一般人の織斑一夏にはバレないだろう?」
「うんにゃ、あたしのシックスセンスを信じな。取り敢えずいつでも助けに行けるようにしとかにゃならんよねぇぇ……ぷはぁー!」
「そう言いつつ酒飲んでるアレシアはどうなんだ……」
「アッハッハ! 織斑千冬と戦わないならどーでもいいよ! ISには飲酒運転もないし問題ないない!」
実際には問題しかないがアレシアは気にしない。正直織斑千冬以外の学園にいるIS操縦者くらいなら、多少酒を飲んでてもどうにかなると考えている。一升瓶で焼酎をラッパ飲みしてるのが多少の範疇に収まるかは考慮の外だが。
次は日本酒よーなどと、のたまいつつ飲みきった焼酎の一升瓶は消えさり新しく日本酒の入った一升瓶が現れる──
「んー、学園祭かぁ。楽しそうでいいねぇ、マドチー行かね? マドチは学校だっていってないし今ぐらいはいいんじゃないかなぁぁ」
「……いくわけないだろう、任務中だ。それに私はあそこでは素直に楽しめそうにない」
「そっかー、しゃーないなぁ! ならあたしが今度祭に連れていっちゃる!」
「え? いや私は」
「あたしが日本の祭にいきたい! 一人じゃ寂しーんだよぅぅぅ、ついてきてくれよマドチぃぃ」
「わ、わかった! わかったから離れてくれ!」
マドカに駄々をこねるかのようにマドカにしなだれかかり抱きつくアレシア。マドカは少し恥ずかしそうに見えなくもないが、それ以上に酒臭くてたまらないといった風にアレシアを引き剥がそうとする。
「ふっは! 言質とったぜぃ! ……あれでも今オータム、違う秋か。なら来年な!」
「はぁ、うん行くよ……いつも一番はしゃいでて楽しそうだがアレシアは何歳なんだ?」
「おいおい、女に年齢を聞くのはタブーだぜぃ?」
「私も女だ、気にするな」
「アッハッハ! そりゃそうだけどねぇ! まぁいいか、28歳だよ。ほぼマドチの倍だよ、だからあんたはもっと楽しそうにするべきなんだと思うけど……あたしが無闇に踏み込めることでもないよねぇ」
「そうだな」
アレシア・コロナーロは基本的に子供は笑ってるべきだと考えている、訳でもない。しかし普段あまり笑うことがなかったマドカに対しては、その分笑っていろと思っている。陰気な面は酒が不味くなるらしい。
なので亡国に来たばかりのときには仏頂面ばかりしているマドカに対し、話しかけ何かと構うようにしていたのだ……自分が楽しむためという理由や他の理由も存分に含まれているだろうが。
「まあ前言を無視して気にせず、ちっと踏み込むけどマドカ」
「おい……いや、それよりも本名で呼ぶな。せめていつも通りに」
「あんたの家族への復讐あたしも混ぜてくんない?」
「……は?」
途端にその場の温度が下がったかのようにアレシアは感じた。マドカの視線が初めて会ったときのように、それ以上に冷たく鋭い。
しかし、アレシアを素面に戻すにはまだぬるい。涼しさすら感じない。
「やっべ、マドチーがモンド・グロッソで織斑千冬に出会い頭に、お互い緊張しないように下ネタかましたとき並みに冷たい目してるぅ!」
「なにをやっているんだ……」
「あ、蔑んだ目に変わった。いやぁねぇ? あたしは織斑千冬と全力でぶつかってケリつけたい、あんたは家族に復讐したいんだろ?」
「ああ」
──ならあたしは姉担当、あんたは弟担当でどう?
