二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

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10.しっぽりムフフ

 ――亡国機業抜けるわよ。

 その言葉を聞き、オータムは考える。考えようとしたがスコールが抜けるといい更には着いてきなさいと言ったのだ。それだけで十二分に亡国機業を去る理由になり得る。

 なのでオータムは考えることをやめスコールに着いていくことにした。

 

 マドカも考える。亡国機業に属していた理由はナノマシンと家族への復讐心。ナノマシンは中和されもう無くなり……まあナノマシンについてはアレシアとスコールのふたりが尽力してくれたことは聞き出したが。復讐は……どうとでもなるだろう。

 師匠であるアレシアも理不尽くらい諦めなければどうとでもなると言っていた。

 

 

 

 ――ならなにも問題はない。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

「――亡国機業抜けるわよ。着いてきなさい」

「言われるまでもねぇぜ。スコールの行くところ、居るところが私の居場所だ」

「わかった。私も着いていくぞ、正直復讐が出来るならどこでも構わん……給料はどうなる?」

「クッソゥ、スコールめぇぇ。あたしには散々もう少し考えて動けとか言うくせに自分はストレートに伝えやがってぇぇぇ……」

 

 スコールの言葉に対して三人三様の反応を示した……ひとり関係ない気もするが。

 そもそもスコールはオータムは確実に着いてくると言う自信があった、というよりも前に軽く聞いた。

 マドカも亡国機業に入った当初なら離反すると言う自分たちを嬉々として、半ばままならない復讐への八つ当たり込みで処分しにかかって来てたかもしれない。

 が、しかしアレシア・コロナーロというある種の劇薬が所属しマドカへ関わったことで何やら化学反応を起こしたのか随分とマドカも丸くなった。そして本人は無自覚かもしれないがアレシアを信頼しているところもある、なのでスコールはマドカも亡国機業離反に反対せず賛成するだろうと踏みストレートに伝えたのだ。

 

「私は考えた上でストレートに話してるのよ、あとあなたたちの給料くらいなら私のポケットマネーで出したげるわ」

「ちぇ、この頃はあたしも考えて話すこと多いんだぜぃ? ああ、マドチくらいなら最悪あたしが養ってやらぁな」

「そうか……ん、養う?」

「それでスコールは離反したあとのことのこととか考えてるのか?」

 

 オータムの質問に少し難しい顔をするスコール。スコール自身は亡国機業という裏社会だけでなく表の企業との繋がりもある。あるにはあるのだが、それも主は『亡国機業のスコール』としての繋がりでありただのスコールとしての繋がりは減る。

 それでもそれなりにあるのだがそれはスコールだけであり残りの三人は無職となってしまう。当面はスコールが面倒を見るつもりだがずっとそれではなにかと不味いだろう。

 

「というか、よくオータムはそこに考えが回ったな」

「おい、エムてめぇ喧嘩売ってんのか?」

「いや純粋に驚いたうえでの疑問だが……?」

「そっちの方が余計に質が悪いわ! なに本当に驚いた顔してやがる!」

 

 オータムがマドカへ掴みかかろうとするがマドカも捕まるまいと逃亡し、部屋から某猫と鼠の如き追いかけっこをしながら出ていく。

 それを見送ってから、

 

「あー、全部終わったらIS学園とかで働けねぇかな? あたしは仕事やるならIS関係の仕事に就きてぇなぁ……ってのはただの願望なんだけどな」

「そうね、私たちは離反したとしても間違いなく犯罪者。まあどういう風に世間で扱われるかは簡単に予想がつくわね」

「そうだな。まあ、あたしは構わねぇよ。千冬と戦えるなら、決着をつけれるなら全部を捨てる覚悟をして本国を抜け出したんだ」

「私たちも好き勝手やってたから仕方ないわ。エムを含めて、ね。あの子だってそれくらい理解してるわよ」

 

 アレシアが誰を心配しているか見透かすかのようにスコールは先回りして発言する。アレシアは頭をガシガシと掻きながら唸る。

 この頃マドカに対して過保護気味になっている自覚はあるし一歩間違えれば依存になるかもしれない、それは両者にとって良くないと理解しているのでアレシアはここは引くことにする。

 

