二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

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19.二代目戦乙女の今日この日この頃。

 ブリュンヒルデ同士の決戦があったあの日以降は色々とあった。

 まずは亡国機業の事実上の消滅。あの日、スコール、オータム、マドカ、アレシアの四人が持ち込んだデータにより亡国機業の本部の位置が判明。即座にIS委員会によって編成された部隊により制圧された。

 また各国の政府や重要企業に紛れ込む構成員も炙り出され、多くの国に衝撃を走らせた。国によっては財務省大臣のポジションの人間が亡国機業の構成員だったりして、少なくない金が流されていたり、企業によってはISの整備技術や装備設計図なども……とかなり大事になっていた。

 もちろん装備データなどを抜かれた企業にしたら即刻データの返却を求めたいところだが、そうは問屋が卸すはずもなく、IS委員会に押収されており中には公にできないような設計図もあった。

 亡国機業の壊滅と同時に潰れた企業の数が少なくないのは、笑えない笑い話となっている。

 何はともあれ亡国機業が壊滅したことにより世界に与えた衝撃は大きかった。

 

 

 そして世界がその後始末に終われる最中、年越し直前の十二月三十一日。世界中の電波がジャックされ映ったもの、それは……空色のエプロンドレスにメカチックうさ耳をつけた女性、もとい篠ノ之束であった。その後ろには失敗作だろうか? 焦げたクロワッサンらしきものを悲しげに目を伏せて見つめている白髪の少女がいた。クロエである。

 なんとこのふたり、ブリュンヒルデの決戦があったあの日に宇宙へと飛び出し夢を叶えたそうなのだが、その後も世界が亡国機業壊滅の後始末に追われ――主に千冬や一夏、それに妹の箒が篠ノ之束の行方を全く気にしなかったことに臍を曲げたそうな。

 ただ、千冬たちからすればいつも何処にいるかわからず逃亡を続けているくせに何を言うか、といった感想しか出てこない。

 取り敢えず妹として箒が、

「夢が叶ったんですね、おめでとうございます姉さん」

 と、呟いた一人言をどうやって聞き取ったのかは全くもってわからないが、機嫌を直して「また近々帰るからね!」と言い残し電波が正常に戻った。

 だが、正直世界の混乱が収まるまでの間……出来ればあと半年くらい宇宙でゆっくりしてほしい千冬たちであった。

 余談だが、ギクシャクした関係をどうにかしたい箒……といっても主に自分の納得できない感情のせいではあるのだが、とにかくこの関係を改善したかったのだが、この姉はやっぱりどうかと思う。

 いや嫌いではないのだ。ただ、かなーりあの在り方はどうかと思う。特に距離の取り方が測れず、元々の己の不器用さも相まって、中々切り出せずにいる。

 束本人が知れば、どんな反応をするのだろうか。少なからず不仲を解消したいと思っている妹に喜ぶのか、やはり自分の自覚しつつも直せぬ破天荒さが不仲に影響してることに改めてショックを受けるのか……神ならぬ束のみぞ知る。

 

 

 ――そして亡国機業から抜け出した四人は。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 四月の上旬、入学シーズンだ。

 それはIS学園においても変わりはなく、クラスの中では今年新たに世界的に有名かつ難関な入試を合格してきたものたちが、これからの学園生活に期待で胸膨らませソワソワとした気配が伝わってくる。

 よかったな、入学があと一年早ければイベントのたびに襲撃のあるエキサイティングな一年生生活となっていたぞ。ちなみに敵役は私だ。

 ……そして、そのソワソワした一年生たちのなかに漏れなく席を並べ座っているのが私、織斑マドカだ。

 

 私がここにいるのには、色々と訳があるのだが……まぁ、主に千冬姉さんやアレシアたちが私がまともに学園生活を送れるように交渉してくれたようだ。

 ついでに交渉内容にブリュンヒルデとしての権力だか物理だかが含まれていることを私は一切知らない、知らないったら知らないのだ。

 学年が一年生であることは、まともな学生生活を送ったことのない私への配慮と単純に年齢的な問題である。ああ、非常に遺憾なのだが私は一夏の妹らしい。だからといって兄とは呼ばんが、少なくともIS技術で負けるまでは一度たりとも呼んでやるものか。もしくは鈍感が直って、義姉さんが出来たら呼んでやろうじゃないか。