そうアレシア・コロナーロは言い切った。少しドヤっている顔がマドカの神経を逆撫でるが今はそんなことはいい。
「……ん? 待て、思わせ振りに言ったがお前が加わる意味がわからんぞ」
「だってマドチは、正直まだブリュンヒルデレベルの相手には勝てる実力ないし? ならソッコーでマドチがやられないようにあたしが織斑千冬と戦っとく、その間に取り敢えず織斑弟を思いの丈で殴り付けるってのでどうよぅ?」
「ぐっ……たしかにそうだが私の復讐は私のものだ。それに星を掴むよりも難しいと言われても、私は負けるつもりなど毛頭ない」
「えー……チッ、ならあたしが求める織斑千冬との戦いはあたしの戦いだしマドチに文句言われる筋合いもないな! たまたまマドチと居合わせてもシカタネーワー!」
「暴論すぎるだろ!?」
アレシアは耳を両手で塞ぎアーアー! 聞こえないー! などと言っている、その姿はまるで小学生である。とてもあと2年で30歳になる人間には見えない、決して若く見えるという意味ではなく子供っぽいという意味でだ。
ただアレシアは本音をいうと復讐の邪魔をするつもりもないが、出来ることなら復讐によって思いの丈をぶつけたあとにはなるべく丸く収まるといいなと思っているのだ。
そしてカラカラと笑いながらマドチー諦めろぅ! とか言いながらアレシアはマドカの肩をバシバシ叩き、マドカはどう言い返しても無駄だと悟り諦める。
それにマドカはある程度はアレシアを信用している。性格、というよりは性質上アレシアは土壇場で正義感か何かにかられ復讐の邪魔をすることもないだろう。それに恐らく先程の提案も善意からのものだと思っている。
――ただそれを受け入れがたいだけで……多少はアレシア自身の織斑千冬と戦いたいという私欲もあるだろうが、いや私欲がほとんどか? わからなくなりマドカは横目にアレシアを見るが日本酒をラッパ飲みしてる彼女からはなにも読み取れない、むしろ読み取りたくない。ろくなこと考えてなさそうだ。
そんなふうにアレシアは酒を飲み、マドカは考えごとをしているとオータムのISから反応があった。内容は一度、織斑一夏の専用機白式の強奪には成功したがIS学園の生徒会長が乱入。白式も遠隔コールにて取り返されたようだ。
「よーし、いっくわよぉうテンペスタァ! マドチーはオータムを拾って逃げちゃって! あたしが足止めするから!」
「専用機持ちが複数人いるがいけるのか?」
「任せなさいなぁ! あたしとテンペスタは紙装甲なかわりに速度と火力はピッカイチィィィィ!」
「あ、おい待て!」
二人はそれぞれアレシアはテンペスタ、マドカはサイレント・ゼフィルスを展開しオータムの救出へと向かう。マドカはバイザーつきであるがアレシアはつけていない。本人いわく機体見られたらどーせバレるしいらないとのことだ。
「あ、あそこだ。壁を突き破ってアラクネが出てき」
「お、爆発したぞ」
「ドジっ子ぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「いやちゃんと脱出して」
オータム救出のためハイパーセンサーでアラクネを捉えた次の瞬間……アラクネは木端微塵に爆発した。それを見たアレシアはさらに加速し学園の専用機持ちたちがいるところへ躊躇わずに突っ込んでいく、マドカが何か言っていたがそれすら耳に入らずに。
音に迫る速度から地面を滑るように着地、といっても滑るようにいうのは比喩であり盛大に学園の地面を削り取っての着地をした。急停止の衝撃を息をするかのような容易さで殺したアレシアは粉々になったアラクネを手に取り嘆く。
「ドジっ子オータム! クッソぅ! 跡形もなく吹き飛んでるじゃないか!?」
「なっ、ハイパーセンサーに反応があってから一瞬で……! あなた何者!?」
「くせ者だよぉ!」
「ぐっ、ちょっと上手いって思っちゃったわ!」
「そんなこと言ってる場合ですか楯無さん!」
アラクネの爆心地を見つめるがどじっ子は跡形もなくなっていた。
