徹甲虫とはこれ如何に。   作:つばリン

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期末テスト終わった! やっと更新ができるぜぇぇぇ!

今回は日常編です。虫だって、のほほんしたっていいじゃない。


第十話~ロリショタ天国~

 子供というのは可愛いものだ。

 

 前世ではたまに子供嫌いの人がいたが、本来子育てをする生物というのは子供を可愛いと思うように進化してきた。だから子供を可愛いと思っちゃうのは仕方ない。事実、俺も子供は好きだ。ちなみに若干のロリコン精神がそこへ混ざっていたりするのだが気にしてはいけない。

 

 さて、人間が犬や猫の子供を見て同じく可愛いと思う事からも分かるように、この“子供は可愛い”という心理は個人差こそあれど他種族に対しても適用されるというのは何となく分かるだろう。

 

 で、俺が一体何を言いたいのかと言うと――。

 

「ギャオ、ギャオ!」

 

「キュオーン……」

 

「キシャシャシャシャシャシャシャシャ……(子リオス可愛すぎんだろ……)」

 

 それはゲネルを討伐した翌日の朝。昨晩量産しておいたティーバッグでお茶出しをしながらうろ覚えでラジオ体操第一をやっていた俺は、改めての挨拶も兼ねてリオス夫婦の巣へ再びお邪魔する事を思い立った。密猟ハンターから奪った回復薬グレートを複数使ったおかげでレイア姉さんの傷は概ね癒えていたはずだが、一応病み上がりみたいなものなのでお見舞いという名目で行ってみるとしよう、というわけだったのだ。

 

 そんなこんなで、見舞いの品に適当なアプトノスを見繕って巣へとやってきたのだが……。そこにレイア姉さんと共にいたのは、赤や緑の小さな竜たち。そう、最初俺がここへ来た時に見た、あの卵達が孵化していたのだった。

 

 子供を持った動物は排他的になるという話はよく聞くが、どうやら俺の来訪にはレイア姉さんも歓迎してくれた様子。都合が良すぎるような気がしないでもないが、昨日俺が助けたという事をちゃんと理解してくれている様子なのでそんなものなんだろう。事実、俺だってこの子達をどうこうしようだなんて考えは更々無い。

 

 で、持ってきたアプトノスなんだが、レイア姉さんが思いの他元気だった上にレウスさんが丁度狩りに行っているらしいので、先に子供達に食べさせてあげる事にしたわけだ。そしたら……。

 

「ギャオギャオ!」

 

「ギイィ!?(おぉ!?)」

 

 まぁ見事に懐かれまして。こらそこ、餌付けとか言わない。というか、この子らまだ生まれて一日経ってないんですよね? いくらなんでもパワフルすぎやしませんか? さっきから子レウス君の一匹が暴れん坊ですごい羽引っ張ってくるんですけど。……だが可愛いから許す!

 

 一方で、子レイアちゃんの一匹は俺を囲む輪からほんの少し離れた場所にいた。最初は人見知りなのかなと思ったが、しばらく観察しているうちに決して俺を避けているのではなくてこの暴レウス君の騒ぎように近寄れない大人しい子なのだと気付き、こちらから近づいてそっと中足で頭を撫でてあげたら大変嬉しそうだったので俺も無茶苦茶幸せです。

 

 雄であるリオレウスは、さっきから自己主張激しい通称暴レウス君と、間近でじっくりと俺を観察してくる慎重派っぽい子。リオレイアは、さっきの大人しい子と、暴レウス君と一緒になって騒いでるお転婆っ子ちゃんと、そんな暴走二匹を叱りつけるような感じで鳴いてるお姉ちゃんっぽい子。生まれて間もないにも関わらずこんなに元気で、さらには個性豊かな子リオス達。雄雌比は2:3の総勢五匹で……って、あれ?

 

「ギッ、キシャシャシャシャシャシャシャ……?(前、卵六個だったような……?)」

 

 そう、それは俺がこの世界にやって来たその日。火種を求めてこの巣へ訪れた俺は、この子達が生まれる前の姿である卵を見て、触った。そしてその数は、俺の記憶さえ正しければ六つだったはずだ。しかしここにいる子リオスの数は五匹。じゃあ、あと一つの卵は……?

