ロックマンZERO イレギュラー   作:気分屋

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8.動き出す四天王 そして……

 地下鉄跡地の付近にあるネオアルカディア軍基地、その一室に四人の姿はあった。会議や対談等で使われる作戦室の中、真ん中にある円形のモニターテーブルを囲んで映し出された映像を眺めている。全角度から見ることのできる全面ホログラムが映し出しているのは紅いボディアーマーと流れる金髪が特徴的な人物、ゼロの姿だ。

 

 

「……この男が最近目覚めたという噂のゼロか」

 

 

「アラ、中々いいオトコじゃない。会ってみたいかも」

 

 

「ふざけるな。我らが主の旧友かもしれんとはいえ、コイツは主に牙を剥く反逆者。倒すべき存在でしかない」

 

 

興味ありげな感じで話していたマリンブルーのアーマーの女性に、最初に発言したライトグリーンのアーマーの男性が目つきをキッと鋭くして注意する。女性は面白くなさそうに「分かってるわよ」と返した。

 

 

「まぁそうカリカリすんなよハル。主に楯突こうってのは確かに気に喰わねぇが、会ってみてぇってのはオレもレヴィと同意見だ。オレ等の施設潰したりミュートスレプリロイドを狩ってるってェ話だが、強ぇんだろ? この“伝説様”はよ」

 

 

 赤いアーマーの男性が言った。話している間も片時も目を離さずホログラムを食い入るように見つめている。その眼は猛禽類が獲物を狙うように鋭く、映像の中のゼロが相手を撃破するたびに戦闘意欲が掻き立てられるのか、口元に浮かべられた笑みが徐々に獰猛なそれに変わっていく。

 

 

「戦闘好きなのも結構だが、勝手に抜け出したりするんじゃないぞ。貴様は一軍団の長であることをもっと自覚するべきだ、ファブ」

 

 

 ハルと呼ばれた青年の注意に、ファブと呼ばれた青年は「へいへい」とうんざりしたような表情で返した。その様子を背中を壁に預け離れた位置で見ていたもう一つの影は、再び視線を映像に向ける。

 

 

「お前はどう見る? ファントム」

 

 

 ハルが残る一人である影に問い掛けた。黒いアーマーに身を包み白い仮面で顔上部を隠した男性、ファントムは少しの間目を瞑り思案。目を開け静かに告げた。

 

 

「立ち会ってみぬと正確な事は言えんが、この男……かなりできる。努々油断せぬ事だ」

 

 

 静かに答えた彼の目もまた、ファブのようにゼロに向けられている。だが視線に込められた感情はファブやレヴィのような好奇心ではなく、もっと純粋な感情。”殺意”をファントムは静かに滾らせていた。

 

 

「忠告は受け取っておこう。さて……今回の襲撃の件だが、幾つかの戦闘はもしかしたら相手はゼロではないのかもしれん」

 

 

 ハルが言いながらモニターを操作する。画面が変わり映し出されたのは破壊されたミュートスレプリロイドやメカニロイドの残骸。その殆どが大小の弾痕を穿たれており、ゼロとは違う戦闘スタイルの可能性を示唆させる。

 

 

「レジスタンスのメンバーとか?」

 

 

レヴィが聞いてくるがハルはそれに首を振って否定の意を伝える。

 

 

「これほどの戦闘力を有した者がレジスタンスに流れたという情報はない。戦闘員が武装している可能性も考えたが、奴らのような一般タイプのレプリロイドにここまでやれるとは到底思えん」

 

 

 戦闘用レプリロイドでもここまで戦果を上げるのは難しいだろう。では、一体誰がミュートスを倒したというのか。少なくともゼロに勝るとも劣らない戦闘能力がないと無理な話だ。

 

 

「誰がやったのかは、引き続き調査を行う。頼むぞファントム。軍団の情報収集能力、当てにしている」

 

 

「……承知」

 

 

“斬影軍団”の長であるファントムは静かに了承の意を示した。

 

 

「レヴィ、作戦の方はどうなっている?」

 

 

「レジスタンスの拠点に対してハッキングと妨害電波によるサイバー攻撃を慣行中よ。今頃必死に抵抗していることでしょうね」

 

