二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

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15.再臨

 全学年専用機持ちタッグトーナメント一試合目が開始した直後であった。

 アリーナのシールドを破り六機の無人機が襲撃してきた。一年生の専用機持ちに楯無はアリーナで無人機を対応することとなったのだが、ここでつい先日セカンド・シフトした楯無が猛威を奮った。

 

専用パッケージ(オートクチュール)麗しのクリースナヤ展開、高出力モードへ移行! 『沈む床(セックヴァベック)』!」

 

 ワンオフである超広範囲指定型空間拘束結界を発動し、襲撃してきた直後にまとめて六機を捕らえた。

 不意を突かれていたならば、六機をまとめて捕らえることは困難だっただろう。だが今回は事前に情報があった、それゆえに対応できた。

 無人機の襲撃、楯無の急なワンオフの発動に目を丸くし固まっていた専用機持ちであったが直ぐに気を戻し総攻撃を仕掛け、あっけなく無人機は破壊された。途中全員が絶対防御が発動していないことに気がついていたのだが特に支障はなかった。

 そして無人機六機の襲撃を前にして、奇跡的に全員が無傷で完全勝利を納めることに成功した、したのだが。

 

 アレシアたちが妨害し損ね、学園に向かった無人機は十機。破壊した無人機は――六機。

 

「ッ! 皆まだ終わってないわ! 警戒し」

 

 そのことに気づいた楯無が警戒を促そうとしたそのとき、学園の一角が爆発した。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 モニター室、そこには学園の教師であり1年1組の担任の山田真耶と元亡国機業の実働部隊のリーダーであったスコールがいた。

 

「盛り上がってるわねぇ」

「なんでそんな冷静なんですか……貴女の仲間である人たちも三人で十機の無人機を相手にしているのに」

「ここにはコーヒーしかないのね。冷静な理由? 貴女は教師という謂わば保護者的な立場から生徒を見てるから心配なんでしょう?」

「え、ええ。まあそうです」

「私はね、元ではあるけど上司だったこともあるし、今も仲間と思ってるの。でも自分を三人の保護者と思ったことは一度もないの」

 

 面倒かけられたことは数えきれないほどある気はするけど、それでもだ。むしろこの頃はマドカが家事をしているのでオカン的に保護者っぽいとすら思えてくる。

 

「だから保護者でない私は心配する必要なんてないのよ」

「はぁ、そういうこと……んん? でも仲間だから心配しないことには、あれ?」

「あら、アリーナの方は手早く終わりそうね。心配は杞憂に終わりそうよ?」

「えっ、あ、はい!」

 

 人質代わりにいるはずのスコールは結構満喫していた。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 クロエ・クロニクル、推定年齢14~16歳は絶賛お使い中である。自称母親の篠ノ之束より届け物を預かりIS学園へやってきた。モノレールには乗れなかったので、クロエのISのPICを応用し海上を歩いてやってきた。

 

 各国のエリートの通うIS学園は警備は厳重であり侵入は困難、もちろん入り口の門には守衛もおり監視カメラもある。そんななかに白髪のドレスを着た身元不明の少女が、正面きって入っていけば一発で御用間違いなし。

 ――のはずはのだが、クロエは何も気にすることなくまるで自宅に入る気軽さで門をくぐり、守衛の前を通り、カメラに写る位置を堂々と歩いていった。

 しかし守衛は何も見えていない(・・・・・・・・)かのように少女を無視し、カメラにも何も映っていなかった(・・・・・・・・・・)

 

「ふぅ、少し疲れましたね」

 

 その理由は、たった今校舎に入り疲れたからと腰掛け自販機で購入したお茶を飲んでいる、このマイペースな少女の能力(ちから)にある。

 厳密にいえばクロエ自身の能力ではなくクロエと同化しているIS《黒鍵》の能力であり、ザックリとしたことをいうと幻覚を見せる。人間にも機械にも、だ。

 なので今は、他人にも学園のカメラ一式にも映らないようにしている。

 

 お茶を飲み終え、お使いを再開――織斑千冬に会いに向かった。階段を昇り、さて次はどちらへ向かおうかと悩み足を止めたクロエ。

 その真ん前の壁が炸裂し無人機が侵入してきた、クロエの前に二機の無人機が現れた。

 

