二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

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12.快楽主義

 アレシア・コロナーロが道に迷いながらもスーパーへたどり着いたその日の夜、更識楯無は従者である布仏虚から報告を受けていた。

 もちろん、その内容は先ほどまで虚が電話をしていた五反田弾の妹である五反田蘭より聞いた話――蘭が今日、アレシアと出会ったという話である。

 

「そう、彼女が。いったい何が目的なのかしらね」

「わかりませんが話によるとこの頃こちらへ来たと言っていたようです」

「ってことは近々またなにか起こそうってことかもしれないわね……わかったわ、私が明日『更識』として個人的に様子を見てくるわ」

「学園への報告はそのあとにでしょうか?」

「まだ本人と100%で確定したわけでもないし情報があやふやすぎる、明日の結果を踏まえて学園に伝えるとするわ」

 

 たしかに楯無の言う通り状況としては一般人、それも中学生がアレシアを見たという話を聞いただけであり不確定な情報である。それを学園に不用意に伝え混乱させるのもあまりいいとは言えない。それでなくとも近頃はなにかと襲撃が多いのだ。

 

「それじゃあ、明日ちょっくら見てくるわ。生徒会の仕事は虚ちゃんお願いね!」

「……えぇ、まことに遺憾ながらもいつも(・・・)ことですのでお気になさらず」

「アハ、ははー……検討するわー」

 

 虚の背筋が寒くなる笑みを見て、もう少し生徒会の仕事を真面目にやるか検討しようと思う楯無だった。のだが、間違いなくここで検討するに留まる人間は改善しない。

 目を逸らす楯無を見て虚は諦めた、色々と。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 時を少しさかのぼり両手にパンパンに膨れたスーパーの袋を引っさげたアレシアが何とか帰宅したあと。

 夕食の支度どきであるのだが問題浮上。ここにいるのはアレシア、スコール、オータム、マドカの四人であるのだがはたして料理が出来る人間がこの中にいるのだろうか。

 

「私とオータムは無理よ。包丁を握ったことはおろか出てきたものしか食べたことはないしカップヌードルすら作ったことはないわ」

「あたしも無理だなぁ……取り敢えず焼いたら食えんじゃねぇの?」

「それ食べれるだけで食事と呼ばないじゃない。もはや餌よ」

 

 しっかりと調理することが面倒なのかアレシアが最終手段であるただ焼いて食う案を出すがスコールに却下される。

 そんな中マドカは台所で黙々とアレシアが買ってきた食材を冷蔵庫へと入れていく。ちなみに何故か家具や食器などの一式は来たときには揃っていた、スコールの手配だろつ。

 しかしバカみたいな量を買ってこられたので、入りきらない分は腐りにくいものや缶詰めを日光の当たらないところへ置いておく。

 まあ、それでも多少魚や肉などの腐りそうなものが冷蔵庫に入りきらなかった。マドカは少し思案したあとそろそろ夜は涼しくなってきたので夕御飯は鍋にしようと決める。

 金の力にものを言わせたのか何もわからないから高いものを買ってきたのか……恐らく両方だがいい肉や魚が揃っているので旨い出汁が取れるだろう。

 

「おい、スコール。エプロンはどこだ?」

「え? エプロンなら台所にあるわ。それはともかく私はちゃんと調理したものがいいわ」

 

 スコールにエプロンの場所を聞きに居間に戻ったマドカはそれを聞き台所へと引き返す。まあ、調理器具などは自分で探せば何とかなるだろう。

 

「っていっても誰が料理できんだよぉぉ、あたしは食材選びすらままならないんだぜぃ? オータムは出来んのかぁ?」

「出来るわけねーだろ。どんないい食材も炭にする自信すらあるぞ」

 

 そんな言いあいを駄目な大人たちがしてるとも気づかず台所に戻ったマドカは食材を前にどんな鍋にするか考える。アレシアは何でも食べそうだがスコールやオータムはうるさそうだ。

 

「そこまで私が考える必要もないか……嫌なら食うな、それでいいな。無難に寄せ鍋にするか」

 