空を見上げ、ドジっ子いいやつだったな、と勝手に亡くなったことにしているとマドカからプライベートチャルネルでオータムを拾ったと報告がきた。なんでもアラクネを自爆させる前にコアを抜き取って脱出してたようだ。
「なんだぁ、よかったよかった。じゃ水色ガールに少年、お邪魔したねぇ!」
「なに普通に帰ろうとしてるのかしら? それにあなたのIS、6つの翼スラスターに極限まで装甲を削ったテンペスタのような機体……こんなところで会えるとは思ってなかったわ。第二回モンド・グロッソ優勝者、アレシア・コロナーロさん?」
「テンペスタのようなじゃなくてテンペスタだってぇ……いやはや、私を見てブリュンヒルデってわかってくれる人がいるとは捨てたものじゃないねぇ!」
水色ガール、もとい更識楯無に正体を言い当てられたにも関わらず喜んでいるかのように見えるアレシア。実際喜んでいたりする。
そしてアリシアの機体、鋭利なフォルムは風を切り速度を上げるため、シャープに細く薄い装甲は防御と共に重さを捨てたからだ。アレシアのセカンド・シフトした機体のコンセプトを一言でいえば当たらなければいいである。
それに対して楯無と少年、織斑一夏は警戒を強める。何故数年前から行方が掴めなかった二代目のブリュンヒルデがここに現れたのかなにもわからないのだ。
「あ、そーだ。少年もとい織斑弟よぅ!」
「え、俺ですか……?」
「そーだよ、あんたが拐われちゃったから決勝戦できなかったじゃんかぁ! 頑張れ男の子! 誘拐犯なんて蹴散らせぇい!」
「滅茶苦茶だこの人!?」
「何言ってんの? ブリュンヒルデなんて何かしら理不尽なもんなのよう!」
「否定できない……!」
自分の姉を思い出して残念ながら否定できなかった一夏であった。何しろIS用ブレードを生身でもって瞬時加速をしようとしたISを止めたこともあるのだ。正直弟ながら特に身体面的に理解できない理不尽さもあったりする。
「それとぉ、あんたの姉に伝えときなさいー。アレシア・コロナーロが決着を求めてるってねぇ!」
「……ああ、でもそれは自分で伝えてくれ」
「私たちがここであなたを捕らえるから、ねっ!」
「んお?」
アレシアが一夏に伝言を頼むと同時にミステリアス・レイディに乗った楯無が蛇腹剣で横凪ぎにするがアレシアは難なくジャンプすることで回避する。具体的には海老反りをして躱そうとしたがやっぱり止めてジャンプして回避した、余裕である。
「なんだ水色ガールぅぅ、不意打ちするなって言わないけど外すとダサいぞぅぅぅ?」
「うるさいわね! ってかあなた酔ってるでしょ!?」
「日本の酒は旨くてしかたないぃぃ! ISにはなぁぁ、飲酒運転はぁ! ないんだぁぁぁ!」
蛇腹剣を仕舞い瞬時加速で距離を詰め、ランスでアレシアの腹に突きを放つがこれもランスの腹に腕を添えられ弾かれる。その隙に一夏が背後より零落白夜による一撃必殺の斬撃を見舞うが楯無の逸らされたランスによって阻まれテンペスタへは届かない。
「おいおい、織斑弟ぅ。ハイパーセンサーのついてるISに対して背後からの攻撃なんて対して効果ないぞぅぅ?」
「くっ、
「ブッ飛ばすぞ水色、運だけって言ってんのか! てか酔いが吹き飛んだ、次それで呼んだら容赦なく泣かすからな」
「あら怖い……それにしても暑くないかしら?」
「んあ? テンペスタの保護機能いじって程よくなってるから知らん、暑いならそのISにまとわせてる水被ったらどう? 涼しそうだけど、ほらISスーツって水着っぽいしちょうどいいんじゃない?」
「あなたってペースが掴みにくいわね、でも準備は整ったわ……『
楯無がそういい指を鳴らすと同時、ミステリアス・レイディの特殊兵装であるナノマシンを含めた水。それを気化させたナノマシン仕込みの水蒸気が一斉に熱転換し、アレシアがいた場所で爆発を起こした。
「これで決まったかしら……?」
「楯無さん後ろ!」
「はぁーい、惜しい! あの爆発がこの学園を包むくらいなら当たってたぁぁ!」
「なっ!? 離れなさい!」
「おっとぅ、はいはい」