「そうだなぁ、まあならそれもしゃーないか」

「でも私は素直に捕まる気はないわよ?」

「おい」

「フフフ、罪は償うつもりだけどそれまでになるべく軽くするわ。特に本部に出された命令で重くなった分を消す勢いで」

「それほとんどになりそうじゃねぇか……いや、実際どうするんだぁ?」

「本部の情報をリークするわ」

 

 スコールが言うには今回篠ノ之束博士から手に入れた無人機でIS学園を襲撃するという。時期は全学年専用機持ちタッグマッチの日である。

 その情報をIS学園にリークし、離反の際には本部から抜けるだけの情報を抜き取りIS委員会などに持ち込むことで罪を軽くしようと画策している。

 

「まあ簡単に言えば亡国機業に潜入して、スパイ代わりのことをしてたって言い張れるくらいの情報を持っていくつもりよ」

「ふぅん……よっし、そうと決まれば準備するかぁ。ここは捨てるんだろ? あとは情報を抜き取りにぃ」

「ええ、実は本部から情報は既に抜き取ってるの」

 

 スコールはサラッと衝撃の事実を伝えてくる。しかしアレシアも驚かず普通に返答する。

 先ほどは一応スコールからどうするかプライベートチャンネルで聞かれたがスコール自身ももう抜ける気であったことは察していた。

 

「いつバレそうな見込みだぁ?」

「あら驚かないのね? 構成員から各国の要人との繋がりまでごっそり抜いたから下手したらそろそろバレるわ」

「大胆不敵ってぇか何てぇか……まあそのくらい大雑把な方があたしの好みだ」

「だからさっさと用意してここから去るわよ。オータムとエムにも今プライベートチャンネルで伝えておいたから貴女も用意しなさい」

「……了解だぜぃ」

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 アレシアは自室に戻り酒を片手に荷物をまとめながら考える。千冬との決着は一応本人にも受け入れてもらえたので個人的な目的の問題はほぼ解決している。

 マドカに関してもそうだ、あとはマドカに思いの丈を家族にぶちまけさせる舞台を整えてやれたら……なるようになるだろう。きっと織斑家(かぞく)がどうにかしてくれる。

 あとは現在改修中であるという暮桜が千冬の手に戻るときを見計らって再戦を挑みにいけば終わりである。

 

「ぷっはぁ……あたしの目標大体クリアァしてんじゃあねぇかぁぁぁ?」

 

 亡国機業を離反する。それはいい、もとから思い入れもなく寧ろ気に入らなかった。

 亡国機業本部の情報をリークして罪を軽くする。それもいい、何だかんだでマドカだけでなくスコールやオータムのふたりも好きなのでなるべく自由に過ごせるようになるといいと思う。

 

「けどなぁ、あたしは千冬と戦えたらそれだけで満足なんだよな……はぁぁぁめんどくせぇ」

 

 IS関連の仕事に就きたかったというのも嘘ではない。ただ、何となく出来たらいいなぁというくらいで本来の目的の前では霞んでしまう。そんなもののために時間を掛けるならさっさと千冬と戦いたいと思うのだ。それこそ今すぐ戦えるならスコールたちの罪を全部被ったっていいくらいだ。

 いや、スコールが自分のためだけでなくアレシアを含めた全員のためにやろうとしてくれていることは理解しているのだが。

 

「亡国機業に入ったのも千冬と戦うのに良さそうだったからなのになぁ、結局離反かぁ……たまに考えて動いても全部裏目に出るか無駄になっちゃいねぇかあたし?」

 

 アレシアは空になった酒のボトルをゴミ箱に放り投げ考えをまとめる。

 亡国機業を離反するのには着いていくし、情報のリークによって罪を軽くすることには協力しよう。

 

「けどそれ以上は、なしだ。あたしは――」

「アレシア、荷物はまとまったか?」

「うぉっう!?」

 

 不意にマドカが部屋に入ってきた。考えに没頭していたせいか完全に不意を突かれた。手に持っていた新しい酒を落としてしまう。マドカは何故か少し心配そうにアレシアの方を見ている、あれだろうか? また酒を飲んでいて呆れられてるのだろうか、などとアレシアは思う。

 

