徹甲虫とはこれ如何に。   作:つばリン

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読者様方のウケが想像以上に良くて驚いている作者です。
調子がいいので早く投稿できました! 是非ともお楽しみ下さい!


第一話~徹甲虫のお料理教室~

 ブイイイィィィン……

 

「ギシャァ、キシャシャシャァ(いやー、危なかったねぇ)」

 

 うーむ、やっぱりというか、挙動とか行動パターンも完全にゲーム通りっつう訳じゃないのね。あんな堂々と、まるで卑下するみたいに踏みつぶそうとするだなんて……。俺の到着があとコンマ数秒遅かったら手遅れだった。あっちも生き残るために必死なのならまだ分かるけど、あれは明らかに性格の問題だよね。――まっ、俺が掻っさらった時のポカーン顔が傑作だったんだけどね! 甲虫種でもあんな顔するんだね!

 

「……ギシャッ、キシャシャシャシャシャッ(……さて、ひとまず安全な所へっと)」

 

 戦闘していたエリアから離脱した俺の腕の中には、グッタリとして動かないハンターちゃん。どうやら気絶しているらしい。ちょっと心配だが、起きて暴れられるのよりは有り難いかな。

 

 落とさないように改めてそっと抱えなおすと、露出多めの装備故の白い肌が目に入った。あぁ、美少女を抱えているというのに、その温もりを味わえないだなんて……。

 

 感覚の無い己の外骨格を恨みつつ、到着したのはエリア1。ゲームでならボスモンスターは進入できない設定のこのエリアだが、何か見えない壁に激突するでもなく、特に何の問題もなく入る事ができた。俺が例外なのか、それともそのへんのシステムそのものがゲームと違うのか……。前者である事を祈りつつ、ハンターちゃんをそっと草むらの中へ横たえる。さて、このまんまそっと離れよう。目撃者ならオトモアイルー君がいるし、初仕事としては上出来……

 

「……ん」

 

「ギシャッ!?」

 

 突然呻いたハンターちゃんに驚き、数歩後ずさる。気がついたら目の前にアルセルタスいましたー、だなんて洒落にならないだろう。共闘どころではなくなってしまう。

 

……

…………

………………

 

 ぐぅ~っ

 

「ギッ?(へ?)」

 

 緊張状態の俺の耳に聞こえてきたのは、目を覚まして起き上がる音でも、俺を見て上がる悲鳴でもなく、大きな腹の虫の音だった。う、うーむ……。成る程、食料切れでスタミナが無くなってたから上手く動けなかったのか……。

 

「……ギシャ、キシャシャシャシャ(……うん、乙女の尊厳は守るから)」

 

 よし、今の音は聞かなかった事にしよう。うん、そうしよう。

 

 さて、()()ちょっと狩りをする事を思いついたので、ちょっとそのへんを見てくるとしよう。どうせ今後ともこの世界で暮らす事になるっぽいし、腹が減ってからでは手遅れ、なんて事にならないよう、今のうちに練習しておくのも悪くない。

 

「キシャァシャシャシャシャシャシャ……ギ、ギッ?(でもアプトノス逃げちゃったからな……って、ん?)」

 

 おやおやぁー? もしやあそこにいらっしゃるのは……何と! ジャンプ攻撃ウェルカムアプトノスさんじゃナイデスカー! ……あぁ、寝ていらっしゃるから俺が来た事に気がつかなかったのか。まぁ、普通ここは肉食モンスター来ないから気が緩むのも仕方ないっすよね。

 

 極力羽音を立てないように飛び立ち、ホバリングしながら段差付近のアプさんを観察する。モンハン4、或いは4Gをプレイした事のある方ならきっと、このアプトノスを知っているだろう。何故か、どういう訳かいっつも段差ジャンプ攻撃の当たる場所に寝ているこのアプトノスを。初心者ハンターからは生肉確保のために乱獲され、ベテランハンターからも通り魔の如く日常的にジャンプ攻撃をされた上にはぎ取ってももらえずスルーされる。ゲームシステム上仕方のない配置なのかと思いきや、本当にあの場所がお気に入りだったらしいという衝撃の事実が判明した瞬間であった。

 

「……ギシャシャシャ(……止めとこ)」

 

 うん、回想をしているうちに不憫になってきてしまった。そんなハンター達に乱獲されてなおそこにいるという事は、きっとなにかしらの拘りがあるのだろう。なら、せめて俺のいる時ぐらいはノンビリしていって頂きたいものだ。

 

 俺はそっとアプトノスさんに一礼し、適当に他の獲物を探しに飛んでいったのだった。

 

 

「ギシャァーッ!(そいやーっ!)」

 

 鎌みたいな前肢を使い、そのへんにいたアプトノスさんへ上空から切りかかる。首元という動物共通の弱点を攻撃した事で、一撃で沈黙する対象。フン、脆いな……。

 

