あ、別作品も書かないと……。
「……キシャシャシャ(……どうしよ)」
思わず腕の鎌を組み、ギィーと首を傾げる俺。そんな俺の目の前に並べて横たえられているのは、さっき助けたハンターちゃんに、謎の絶叫の後にダウンしたオトモアイルー君の一人と一匹。女の子と猫が並んで一緒に寝ていると言えば聞こえは良いが、双方文字通りの完全武装の上に、ハンターちゃんの方は戦闘でボロボロ、猫も猫でうなされているのか顔色が良くないので、微笑ましさも何もあったもんじゃない事は断っておく。
それにしても、オトモ君の登場によって盛大に予定が狂ってしまった。当初の予定では、気絶中のハンターちゃんを適当に俺が介抱しておいて、オトモ君が来た所ではいサヨナラで丸投げしてしまおうと思っていたんだけど……当のアイルー君まで気絶してしまったのではやり辛い事この上ない。俺、どう立ち回りゃあいいってのよ。
このまま俺が側にいた所で、ハンターちゃんが先に起きてもギャー、オトモアイルー君が先に起きてもニャー! と驚かせてしまうのは明白。良心的なもの――俺の行動そのものは良心以外の何物でも無いのだが――ならば良いんだが、朝起きて一番最初に見たのがモンスターだなんて下手すりゃ寿命が縮むレベルのドッキリだろうし、ドッキリTVの手持ち看板も持ち合わせていない今はネタバレもできない。そもそもの話、こちとらドッキリ仕掛けるつもりなど更々無いのだから勘弁していただきたい。
という事で、あからさまに大きなデメリットの伴うこの選択肢は即却下。かといってここに放置するというのも、いくら危険なモンスターが来ないとはいえできれば避けたいところ。さて、となるとどうするべきか……。
「……ギシャッ、キシャシャシャァキシャシャシャシャシャ(……まっ、とりあえず料理再開しますか)」
そうっ! 困った時の現実逃避タイムだ。長年のNEET寸前生活で身に付いたこの
……ハァ。
思い出補正をフルスロットルでブン回した所で消える事の無い己の前世の悲しい記憶をしみじみと思い出し、それを誤魔化すように先程捕獲してきたバクレツアロワナを掴み上げる。……が、そのアロワナの文字通りの死んだ魚の目――厳密には魚竜種の仲間らしいが――を、PCの画面に反射した前世の己の目と照らし合わせてしまい、更に悲しくなってしまった。……うん。続きが見れなくなってしまったアニメやプレイ途中でクリアできなかった数々のゲーム達は名残惜しいが、もう元の世界へは戻らなくて良い気がしてきた。私は小さな虫になりたい。現在進行形で虫だけどちっちゃくない。
我ながら笑えない冗談を頭に浮かべつつ、悲しき記憶を思い出させてくれたバクレツアロワナを放置して、そのへんで見つけてきた大きな葉っぱにこんがり肉を盛りつける。……うっし、完璧。折角作るんなら細部まで拘らないとね。――調味料と食器が無いのは残念だけど。そのうちどっかで見つけてくるかなぁ。
少し悩んだ後に今度はバクレツアロワナの調理準備を進める。できる限りその目を見ないように気をつけながら、それとなーくこれからどうするか考えてみた。
どうせなので、料理が終わったら二人(一人と一匹)をベースキャンプへ運んであげてもいいな。エリア1に入れた俺だし、多分ベースキャンプでも問題ないとは思うからね。完全安地だと信じていたベースキャンプに突然入ってくるアルセルタス……。あ、ヤバい、これ下手な飛竜なんかより断然怖いわ。俺ならゲーム投げてるかもしれない。
……考えてみれば、そう思うのは俺以外でも恐らく同じわけで。もし俺がベースキャンプに入った事がギルドなり何なりにバレた場合、危険視されて討伐依頼が出されまくるという事態が発生しかねないな。俺が普通のアルセルタスと違うという事を伝えるには十分すぎるアピールにはなるが、むしろ悪い方の印象を与えてしまう可能性が高い、か。ゴメンよお二人さん、俺が何かできるのはここまでっぽいわ。
今のところ、気絶しているうちに適当にこのこんがり肉を傍らに置いて上空なり近場の崖なりから見守っておくのがベストかなー、なんて思いつつ、未だ火がついたままの肉焼きセットへとバクレツアロワナを突っ込んだ。
「キュッ」
どうやらまだ息のあったらしいアロワナの小さな断末魔が聞こえた。そっか、魚竜種だから肺呼吸なんだったね。
普通に水生生物として生きていれば絶対に味わう事の無かったであろう“火炙りの刑”に身を置かれたそれに、俺が若干の同情を感じた――その時。
パァーン!
