徹甲虫とはこれ如何に。   作:つばリン

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更新、ちょっと遅くなりました~。

そして、祝! お気に入り登録数100件突破! 読んでくださってる皆さん、本当にありがとうございます! つきましては自分とアルセル君によるお便りコーナー的なのを考えているのですが……どうなんだろ。

それでは、どうぞ!


第五話~新しい朝が来た!~

 ガラガラ、ガラ……

 

「ギィィィィィ……」

 

 強い衝撃に、その一部を粉砕され音を立てて崩れ落ちる大岩。遺跡平原のゲネル・セルタスは今、これまでに無い程に怒り狂っていた。

 

「ギシャアアアァァァ!」

 

 機械音のようにも聞こえる咆哮を上げ、その発達した前肢で目の前の大岩を穿つ。彼女の“八つ当たり”を受けた岩は、その直撃を受けた場所を砕け散らせ、またその一部に大きな亀裂を生じた。

 

「ギッギッギッギッギ……ギィッ!?」

 

「ギシャァッ!」

 

 彼女の発するフェロモンガスに釣られて、一匹のアルセルタスが姿を現す。それを見たゲネル・セルタスは発達したハサミのような尾を使い、鬼気迫る様子でその同種の雄(どうぐ)を拘束した。

 

「ギッ……ギギィッ……」

 

 そのあまりの力に、徹甲虫の体が軋み始める。少し強度の低い部分の甲殻に至っては、既にヒビが入り始めていた。しかしかの女帝は尾の先を顔の前へ持っていき、そんな同種の雄(どうぐ)の悲鳴等聞こえていないかのような素振りでその頭部をのぞき込む。

 

「ギイイイィィィ!」

 

「ギシャッ!? ……キ、シャ」

 

 ほんの数秒後。怒れる女帝に拘束されたアルセルタスは、ヒステリーを起こしたような鳴き声を上げた彼女の尾により、グシャリという嫌な音と共に無惨にも胸の所を握りつぶされ、息絶えた。

 

「ギシャアアアァァァ!」

 

 ゲネル・セルタスはもはや動かぬアルセルタスを地面へ叩きつけると、体の至る場所から大量のフェロモンガスを噴出、同時に駄々をこねるかのように地団太を踏んだ。その足下には、同じように死んでいった10にも及ぶアルセルタス達の遺体が散乱している。

 

 流石のゲネル・セルタスといえど、本来ならばこれほどの暴挙に出るような事はまず無い。彼女らが雄であるアルセルタスをまるで道具のように扱うのは、無数にいる雄を犠牲とする事で雌の生存率を上げるという“生存戦略”なのであって、事実彼女らがアルセルタスを殺すのは緊急時で食料が必要な時、原種より冷酷であると言われる亜種でも強力な“砲弾”として武器にする時くらいのものだ。そんなセルタス種なのだから、無意味にアルセルタスを殺すという事はしないのが普通なのである。

 

 ならば何故、このゲネル・セルタスはアルセルタスを殺しまくっているのか。それは他でもない、彼女の怒りの矛先がそのアルセルタスだったのだ。

 

 彼女は探している、あのアルセルタスを。同種の雄(どうぐ)であるにも関わらず、あろうことか己に楯突き、更に獲物までも奪っていった、あのアルセルタスを。重量級の女帝、重甲虫“ゲネル・セルタス”は、その恨み、怒りに改めてうち震えた。

 

「ギシャアアアァァァ!」

 

 前肢を振り上げ、空を仰ぎ、ありったけの怒りの咆哮を放つゲネル・セルタスであった――。

 

 

「ギッギッギッギッギッギシャァァァ!(るっせぇんだよこのクソババァ!)」

 

 朝っぱらから近所迷惑なんじゃゴルァ!

 

 地面スレスレを飛行し、前肢を振り上げてギャーギャー騒いでいるゲネル(ババア)の中足へと突進をブチかます。これでも徹甲虫の名を冠するモンスター、相手が同種とはいえその威力は馬鹿にできないらしく、明確なダメージこそ与えられてはいなさそうなもののその足を弾き上げる事に成功した。

 

「ギイィッ!?」

 

 前足を振り上げ空へ向かって吠えるために中足を大きく突っ張っていたが故に衝撃を逃がす事ができず、また予想外の場所からの突然の攻撃だった事も手伝ったようで、四つある支点の一つを失ったゲネル・セルタスは若干情けない声を上げ崩れ落ちた。クソザマァ。

