二代目戦乙女の今日この日この頃。   作:バンビーノ

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01.彼女は今……。

 現在ISが広まった世の中には世界最強、ブリュンヒルデと呼ばれる二人の人間がいる。

 

 一人は元日本代表選手である織斑千冬。第一回モンド・グロッソ優勝者、初代ブリュンヒルデにして世界の誰しもが認める最強の人物。

 もう一人はイタリアの選手、アレシア・コロナーロ。第二回モンド・グロッソ優勝者にして織斑千冬以外に唯一第二次移行(セカンド・シフト)していた人物であり……世間からは運で優勝した、織斑千冬が棄権しなかったら負けていたと言われる世界が認めない最強の人物。

 

――そのように世間に言われたアレシアは現在イタリアからは既に出てきていて……無論仮にも世界最強であるアレシアは普通に国から去ろうとすれば止められるだろうが、あいにく全くもって普通の手段ではなかったのだ。

 アレシア・コロナーロはイタリアで唯一、当時世界でたったふたつしかないセカンド・シフトしている自機のIS、テンペスタに乗り他のすべての追手やISを振り切り国から去っていったのであった。たぶん追手以外の人としての常識とかも振り切って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女は現在、

 

「ねぇぇぇ、スコールぅ聞いてるのぅ? あたしだってがんばって決勝までいったのにさぁ? 織斑千冬が勝手にどっかいっちゃったせいで運だけの戦乙女(ラッキー・ブリュンヒルデ)とか呼ばれてるのよぅ?」

「ああくそ! 酒くせぇぞアレシア! あと私はスコールじゃなくてオータムだ!」

「ヴぇ……? あっ……うひゃっひゃっひゃ茶髪だ! あんたオータムじゃんかぁぁ、まああんたでもいいわ聞きなさいぃぃよぅぅぅ」

「ふざけんな酔っ払い! なんで私が聞かないといけな……ってかこのやり取りが既に5回目だぞ!?」

 

 世間ではテロ組織と呼ばれてる亡国機業(ファントム・タスク)に所属し酔っ払いと化していた。ベロンベロンである。

 今は亡国の中の一部隊のトップであるスコールに話してるつもりだったが酔いすぎて別人の茶髪のオータムに絡んでいる。

 たとえ世間では運だけの戦乙女と呼ばれていたとしても戦いに敗けはなく勝ち続けていた昔の面影は……ない、ときは無惨にも彼女をこのような絡みのウザいおっさんのような酔っ払いへと変貌させてしまったのだ。

 艶やかな黒色はボサボサになり茶色の目はグルグル回っており、170cmを越える身長でフラフラしているのでホラーチックである。

 

「マドチー、師匠のあたしを慰めてー! あんたの姉さんが誘拐された弟助けにいったから不戦勝でブリュンヒルデなっちゃっのよぉ!」

「いや……うん、すまないが原因の一端ここだからな?織斑一夏拐ったのここだからな?」

「知ってるわよぉ? だから入るついでに誘拐指示したやつらぶっとばしてきたのよぉう?」

「……そうだったな、あれは酷かった」

 

 たしか激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリィィィィム! って言いながら泣くまで殴って蹴った覚えがあるわよぉ……とか言ってるあたり、アレシアは亡国に対しては怒りをすでに思う存分発散しているようだ。

 そしてマドカはISの操縦を教えたのはアレシアである、ほぼ無理矢理教えた、超無理矢理教えた。しかし性格は滅茶苦茶だが教え方は……いや訓練も多少キチってる訓練だったが、しかしその分マドカの実力も伸びていった。

 近接の方が得意であったが、現在マドカの専用機サイレント・ゼフィルスのBT兵器も使いこなせるようになったのだ。そのことに関してはマドカも感謝してるが、しかし狂っ、キチ……頭のおかしい訓練をされたことは思い出すと今でも殴り飛ばしたくなる。

 

 

 

 

 訓練を始めるようになった過程をダイジェストで思い返せば、

 

「あー!? あんた織斑千冬に似てるねぇ!」

 人の地雷を軽々しく踏み抜き。

「――ッ! 黙っ」

「ほぅら! こっち来なさい! モンド・グロッソの再戦よぉぉ! まだ戦ってもないから再びでもないか!アッハッハ!」

 人の話を聞かず無理矢理引きずり出し。

「うぐっ!? なっ!? おい、引っ張るな!」

「いいからいくわよー!」

「……私は! 織斑千冬に、織斑一夏に復讐したいんだ! だからあの人とただの試合を望む人間が私に関わるな!」

 本音をぶちまければ、

「んんんー? あのブリュンヒルデとその弟に復讐? あんたそんなに強いの? そうは見えないよ? ……しゃーない私が訓練してやろーじゃないの!」

「は、は……はぁ!?」

 話を聞いてるようでやはり聞かず。

「さぁ! ISを装着しなさい! 装着しないと死ぬわよ! いや実際は死なせないけど!」

「くっ……ん!? なんでハイパーセンサーでお前のテンペスタが補足できないんだ!?」

「イッツ、ア、ブリュンヒルディマジィィィック!!」

「んなわけあるかぁぁぁ!」

 ――訓練内容はキチガイのそれであった。

 

 以上が、アレシアがマドカに訓練するようになった大雑把な流れである。それ以降は同じ部隊なこともあり何だかんだでマドカは操縦を教えてもらっていた。実際不戦勝でブリュンヒルデになったとはいえ世界最強、その強さはたしかであった。頭のネジの足りなさも確かであった。

 