爆裂した。
「ふにゃぁ!? 何にゃぁ!?」
俺の作戦も爆裂四散した。
◆
「にゃ……?」
「ギッ……(あっ……)」
……成る程。考えてみれば、ボウガンの弾薬としても加工可能なバクレツアロワナ、当然その威力がわた○チ程度で収まる筈もなかったのだ。普通の生物があの威力で爆発するっていうのはちょっと考え辛いので、恐らくは体内に液化ガスでもため込んでいて、死ぬ時に一気に気化させて爆発、とでもいったカンジなのだろう。で、俺はそんな奴相手に火を使った、と。うん、ガスに引火しなくて本当に良かった。
……って、そうじゃなくて。
アロワナの爆発で飛び起きたオトモアイルー君と目が合う。相手方は状況の整理ができていないらしく硬直、俺も俺でどうするか考えたまま、数秒の沈黙が流れた。
「……ギシャッ!(……んじゃっ!)」
バッと羽を展開させた俺は、相手のリアクションも待たずにブィィンと瞬時に飛び上がる。向こうが我に帰って騒がれるとまた面倒なので、先手必勝(但し逃亡)という事でサッサと脱出させて頂いたのだ。無理に弁解しようとしたところで言葉も通じないし、妙な動きをすれば警戒されるだけだろう。それに、むしろスッと去っていった方が紳士っぽくてウケいいんじゃね? という不純極まりない理由も含まれていたりする。
「ギッ、キシャシャシャシャシャシャ!(まっ、結果オーライっちゅう事でいっか!)」
オトモ君も硬直こそしていたものの、そこまで激しく驚きはしなかったようだし。それにちゃんと、こんがりおいしく焼けたお肉と、採取しておいた薬草にアオキノコ、落ちていた空きビンに入れたハチミツをたんまり置いて来れた。秘薬系素材は流石に用意できなかったが、あれだけあればハンターちゃんの傷を完治させるのには十分だろう。調合は任せたぜ。
「ギィッ、キシャシャシャシャシャシャ!(さて、獲物また探しに行きますか!)」
……そういえばゲームではハレツアロワナを焼いて食べる事ができたと記憶しているんだけど、亜種にあたるバクレツでは駄目だったのだろうか? それとも、焼く時に何かしら爆発させないコツがあるのか……。大変気になるが、モンスターである俺にそれを調べる術があるわけもなく。
バクレツアロワナは、アブナイ。ただ一言そっと頭の片隅にそうメモると、今度こそ肉を食べるべくアプトノスを求めて飛び去る俺だった。
――あ、肉焼きセット忘れてきた……。
◆
――はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……――
切れる息に、走る音。私は今、何かから必死になって逃げていた。一体それが何なのかは分からない。けれど、一つだけ確かな事は……。
逃げなければ、死ぬ。
――あっ……――
もはや気力だけで走っていた私の足がとうとうもつれ、体が宙に投げ出される。直後、私は音を立てて地に伏した。
――嫌……――
早く逃げなくては。そう思い起きあがろうとしたが、ついに私に追いついた“死”の恐怖を背に受けて硬直してしまう。背後を振り向きたいが、怖くてできない。ハンター失格だ、等と場違いな思いを抱いたのは、それほどまでに私が追いつめられているからだろう。
――誰か、助け……――
来るはずもない助けを求める。仮に誰かが助けに来たとしても間に合わないだろうし、間に合ったとしてもその人もすぐに殺されてしまうだろう。私の後ろで攻撃を繰り出そうとしている“死”は、戦わずしてそれだけの力がある事が十分に分かった。こんな状況から、私を助けられる人などいるはずがないのだ。
――そう、それが人であったなら。
――ギシャアアアァァァ!――
突如背後から、聞き覚えのある鳴き声が響き渡った。それに驚いた私が振り返ると、“死”から私を守るように仁王立ちする姿があった。その姿は人にしては大きかったけれど、目の前にいる“死”と比べれば遙かに小さく――しかし私には、その姿はとても心強く感じられた。
“死”から私を守るべく身構える、それの正体は――。
◆
「のわぁっ!?」
「ふみゃぁ!?」
ガバッと体を起こして声を上げる。その声に応呼するように聞こえてきた驚きの声の方へ顔を向けると、隣にいたオトモのネロが仰天して仰け反っていた。
「あれ……夢?」
