徹甲虫とはこれ如何に。   作:つばリン

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明けましておめでとうございます!(遅い

今回はようやく戦闘シーンです。(盛り上がるとは言ってない)一体どうやって書いたらスタイリッシュな描写になるんですかね……。

それでは、どうぞ!


第十四話~心の家族~

「ゴォァァ!?」

 

 爆発。ハンターを喰らおうと大きく開け放たれたイビルジョーの口内へと放り込まれたそれは、ゲームで見た時などよりも遙かに激しく、黒煙を上げて炸裂した。流石の恐暴竜といえどもこの攻撃は想定外、というか口の中でいきなり何かが爆発なんぞしたらそれこそびっくりじゃ済まないと思うんだが、盛大に怯み攻撃を中止した。そしてそんな非常事態を引き起こした張本人、もとい張本虫である俺はそれを横目に見ながら縦に弧を描いて上昇、そこから急降下して怯みによって後ずさったイビルとハンターの間へと土埃と共に着地した。

 

 緊急事態につき思いつきで急遽行ったこの作戦だったが、ひとまずは成功した様子なので安堵する。そう、今回俺が奴の正面を通り抜ける時に口の中へと投げ込んでやったのは、これまで調合実験を重ねてようやく実用的なレベルに達した攻撃手段の一つ、特性小タル爆弾だ。やはりというか調合はただ小タルに火薬草を突っ込んでハイおしまい、だなんて簡単なものではなく、着火しても何故か爆発してくれなかったり、逆に着火から爆発までが早すぎて危うく巻き込まれそうになったりと上手くいかないのなんの。そもそもモンスターである俺がタルだなんていう人工物をそんなヒョイヒョイ集められるわけもないので実験回数も少なく、正直今回投げ込んだあれも軽い不確定要素だったのだが、結果オーライというやつだ。

 

 爆発の際に起こった煙が徐々に晴れ、再び奴の顔がお目見えとなる。その表情は食欲、そして怒りのみに染まり、口からは龍属性エネルギーが溢れ、双眼を狂気の赤い光で怪しく光らせている。……嫌な予感はしていたが、やはり怒り喰らっていたか。だが、こいつは間違いない、“あいつ”と同一個体だ。何故なら――爆弾を投げ込む直前、奴の側面に刻まれた焦げ痕と深い爪の痕を、俺はしかとこの複眼で見ているのだから。

 

「ギッギッ……キシャァ!(相手は……俺だ!)」

 

 体を起こして両の鎌を掲げ、四枚の羽を展開して全力で威嚇する。奴の攻撃を、俺へと引きつけるために。

 

「ゴオオオァァァァァ!」

 

 そして奴“怒り喰らうイビルジョー”は、そんな俺の声に応えるが如く、また俺も、背後のハンターをも喰らわんとする本能の下に、その体を振り上げ咆哮した。

 

 今ここに、因縁の対決が始まる――。

 

 

 未だ咆哮を続けるイビルジョーをしかと正面に見据えながら、威嚇で広げた羽を地面に叩きつけるような勢いで羽ばたかせ、体への負担も厭わず土埃を舞い上げつつ垂直方向へ一気に上昇する。そして宙返りの動作により進行方向を平行に修正し、ようやく起こして体勢を戻したイビルへ向けてこの短い助走で出せる最大速度にて突っ込んだ。

 

「グオォウッ!」

 

 律儀にも正面から突っ込んだ俺に占めたと判断したか、その凶悪な顎をガバリと開いて噛みつきを繰りだそうとするイビル。しかし俺とて馬鹿ではない。そんな奴の動きに僅かに顎を軋ませながら、俺は“ソレ”を引き抜いた。

 

「ギィッシャァ!(オッラァ!)」

 

「ゴァアァ!?」

 

 次の瞬間、奴の口から漏れたのは、痛みに悶える悲鳴。軌道を捻って対象の斜め上を通り抜けた俺は、そんな奴の盛大に怯む気配を背後に感じながら中脚に持ったそれらをちらと見て、いけるかもしれないと僅かな希望を見出した。

 