「おや、これはこれは束様が要らないからとファー……即行で亡霊(ファントムファスト)でしたっけ? まぁ覚えるに値しないゴミ箱(組織)に棄てられた、ただ壊すしか脳のない兵器がどうしてこんなところに? 解体されにここまで来たのでしたら私ではなく、そうですね。ちょうどアリーナに専用機持ちが集まっているようですので、そちらまで行くといいでしょう」

 

 クロエは目の前の壁が破られたことに、驚きもせず服についた埃を払いつつ無人機に疑問を投げ掛ける。

 しかし当然というか当たり前ながら返答はなく、プログラムに従い動くだけの無人機は、レーザー砲をクロエへと向ける。

 壊れた壁から外を覗けば、あと二機こちらへ向かってきている。

 

「はぁ……誰にナニを向けているんですか、この鉄屑は」

 

 手の甲で自分へと向けられているレーザー砲をコンコンと叩きながら、再び疑問を投げ掛けるがやはり返答はない。二機の無人機は生身の人間に何をされても影響はないと判断し、レーザー砲のチャージを開始する。

 もしかしたら通信機能でも、追加でつけられているのではないかと思ったクロエだったのだがどうやら何もついていないらしい。

 

「そろそろ目の前でレーザーがチャージされてるのが眩しくなってきました。いえ、私は目をつぶってますけど気持ち的に眩しいです」

 

 目前で自分が消し炭すら残されず消えてしまう威力を秘めたレーザー砲がチャージされる最中、眩しさを気にするクロエ。チャージ完了まで残り二十秒。

 私目を瞑ってますが視力は一応あるんですよ? とか言っている。残り十五秒。

 

「そういえば眩しくもありますが、私にレーザーを撃つなんてオーバーキルも甚だしいですよね?」

 

 サングラスがないかポケットを探し見つからず、学園の購買の位置を思い出そうとするクロエ。残り十秒。

 しかし購買の位置は現在地と真逆、諦めて両手で目を塞ぎ指の隙間から無人機を見るクロエ。残り五秒。

 

「やっぱり眩しくて鬱陶しいですね」

 

 そう呟いたクロエ。残り零秒。そしてチャージが完了し放たれた二本のレーザーは――外に待機していた無人機を貫いた。

 理由は簡単、クロエの前に立ちはだかっていた無人機のレーザー砲、それはレーザーを放つ直前に外へと向けられたのだ。

 原因は言うまでもなくクロエの黒鍵。レーザーが撃ち込まれる寸前で、外に待機していた無人機をクロエと誤認させた。

 

「組織名らしく即行で亡霊ですね。いえ、人は乗ってないので廃棄物ですか」

 

 さて、残り二機をどうしようか。レーザー砲で互いに撃たせてもいいが間違いなく自分も巻き込まれる、木端微塵だ。

 

「さすがにそれは騙せませんね、視覚や触角は騙せても現実での負傷という事実は騙せません」

 

 ここでの破壊を諦め、無人機の肩によじ登る。正直歩くのもそろそろ疲れてきてたクロエは、アッシー代わりにするようだ。無人機を。

 

 そうして無人機にガッションガッションウィーンウィーンいわせつつ移動を始めたのだが……目的地がこちらへ向かってくるのが見えた。まぁ、目的地とは織斑千冬のことだが、恐らく爆発を見て駆けつけたのだろう。

 慌ててクロエは無人機から降りようとする。クロエが無人機で襲撃させたと思われれば厄介、束にも迷惑がかかる。

 なので急いで降りようとしたのだが……足を引っ掻け尻餅をついた。

 

「いつぅ……」

 

 へたりこむような体勢で痛む尻を抑えたまま動けないクロエ。無人機の肩は、尻餅をつくには高過ぎたようでかなり痛むようだ。いや、尻餅をつく高さなどないが。

 

「おい、クロニクル、何をやっている」

「…………し、暫し待ってください。尻に深刻なダメージが」

「年頃の女子が尻とか言うな、せめて臀部とか言いようがあるだろ」

「尻は、尻です……よし少し痛みも引いてきました、お届け物です」

 