 

 それとセカンド・シフトしたサイレント・ゼフィルス改め『黒騎士』。名前は見た目がそんな感じだったので安直につけた……まぁその黒騎士なのだが、よくよく考えずともアレのコアは元々イギリスのものだった。よっていくら私の罪が無くなろうとも、返還を求められた訳なのだが――現在、私の専用機として手元にある。

 

 表向きな理由としては世界的に見ても数少ないセカンド・シフトの例ということもあり、コアをリセットすることは勿体ないのではないか? と、いうことになり今はIS委員会のテストパイロットというほぼ名義のみの立ち場に私はいる。

 そして、裏向きな理由だが……表向きな理由ではイギリスは納得しきれない。ただでさえ、数の少ないコアだ。いくら貴重なセカンド・シフトの機体とはいえ、「はい、そうですか」で手放すことなどできない。そこで取り出されたものが――代わりのコアである。

 覚えているだろうか? 私たちが無人機を十機ほど落としたときのことを。そのときに破壊したとして少々拝借していたコアがここで役にたったのだ……拝借していたのはアレシアであり、案を出したのはスコールであったが。そんなわけで、ありがたいことに今でも黒騎士は私の手元にあるのだ。愛着もかなりあるので感謝が絶えない。

 

 

 ……ふん、そんなことを思い返して気を紛らわしていたが、いい加減周りの視線が鬱陶しいな。ここは一年の一組だが廊下からもチラホラとこちらへ向けられている視線を感じる。

 あれか、去年学園内に男子一人だった一夏はこれ以上の視線を受けていたのか。私の場合は何故だ? 何が珍しいというのか、普通にナニのついてない女だぞ。亡国機業のことも一般人どころか本当に一部の人間しか知らないはずだが……

 ええい、面倒だ。理由もわからず視線が集まるのは気持ち悪い。そう思い私は先程から横でチラチラ目線を向けてくる、赤みがかった茶髪のクラスメイトに問いかける。

 

「おい、さっきからチラチラとなんだ」

「え? わ、私ですか?」

「そうだ、お前を含めて視線が集まってる気がしてならないんだ」

「えーと……千冬さんにそっくりだから」

「……あ」

 

 そうか、そういえば姉さんを幼くしたかのような容姿だったな私は。いや、姉妹で似てるとか本人は気づきにくいんだ。というか気にしないんだ。

 そりゃあ、注目されても仕方ないわけだ……それにしても千冬さん(・・)? 姉さん、ではないか。一夏の知り合いか何かなのか?

 

「ああ、そういう理由だったか。まぁ、そうだろうな。私と織斑千冬、ついでに一夏は血縁関係だ」

「そうなんですか!?」

「そうだが……同級生だろ、別に敬語はいらないぞ。えっと」

「あ、自己紹介がまだだったね。私は五反田蘭、よろしくね。蘭って呼んでくれればいいよ」

「織斑マドカだ、よろしく頼む蘭。私もマドカで構わん」

 

 このあと蘭と少し話していたのだが、どうやら蘭の兄と一夏は中学が同じでよく遊んでいる仲らしい。

 そして……ああ、なんというか。あの歩くフラグメーカーめ、蘭もアレに惚れた一人らしい。

 どこで話の流れをミスったのか、惚れた理由を聞かされたりもした。まぁ、そのシチュエーションで助けられたならカッコいいと思ってしまうかもしれない。そんなエピソードだったのだが……それだけで超エリートのエスカレーター学校をやめ、IS学園に入学してきてまで追ってくるとは一途すぎるだろ。

 気持ちは否定しないが、その想いの先一夏であることが唯一にして最大の懸念事項だ。

 

 ――それにしても蘭の兄と一夏が友人であったなら、蘭が今まで私を知らなかったことはおかしいと思ってもしかたない。いや、そう思うはずなのだが……一向に聞いてこないな。初め私が姉さんたちと血縁と知ったときに、一瞬表情に疑問が浮かんでそれっきりだ。

 ……いい奴なんだろう、蘭の恋路は微力ながら応援させてもらうとしよう。いや、ホントに相手がアイツだから微力にしかならないが。

 