 少し余裕をもって突進の勢いを殺した俺は、その場で反転した後ホバリングしながら再びイビルの方を睨みつける。一方で怯みによって先程の場所よりもさらに数歩後退した奴は、痛みでそれどころでないからか、或いはスピードに付いて来れず見失ったのか、まだこちらを向いてはいない。だが俺の高性能な複眼は、そこまで深くないながらもかなり鋭いもので切り裂いたような赤い傷が二本、首から尾の中央のあたりまでにかけて確かに刻まれているのを確かに捉えた。

 

 そう、俺が今回用意した武器は何も爆弾だけではない。俺は今この両の中脚に、以前ゲネル・セルタスを倒した後に遭遇した密猟ハンターから奪った、あの“双剣”を装備しているのだ。俺は今まさに、奴の背面を通り抜けながらこの双剣を奴の背に突き立て、その皮膚を切り裂きながら通り抜けたのである。所詮アルセルタスに武器を奪われるだなんていう失態をするようなハンターが所持していた武器故大した事はないのかもしれないと思いつつも、しかし見たこともない武器という事に僅かな期待をかけて持ってきたのだが、どうやら正解だったようだ。

 

「グググググ……」

 

 食料にしか見えていなかったであろう雑魚モンスからの予想外の手痛い攻撃に軽く放心していたらしいイビルが、まるで怨念を込めたかのような唸り声を上げながら振り向く。そのゆっくりとした動きは、まるであの時――姉レイアちゃんを食った直後の、あの瞬間とそっくりで。しかしその目はあの時と違って、俺に対する明確な“敵意”をはらんでいるのが、分かった気がした。

 

「ゴオァァァ!」

 

 イビルジョーが、今度は威嚇の鳴き声もそこそこにこちらへと突っ込んでくる。俺は羽から生まれる浮力を前方に傾けて低空で後退、回避しつつ、冷静に奴の動きを観察してゆく。

 

「ゴオァゥ!」

 

 唾液を振り乱しながらの噛みつき。

 

「ゴォアァ!」

 

 飛びつき。

 

「ゴォォウ!」

 

 タックル。

 

 ……同じだ。後退と上下左右への移動で軽く回避しながらの観察で、その違和感の“無さ”に気がつく。そう、さっきから奴の動きは“ゲーム中での動き”とまるで一緒だ。それは、そのゲームの世界なのだから当たり前だと思うかもしれない。だが俺はこれまで、そんな常識の通用しないモンスター達と沢山触れ合ってきたのだ。

 

 憎き相手ながら、無駄に感情は豊かだったゲネル・セルタス。子供のためなら我が身も呈する、家族想いのお母さん、レイア姉さん。嫁に近寄る者は許さない、理想の旦那、レウスさん。そして、とっても個性豊かで、とっても可愛いらしかった、ちびリオス達。彼らはゲームでの常識になんて囚われず、確かに個体として、“動物”として生の営みを行っていた。しかし奴は――理性無く動く、ゲームでのプログラムそのまま。

 

「ギィッ……!(ならっ……!)」

 

 ある程度後退したところで、奴を中心に弧を描くようにしながら飛行する。奴はそんな俺を目で追おうとするが、あのレウスさんから毎度逃げ仰せていた俺の速度には追いつけない。

 

 ――そうか、ようやく分かった。

 

「ゴォァァ!」

 

 体を傾け、軌道で描いていた弧の中心にいるイビルの横腹めがけて一気に突進、その真上を通り抜ける最中に背中へ二本の剣を叩きつけるように切り込む。イビルジョーもそれに負けじと反撃を試みたようだが、その行動も俺がゲームで幾度となく見てきたモーションと全く同じであり、見切るのは容易だった。ゲームの知識に加え、防御力は大した事はないとはいえ移動速度、筋力、それらがゲームのハンターを上回っている俺に、そんな攻撃が当たるわけがないのだ。

 

 それを見て思い起こすのは、子リオス達との鬼ごっこ。俺を出し抜いた生真面目レウス君の、あの見事な戦略。そう、俺からすれば、奴なんかよりもあの子の方がずっと強かった。

 

 ――俺は今、一人で戦っているんじゃないんだ。

 

 リオス一家と過ごすうちに、何だかんだで培ってきた能力。それが今まるで、彼らと一緒に戦っているかのような気がして。

 