 

「よし。ファブ、“塵炎軍団”の出撃態勢は整っているだろうな」

 

 

「あたぼうよ! 後は命令さえ貰えりゃ直ぐにでもだぜ」

 

 

「慌てるな。近い内にレジスタンスの拠点に襲撃を掛ける。もう少し待て。今回はここまでにしよう。各自持ち場に戻ってくれ」

 

 

 その言葉に他の三人の姿が揺らぎ、やがて跡形もなく消えた。彼らも実体ではなくホログラムだったようだ。各々別の場所から通信で話していたというわけだ。静かになった部屋の中、“裂空軍団”の長であるハルことハルピュイアは映像の中の敵を見つつ呟く。

 

 

「ゼロ、か……」

 

 作戦室のドアを潜ったところで、ハルピュイアはその場に三つの気配が現れたのを感知した。しかし動じる事はない、よく見知った気配だったからだ。

 

 

「アステ・フライヤーズか」

 

 

「はい」

 

 

 気配の主は裂空軍団の所属にして賢将の身辺警護を勤める三体のミュートスレプリロイド。イレギュラー処理場でVAVAに撃破されたアステ・ファルコンと同型の三人だった。

 

 

「ハルピュイア様。この基地に接近する者があります」

 

 

「レジスタンスか?」

 

 

「はっ、恐らくは偵察部隊でしょう。少々近づきすぎている気はしますが」

 

 

「ふむ……よし、オレが出よう」

 

 

 その言葉にフライヤーズのリーダーにして長兄『アイン』は少々の驚きを隠せなかった。ネオアルカディア四天王にして裂空軍団を統べる者であるハルピュイアが、たかがレジスタンスの雑兵相手に自ら赴くというのだから無理からぬことだ。

 

 

「御自らですか? 態々そうされずとも我らに命じて下されば……」

 

 

「なに、ただの気紛れだ。それに――」

 

 

途中で言葉を切るハルピュイア。アインは訝しんで続きを伺う。

 

 

「それに、何です?」

 

 

「いや、いい。留守を任せるぞ」

 

 

 そう言ってハルピュイアは通路を歩いていく。最早引き止める事も叶うまいとアインは「お気をつけて」と自身の主を送り出す。アインの声を後ろ手に歩きながら心の中で続ける。

 

 

(それに――小さい餌で案外大物が釣れるかもしれないからな)

 

◆◆◆◆

 

(クソっ、最悪だ)

 

 相対する男を見て、コルボーは悪態をつく。ただの偵察のつもりだった。数日前この方面の基地に輸送機が着陸し、それに伴い平常より通信量が増大したため彼は何か重要な物が運ばれてきたのだと推測した。そのため普段より基地に近づいて偵察していたのだが迂闊だった。どうやら気付かぬ内に敵の警戒網に掛かっていたようで、ほどなく敵と遭遇したのだが……その相手が最悪過ぎた。

 

 全身をライトグリーンのアーマーで包んだ青年、四天王“賢将”にして裂空軍団の長であるハルピュイアがそこにいた。発見されてパンテオン部隊と交戦するくらいは想定していたが、まさか四天王の一人が出てくるなど思いもよらなかった。

 

 既に何人かは手足に斬撃を受け戦闘不能となり、残る仲間も銃を構えるだけで膠着状態が続いている。その上、電波障害でも起こっているのかレジスタンスベースとの交信が出来ず救援を呼ぶ事すら叶わない。このまま時間が経てば基地から増援が来るかもしれない。そうなる前に撤退しなければと脳内では考えるのだが、目の前の存在がそれを許さない。

 

 

「フン、こんなものかレジスタンスども。脆すぎるぞ」

 

 

 言うが早いか、ハルピュイアは滑空しレジスタンスに向けて急降下。勢いをつけて振るわれた両腕のソニックブレードから淡紅色のエネルギー刃が複数放たれ、メンバー数人の持っていたライフルを腕ごと切り裂いた。

 

 

「ぎゃあああああ!!」 「う、腕がああああ!!」 「ああああああ!!」

 

 

