二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

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14.総力投入

 IS学園で本日催される全学年専用機持ちタッグマッチ、そこへ亡国機業が襲撃を仕掛ける。

 

 それを邪魔するためにアレシア、マドカ、オータムの三人はIS学園より数キロ離れた海上にステルスモードで待機していた。学園へ向かう無人機を可能なだけ引き付け、落とすために。

 

『なぁ、スコールはどこなんだ?』

『IS学園、まあ信用されきってないんだろぉねぇ。だから人質みたいなもんだなぁ』

『チッ、気に食わねぇけど取り敢えずここに来る無人機落とせば信用もされて、スコールも解放されるんだな?』

『イェース、オータムの言うとおりだぜぃ』

 

 昨日スコールが夜中に帰ってきてから聞かされた話。

 昼食、夕飯がいらないことを連絡いれなかったことをマドカにスコールが説教されたあと、今日の亡国機業からの襲撃を迎撃する手伝いをすることを聞かされた。

 アレシアの理解としては信用を得るために、無人機をぶち壊す。シンプルで実にわかりやすい。

 因みにマドカとオータムには、スコールが学園側に人質代わりにいった理由は話してない。単純に一番適してたのがスコールだったのだ。

 マドカ、織斑家とのいざこざというか復讐心が今回爆発する可能性があるので除害。オータム、大人しくしてると思えない、スコール談。そしてアレシアは単純に一番の戦力なので無人機迎撃に、消去法でスコールが人質に行った。

 まあ、人質といっても言葉ほど物騒なものではないが。

 

『こちらIS学園です、現在試合が開始されました。そちらは異常ありませんか?』

『ああ、今んとこ影も映らねぇぜぃ真耶ちん』

『ま、真耶ちん!?』

 

 そこにアレシアへ個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)で学園の教師、山田真耶より専用機持ちタッグマッチが始まったと通信が入った。

 こちらも見渡す限り、水平線まで見ても無人機の影も映らないので問題ないことを伝えた。

 

『なぁ、アレシア。亡国機業の奴らってバカなのは知ってるけどよぉ』

『んん? オータム今通信中だからあとに』

『こんな白昼堂々と何機もの無人機飛ばしてくんのか? さすがにここに来るまでに他に見つからねぇか?』

『……あ』

 

 オータムのその言葉を聞いた瞬間、アレシアの首筋にヂリッとした火で炙ったかのような、嫌な感覚が走る。

 瞬時にハイパーセンサーの感度を最大限に引き上げる、自身に入ってくる情報量の膨大さに酔いそうになるアレシアだがすべて無視する、伊達に普段から酒を飲んでるわけではない。

 脳を殴り付けるかのように次々と更新される景色の情報、光が痛いハイパーセンサーの捉える物の動きひとつひとつが負荷になる――が見つけた、海底に見えた。

 ジャミングを掛けられているのか、ハイパーセンサーの感度を最高にした今でもハッキリとは映らない。だが尻尾は捉えた、捕らえた。

 

 ――ならばあとは引きずり出し殲滅するだけだ。

 

『マドチィィ、オータムゥゥ! 無人機発見、海底からお越しだぁ!』

『チィ!』

『突っ込むぞ!』

 

 アレシアは海中を瞬時加速で突っ切りつつ、ハイパーセンサーを通常時の感度に引き下げふたりに無人機の発見を伝える。

 マドカとオータムもそれに続き海中へ飛び込みアレシアを追う。

 そして見えてきた無人機の数――二十、その形は無人機でありながら女性を象ったようなものだった。アレシアは開放通信(オープン・チャネル)で山田真耶に伝える。

 

『真耶ちん! 無人機二十機ぃ! 試運転どころじゃねぇ、総戦力で来てらぁぁ!』

『にじゅッ!? わかりました、可能な限り止めてください!』

『ワリぃ、既に十機に抜かれた……けど残りは引き受けらぁな』

『なっ!? 三人で十機なんて無茶で――』

『なら、あたしは三機もらうぜ!』

 

 アレシアが無人機のうち注意を引き付け停止させるに至った内、オータムが三機をアラクネの背部に着いている八つの装甲脚で殴り飛ばし引き受ける。

 それに続くかのようにサイレント・ゼフィルスのビットによる射撃で……水中であるがゆえに威力は減衰されているが残り七機の内から三機を分断させた。

 