どうやら私は夢を見ていたらしい。それにしても、不思議な夢だったな……。少なくとも、普通の夢とは違う感じだった。
「大丈夫かにゃ? ご主人。大分うなされてたみたいだったがにゃ……」
心配そうにのぞき込んでくるオトモのネロ。彼は旧大陸からやってきたベテランのオトモアイルーで、私がハンターになるずっと前から沢山の狩りを経験してきたらしい。だから狩りについての知識は私よりずっと多くて、まだハンターになったばかりの頃は色々と教えてもらっていた。だからネロはオトモと同時に、師匠でもあるんだ。
「う、うん。大丈夫だよ。ありがと」
「まぁ、無理もないにゃ。あれはトラウマになってもおかしくないからにゃ」
「え……? あっ!」
ネロの言葉を聞いて、ようやく思い出す。後方から迫るアルセルタスによって退路を絶たれた私を、確実に“殺す”べく足を振りあげるゲネル・セルタスの姿を……。
「私、あれで死んだと思ったのに……。どうして生きてるの?」
体の様子を確かめてみるけど、戦闘中についた傷以外に新しい怪我はしていないように見える。あのプレスを受けていたら、骨の一本二本じゃ済まなかっただろうに……。
第一、この場所はベースキャンプじゃなくてエリア1だ。私が気絶してしまった時、どういう訳か私は直撃を免れるなり何なりして生還してネコタクで運ばれたんだとすると、私はベースキャンプで寝ている筈。ネロが運んでくれたっていうのは力量的にちょっと考えづらいし……。
「まぁ、混乱するのは分かるがにゃ、ひとまずコレでも食って落ち着くにゃ」
訳が分からずに頭を抱える私に、焼きたてのこんがり肉が差し出された。――そういえば、お腹も空いてるんだった。でも……あんまりコレを食べるのは乗り気にならないなぁ。
オトモであり、師匠であるネロ。人格者でもある彼はどこにも落ち度は無い気がするけれど、実は一つだけ、苦手な事があった。そう、それが料理。それはもはやマイナスのスキルが発動してるんじゃないかというレベルのもので、ただ焼くだけのこんがり肉ですら眉をひそめるような味になるという徹底ぶり。一定確率で毒状態になるとかいうオマケまでついているし。しかも彼自身どうやら自覚が無いようなのでよりタチが悪い。
「う、うん……」
そんなネロの作った食べ物を口にする事は精神的にかなり危険だから普段は絶対にしないんだけど、今の私は極度の空腹状態。もはや我慢の限界だった。
「いただきまーす……」
恐る恐る、こんがり肉へと顔を近づける。焼きたてである事を示す立ち上る湯気はとってもいい匂いで――え?
そんなまさか。そう思いつつ、遠慮気味に小さく口を開けてその肉を頬張り――目を大きく見開いた。
「……ネロ。どうして……どうしてネロが作ったこんがり肉がこんなに美味しいの!?」
「それすっごく失礼じゃないかにゃ!?」
ネロのツッコミもスルーし、そのこんがり肉をどんどんと食べる。お腹だけじゃなく、心まで満たされていくのが感じられる。
あっという間に食べ終わってしまった私は、とても深い幸福感を味わいつつ、この不思議なこんがり肉の事を考えた。
私が作るのよりは勿論のこと、下手をすればキッチンアイルーが作る料理よりも美味しい代物だった。彼らの作る料理ほど美味しいものは存在しないとずっと信じてきたのに……まさかそれを、所詮こんがり肉で覆される事になるとは思わなかった。
「凄いよネロ! 今まで食べた事がないくらい美味しい!」
「そうか、にゃ。それは良かったにゃ」
心からの賞賛を込めた私の言葉にネロが返してきたのは、以外と淡泊なものだった。その事に少し驚いてその顔を良く見れば、知性の宿る猫顔に若干の悩みの影が覗いている気がした。
「さぁ、ひとまず帰ろうにゃ。クエストは失敗にゃが、またリベンジすればいいにゃ」
一体、彼を悩ませているのは何なのだろうか。ベースキャンプへと撤退しようとするネロの背中を見つつその正体に思考を巡らせるが、当然分かる筈もなく。いずれ彼が自分から話してくれるのを期待しながら、私はネロの後を追っていった。
バクレツアロワナに(* ̄ノ ̄)/Ωチーン (* ̄- ̄)人 i~ 合掌
コメントには全部返信していく勢いで頑張っていきますので、ドシドシ送ってくださいませ!
ではではノシ