 かなり手軽に千冬の手に手渡されたものは、暮桜。千冬は驚きと確認の意を込めクロエを見るが、気にせずまだ痛むのか尻を擦り千冬に見向きもしない。

 クロエの頬を片手で握り、自身へ向かせる。

 

「ふぁにふぅるんふぇふふぁ? ふぁふぁひふぃりふぉふぁふひんふぅ」

「尻はもういい、これは暮桜か? 隣で先ほどから動かないこの無人機は? 何故束は亡国機業に無人機を渡した?」

 

 問うと答えを聞くため手を離す千冬。

 

「はい、束様が直された正真正銘暮桜です。無人機は渡されたのではなく棄てられました。隣の無人機は私が止めているのですが……そうですね、試し斬りをするのに使われてはどうでしょう?」

「ほう、では遠慮なく使わさせてもらうぞ」

「ええ」

 

 千冬は待機状態でネックレスになっている暮桜を握りしめ――あの日以来、第二回モンド・グロッソで誘拐された一夏を救ったあのとき以来となる暮桜(相棒)を呼び出し、呼び掛ける。

 

「来い暮桜、久々だが刃は錆び付いていないだろうな?」

 

 ――貴女こそ腕は錆び付いていない?

 そう返事が聞こえた、ような気がした。セカンド・シフトしたときに出会い聞いた暮桜の声が。

 

 ――ええ! いいわ、斬りましょう斬り伏せましょう! 心ゆくまで斬り捨てましょう!

 

 気がしたどころではない、確実に聞こえた。そうして展開された暮桜。千冬は展開と同時に呼び出された雪片を握り嗤う。

 

「くくっ、上等だ。おい、クロニクル離れてろ」

「言われるまでもなく、今の貴女の近くにいると斬り捨てられそうですので……ではどうぞ」

 

 クロエは、既に目一杯離れていた。心なしか頬に汗が伝っているようにも見える。

 そしてクロエは無人機に見せ、動きを止めていた幻覚を消す。幻影から解放された無人機は瞬時に周囲の情報を把握し、目の前の暮桜()を認識した。

 一機は後方に飛び退きレーザー砲をチャージし、もう一機からは拳を突き出されるが拳が、腕が、肩が消える。否、千冬の刀に、雪片に斬り刻まれた。

 追撃に一歩踏み込み横一閃、クロエの目にはそう映った。確かにそう見えたはずなのに、肩まで斬り刻まれていた無人機は首、肩、胴、下半身に寸断された。

 

「柔いな」

 

 後方から放たれたレーザーの真下を、千冬は腰を落とし雪片を肩に担ぐ構えで瞬時加速でくぐり、無人機を自身の間合いに入れる。

 

「がら空きだ」

 

 レーザーが途切れると同時、降り下ろされた雪片は無人機とコアを纏めて縦断し、斬りさいた。

 

 

「……なんだこれは、木偶の坊か?」

「まぁ、貴女にかかれば大抵のものが木偶の坊になるかと……おや『黒鍵』発動」

 

 クロエはそういいその場から姿を消し悠然と歩いて帰る、千冬には見えているのだが。

 だがクロエが帰った理由もわかるので止めなかったのだが。千冬が壁が砕け散り風通しのよくなったそこから外を見れば、一夏たちが飛んでくるのが見えた。

 

「説明をせんとな……」

 

 その後やってきた専用機持ちたちにクロエのこととか色々伏せつつ、今回のことを話した。亡国機業をスコールたちが抜けて協力したことも全て。ただ暮桜に関しては力業で誤魔化した千冬だった。

 

 ――何はともあれ初代戦乙女(世界最強)再臨。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

「あ、なあなあおいおい? あたしだけ先に行っていい? なぁ何かスゲェ速く行きてぇ」

「なんだ急に? もう学園だ」

「勘だぜぃ! それも珍しく良い方だぁ!」

「あぁん? そういややけに静かだな、こっちも既に終わってんのか?」

 