 

 まさかあの密猟ハンター二人に卵を!? と思い、少し慌てて探したんだが、それはすぐに見つかり安堵する事となる。

 

 背中にお転婆レイアちゃんを乗せたままのぞき込んだ、この子達の生まれた後の卵の殻が残る巣の中。そこに一つだけ、まだ生まれぬ小さな命があった。

 

 動物の中にはまるで示し合わせたかのようなタイミングで同時に孵化するような連中もいたりするが、普通そのへんは固体差があって当然だ。今俺の周りにいる子達も同時に生まれたわけじゃないだろうし、この卵もすぐに孵ることだろう。でもこんな元気な子供達だし、さっきの食欲からして成長スピードも恐ろしいものだろうから、下手をすれば数日生まれる日が違っただけで体格なんかに差が出て、兄弟達に圧倒されてしまうかもしれない。もしその時がきたとしたら、何かと気にかけてあげるとしよう。

 

 俺の目標は、隣人の優しいお兄さん。そんなところか。アルセルタスの寿命がどの程度かは分からないが、できることならこの子達が巣立ちするその時まで、見守ってあげればいいなと思ったりした。

 

 まぁ、その立場を確立するには――。

 

「キシャシャシャシャシャシャシャシャシャ……(まずこの方の御理解を頂かないとな……)」

 

「グルル……」

 

 ほっこりした気分で、俺が巣から離れたその時。赤いナニカが、突如俺の目の前へ着地した。

 

「グオオオォォォ!」

 

「ギッ、キシャシャシャシャシャシャシャァー!(し、失礼しましたぁー!)」

 

 咆哮を上げた旦那様に、慌てて逃げ出す俺。そんな俺の背後からは、父の帰宅に喜ぶ子供達の元気な鳴き声と、俺を追い出した事に怒っているのか吼えるレイアさんの声、そしてそれにちょっと怯えた様子の情けないレウスさんの鳴き声が聞こえ、状況にもそぐわないが思わずムシムシスマイルを浮かべてしまった。

 

 レウスさんから逃げるのも今回で二回目。だけど、こんなやりとりも何度も繰り返すうちに楽しくなってきそうで。人間時代には小さな頃にしか感じなかった、そしていつかは自分でも築こうと思っていたけれど叶う事のなかった、心の温まるこの空間。このモンハン世界での虫生活、思ったより寂しい思いはしないで済みそうだ。

 

 

・古龍観測所よりバルバレハンターズギルドへ

 

 この度、複数の古龍観測隊より大型のモンスターが出現したとの情報が入りました。明確な目撃情報が無いため断定はできませんが、気候の全く違う広範囲において同じ特徴のものが相次いで発見される事から危険度の高いモンスターの可能性が示唆されていますので、そちらで対応をお願いします。また、目撃情報のあった順に狩り場を記載した表を同封します。

 

・バルバレハンターズギルドより古龍観測所へ

 

 各地のハンターからの情報により、表にあった各狩り場にて大型、中型、小型問わずモンスターの数が激減している事が確認されました。また、目撃情報の順番やその日時からしてそれが同一個体のモンスターである可能性が高いとしています。被害の進行から予測するに次にそのモンスターが通るのは遺跡平原だと思われるので、一時狩り場への立ち入りを禁止し、こちらからもギルドナイトを派遣しますのでそちらも観測を続行してください。尚、この事項は一般公開されない極秘のものとします。

 

・古龍観測所からバルバレハンターズギルドへ

 

 了解しました。現在遺跡平原ではリオレウスとリオレイアが巣営していますので刺激しないように注意してください。また以前狩猟に失敗していたゲネル・セルタスですが、先日から急に姿を見なくなったとの事ですので移動した可能性があります。それと些細な事なのですが、観測隊から『崖の上に焚き火があるのを見た』という情報が入っています。狩り場のそんな目立つ場所でキャンプファイヤーをやるような馬鹿はそうそういないでしょうし信憑性は低いかと思われますが、余裕があれば確認して頂ければ幸いです。