仲間達が腕を押さえてその場にうずくまる。絶叫に他の仲間も呑まれそうになるが、コルボーが叱咤して何とかもたせる。

 

 

「撤退だ! 撤退しろ! 動ける者は負傷者を手伝いつつ後退。殿はオレが持つ!」

 

 

 コルボーは手にしたアサルトライフルで空中のハルピュイアを牽制する。弾幕を難なく回避するハルピュイアは一人殿に付くコルボーの評価を改めた。それでもハルピュイアにとって取るに足らない存在には変わりないのだが。繰り出す斬撃を走って必死に避けつつライフルで反撃しているが、段々その動きも鈍ってきた。やはり純戦闘型でないコルボーは長時間の戦闘行動を維持することはできないらしい。遂にコルボーの足を斬撃が捕えた。

 

 

「がっ!?」

 

 

 態勢を崩し地面に突っ伏したコルボー。ライフルも地面を滑り離れた位置で停止した。手を伸ばして届く距離ではない。痛みに顔を歪ませるコルボーは着地し悠然と歩いてくる賢将を見て、死を覚悟した。あまり時間稼ぎはできなかったが味方は遠くまで逃げられただろうか。仲間の安否が心配だった。コルボーの前まで来たハルピュイアは相変わらず冷たい眼差しでコルボーを見ている。とどめを刺さんとブレードを振り上げる。これまでか、と観念したコルボーは直ぐに訪れるであろう死に我知らず目を瞑った。

 

 

(すまない皆……! すまないシエルさん……!)

 

 

 しかし予想した痛みや死は訪れなかった。訝しんだコルボーが薄く目を開けるとハルピュイアはコルボーから目を離し正面を見据えている。その眼には敵意と好奇心が宿っていた。視線の先を追ってみるとその先には自分達の仲間の一人、ゼロが佇んでいた。ここにきてコルボーは漸く自分が助けられたのだという事を理解した。ハルピュイアはもはやコルボーには興味すらないのか、彼をそのままにゼロに向き直った。

 

 

「貴様がゼロか?」

 

 

「……ああ、そう呼ばれている」

 

 

「……そうか」

 

 

呼ばれている、というところに引っ掛かりを覚えるがそんな事はどうでもいい。ちょっとした気紛れで足を運んでみたが、まさか本当に本命が釣れるとは思っていなかった。今ハルピュイアは自身の崇敬する主に歯向かう愚か者を、自身の手で葬る事の出来る喜びに打ち震えていた。普段は冷静な態度を崩さぬよう努めているが、今は無理だ。感情を抑えきれず思わず笑みが毀れた。

 

 

「オレの名はハルピュイア。ネオアルカディア四天王の一人にして“賢将”の二つ名を冠する者。そして――」

 

 

両腕のソニックブレードを再度展開する。一歩前に踏み込み即座に動けるよう四肢に力を込める。地を蹴り、空中を滑走しながら続きを言い放つ。

 

 

「――貴様を狩る者の名だ!!」

 

 

◆◆◆◆

 

同時刻 ケイン秘密研究所

 

 VAVAとルカ達三人は、ケインに召集されモニター室に集まっていた。VAVA以外は何事かと少々落ち着かない様子である。

 

 

「突然呼び出して何のつもりだ?」

 

 

 呼び出したケインにVAVAが呼び出された理由を問う。何故かその声はとても苛立たしげだ。その手にはどういうわけか工具が握られていて、顔は少しオイルで汚れている。その姿を見て三人の内の一人、青年ラムドがルカに聞いてみる。  

 

 

「……なぁ、あの人なんであんなにイライラしてんだ?」

 

 

「えーと、さっきまでライドアーマーのメンテナンスしてたから……」

 

 

 苦笑混じりに話すルカから理由を聞いてラムドは脱力しながらも納得した。自分達を助け出してくれたこのVAVAという人は、どうしてかライドアーマーの事となると異常と言っても差し支えないほどに熱が入ってしまうのだ。出会ったあの日から分かっていたが、もはや呆れるほかないと最近では思っている。

 

 

「皆まずは落ち着く事じゃ。特にVAVA、お主はの。順を追って話そう」

 