 中二病的かつ不謹慎な妄想をストップさせ、鎌を合わせて合掌する。正直、無害なアプさんよりもハンターに害を成すような奴が狩りたかったのだが、ファンゴとかはリストラ食らってるからいないし、現状この遺跡平原で唯一生肉をはぎ取る事のできるアプトノスさんを狩らせて頂いた。すまない、君の命は無駄にはしないさ……。

 

 どうせこんな発言した所でガラに合わないだろうなと思いつつ、はぎ取りを開始する。……が、その努力虚しく、本来二つはぎ取れるはずが一つしかはぎ取れなかった。その原因が、俺のこの前肢。攻撃には向いているこのカマだが、どうやらあまり切れ味が良いとはいえないらしい。お陰でうまくはぎ取る事ができず、そこそこな量の肉を無駄にしてしまったのだ。先程のアプさんへの誓いを早速無視している気がするが、慣れない体での作業、申し訳ないとは思うが、勘弁してもらいたい。取れなかった生肉は、俺が一つ賢くなるのに消費されたと納得してもらうしかないな。アーメン。

 

「キシャシャシャ、ギッギィギギ……(でもやっぱり、ショックだな……)」

 

 俺はいわゆるオタクだったが、数少ないマトモな趣味の一つに料理があった。その腕は割と自慢できるレベルで、そのへんの店で出しても全く問題ないレベルではあったように思う。……まぁ、始めた理由である女子にモテたいからという目的は達成できなかったんだが。くそう、くそうくそう……。

 

 まあそんな俺なわけだから、食材を上手くさばけなかった事と無駄にしてしまった事への精神的ダメージは結構大きい。……一応モノが持てる中脚なら、包丁なりナイフなり扱えそうなんだが。あぁ、どっかに刃物、落ちてないかな……。

 

 ……うん、いつまでもうだうだ考えていても仕方ないな。俺の分は適当にそのへんの水辺でアロワナでも捕まえるとしよう。バクレツアロワナとか、わた○チみたいに食ったらパチパチしそうで面白そうじゃん。――言い訳してるんじゃないよ?

 

 

(ご主人、一体何処へ連れて行かれてしまったんだにゃぁ……?)

 

 アルセルタスに連れ去られた己の主人を、オトモアイルーはいくつものエリアにも渡って探し回っていた。途中何度かゲネル・セルタスにも出くわしたが、主人がいない事を確認するや否や即撤退し、別のエリアを探す。今はクエストのクリアよりも、主人の安否を確認する事の方が大切なのである。

 

(アルセルタスが侵入できるエリアは全て見て回ったはずだにゃ……。一体、どこに行ってしまったにゃ……?」

 

 頭の中に最悪のケースを思い浮かべ、そしてそれをかぶりを振って追い出すと、再び歩き始める。

 

(ひとまずベースキャンプに戻ってみるかにゃ……。もしかすると、ダウンして運ばれてるかもしれないにゃ)

 

 頼むからそうであってくれという強い念の元に、ベースキャンプへ行くためにエリア1へ入ったその時――。オトモアイルーは、探し求めたそのモンスターの姿を捉えた。

 

(アルセルタス!? 何でエリア1にいるにゃ!?)

 

 見通しの良い、エリアの真ん中付近。そこに、例のアルセルタスがいたのである。

 

 遺跡平原のエリア1へは本来、大型モンスターを始めとした肉食モンスターが侵入してくる事は無いはず。オトモアイルーが驚くのも無理はないだろう。

 

「ギシャシャーン」

 

 そして未だそれに気づかぬアルセルタス。が、明らかに様子が変であった。ジャジャーン、とでも言うようなノリでその中脚に持って掲げていたのは生肉。少々いびつな形をしているが、その色から新鮮な事が伺えた。そして、その生肉を置いた場所に設置してあったのが……。

 

(あれは……肉焼きセット!? 何故モンスターが!?)

 

 心の中で叫ぶオトモアイルーだったが、当然それが当のアルセルタスに届くわけもなく。何やらよく分からないテンポの鳴き声を上げつつ、それに火をつけたのである。

 

(信じられんにゃ……。何故モンスターの、しかも甲虫種が道具を使えるにゃ!?)

 

 そして、オトモアイルーは更に信じられないものを耳にした。

 

「ギッシャシャ♪ キシャシャギッシャシャ♪ キシャシャ♪」

 

(にゃぁぁぁ!? 肉焼きの唄まで歌ってるにゃ!?)