 

・バルバレハンターズギルドから古龍観測所へ

 

 ご忠告感謝します。件のモンスターの影響でリオス種も急激に数を減らしており、その二頭の狩猟に関しては見送ろうかと思います。ゲネル・セルタスの所在に関してもこちらで調査します。崖の上の焚き火、そのような痕跡が残っているか確認するよう、ギルドナイトの方へ伝えておきます。

 

 

「進入禁止……?」

 

「はいですにゃ」

 

 バルバレから遺跡平原へと向かう道すがら。小型モンスターからの襲撃も無く順調に進んでいた竜車だったが、それは御者アイルーの下へ訪れた一匹の鳥により足を止められる事となった。

 

「伝書鳩かにゃ」

 

「はいですにゃ。ギルド長様からの直々のお手紙みたいですにゃ? “緊急性の高いクエストが発生したので、それが完了するまでの間、遺跡平原への立ち入りを禁ずる”。あの人、ワイルドな見た目によらずえらく達筆ですにゃ」

 

 竜車の御者台の取っ手に停まり身繕いをする白い鳩を見て突然の進入禁止令の出所を察したネロに、御者アイルーは冗談混じりにその手紙を手渡した。

 

「……確かにそう書いてあるにゃ」

 

「うぅー、先にクエストを受注したのは私なのに……」

 

 ギルドは基本的に、複数のハンターがそれぞれのクエストを同時に進行する事を禁じている。それは目的の違いによりすれ違ったハンター達の同士討ちを防ぐ等の目的があるのだが、基本的に受注された順にクエストは実行される事となる。逆に言えば、そのルールを覆すというイレギュラーを行わなければならないほどの緊急事態が発生したという事になるのだ。

 

「……」

 

 残念がるハンターに対し、その手にギルド長からの手紙を持ったまま何度も読み返していたネロは、一抹の不安を感じていた。

 

 彼が危惧している事。それは、あのアルセルタスがギルドに認識されてしまったのではないか、という事だ。あの研究者少女の話では、目撃者や実際に行動を共にしたという情報は数あれど正確に記録された事はないという知性体モンスター。そういった情報は当然ギルド内にも持ち込まれてはいたはずだが、如何せん不確定な存在のために大規模な調査は行われてこなかった。またその背景にはそれら知性体モンスターと親しくなったり助けられたりした人達から強い反感があったからというのもあるのだが、ネロがそんな事を知るよしもない。

 

 しかし現実的な事を考えれば、狩り場には古龍観測隊の気球が徘徊しているため、モンスターとして華奢な方であるアルセルタスであってもその監視の目に見つかってしまう可能性は十分にあるだろう。自分が出会ったほんの一瞬の間でさえ、不可侵入領域であるエリア1に平然と居座り、あろうことかこんがり肉を焼いていたのだ。あんな異質な行為を普段からしているのだとしたら、逆に目をつけられない方がおかしいとも思える。

 

 そしてもしあのアルセルタスの情報がギルドへと入った場合。当然ギルドは、そのアルセルタスを調査しようとするだろう。それが正しい情報で、攻撃を前提とするような内容でなければまだ良い。最悪のケースは、観測者が曲解をする事であのアルセルタスが“異端”として危険視され、狩猟依頼が出てしまう事だ。ほんの一瞬しか会わなかったあのアルセルタスだが、曲がりなりにも己が主人の命の恩人、もとい恩虫。誤解で殺されてしまったのだとしたら、こちらが寝覚めの悪い思いをするのは明確だろう。

 

(杞憂に終わると良いんにゃが……)

 

 手紙から目を離し、空を見上げる。とても青く澄んだその空が、今だけは何故か、不穏な空気を孕んでいるような気がしたネロだった。

 

 

 オ……なカ……スイ…………タ……。




リオス種、かっこいいですよね。そんな彼らの子供が可愛くないわけないんです。

さて、テスト終わってテンション上がってますし、明日も更新しますよぉ!

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