「ねぇ、A」

「あー、アレシアって呼べってスコールぅ。Aってなんだよー、もうAって呼ぶのあんただけよー! そんな呼び方しても皆あたしの顔見れば誰か……わからないか! 初代ブリュンヒルデのインパクトに負けて影薄いからな、あたし! アッハッハ泣きてぇぇ!」

「アレシアー、話聞いてくれるかしら?」

「ばっちこい! どんな話題でも投げてこい! 場外ホームランで返しちゃる!」

 

 両手をパンッと叩きがに股で相撲取りの四股を踏むときのような体勢になる。

 この酔っ払い女、言葉のキャッチボールをする気がないようだ。スコールも半目になって呆れ半分、心配半分な気持ちになる。

 

「ホントに大丈夫……? いえ、今度IS学園が文化祭のときに襲撃を掛けるのだけれど貴女も参加し」

「するわ! 織斑千冬を倒せばいいのねぇ!」

「落ち着きなさい! 違うわ! 今回は今年入学した織斑千冬の弟、織斑一夏が入学したでしょ?」

「誘拐か!? また誘拐か!?」

「最後まで聞け」

「ういっす」

 

 あまりにも話を聞かないのでスコールの言葉が荒れ、さすがに不味いと思ったであろうアレシアが床に正座してようやく話を聞く態勢となる。心なしか冷や汗が垂れている。

 

「簡単に言うと彼のISを奪うわ、オータムが実行、エムと貴女がいざというときのフォローよ」

「オータムはドジっ子だからなー。しゃーないなぁ、マドチと優しい目で見守ってやろーじゃないか」

「おい、待てゴラ! 誰がドジっ子だ!? エムもてめぇ気持ち悪い優しい目で見てくんな!」

「ふっ、そんなに慌てるな。大丈夫だ私たちはわかっているぞ?」

「上等だ、おい表出やがれ!」

 

 アレシアが余計な一言とともに了解するとドジっ子オータムが憤慨した。その様子をアレシアとマドカが謎の優しい目で見守るものだからオータムの怒りはさらに加速する。

 

「仕方ない、受けてたつわよぅ! テンペスタ式酔拳を見せてあげよーじゃんか! ……うっぷ、審判ータイム! ゲロタイっぷ……」

「お前は酔ってるだけだろ!? てかさっさとトイレ行ってこい!」

「ういー……うっ」

 

 飲み過ぎたであろうアレシアはトイレに行き便器を抱えるかのように光のモザイク(ただのゲロ)を吐き出す。マドカも付き添っていき背中をさすっている。

 

「なぁ、なんでゲロが光のモザイクに見えるんだ?」

「うぇぇぇ、おえっぷ……ふぅ、乙女力の発露よ。女として越えてはいけない一線があるのよ」

「そうなのか……」

 

 そんなわけはない、酒の飲みすぎで便器抱えてゲロを吐いてる時点で乙女力とかない、乙女力の吐瀉物である。とっくに越えてはいけない一線を飛び越えている。

 

「あー、スッキリしたぁ! マドチすまんね、背中さすってくれてありがとう。おかげで存分に乙女力を発露できた」

「うん、それならよかった」

「お前、ゲロを乙女力とか言うなよ」

「オータム見てなかったの? あれは乙女力という名の光の奔流よ」

「ふざけんな、ホントに目には光の奔流みたいに映ってて余計に腹立つわ!」

 

 そう話ながらもアレシアはゲロを流し処理する、いくら光のモザイクがかかってようが吐瀉物は吐瀉物なのだ。

 

「で、アレシアはさっきの話ちゃんと覚えてるかしら? 一緒に吐き出してないか心配だわ」

「スコールってば酷いなぁ、ドジっ子オータムが制服コスプレして侵入。織斑弟にハニトラ仕掛け、おっとぅ!? オーケーあたしが悪かったよオータム。だからそのアラクネの八つ脚をしまおうじゃないか!」

「チッ」

「まあ、それだけふざけられるなら覚えてるわね。ただ貴女とMは顔が有名すぎるわ、最悪でもいざというときまでバレないようにしてね」

「善処するよ」

「ああ、任せろ。善処する」

 

 どうして善処するという言葉はこんなにも不安になるニュアンスが含まれているのだろうか。もう最悪見つかってもこの二人の実力ならどうとでもなるだろうとスコールは諦めた。

 アレシアは仮にも世界最強、少なくとも世界準最強、マドカはマドカで織斑千冬の血縁関係ということもありもともとのスペックは高いのである。並大抵の相手にはやられはしない。

 

「まあ、オータム」

「あ? なんだよ」

 

 アレシアは満面の笑みを浮かべつつオータムの肩に手を置く。

 

「頑張っておくれ。出来れば織斑弟をバッキバッキのけっちょんけっちょんにして、怒り心頭な織斑千冬から追われるくらいが最高だわー」

「お前それ織斑千冬と戦いたいだけだろ」

「ちぃ、バレたか! まあオータムがしくじっても織斑千冬はあたしに任せな!」

「私が先だ!」

「待てコラ、他全員私が引き受けろってか!?」

 

 気が強く自分が優位になると油断してしまうオータム、そのフォローに織斑千冬との戦いに執着するアレシアと復讐に執着するマドカ。そしてこの三人、息はあっているが本当にピンチになるまで中々真面目に協力しないのだ。

 この面子で行かせるしかないんだけど失敗しそうねー、と他人事のように明後日の方向を向きつつ思うスコールであった。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
二代目ブリュンヒルデのものを書きたかったので書いてみました。

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