 

 地に伏し、訳のわからぬまま硬直する無様なゲネルの姿を見て満足した俺は、プイッと向きを変えてとっとと飛び去る。ただただ朝っぱらから騒ぐ常識皆無な女帝様(笑)にイラッときたのであんな事をしたが、ただの鬱憤晴らしも兼ねた行動だったので深追いする必要は無い。大体、ゲネル相手に有効打となる攻撃手段は“まだ”完成していない。それもハンターさん方がいる場で使うつもりだし、俺としては大したメリットが無いのだ。

 

 てな訳で、どうも、このモンハン世界に転生憑依して二日目を迎えました、毎度お馴染みアルセルタスです。いやー、こんな環境での野宿は本当ビックビクだったね。というのも、日が暮れた後に肉焼きの旨そうな匂いなんか漂わせたら夜行性のヤバいモンスターに襲われる可能性があるのくらいちょっと考えりゃすぐ分かる事だろってのに、それに気がついたのはこんがり肉を『ウルトラ上手に焼っけました~♪』した直後。ようやく食べられる異世界料理に心躍らせるあまりに状況判断能力を欠いていた自分をブン殴ってやりたい衝動にかられたが、グッと我慢し暫くは周囲の警戒を行っていた。

 

 まぁ結果としては特に襲撃なんかは無く、しばらく警戒した後に平原の草を集めまくって作った布団――とはいってもただ積み上げただけなんだが――に潜り込んで眠った。

 

 その草は畳、即ちイグサと結構近い匂いだったから、環境は環境だが割とグッスリ眠ることができた。そのうちちゃんとした寝床を確保しても、故郷を思い出せるこの草ベッドは利用したいと考えている。誰が何と言おうと俺は日本男児だ。

 

「ギシャ、キシャシャシャシャァー(さて、どうすっかなー)」

 

 右中足に持った昨晩の残りのこんがり肉をかじりながら、今日の予定をそれとなく考える。うん、旨い。

 

 例によって、結局俺の前足では生肉は一つしかはぎ取る事はできなかった。で、焚き火で焼いて喜々としてかぶりついたんだが……。結論から言ってしまうと、こんがり肉半分食ったら満足しましたハイ。俺の今の体は冷血動物、即ち体温を作るエネルギーを必要としないからだと思うが相当燃費が良いらしい。まぁ満足したとは言っても、質量的な意味ではまだまだ食べられそうではあったんだが。自然動物としての本能か、活動に必要なエネルギーを接種すると何となくそれが分かるようだ。食料には困っていないけど、太ったら嫌だし無駄には食わん!

 

 ……まぁ、甲虫種である俺が太るのかどうかは別として。真面目な話、自分が満腹になるためだけにアプトノスさん方に無駄な犠牲を出すのはちょっと気が引ける。ただでさえ俺は一匹から生肉一つしか剥げないのだ、自重するに越した事はない。

 

「ギシャ、ギッギッギッギッギッギッギ(うし、んじゃまずは偵察っと)」

 

 咀嚼しにくい己の大顎をせわしなく動かして肉を柔らかくしつつ、ひとまずベースキャンプの様子を見に行く。この遺跡平原が登場する4及び4Gの時点では、主人公のメイン拠点となる移動式市場“バルバレ”は大体遺跡平原と砂漠の間あたりに腰を落ち着けていたはず。現在の時間軸が原作と同じという保証はどこにもないのだが、もし予想通りバルバレが遺跡平原付近にいるのだとすると、そこそこの頻度でのハンター様のご来店が予想されるのだ。

 

 まぁ、ゲネル・セルタスにリオス夫婦とそれなりの強敵が密集している現状、ハンターなりたてみたいな連中がヒョイヒョイ派遣されてくる事は無いだろうけど……。

 

 そんな事を考えながら、エリア1上空からベースキャンプエリアへと進入する。まぁ、例によって全く問題無く入れた。何で他のモンスターは進入できないんだろうね? モンスターが嫌がるものでもあるんだろうか。

 

「……ギッギッギッギッギッキシャァ(……まだ来てないみたいだな)」

 

 遠目にハンターがいない事を確認した後、ベースキャンプ背面の崖にしがみつき、上から全体を観察する。うーむ、見事なまでにゲームと一緒の配置……。激しく今更だが、何だか不思議な感じがする。

 

 ……少し見学させてもらうか。別にこの遺跡平原から離れられないわけではないけれど、下手に動き回ってギルドに悪い意味で目をつけられるのを避けたい俺としてはこのベースキャンプが数少ない人間文明とふれ合う事ができる場所。何か拝借したりしたらハンターさん方にも迷惑がかかるのでそれはする気はないが、そのうち自力で居を構えるつもりでいる俺にとっては参考になりそうな物もあるかもしれない。

 

「……ギッ?(……ん?)」

 

 あれは……何だ? エリアのほぼド真ん中に落ちてる――本?