 そう決めたマドカは鰹節で取った鰹だしや塩、醤油でつゆをつくる。酒をいれるときには何故か既に冷蔵庫へと入れられていたアレシアのものとおぼしき酒を拝借し使用する。そして火にかけ煮たったつゆに肉、魚や貝に野菜類を入れ数分待つ間に次に入れる野菜を切りボウルに入れておく。

 ちょうど野菜が切り終わったころには肉や魚にも火がとおり鍋が完成していた。

 そうして出来上がった寄せ鍋を鍋つかみを使い居間に持っていくと……何故か三角座りした三人の大人がいた。というか言うまでもなくアレシア、スコール、オータムである。

 

「何をしているんだお前たちは……」

「いやぁぁ、この歳で料理のひとつも出来ないことに絶望し、て……おぉぉぉ!? マドチそれはぁぁ!?」

「鍋だが?」

「エムあなた料理出来たの!?」

 

 当然のように鍋を作ってきたマドカにアレシアは驚き、スコールとオータムも三角座りで膝の間に埋めていた顔をはね上げマドカへと詰め寄る。

 

「出来るが……? むしろ私からしたら今まで料理したことないお前たちに驚きだぞ」

 

 外食しかしてなかったのか? と少し引きながらマドカは尋ねる。それに対し目を合わせずから笑いで誤魔化そうとする大人が三人いた。

 その様子にマドカはため息をつきつつ、これはこういう大人たちだから仕方がない、と諦めることにした。

 

「ああ、もういいから鍋敷きを……なければ重ねた新聞でもいい。一旦鍋を置きたいから机に敷いてくれ」

「はい……料理って私は楽しくないから好きじゃないのよね」

「オータムは食器と箸、アレシアはお茶とコップを取ってきてくれ」

「お、おう。わかったぜエム」

「了解だぜぃ、オカン」

「誰がオカンだ!?」

 

 オカン呼ばわりされたマドカはツッコミをいれるが既にアレシアの姿はなく台所へお茶を取りに行ったあとであった。相変わらずのアレシアに呆れつつも、どこか楽しそうにカセットコンロを取りだしセットするマドカであった。スコールは手際いいわねーとか言いつつ眺めていた。

 そうして再び鍋をカセットコンロにのせ火をつけようとしていると二人が戻ってきた。

 

「それにしてもエムが料理を出来たとはね……正直10秒飯とかシリアルとかで済ませてるイメージだったわ」

「あとサプリとかな。あれだ、エムは不健康な現代っ子代表かと思ってたぜ」

「失礼すぎるだろ」

「まあ、でもマドチィが料理をつくるって想像できなかったぜぃ?」

 

 今来ているエプロン……ではなく正確には割烹着なのだが予想以上に似合っている。似合ってはいるのだが、マドカのイメージに合ってない。せいぜい湯を沸かしてカップヌードルを食べてたりサプリやコンビニ弁当で済ましてうそうだ、と好き好きにいうアレシアたち大人三人組。

 それを黙って目を閉じ聞いていたマドカの反応は

 

「雑草でも食ってろ、お前ら」

 

 普通に怒った。どんな勝手なイメージだ、どんな想像だと。コイツら普段から自分をどんな目で見ているのかかなり疑問に思うマドカであった。

 

「そもそもな……いい歳してるくせに料理のひとつもできん駄目人間三人に言われたくないぞ!」

「……焼けば大体食えるし」

「……頼めば出てきたし」

「……スコールと同じく」

 

 目をそらして言い訳するアレシアたちにマドカは再度ため息を吐きながらも全員に鍋をよそっていく。先程はオカン呼ばわりを否定していたが現状オカンそのものである、ここにいる最年少だが。

 そして配り終わり「いただきます」をしてから食べ始める。

 

「なぁ、スコール。これからの予定は?」

「近々アポを取ってからIS委員会に亡国機業の情報を流しにいくわ」

「明日は何するんだ?」

「エムは自由にしてていいわよ、アレシアもオータムも。私は近所を見て回るわ」

「目立つんじゃねぇのぉ?」

 