 

 全員の顔を見回してケインは落ち着くよう促す。釘を刺しはしたがあまり効果はないようで、VAVAは「……フンッ」と苛立たしげにドカッと椅子に座って腕組みをする。他の三人も各々に座る。VAVAから若干の距離を置いて座る三人に、ケインは敢えて何も言わずに説明を始めた。

 

 

「モニターに映し出されているのは、この研究所を中心とした半径50㎞圏内の見取り図じゃ」

 

 

 表示された見取り図には、この場所を示す中心点の他にもう二つの光点が明滅している。片方は見取り図ギリギリの右端に位置しており、もう片方はそれより中心寄り。三つの光点はちょうど一直線上に並んでいた。

 

 

「今から四時間ほど前、中心寄りの点から右端の点に向けてハッキングが開始された」

 

 

 ケインの説明によると、四時間前突如としてあるエリアから不可解な干渉波が確認されたという。解析の結果ソレは通信やその他を含む全ての電子系統に影響を及ぼすジャミング波である事が分かった。更にそのジャミング波が発せられているエリアから別のエリアへとハッキングの形跡が見られ、現在もそれが続いているらしい。

 

 

「この二つの点はなんです?」

 

 

「離れている方があるレジスタンスの隠れ家じゃ。近い方はハッキリとはせんが……恐らくはネオ・アルカディア側の施設だと思われる」

 

 

「近っ!? こんな近くにネオ・アルカディアの連中が潜んでたなんて……ケイン博士も知らなかったんですか?」

 

 

狼狽するラムドの問い掛けに「うむ……」と肯定の意を示したケインは、件の施設について何も知らない事を述べた。

 

 

「情けない話だが今まで気づかんかった。ネオ・アルカディアにいた頃にもこのエリアに基地や拠点があるという話は聞いた覚えはない。恐らくは限られた人物しか知らない秘匿性の高い施設なのじゃろうて」

 

 

 可能性としてケインが考えたのがそれだった。彼が密かにここに移ったときも、付近に反応らしきものはなかった。そもそもこのエリアにネオ・アルカディア統制下の施設が無いことを事前に確認していたからこそこの場所を、過去に放棄された研究所を潜伏場所に選んだのだ。

 

 それからも周囲の探索は怠った事はない。にも係わらず、これだけ近い位置に拠点が存在するならばそれは意図的に隠された拠点。それも外部は勿論、内部にさえも秘匿された秘密の施設である可能性が高い。

 

 

「して、どうされるおつもりじゃ。このまま静観するのか、出て調べるのか、どうしたものかの?」

 

 

 三人の内の一人、老人のフェルマーが今後の方針を問う。その問いにケインは直ぐには答えられなかった。彼自身もどうするか決めあぐねていたからだ。現在サイバー攻撃を受けているのはレジスタンスの拠点であり、自分達のいるこの場所が攻撃されているわけではない。

 

 

 強いて言うならジャミング波の影響で計器類や設備が正常に働かないくらいのものであるし、そもそも相手がこちらの存在に気づいているかも不明だ。不用意に此方から仕掛けることは即ち、自分達の存在を明かすことに他ならない。ケインは動かないことに決める。

 

 

「……ここは静観するべきじゃとワシは思う。何かするにしてももう少し情報を集めてからの方がよかろうて」

 

 

「ちょっ、レジスタンスはどうするんです!! 放っとくんですか!?」

 

 

 狼狽えて言うルカの気持ちも分からなくもない。レジスタンスのメンバーの殆どは彼と同じ境遇の者達。不当なイレギュラー処分から逃れ、隠れ、潜む者達なのだ。だがケインは知っている。その中には真にイレギュラーと呼ぶに相応しい重犯罪者や、不当な扱いに怒り人間への報復を画策する復讐者もいるという事実を。 マップに表示された拠点の者達がそうでないという保証はないのだ。 

 

 実をいうと、レジスタンスの拠点の存在をケインは既に知っていた。発見したのは潜伏して暫く経ってからだった。無論偶然によるものだが、ケインは今日までその拠点をどうこうしようとは考えなかった。既に自分はネオ・アルカディアを逃亡した身であるし、何よりどうする事が正しい事なのか分からなかったからだ。