「……どうした?」

「いやいやマドチぃが急に入ってくるから驚いたぁんだがぁぁ?」

「ノックはしたぞ。何か考え事か……?」

「まぁねぃ。ささ、荷物はまとまったからぁ行くぜぃマドチ!」

「あ、ああ」

 

 アレシアはマドカの背中を押しながら部屋を出ようとする。

 マドカは背中を押されながら部屋をあとにしようとし、部屋の前で聞こえたアレシアの言葉の意味を聞くことが出来ないままに……ただ、

 

「……おい」

「ん?」

「来年は夏祭り、一緒に行くんだよな?」

「……ハハッ、あーそうだったなぁ」

「あと酒は飲みすぎるな」

 

 マドカは立ち止まりなんでもないような約束を確認して部屋をあとにする。

 アレシアはマドカに見えないよう、困ったふうに笑いながら部屋をあとにした。

 

 ――どうやらアレシアはまだまだ色々と考えないといけないようである。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 荷支度の済んだ四人は割りと長く過ごした拠点から去る。割りと全員荷物が少ないのだがそれぞれ理由が異なる。

 スコールは一番所有物が多かったのだが持ち運びが不便なものは全て捨てた、売りすらせずに捨てた。新しいものを買えばいいじゃないという考えらしい、考え方が金持ちであり実際そうである。

 オータムもそれなりに荷物があったのだがスコールによって同上、特に反対する理由もなく身軽なものとなっている。

 マドカはもともと個人的な持ち物は少なく、前場の持ち物を持っているにも関わらず鞄ひとつで済んでいる。

 アレシアは拡張領域に全部入れた、以上。

 

 

 さて、そんなことは置いておきマドカは考える。さきほどアレシアの部屋の前で聞こえた言葉を思い出す。それ以上はなし、と言っていた。その先の言葉はマドカが入ったせいで聞けなかった――聞かなかったのだが。

 

「まあ、何か悩んでいるなら今度は私が手伝いたいな……」

 

 力になれるかはわからないが思いの丈を吐くだけでも楽になるのだ。話くらいは聞けるだろう。

 

「私も本音を……吐くだけで楽になったからな」

「んー、どうしたマドチぃ? 吐く? あれか、乙女力の発露か?」

「違う」

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 新たな住みかは日本にある一軒家であった。

 

「やっべぇ、ここまで隠れる気のねぇ家とか……買ったときについた金の流れとかでバレねぇの?」

「大丈夫よ、完全な私のポケットマネーで買ったもの。ついでに完全に新しい履歴も使ったから本部の連中にはわからないわ」

 

 コイツいくら持ってんだとアレシアは思ってしまう。アレシアも豪遊しなければ既に働かなくていいだけの金くらいはあるのだがスコールはその比にならない。

 家にあがった四人はひとまずリビングに集まる。

 

「まあ今回はいつ手放すからわからないからそんなに広くない家よ……というか日本でそれなりに大きい家を持つとそれだけで目立ってしまうのよ」

「まあ、そうだな。というか日本人の私と黒髪のアレシアを除けば既に目立ってるがな」

「んだとエム、てめぇも世界最強のブリュンヒルデとそっくりで目立つじゃねぇか」

「ハッ、さすがにレズで言葉遣いの悪い、悪目立ちするお前には負けるがな」

 

 マドカとオータムの取っ組み合いが始まる。

 

「買い物とかはあたしが行くしかねぇか。まあ一応ブリュンヒルデなんだけど認知度低いしな……ハハハハハハ」

「何もないとこを見ながら笑わないで、怖いわよ」

「はいはいっと」

 

 アレシアは適当に返事しながら床に座り……いや、床ではなく畳である。なので集まっているところもリビングというよりは居間であり完全な和室だ。

 スコールが日本を楽しむためだけに和室となった一室である。

 新鮮な畳の感触をアレシアが楽しんでゴロゴロしていると通信機が鳴った。画面を見れば任務についての内容がこれでもかというほど長く書かれているが要約すれば、

 

「アッハッハ! スコールを捕らえろって命令(オーダー)だぜぃ。生死関わらず、のな」

「へー、大変ね」

「まったくだぜぃ。どうせなら賞金でも書いときゃあいいのによぅ」

 