 いつの間にやら取り出した日本酒をちびちびとお猪口(ちょこ)で飲みながらスコールに問う。今日もスコールが出ると目立つという理由もあって、アレシアが買い物に行ったのだ。

 迷ったり中学生助けたり案内してもらったりと、寄り道は多かったが。

 

「明日は平日だしスーパーみたいに人が多いとこに行くわけじゃないから大丈夫よ……きっとね」

「はぁん。あっ、IS学園が無人機に襲撃されるのはいつなんだぁ?」

「五日後ね……まぁでも学園が対応できているかは微妙なラインよ」

「あ、なんでだよ。スコールがわざわざ警告してやったんだろ?」

 

 学園が襲撃に対応できるかがわからないということに、オータムが疑問をあげるが実際せいぜい警備を厳重にするくらいしか出来ていない可能性が高いのだ。

 スコールが学園に亡国機業の無人機が襲撃すると情報を垂れ込んだ、その相手はIS学園教諭の千冬であった。

 そして確かに信じてもらえたのだが、しかしいくら千冬ひとりが信じても所詮は正体不明の身元不明の人間からの情報である。何も知らない人間からすれば情報自体が嘘でありIS学園のイベントを中止させる意図のものとも受け取れる。

 

「だから大々的にイベントの日を変えたり中止にしたりは出来ないでしょうね。正直あの無人機を警備を厳重にしたくらいでどうにか出来るかは怪しいのだけれど……」

 

 企業の重鎮や各国の要人たちも見に来るのだ。世界最強のブリュンヒルデである千冬でも学園では一教諭であり、そう簡単には日程の変更を行えない。

 

「そう考えると信じてもらえる可能性は下がっても学園のトップに伝えるべきだったかしら……?」

「今さら気にしてもしゃーねぇってぇぇ。ごち! マドチ美味しかったぜぃ!」

「ま、そうね。ごちそうさまエム、美味しかったわよ」

「食った食った、旨かったぜ」

「ああ、各自食器は自分で洗え」

 

 マドカは「えぇー」という声が聞こえた気がしたが黙殺し自分の食器を洗いにいき、その後全員各自で食器を洗ったがその際起きた一悶着は主に大人たちの名誉のため伏せておく。

 

 ――ただひとつ、その晩に食洗機を買うことが決まったことだけ明記しておく。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 翌朝、朝ごはん、もちろんマドカがつくった。そして食器もマドカが洗った。

 アレシアたちに食器を洗わせるとそれだけ食器の数が減り掃除の手間も増えると昨日わかったからだ。

 

「まったく、どう育てばああいう大人が出来上がるんだ?」

「やめろよぉマドチィ! そんなこと言われると悲しくなるだろぉがぁぁ!」

「なら家事を手伝え、そら掃除をするぞ」

「ぐっ、しゃーねぇなぁ。オータムやるぞぅ……あれスコールはどこだぁ?」

「さっき出たぞ、探索だそうだ」

 

 逃げられた。そう確信するアレシアとオータムだった。その後ふたりはマドカにしごかれつつも掃除を手伝った、手伝ったのだ、決してむしろ仕事を増やしてはいない……手伝いによる効率の向上と被害は6:4なのでギリギリ役にはたった。

 

 一方その頃スコールは自宅周辺の探索は終わったので海の方へ出てきていた。砂浜から海を見渡す、左にはすぐそこに海の家、右の方を見ればその先にはIS学園が見える、IS学園である。

 今さらではあるがスコールたちは割りとIS学園の近くに逃亡もとい引っ越してきていたのだ。

 

「……さすがに近すぎたかしら」

 

 数パーセントの計画性と残り全てが面白そう楽しそうだからという理由であの家を買ったのだが少し冷静になると不味かったかもしれない。

 休日に自分達の中の誰かが近所を歩き回ってるだけで学園の生徒、特に顔の知られている専用機持ちたちに出会うかもしれない。

 そして現に数分前からつけられているのだ。

 