『私も三機引き受ける……アレシア残り四機頼むぞ』

『まっかせなぁマドチィ! んなわけで申し訳ないけど残りは頼む真耶ちん!』

『わ、わかりました。そちらも気をつけてください!』

 

 真耶からの開放通信が切れる。そしてアレシアは愚痴を溢しながら無骨な鉄の塊――否、鉄の塊ではなく形状は刀。しかし刀と呼ぶにはあまりにも分厚く大きい、強いて言うなれば斬馬刀と言うのが一番似合いそうな武装――正式名称『無銘刀(ノー・ネーム)』を展開し肩に担ぐようにし構える。

 

「はぁぁあ、めんどくせぇなぁ! なぁんで、いきなり全機投入してるのかねぇ?」

 

 篠ノ之博士から買い取った、博士お手製の機体だから手放しに戦力として信用してるとでも言うのだろうか。

 気は確かなのだろうか、確かにあの篠ノ之束製のISだ……だがあの(・・)篠ノ之束製のISなのだ。身内に渡すものならいざ知れず、廃棄処分と言い売りつけられたものがまともであるはずがないだろう。

 

「ま、あたしにゃあ関係ない関係ない」

 

  出し惜しみなく翼スラスター六機全開による最速の三段階瞬時加速(トリプル・イグニッションブースト)を使い、無人機四機のど真ん中を突っ切り――内一機の左腕、左脚を抉り斬る。

 

「全部ぶっ壊して鉄屑(スクラップ)にするだけだ」

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 オータムは何か引っ掛かるものを感じていた。三機を引き受けたことはいい、アラクネの装甲脚で殴り付けて他七機から距離をとれたこともいい。これでも元亡国機業の実動部隊だったのだ、近頃は不覚を取りいいとこもなかったが本来これくらいは余裕である。

 今のところ順調なはずなのだが……上からの蹴りを、右からの剣撃を、正面に相対する無人機からの拳の乱打を全てアラクネの八つの装甲脚を、自身の腕を使い悉く受け流し、いなし逸らしながら引っ掛かりを探す。ナニかがおかしい。

 

「チッ、なんか気持ちワリぃな」

 

 その違和感に戦いにくさを感じてる間にも、自分の上を先程から陣取っている無人機が腕部に装着された――周りの無人機の腕にもついているので標準装備であろう、レーザー砲をチャージし放とうとしていることをアラクネからの警告で確認する。

 避けるか防御し受けるかを瞬時に判断したオータムは

、右からの剣突きを六本の装甲脚の爪で弾き、正面の無人機より放たれる拳は残り二本の装甲脚で受けとめる。

 そして頭上に位置する無人機よりレーザー砲が放たれる直前、オータムはシールドエネルギーを消費することで、蜘蛛の糸状の捕縛ワイヤーを腕から放出したアラクネは目の前の無人機を捕らる。

 

 と同時、流れるようにグルりと独楽のように回り正面の無人機と自身の配置を逆にした。

 

「フレンドリファイアでもしてろカス」

 

 直後、レーザー砲は撃ち込まれ――アラクネの糸に絡め取られ配置を入れ換えられた無人機に直撃した。

 拳を捕らえていた二本の装甲脚も先端が巻き込まれ多少のシールドエネルギーが削られてしまった、そうオータムは思い舌打ちをしようとしたが、

 

 ――味方のレーザー砲を撃ち込まれた、無人機はシールドエネルギーが削られることもなく、かといって無傷なはずもなく……ただ無惨に爆散し、文字通りの鉄屑となった。

 それに巻き込まれたアラクネの装甲脚二本、それも絶対防御も何も発動することなくレーザーの熱に灼かれ焦がされ熔かされた。

 

「あ、あぁん……? 待て、これ……」

 

 先端部分が熔けてなくなったアラクネの脚を、フレンドリファイアにより跡形なくスクラップになった無人機を、オータムは視界に入れながらも現実に理解が追い付かない。

 いや、理解はしているのだがあんまりな事態に驚愕が隠せない。

 アラクネの絶対防御が発動していないのだ、相手のジャミングかナニかはわからないが、IS開発者である篠ノ之博士ならば、どんな機能があっても不思議ではない――どんな理不尽があっても現実は覆らない。この戦いで絶対防御は絶対に発動しないし一撃貰えば死ぬ。