 海から上がり学園までやって来たアレシアたち。もうISは待機状態にしている。

 しかしアレシアが急にソワソワし始めた、このまま放っておくと猪もかくやという勢いで突撃しだしそうだ。かつてなく落ち着きがない、酒を飲んだときよりも興奮している。

 アレシアは自覚しているがどうにも自制が効かない。もともと勢いで国を飛び出すような性格なのだ、根拠のない欲求でもここまで強いとどうにも逆らいがたい。

 

「もう我慢でき」

「させるか!」

「止まれボケ!」

「ぬぉ!?」

 

 しかし短くない間、少なくない任務を共にこなしたマドカたちも、ソレは百も承知であるので実力行使で止める。マドカは背後から飛びつき首に腕を絡め、オータムに至っては容赦なく脇腹に肘をいれた。

 アレシアは思わず膝をつき、動きが止まる。

 

「マドチたち容赦なさすぎだぜぃ……」

「お前が暴走すると何しでかすかわかったものじゃないからな」

「いーからさっさとスコールのとこ行くぞ」

 

 呆れたようにアレシアを見下ろしつつ、オータムは歩き出す。

 そのあとをふらつきつつも追うアレシアは、ふと忘れていることがあるような気がしてきた。

 してきたが、まあ大方報告し忘れてたことがあるとかだろうと当たりをつけ気にしないことにした。

 それがもたらした結果はすぐにわかることとなる。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 そうして学園側の専用機持ちに千冬と真耶、元亡国機業のスコールたちが一室に集まった……集まってしまった。

 アレシアと千冬が、マドカと千冬と一夏が同じ部屋に揃ってしまった。目敏くアレシアは暮桜の待機状態とおぼしき、いや確信してネックレスを見つけている。

 

 アレシアもマドカもベクトルは違えど積年募らせた感情が今にも溢れだしそうだ。

 ふたりがギリギリ耐えているのは、ここで暴れれば全てが水の泡、自分以外の三人にも責任がいくからという理由であり、いってしまえば今ふたりにある枷はそれだけである。

 マドカに関してはその織斑千冬に似通った、そのまま千冬を若くしたかの容姿のせいで専用機持ちの視線が集まり、その視線が集まる理由も本人も理解してるがゆえにストレスが堪っていく。

 

 と、スコールは考えている。先程からマドカは一度も顔をあげていない、現在オータムだけがスコールの癒しだ。

 

「千冬、早く済ませましょう。こっちのふたりがもたないわ」

「……ああ、ではそちらが対処してくれた無人機は」

「回収済みよ、原型を留めていないものもあるけどあとで渡させてもらうわ」

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 当たり前だが学園に来るのは気が進まなかった。一度は吐き出して整理したつもりだったが、所詮整理されただけであって無くなったわけではないのだ。

 筋違いかもしれないことくらい、私だってわかっている――でも憎い。

 それでも家族が近くにいて仲間に囲まれている姿を見れば、いくらでも暗い黒い感情が沸き上がってきて思考が焼き切れそうだ。

 

「…………らしよう」

「……の……かったわ」

 

 スコールと姉さんの会話も聞こえているが頭に入らない。ただ専用機持ちたちからの不躾な視線を感じる、見るな見るな見るな。

 なんで私がこっちなんだ、何故お前がそこなんだ。

 前にアレシアに八つ当たりのように問い掛けたときには明確な答えはなく『私が私だから』と言われた。けどそんなので納得はできないし、アイツも納得するなと言った。そして、ああ確かに織斑一夏に問うても明確な答えなんてないのかもしれない。

 でも私は織斑一夏(お前)に恨みを抱こう、羨望を持とう。今の暮らしが悪い訳じゃない、しかし私は今を享受してこの気持ちを圧し殺して生きていくなんて我慢できないんだ。

 

 スコールはまだ何か話してるようだが……構わないだろう。だって織斑一夏はなにもしていない、なら問題ないだろう。

 顔をあげて実際に確認するが実際ただ突っ立ってるだけだ。ちっ、視線が鬱陶しいな――もういい加減限界だ。

 

 

 さあ、理不尽に怒ろう、不条理に逆らおう、不道理に抗おう――織斑マドカの復讐の始まり、そして終わりだ。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
なんか学園での戦闘サラッと終らして、クロエ中心みたいになりました。

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