「うーん……バレるのが早すぎないかしら。ねぇ、生徒会長さん?」

「あらら、バレちゃってたのね」

 

 そう声がし海の家から出てきたのは更識楯無、IS学園最強と呼ばれる生徒会長にして更識家当主である。

 

「アレシア・コロナーロを見かけたって聞いたから来たんだけど貴女に会うなんてね『土砂降り(スコール)』。なにが目的で貴女たちがここにいるのか吐いてもらうわよ!」

「アレシアが原因なのね……」

 

 引っ越し一日目でこんな騒動を引っ張ってくるアレシアに呆れながらも頬が弛むスコール。

 昨日の買い出しで迷い中学生に道案内されたことから、偶然にも楯無に伝わったことをスコールは知らない。しかし、またどうしようもない理由でバレたのだろうとスコールは当たりをつける。当たりである。

 楯無は亡国機業(・・・・)としてのスコールを捕らえ何をしようとしているか聞き出そうとしているのだろう。当たり前である。どこから誰がアレシアを見かけ楯無に伝えたかはスコールの知るところではないが、楯無からすれば亡国機業のスコールとアレシアがIS学園の近辺をうろついているという情報しかない。

 

 ――もちろんスコールたちが亡国機業から抜け出したということなど、ついでに学園襲撃の情報をリークしたことも知るわけもない。

 なので今、楯無がISを展開し戦闘態勢に入ったことも納得できる……というか当然の対応だ。

 

「えーと、ミステイク・レディだったかしら?」

「ブッ飛ばすわよ!? 霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)よ!」

歴女(ヒストリー・レイディ)?」

「誰が歴女よ!? ミステリアス・レイディ!」

「惜しかったわね」

 

 考える考える、スコールは適当に喋りながらも思考を止めない。どうしたらこの状況を脱せるか――ではない。

 さて、この状況をどう楽しむか。といったことである。

 ぶっちゃけスコールは一種の快楽主義だ、ただ先のことを見据えないわけではなく後々に破滅しないように調整しながら限界まで楽しむ……周りにとっては迷惑被ることが多いタイプだ。

 

「なにが目的、ね。聞かれといてなんだけどここで私が貴女たちに被害の出ることはしないっていって信用してもらえるのかしら?」

「……信用されると思う?」

「ええ!」

「なんでされると思うのよ、今までのこと思い返しなさいよ」

 

 楯無の目が細められる。ふむ、スコールは思い返す。

 オータムに変装させ学園に侵入させて織斑一夏の白式を盗ろうとしたことがある。キャノンボール・ファストにマドカとアレシアを乱入させ、一年生の専用機持ちを落としたこともある。他にも思い返せば大なり小なり色々やっていた。

 ただ亡国機業を抜けて織斑千冬に学園襲撃の情報をリークしたことを話せば誤解が解けるかもしれない、いや解けるだろう。そして更識家当主である楯無にもその情報を流せば対策も強化されるだろう。

 

「思い返せば色々あったのね」

「主に貴女たちが原因なんだけど?」

 

 ――さて、そのことを話した方が楽に事態は収拾されるのでしょうね。されるんでしょうけど、

 

「まあ、過去のことは水に流しましょ……信用できるように目的を聞きたいなら私を倒してからにしなさい!」

 

 ――私は話さない! その方が愉しそうだから! ええ、絶対に愉しいわ!

 

 そう言い放ち(考え)ながらスコールは『黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)』を展開する。その顔は控えめにいって爛々としている。敢えて誤解を解かず戦闘をする、戦闘を楽しむ。

 誤解を解くのはそのあとにする、楯無の反応も楽しみである。

 

「さあ、来なさいマストリマス・レイディ!」

「ブッ飛ばすわ……!」

 

 ――こうしてぶっちゃけする必要のない戦いが今始まるのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を!
うちのマドカは家事ができるオカン。スコールさんは愉しいこと大好き、状況が拗れるのを笑いながら見るタイプ。多分そのうち怒られる。
次回、やる必要のない戦いッ! の予定。

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