 

 オトモアイルーの頭は、もはやパンク寸前となっていた。モンスターの、しかも甲虫種であるアルセルタスが肉焼きセットを使って生肉を焼き、さらにはハンター御用達の肉焼きの唄まで歌っているともなれば当然だろう。

 

「キシャシャン♪ キシャシャン♪ キシャシャン♪ キシャシャン♪ ギシャシャキシャッンッ♪」

 

 背中の羽をリズムに合わせてブンブン振るわせ、完璧な音程で鳴き声を発する。大混乱しているオトモアイルーにも分かる程、その様子はとても楽しそうだった。

 

「ギシャシャシャキシャァ、ギッシャシャッシャァー!」

 

「しかもこんがり肉Gバージョンにゃぁぁぁ!?」

 

 そんな声を上げ、オトモアイルーはとうとう、その場で卒倒してしまったのだった。

 

 

「ギシャシャシャァー(ただいまー)」

 

 先程の生肉とカワセミ漁法で捕まえたバクレツアロワナを抱えた俺は、特に何かトラブルに巻き込まれるでもなく無事にエリア1へ帰還した。ハンターちゃんもアプさんも目覚めてはいないみたいだな。

 

 ハンターちゃんから少し離れたエリアの真ん中付近に着地した俺は、この世界での初めての料理をテンションアゲアゲで開始する。

 

「ギィーッシャ、キシャシャシャシャシャシャ?(さぁーて、今日作りますのは?)」

 

 先程取った生肉を掲げる。ゲームで見たような綺麗な形にははぎ取れなかったが、食っちまえばみんな同じだしオッケーだろう!

 

「ギギギギギギギッ! キシャァギギギギ、ギギギシャァ! キシャシャシャシャシャシャーァ!(ハンターお馴染み! こんがり肉と、未開の味! こんがりバクレツアロワナでーす!)」

 

 てなわけで、早速料理にとりかかる。え? 火はどうするのかって? そう、それはさっきまで俺を大分悩ませていた問題だ。

 

 『モンハンワールドなんだし、そのへん探しゃぁリオス夫婦なりクック先生なり火吐く奴見つかんだろー』とかナメて辺りを探し回ったんだが、そうそう簡単に見つかるわけもなく。急がないとハンターが目を覚ましてしまうと思って慌てながらも羽休めに着地した場所に偶然落ちていたのが……この肉焼きセットである。

 

 若干古びていたものの、使ってみると一瞬で火がついた。一体どういうメカニズムで自動で点火されるのかは分からないが、生物がカミナリ操ったりアタリハンテイリ力学なる独自の物理法則が存在したりと、この世界では元の世界の常識は当てはまらないのだし気にしたら負けだろう。怖いよね、ガノトトスの亜空間攻撃。

 

 しかし、何であんなトコロに肉焼きセットが……。粗方、手持ちが一杯になってしまって手放すハメにでもなったのだろう。どう見てもかさばるもんね、コレ。――本当のとこ言うと、側になぞの骨と達人のドクロが散らばってたんだけどね。アレーオカシイナー、達人ノどくろハ3以降素材トシテハ登場シテナイ筈ナンダケドナー。

 

 まぁ、一応埋めて供養しときました。流石に達人さんもモンスターに供養してもらう事になるとは思わなかっただろうね。

 

 とまぁ、若干曰く付きなこの品だが、使えるのなら使わなけりゃもったいないだろう。きっと道具も喜ぶさ。それに、下手すりゃもうこれ以降肉焼きセットを入手する機会なんて無いだろうし……。背に腹は代えられぬという奴だ。

 

 某三分間でクッキングするあの曲を羽音と鳴き声で歌いつつ、生肉を肉焼きセットへ乗せる。そして火をつけ、モンスターハンターお馴染みのあの“肉焼きソング”を歌った。

 

「「キシャシャン♪ キシャシャン♪ キシャシャン♪ キシャシャン♪ ギシャシャキシャッンッ♪(タララン♪ タララン♪ タララン♪ タララン♪ タラタッタッタンッ♪)」

 

 歌い終わると同時に、程良く焼けた肉をサッと上げる。そして最後に一言!

 

「ギシャシャシャキシャァ、ギッシャシャッシャァー!(ウルトラ上手に、焼っけましたぁー!)」

 

 ジャン! という音の代わりに、前肢をチャキン! と打ち鳴らして締めくくる。完璧だ……!

 

 ちなみにわざわざ歌をこんがり肉Gバージョンにしたのは、単純にそうした方が上手くいきそうな気がしたからだ。特段大きな理由があるわけではない。ジンクスって大事だよね。

 

「しかもこんがり肉Gバージョンにゃぁぁぁ!?」

 

「ギシャァ!?(うおっ!?)」

 

 突然後ろから聞こえてきた叫び声に驚き、振り返る。危ない危ない、折角のこんがり肉(G?)を取り落とす所だった。

 

 直後、バタリと倒れたのは――あ、さっきのオトモ君……。




これまで自分で作ってきたモンハン二次創作、何故か総じてオトモアイルーがイケメンです←

何ででしょうねぇ、意図してる訳じゃないんですけどねぇ。

そんな訳で、この後アルセル君はどう立ち回っていくのでしょうか? 作者も(読者の反応的な意味で)ドキドキです!

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