 

 そこで、オータムは三機の無人機と戦い始めたときから、いや具体的には三機を殴り付けたときからの違和感の正体を突き止める。

 殴り付けたといっても腕でガードされたのだが、そのガードした腕が問題なのだ。

 

「ああ、(ヒビ)が入ってやがった」

 

 何故かは知らない、あの無人機が欠陥品なのかどうかもどうでもいい。

 ただ確実な事実として、アラクネの爪が無人機たち(アイツら)の装甲を難なく喰い破った。ということは絶対防御も無効化、もしくは元から搭載されていない(・・・・・・・・)

 

「ハンッ! 先に一撃入れたもん勝ち、お互いに鎧も服も着ずに全裸(マッパ)で斬り着け合うってかぁ!?」

 

 正確にいえば、この勝負は先手必勝ではない。オータムが生身の部分に一撃貰えば、致命傷なのはいうまでもない。しかし無人機は四肢がもがれようとも、死なない。

 だが、

 

「んなこと関係ねぇ! 完膚なきまでにブッ潰すだけだァ!」

 

 

▽▽▽▽

 

 

 マドカは一撃、まともに蹴りを受けて気づく。今の今まで相手だけが、絶対防御のない欠陥機だと思っていた。初撃のビットの攻撃の時点でそれには気づいていた。

 のだが、どうやら違うようだ。とてつもなく痛い、防御した左腕に受けた蹴り。肩が外れるかと思った、咄嗟にスラスターを逆噴射してなければ、外れるか受けた部分が折れてた。

 それにいくら相手にも絶対防御がないとはいえ、こちらのライフルやビットによるレーザーは、水中にいるせいで威力の減衰が激しいのだ。

 

「こっちはこんな状態なのにな……」

 

 そう呟きつつ後ろの岩礁のあったところを見る、今は何もない。無人機のレーザー砲によって塵と化した。

 目をそらし溜め息をつくマドカに、再びレーザー砲を放たれるがマドカはスラスターを少し噴かすことで上方に避ける。

 

「まぁ、アレよりはマシだな。この程度、何の苦にもならん」

 

 マドカはそのレーザーの上すれすれを、瞬時加速で無人機に突き進む、相手がレーザーを放ちながら腕を上げれば即死。だが躊躇いなく加速し突っ込み、その判断すらさせる前に距離を詰めた。

 ――マドカは両腿に無人機の頭部を挟み込み、逆手にもった『星砕く者(スターブレイカー)』の銃剣を無人機頭部に突き立てる。

 

「零距離ならば威力の大小など関係ないないだろ? 死ね」

 

 そのまま撃ち抜かれた無人機は機能を停止し、さらにマドカに背部へとナイフを突き付けられた。

 残り二機、一機は五機のビットの自動制御で相手をし離れているが、もう一機は既に背後で剣を振りかぶっている。

 翼スラスターと脚部スラスターを噴射し身体を反転させ、振り下ろされる剣で両断される。

 ――マドカに盾とされた人型の鉄屑、元無人機が盾としての役割を全うし両断される。

 

「ちっ、この距離でライフルは使いにくいな」

 

 鉄屑からナイフを抜き取ったマドカは、振り下ろした体勢の無人機の首を刈ろうとする。

 

「アツッあ!?」

 

 しかし寸前、ビットで抑えていたはずの無人機のレーザーが顔の真横を掠めていった。

 全身の毛が逆立ち冷や汗が吹き出す。右後方でビットを相手にしていた無人機を確認すれば、左腕を残し手足が損壊している。否、手足だけではない、頭部は三割ほど、胴体など半壊し下半身は残っていない。動いているのが奇跡的な状態である。

 

 ――無人機の命がないからこそできる捨て身の一撃。

 

 マドカは身がすくみそうになる、さすがに任務でもここまでに肌で“死”を感じたことはなかったのだ。

 だがマドカはニヤリと頬を歪ませる、笑う。

 こんなものがなんだ、実力では圧倒している。なら一切の慢心を捨てれば、負ける(死ぬ)道理はない。

 

アレシア(あのバカ)との戦闘に比べれば……緩いっ!」

 

 この程度の命の危機、任務では感じたことがなくとも、世界最強との訓練では幾度となく感じた!