「アイツに惚れるとはお前も難儀だなぁ」

「いいのよ、私が選んだんだから」

 

 そして、こいつも何気にゴーイングマイウェイな奴か。話を聞くに蘭の兄も苦労してそうだな。

 うん、私の周りには私含めて自分の道を突き進むやつしかいないな。

 

「私にはわからんな、メリットデメリットで考えるとどうも入学を止めようとした兄に同意してしまう」

「マドカも恋をすればわかるんじゃないかな? 恋はメリットデメリットじゃないのよ。例え、この恋が実らなくたって私の選択を私は後悔しないわ……まぁスッッゴイへこむんだろうけどね」

 

 恋か、今まで生きるか死ぬかの人生だったからな。

 ……ん? これからは兄以外は女しかいない学園生活なんだが。百合に走ればいいのか? あ、いやスコールの奴が来そうだからやめよう。

 

「要するに恋する乙女は最強なんですよ」

「乙女……乙女力、最強……うん、なんだ。まともなものが連想できないのは今までの付き合いが悪かったのか」

「ん? どういうこと?」

「いや、何でもない。それよりもそろそろ担任がくるんじゃないか?」

 

 何故だかこの学園は担任を事前に生徒に知らせていない。姉さんはそのまま一夏のクラスの担任だろう、2年1組は専用機持ちも集まっている。

 

 

 ……そういえば、アレシアだが今は連絡がとれていない。

 スコールやオータムは、恐らくあの時から更識家に手を貸しているようだ。私が入学するまで織斑家で過ごしていたのだが、楯無のやつがたまに愚痴りに来てた。レズをどうにかしてくれ、快楽主義はどうにかならないのかとか。知るか、私に振るな。

 

 そしてアレシア。スコールたちの持ち出した、亡国機業の根幹に関わる情報により罪は軽くなった。いや、ほぼ無くなったといっても問題ないほどになった。

 だが、アイツは国との折り合いもあり帰国することとなり自分の尻拭いは自分で拭ってくると笑って帰っていった。たまには連絡くらい寄越しても構わんだろうに……ニュースなどにもこの頃は全くアイツについて報道せん。そんなに大変な状況なんだろうか、アレシアなら心配ないとは思うのだが全く連絡がないのは気がかりだ。

 別に心配なわけではないぞ? あれだけ一緒に過ごしていた奴が急に連絡がつかなくなったものだからな……と担任が来たようだな。

 

 は……?

 

「おぉーし、席ぃつけぇー」

「あ……?」

「あっ!?」

 

 待て、この声。あの黒髪に気の抜けたような間延びした喋り方! おい何でお前そこにいる。待て待て待て!

 

「何でお前がここにいるアレシアぁぁ!?」

「おいおい、マドチぃもとい織斑マドカー。あたしは先生だぁ。それに何でここにいるかぁ? あたしがクラスの担任だからに決まってんだろぉ!」

 

 その言葉を期にクラスメイトたちが沸き立つ。

 

「きゃー! 二代目ブリュンヒルデよ!」

「千冬様が二年生の担任だから世界最強にご鞭撻していただくなんて無理だって思ってたのに!」

「千冬様との決戦で惚れました!」

「あの効率を無視した高火力な武装でズドンとやってください!」

「アッハハ、くるしゅーないぜぃ」

 

 こんな光景が去年にもあったのか、姉さんが担任とわかったときにあったのだろうか。あったんだろうなぁ。姉さんもアレシアの奴も私生活、主に家事は壊滅的なんだがな……因みに姉さんの方が三割増しで酷い。私は一夏の家事スペックが良すぎるのが、姉さんの家事力の無さに拍車をかけているんじゃないかと推測してるが。

 ふと、隣の蘭を見ると口をパクパクとさせアレシアを見ている。

 

「おい、どうしたんだ?」

「あの人、アレシアさん?」

「ああ、アイツはアレシアだが……まさか顔見知りか?」

「えっと、その……数ヵ月ほど前に助けられたことがあって。そのあとに道に迷っ、道案内をしたんだけど」

 

 そうか、道に迷ったあげくにたまたま助けた蘭に道案内をしてもらったのか。たぶん、ここらに引っ越してきた初日の買い出しだな。

 