 亡国機業本部がデータを根こそぎ盗られたことに気づいたことにより下された任務。了解の意を示した返信をすることで時間稼ぎをするか悩み……通信機を使ったことで居場所を探知されるリスクの方が上と判断して通信機を部分展開したディザストロでつまみ潰す。

 すると取っ組み合いをしていたふたりが身を起こしこちらへ来た。

 

「あら、どうしたの?」

「本部からの通信で」

「私を捕らえろってあなたたちにも通信が来たのね」

 

 スコールはそう言いながらマドカとオータムの通信機を取り、ついでに自分の通信機を取り出しゴールデン・ドーンを部分展開し燃やした。

 マドカとオータムが目を丸くしているがスコールはそれを流す。

 因みにこのふたりにも本部からデータを抜き取ったこととそれをどうするかは道中に話している。

 

「さてさて、いつ情報をリークしようかしら。こういうのはタイミングが大切なのよね」

「でもIS学園へは早めに言っとかねぇと意味無くなるぜぃ?」

「あ、それは大丈夫よ。既にあなたが荷造りしてる間にリークしといたから。半信半疑だったけどあなたの名前に懸けてと言ったら信じてもらえたわ」

「そぉかい……」

 

 相手は千冬だったのかねぇ、とアレシアは思う。他の人間なら自分の名前を出したって意味ないどころか知らない可能性もある。いや、IS学園の教諭なら知っているとは思うのだが。

 

「さてさて、此れからの大まかな流れをいうと……どうなるんだ?」

「亡国機業の情報を流す、で亡国機業を潰すのよ。まあ後半部分は私たちがやることはないとは思うわ、IS委員会あたりがやってくれるでしょ」

 

 そしてIS委員会への交渉はスコールに丸投げだ、とアレシアは心のなかで付け足す。ここにいる面子でまともな交渉ができるのはスコールだけであり残りは考えるより手足が先に出るタイプであり言うまでもなく駄目だ。

 

 スコールはいまだに目を丸くしたままのふたりの頬をペチペチ叩く。

 

「はいはい、ボーっとしてず起きなさいふたりとも」

「え……あっ、スコール本部のやつらがスコールを捕らえろって通信が……!」

「ええ、そんな相手は着信拒否しときなさい」

「いや、着信拒否どころかまとめて通信機を燃やしたよな……?」

「マドチ、細かいこと気にしてたらハゲるぜぃ?」

「誰がハゲるか!?」

「そういやぁ部屋はどーすんだ?」

 

 ハゲると言われ憤慨してるマドカの頭を抑えながらアレシアはスコールに聞く。前回はホテルの階層丸々ひとつ使用していたので言葉の通り一人一部屋という豪華な使い方が出来ていたのだが、今回は極々一般的な一軒家である。

 

「二階に三部屋あるからアレシアとエムは一室ずつ使いなさい。私とオータムは同じ部屋でしっぽりやるわ」

「いや、しっかりやれよ」

 

 端で聞いていたマドカは夜な夜な艶かしい声が聞こえてきそうで嫌だなと思う。既にオータムが「うへへ……スコールとしっぽり」とか言ってるし今夜は居間で寝ようかと検討するマドカであった。

 

「はぁ……取り敢えずその話は置いておいて食料はどうする?」

「当然買い出しにいかないとないわよ? そういうことでアレシアよろしく。はい、お金よ」

「えっ、あたしか?」

「ええ、さっきも言ってたけど私たちじゃ目立ち過ぎるから。私がスーパーにいると違和感が凄いわよ?」

「ああ、そうだな。高級なレストランにでもいた方が馴染むなぁ。それに比べりゃ、あたし日本人と同じ黒髪だし目の色も目立たないし世間じゃブリュンヒルデのくせしてそんな有名じゃないし……うん、あたしが行ってくるわ」

「なんか、ごめんなさいね?」

 

 なにか背中に哀愁を漂わせながら最寄りのスーパーへ向かうアレシアであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を!
説明っぽい会話が多く若干巻きでいきましたすみません。家が日本のどこら辺かはそのうちわかるかと。
次回まだ出てないキャラ出します。それはそうとこの頃あんまり飲んでない気もします、気のせいでした。

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