 

「キシャシャシャ!(キタコレ!)」

 

 それが何かを判断するや否や、羽を展開するのももどかしくてそのままピョンと跳び降りる俺。軽い土埃を舞い上がらせ六本の脚をバネにして着地をすると、すぐさまそれに駆け寄った。

 

 そう、これはこの世界の“本”。即ち、この世界における一般的な言葉が書かれているはずなのだ。

 

 俺が以前あの少女ハンターを助けた時、ハンターさんもアイルー君も“日本語”を喋っていた。超視力の良いアルセルタス()の複眼は口の動きが言葉にちゃんと合っているのを確認したから、転生特典的なやつで脳内変換されてるっていう訳ではないように思う。要するに、少なくとも“喋る言葉”としてのこの世界の言語は日本語と同じ物と考えて間違いないだろう、という事だ。

 

 しかし、俺はアルセルタス。声真似が得意なクルペッコとかだったらワンチャンあったかもしれないが、無機的な音しか発する事のできない俺では喋るなぞ夢のまた夢なのだ。そこで考えたのが“筆談”というわけ。俺の外見はかなり野生的で豪快だが、それなりに繊細な作業も可能だ。この鎌のような前肢の先端で地面を削れば、文字でも書くことができるのだよ! やったねアルセルタスくん、コミュニケーションができるよ!

 

 ……と、一瞬考えたわけですが。

 

「キシャシャシャシャシャシャシャー……(問題は文字なんだよねぇー……)」

 

 喋ってる言葉が日本語なら、書く言葉も日本語。そう考えるのはちょいと早計なわけで。ひらがなやカタカナは元々漢字から派生した文字なわけだし、その漢字の中には古事なんかが元になっている物も珍しくない。正直、文字まで日本語な可能性はかなり低いように思う。

 

 可能性として、人間に転生、憑依した人がいて、その人が日本語を広めたって事もあるかもしれないからそのへんに僅かな期待をかけているんだけど。さぁ、結果は……!?

 

『#@$?~%&!¥*』

 

 一度本から目を逸らし、美しい朝の空を眺める。ギィ~と息を吐き出してから、再び本へ目を向けた。

 

『#@$?~%&!¥*』

 

 にこやかな笑み(のつもり)を浮かべ、コクリと一度頷く。そして前肢を大きく降りかぶると――。

 

「ギシャシャシャァーッ!(読めるかぁーっ!)」

 

 ズガァーン! と、ツッコミ的なノリで鎌を地面に突き刺した。深々と地面に突き刺さった自分の鎌の想像以上の威力に、自分でもちょっとビビったのだった。

 

 

 ……あれっ、ここは――何処だろう?

 

 気がつくと、私はどこかの森の中にいた。おかしいな、お兄ちゃんの部屋にいたはずなのに……。

 

 ……あれ? お兄ちゃんって誰だっけ? ううん、それよりも……私って、誰?

 

 駄目、思い出せない。仕方なく歩きだそうとしたら、うまく動けなくて転んじゃった。

 

 体の勝手が、上手く分からない。私の体のはずなのに――。

 

 何度かもがいて、体を起こす。それだけでも、妙に疲れちゃった。体がおっきくなっちゃったからかなぁ。

 

 ――体が、おっきく? そっか、私、元々は“ニンゲン”だったんだ。あれ、それじゃあ今は?

 

 ――あれ、“ニンゲン”って何だっけ。

 

 そんな事を考えていたその時、目の前に一匹の動物が現れた。見た目は、角の短い鹿みたい。緑色っぽい毛が綺麗。

 

 その可愛い動物は、私を見ると怯えた様子で逃げていった。待ってよ鹿さん、私と遊ぼうよ。

 

 大きくなっている歩幅にちょっと驚きながら、鹿さんを追いかけようとしたその時――私の意識は、突然プツリと切れた。




タグにシリアス入れるべきだろうか……? いや、それともシリアル……。

もう感想はバッシバッシくださいませ! 頑張って返信していきますので!

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