 

 右後方から自壊しながらの本当に最期の捨て身の一撃。

 当たれば確実にマドカは蒸発してなくなるであろうレーザーが撃ち込まれるが、今まさに自壊している無人機を相手させていたビットにシールドを張り割り込ませる。

 それを五重、一枚一枚は直ぐに破られる破壊される。

 が、それが五回も繰り返されれば、避けるには十分すぎる時間が稼げる。左方に避けたさき、右薙ぎに振るわれる残り一機の斬撃。

 マドカはそれに対し避けもせず、自身で防御もせずにライフルを構え無人機の胸に突きつける。

 マドカが引き金を引くよりも早く、無人機の刃はマドカの腹を喰い破らんとし――シールドビットに阻まれた。

 

 先ほどまで自壊した無人機を相手取っていたビットは五機、破壊されたものも五機だ。

 マドカは引き金を引き、胸を撃ち抜く、まだ動く、両腕両足を撃ち抜く。ぎこちなくもスラスターを噴かし、まだ動く。

 

「ゾンビか!?」

 

 マドカは撃つ、無人機は動く、撃つ、動く、撃つ、動く、撃つ、動……きは止まった。存外ラスト一機がしぶとかったことにため息を吐きながらも、無人機の残骸を回収していく。

 

「まあ、これで終わりか……」

『おい、エム終わったか?』

『ん、ああ。終わった』

 

 残骸の回収に一段落ついたところで、オータムから開放通信で声がかけられる。

 よく見ればこちらへオータムが向かってきているが……八つの装甲脚が三本になっており、残りは熔けているものや切断されたのか、断面が綺麗に見えているものがある。

 

『無人機どもにやられたのか?』

『るっせ。てめぇもビットが残りひとつしかねぇし、左腕の装甲も罅だらけじねぇか』

『まぁな、アレシアはどうした?』

『まだ見かけてねぇが……』

『あ、オータムめっけ、マドチもいるな。こっちも終わったぜぃ』

 

 とアレシアも合流してきた……がその姿を見てマドカたちは絶句する。

 いや、無傷である。機体がボロボロとかアレシア本人が重症とかではない。全くもって五体満足でピンピンしてる。してるのだが……

 

『首取ったどぉぉぉぉ!』

 

 アレシアは無人機の頭部四つを『無銘刀』にブッ刺して帰ってきた。

 

『マドチもオータムも見れ見れぇ、生首四兄弟ぃぃ!』

『キモいわ!』

『キメェ!? てか生首じゃねぇよ!』

 

 ふたりから大不評を受けブーブー言いつつ頭部ごと武装を収納するアレシア。

 ふと、アレシアが目をパチクリとさせる。視線の先はサイレント・ゼフィルスの左腕とビット、そしてアラクネの装甲脚である。

 

『ん、んん? どしたの、その被害ぃ。どんだけ攻撃受けたの?』

『いや、絶対防御が無効化されてただろ』

『無人機自体にもなかったからだいぶ楽だったがな』

『そうだったんかぁぁ、へぇやけに脆いと思ったけどそういうことねぇ』

 

 アレシアの言葉を聞きマドカとオータムは気づいた。

 

 ――コイツ一撃も貰ってないうえに、普段から高火力な武装ばっか使ってるから感覚麻痺ってやがる。

 

『で、残骸回収は終わったのか?』

『バッチリだぜぃ』

『私もだ……学園に向かうのか?』

『ああ、スコールからはそう言われてる。さっさと行こうぜ』

『わかった』

 

 こうして無事、無人機掃討を終えたアレシア、マドカ、オータムの三人は今も戦闘を続けてるであろう学園へと向かうのであった。

 

 面倒臭そうな顔や浮かない顔をしていたが、向かうのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
お見苦しい戦闘描写が続き申し訳ないです。無人機は数は増やしましたが少し弱体化させました、次話では学園のことを書く予定です。
無銘刀は斬るというか叩っ斬る感じの武装です、斬撃というか殴るみたいな。

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