振り向きざまのランスによる凪ぎ払い。それを楯無の後ろへ回り込んでいたアレシアは、振るわれた腕の肘に手を当てることで振り抜かれる勢いを利用し自ら後ろへと下がる。その機体は無傷、不意をついたはずの清き情熱による損傷は一切みられない。
「いやー、この頃のISは面白い機能があるんだねぇ。水を操るのか、こりゃナノマシンの応用かぁぁ? セカンド・シフトができないから擬似的
「……そうよ、でもそういうあなただって量産型の第二世代で信じられない動きをするじゃない」
「セカンド・シフトすれば世代なんてちんけな枠は関係なくなるんだけどなぁ。あたしからすれば、なんで皆セカンド・シフトしてないかが不思議でならないわぁー」
アレシアは事も無げに言う。どうしてセカンド・シフトもしないまま、
「簡単に言ってくれるわね……!」
「織斑弟もそれセカンド・シフトしてるんしょ?」
「え、はい。してますが……」
「ならISと話したぁろ? ただ、たったそれだけのことなのに世界でまだ三人しかしてない、皆怠惰すぎぃ! 因みに白式はどんな雰囲気の子だったよ?」
さもISと話せることが当然のように言う、世界で理解できる人間なんて片手で数える程しかいない事実を容易なことのように言い切る。
しかしどのような子と話したか聞かれた一夏はそれを疑問に思わずに答える。
何故なら織斑一夏もまた自身のISと話したことがあるからだ。
「白髪の女の子と……バイザーをつけた騎士のような人です」
「そうか! あたしは黒い髪、赤色の目でショートカットの……ん、二人? っとそろそろ帰るよ、いい話が聞けたぁ! 感謝するよぅ!」
「逃がすと思ってるの!」
「逆に問うぜぃ? あたしが逃げられないと思ってるのかい? じゃーねーまた今度ぉぉぉ!」
アレシアはそういうと6つの翼スラスターを次々と点火させ
「連装連続瞬時加速をあんな簡単に……!? くっ、逃げられたわね」
「あ、あれ速すぎませんか……?」
楯無と一夏はそれに対応できずアレシアの離脱をいとも簡単に許してしまう。追っていこうにも機体の最高速度に大きく差があり追いつけそうにもなく断念することとなった。
▽▽▽▽
そしていつもの拠点へと帰ったアレシア。
「よードジっ子! ナイスドジっぷりぃ!」
「うるせぇぇぇ!」
「あたしは信じてたよ! あんたならやってくれるって! でも爆破オチまでつけるなんて予想以上だ! やるねぇい!」
「ちくしょー! スコールー!」
「はいはい、オータム頑張ったわね。アレシアもお疲れさま、学園の専用機持ちと戦ってどうだった?」
そうスコールに問われたアレシアは気まずそうに斜め上を見つつ答える。
「いやー……戦おうにもあたし今日拡張領域に酒しか入れてなくって回避しかしてなかったんだよねぇ、アッハッハ!」
「バカだろ」
「な、なにおう!? マドチがビットのひとつでも貸してくれてたら戦えてたぞぅ!?」
「はぁー、まあそれでも無傷ってことは余裕だったのね?」
「まあ何だかんだ向こうも死ぬ気でかかってきてなかったしぃ? 水色ガールに至っては相手があたしであることに戸惑ってるとこもあったからねぇ……織斑弟はセンスはあるけどまだまだ粗かっなぁ」
それがなくても負けないけどね、とアレシアは呟く。不戦勝で得た世界最強の称号とはいえ、それに見合った実力とそれに対する自信はあるのだ。
「ま、失敗はしたけど得るものもあったし良しとしようぜぃ!」
「得るものってなにかしら?」
「え、稼働データ。マドチとオータムもとってるっしょ?」
「普通戦闘と並行してとったりはしないわよ……まあ、ありがたくいただくわ」
「やっぱアレシアはおかしい……」
「聞こえてるぞマドチぃぃぃ!」
「や、やめろ!? 高い高いしながら回るな! た、倒れぇぇぇぇああああ!?」
犯罪組織である亡国だが今日も平和に一日が終わるのでした。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
テンペスタのセカンド・シフトした機体名はそのうち出ます。