「さってぇ、ちっと静かにしろぉー! うん、よし。このクラスを受け持つアレシア・コロナーロだ。あたしの教える科目は主にISの実施、普段は千冬ほど厳しくするつもりゃあないんだけど、IS関連はビシバシとしごいていくぞぅ。それで着いていけないと思ったやつは、クラスを移りたいと学園長にでもいいに行けぇ。通るかは知らねぇ」

 

 姉さんのようなカリスマでもあるのだろうか、あれだけざわついていたクラスメイトたちは真剣な顔をしアレシアの話を聞いている。先ほどまで驚きフリーズしていた蘭ですらだ。

 ブリュンヒルデほどの力があるからか。態度から威圧感は微塵も感じられるのに改めて見るとアレシアの強さが肌に伝わるというか……現状では敵わないとわかってしまう。まぁ、その現状に甘んじるつもりはないがな。いつかは姉さんもアレシアも越えてやる、越えて私が世界最強になってやろうじゃないか。

 

「座学はあたしに聞くなぁ、最低限人に教えられるレベルだがめんどい。今ちょっと面どぉっと、違う違う。残った仕事を処理してる副担任に聞けぇ。えー、あとなんだ心構えでもいっときゃいいのか?」

「聞くな、アレシア…………先生」

 

 チッ、先生とつけるのは慣れんな。あとお前面倒事を副担任に押し付けてきたな?

 気苦労が絶えなさそうな副担任だな、同情とお悔やみと御愁傷様と言ってやろう。無事一年が過ぎると良かったな。既に過去形だが、もう面倒事押し付けられてるから間違いではなかろう。

 

「あー、なんだ。お前らがどんな志を持ってどんな目標を掲げて、この学園に入ってきたかは知らん。強さか名誉か何を手に入れたいかも、今日初めて会ったあたしにゃわからねぇ。目的なんざ強さ、名誉、地位、恋、諜報なんだってぇいいんだ。ただ、それに全力で取り組め――そうすりゃ、あたしも全力で手伝ってやんよ。困ったことがあれば頼れ。あたしで信用できないなら周りのやつでもいい、ひとりで抱え込んで潰れたり道を誤っまりすることのねぇようにしろ。あたしはそこで失敗した人間だ、なまじ力がある分失敗した。けど、そのあとにいい奴らに出会えた。お陰でここにいられる――だから頼れ、頼ることは恥じゃねぇ……まぁ頼られなくたってお節介焼いてやんよぉ」

 

 諜報は駄目だろ……だが、さすが世界最強というべきか。言葉に得体の知れない重みがあるな。あいつが全力で手伝ってくれるというなら信じる気になれる、全力でやろうという気になる。

 それにアレシアが失敗した話は、クラスメイトたちも詳細は知らずともわかっているだろう。何せ第二回モンド・グロッソ不戦勝の優勝直後から行方知れずだったのだ。

 

「じゃあ、これからの3年の学園生活かぁ? よろしくなぁー」

「「「はいっ!」」」

 

 また、これからもアレシアや新しいクラスメイトたちとの生活が始まるが――騒がしそうな、それでいて退屈そうにない楽しめそうな日々になりそうだ。

 

 

 

「あぁ、あと賄賂送るならうまい酒で頼む。千冬にはバレんなよぉー? 捻り殺されるからぁな……あたしも」

「台無しだぞ!?」

 

 ――こうして、二代目戦乙女の新たな今日この日この頃が始まる。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
さて、この『二代目戦乙女の今日この日この頃。』ですが一度ここで完結となります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
この話を書き始めてすぐに原作にて本当の二代目戦乙女が出てきたりしましたが、こちらの作品での原作には居ない乙女力の発露をするオリジナルの二代目戦乙女も楽しんでいただけたなら幸いです。

さて、長々と書き連ねましたが次回予告。
二代目戦乙女の今日この日この頃。~season2~
『二代目戦乙女のこれから。』始まりません。
ええ、始まりません。気が向けば番外編としてアレシアを教諭としたマドカや蘭たちのいる1-1の話や二年生になった一夏たちと絡む話など書くかもしれませんが、そこは本当に未定ですので。

ではでは、改めてここまでお付き合いいただき感謝。
次回なにか書いたときに再び読んでいただければ幸いです。

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