「ゴオオオァァァァァ!」

 

 俺を喰らわんとする絶対強者を目の前にしてでも、もはや恐怖は感じない。俺の心の中に、リオス一家がついていてくれているから。

 

 ――イビルジョー、お前は“俺達”には勝てない。

 

 

「――人、ご主人!」

 

 ペシペシと頬を叩きながら、せっぱ詰まった声で呼びかけるアイルー。しかし、そんな彼に対して帰ってきたのは――。

 

「……ふぁ?」

 

 そんな空気にそぐわない、どこか気の抜けた少女の声だった。

 

「……ネロ?」

 

「……にゃぁ、良かった、大丈夫そうにゃね」

 

 普段から見ている寝起きモードと大差ない主人の声色に、手を引っ込めて大きくため息をつくオトモアイルー、ネロ。一方でその主人、少女ハンターは未だ状況がよく分からない様子で、そんな自らのオトモを不思議そうに見つめていた。

 

「……本当に大丈夫かにゃ?」

 

 暫くの沈黙の後、相変わらずキョトンとした様子の少女ハンターの姿に思わず不安になったネロが顔をのぞき込む。それに対し、何が? とでも言いたげな顔をして首を傾げようとした少女だったが、直後何かを思い出したかのように硬直し、その表情をみるみる恐怖や驚愕の混ざったものへと変化させた。

 

「ネ、ネロ……私……」

 

「大丈夫、今近くにはいないから安心するにゃ」

 

 動揺し怯える主人を安心させるために、聴覚と嗅覚を研ぎ澄まして周囲にモンスターがいない事を確認するネロ。人間と密接に関わっている存在であるために忘れられがちだが、アイルーも分類上は立派な獣人種のモンスター。その高い察知能力は、こうしてオトモとしてハンターをサポートする際にも遺憾なく発揮されるのである。そして現状、少し遠くにいる“二匹”を除いて、大型小型問わず周囲にモンスターの存在は感じ取れなかった。

 

「ほら落ち着いて、とにかく深呼吸にゃ」

 

「う、うん。すぅー……はぁー……」

 

「……にゃふぅっ」

 

「ちょ、何で笑うのぉ!」

 

 若干ぎこちなくも素直に深呼吸をする主人の姿に思わず吹き出したネロへ、少しむくれて文句を言う少女ハンター。彼女からすれば大真面目にやったことだったので本気で文句を言ったつもりだったのだが、それをさらにネロが茶化したことによって場を和ませる結果となったのだった。

 

 狩場での会話とは思えない、ほんの少しの間の和やかな空気。それは明らかな生命の危機を経験したが故の現状の強い安心感から来るものであり、少女ハンターが如何にネロへと信頼を置いているのかが良く分かる光景であった。

 

「さっ、細かい話は後にして、こんな場所はとっとと出ようにゃ。御者アイルーの奴も心配してるにゃよ?」

 

「あっ、ギルドナイトさんは大丈夫かな……?」

 

 自らを囮にして助けた男の心配をする少女ハンターの方を振り向いて、ネロが振り向きながらサムズアップをする。

 

「大丈夫、ベースキャンプにネコタクで無事に運ばれたところを見たにゃ」

 

「そっか……良かったぁ」

 

 手を胸の上に置き、本当に心の底からといった様子で安心する彼女の姿をちらと見て、ネロは彼女の優しさと、その性格の危うい点を垣間見る。優しい性格というのは基本的に素晴らしい事ではあるが、それも度が過ぎれば今回のように自らの命を危険に晒したり、また場合によってはそれが転じてまた他の人に迷惑をかける結果となることも少なくないのだ。

 

「戻ったらこんがり肉焼いてやるにゃー」

 

「うげ……お願いだから、美味しく焼いてね?」

 

 ……まぁ、こういう事を割とずけずけ言う彼女にそんな心配は無用かもしれないな、と考えを改めたネロなのであった。




先日ようやくモンハンⅩを購入しまして、ちょくちょく進めていたりします。アルセルタス、上位にしか出なくなったんですね。

もしかするとそのうち、この小説でも何かしらクロスの要素を追加するかもしれません。

それではまたいずれ。

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