 

故に動かず、それ故の静観。

 

 

「一先ずは、の。考えてもみろ、こちらの人数はたったの五人。ワシはサポートくらいしか出来んし、お前さん達の内戦闘タイプのレプリロイドはそこのVAVAだけじゃ。戦力だけを取ってもどれだけ無謀かは、お前さん達も分かる筈じゃ」

 

 

 この上ない正論に、ルカも他の二人も押し黙るしかなかった。

 

 

「そういうわけじゃから、各々くれぐれも軽挙妄動は慎むよう心掛けてほしい。ワシからは以上じゃ」

 

 

 ケインの念押しがその会合の終わりの合図だった。仕方ない、自分達の無力さが悔しい、顔も知らないレジスタンスの人々に申し訳ないと思う、皆思う所はあれど渋々とモニター室を後にする。

 

 

「……?」

 

 

 自動ドアを潜ろうとしたところでVAVAは何か感じたのか、振り返りモニターの光点を見つめる。ハッキングを仕掛けている方だ。

 

 

「VAVA、どうかしたのか?」

 

 

「……いや、何でもない。オレはまたライドアーマーのメンテに取り掛かる。暫く近付くなよ、気が散る」

 

 

 ケインは分かったと去り行く背中に言う。そしてスピーカーで他の三人にも近寄らないよう伝える。彼らもケインも藪をつつくつもりはない、言われた通り近付こうとはしなかった。しかし、結果をいえばこれは失敗だった。

 

何故ならこれより数時間後、メンテナンスガレージの傍を通り掛かったルカがもぬけの殻になったガレージを発見したからだ。慌てた彼の報告を受けたケインは、独断専行の過ぎるVAVAに思わず頭を抱える。

 

 

「念を押したというのに直ぐこれかっ……! 全く、勝手にも程があるぞ!」

 

 

「今に始まった事でもないと思いますがね」

 

 

 ラムドがおどけてみせるが、実際事態はかなり深刻だ。下手をすればこの場所が発見されネオ・アルカディア軍に攻め入られるかもしれない。そうなれば大した戦力のないここは立ち所に制圧されてしまうだろう。

 

 

「でもVAVAさんは何でまた急に出てったりなんか……」

 

 

「大方整備するのにジャミングが鬱陶しかったとかそんな理由じゃねーのか?」

 

 

「あー……あり得るの、あの御仁なら……」

 

 

 ルカ、ラムド、フェルマーの順に話を進めるが、正直な所はケインも含めてその場の誰にも分からない。ラムドの言う通り整備絡みの可能性が一番ありそうだが、作業が捗らないからちょっと潰しに行ってくるみたいな軽いノリで振り回されたのでは堪ったものじゃない。

 

 

「~~!! 兎も角追うんじゃ。残りのライドアーマー整備急げ!」

 

 

「って、ちょっと! 追いかけてどうするってんです!? オレ達にあの人を止める事なんて……」

 

 

「いいから急がんか!!」

 

 

◆◆◆◆

 

 風の吹き荒ぶ一面の砂漠を、一機のライドアーマーが移動していた。ホバー走行で砂塵を巻き上げながら疾走するソレの操縦席にいるのはVAVAその人だ。予めケインの隠れ家で読み込んだ光点の位置データを照らし合わせ、更に速力を上げる。

 

 あのときモニター室で感じたモノ、近づくほどにそれは自分の中で大きくなっていく。別にVAVAはセンサー類を使っているわけではない。ましてジャミングのかけられている現在、外からの情報を拾う事は出来ないはずなのだ。

 

 そのはずなのだが、VAVAは何かを感じて迷わず進む。そう、感じて。人間に近しいレプリロイドも持ち得た不可思議で驚異的な感覚、直感で彼は動いたのだ。

 

 

「……いるな、あの場所に」

 

 

 ライドアーマーの走行音と砂塵の音にその呟きは飲み込まれ、聞く者はいない。そこにいるだろう者に対して、思いを馳せカメラアイの奥に妖しい光を浮かべたVAVAは更に速度を上げた。

 


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