ロックマンZERO イレギュラー   作:気分屋

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大変遅くなりました。どうにも気分屋でして、困ったもんです。また不定期投稿で行ってしまいそうですが、なるべく気を付けます。ではどうぞ。


7.ケイン

カタカタカタカタカタ――

 

 暗い室内にはキーボードを打つ音とピッという電子音だけが鳴っている。キーを打つ老人はコンピューターを操作しつつ、備え付けられた二つのモニターを注視する。一つは古い映像なのかノイズが混じり時折画面が乱れたりしている。戦闘中の記録のようで、一人のレプリロイドが全身の火器を駆使して複数のイレギュラーを破壊している。もう一つはこの施設内の映像で、いきなり現れた謎の来客一同が通路を歩いている様子が映し出されていた。キー操作をして一同の先頭を歩く人物をズームする。

 驚く事に両方のモニターに映る人物は全くと言っていいほど同一だった。理解に苦しむ光景に老人は目尻を押さえた。実を言うと面識こそないが彼はモニターの人物を知っている。そしてそれは、老人の消し去りたい忌まわしき過去を想起させるものでもあった。老人は暗い天井を仰ぎ見る。

 

――おお、神よ。これは何の冗談ですか? 悪い夢を見ている気分ですぞ。それともワシに過去の大罪の怨嗟を再び味わえというのですか?

 

答えが返ってくることは勿論ない。溜め息を吐くと老人――Dr.ケインは再び画面の中の人物、VAVAに目を向けた。彼らを迎え入れた事が今後どう影響していくのだろう。自身の判断が果たして正しかったのか、一抹の不安を感じつつただただ眺めていた。

 

◆◆◆◆

 

 

「ほぇ~、すごい施設ですね~」

 

 

 歩きながらルカはキョロキョロと施設内部を見て回る。好奇心から辺りを見回すその姿は、見た目相応の少年のそれだ。他の二人も物珍しそうに周囲を見学しつつ歩を進める。

 仕方のない事だろう。こんな砂漠のど真ん中にこれほど大規模な、しかもネオアルカディアに属していない施設があるのだ。それだけで驚愕に値するだろう。

 暫く歩くと通路の先にゲートが現れた。一行が前まで来ると、ゲートは左右に自動でスライドして来訪者を迎え入れる。中は割と広く、正面上部には大型のモニター、左右にはコンソールと座席が4つずつ並んでいる。そして部屋の中心でモニターを見ている一人の老人。先程一行を注視していた人物だ。VAVA達が中に入ると老人は振り返って挨拶を述べた。

 

 

「ようこそ、ワシの隠れ家へ。招待したつもりはないがまぁ楽にするといい」

 

 

 口ではそう言っているが、言葉とは裏腹に憮然とした表情からは歓迎されていない事が窺えた。

 

 

「さて。そこの彼は知っておるようだが改めて自己紹介しよう。ケインじゃ。今はこの寂しい所で静かに暮らしとる」

 

 

 ケイン、という名前を聞いてVAVA以外の三人はどよめいた。Dr.ケインと言えば機械工学の権威で、ネオアルカディアでも指折りの科学者として有名だったのだ。しかし彼は突如ネオアルカディアから姿を消した。捜索は行われているものの未だに行方知れずだった筈だ。

 それがまさかこんな場所で出会うとは夢にも思わないだろう。VAVAがその名を呼んだ時は半信半疑であったが、本人の口から名乗られれば疑う余地はない。そのDr.ケインはこちらをジッと見て何やら考え込んでいる。

 

 

「……ああ、そうか。お前さん達例の処理施設から逃げてきたんじゃろ。この間何者かに破壊されたと聞いた」

 

 

三人の恰好は現在ネオアルカディアで活動している一般のレプリロイドのソレであり、エネルギー危機に陥っている現状から察するにそう判断したケイン。三人がコクコク頷いた事でその推測は裏付けられる。

 

 

「……すると施設を襲撃、破壊したのは――」

 

 

言いながらVAVAに目を向けると、三人はまたコクコク頷く。これで彼らがどういった経緯で出会ったのかは理解出来た。だが疑問はまだまだ山程ある。まずは目の前の人物についてであるが、確認の意味も込めてケインはVAVAに何者か質問をした。

 

 

「オレの名はVAVA。ケインの名を継ぐ者なら知っているんじゃないのか?」

 

 

ククッ、と嘲るように嗤うVAVAは、奇妙な自身の現状を順を追って話した。

 

――曰く、自分はシグマの反乱の時代に存在したレプリロイド。

――曰く、忘却の研究所と呼ばれた彼の遺跡で目覚めた。

――曰く、エックスやゼロと再び合間見える為に転戦している。

――曰く、自身に囁く何者かの声に従い、この場所を訪れた。

 

 過去の記録映像と同じ姿や本人の証言から、彼があのVAVAであるのは間違いないだろう。例の遺跡で目覚めた、というのは驚きだった。老朽化の具合から、かなり以前の建造物だと思われるあそこにいたという事はつまり、VAVAもそれだけ永い間眠っていたという事。そんな以前から、一体誰が彼を復元し保管していたのだろうか。この場所の事を教えた者についても、詳細は何一つ分かっていないという。

 何もかもが半信半疑ではあるが、あり得ないという事はない。事実、少し前に前例があったではないか。不確定情報ではあるが例の遺跡で、同じく百年以上前のレプリロイドが目覚めたと。

 

“紅いイレギュラー”“古の破壊神”“英雄”

 

 様々な呼ばれ方をされるその者は、ネオアルカディアの頂点であるあの方の親友であり戦友。しかし現在はレジスタンスに協力し、立場的には対立する形で今を生きている。更に件のあの方は、シグマの反乱の時代から幾度かの強化やフォーマットを経て生ける伝説と化している。

 

 

「しかしお前さんのその姿は……」

 

 

「ああ。何故か昔に戻っている。言っておくが『ヤコブ』での戦いまで記憶はある」

 

 

 『ヤコブ』――旧時代に地球が荒廃した折、生き残った人類は宇宙に活路を見出だした。地上の環境が再生されるまでの間、新たな生活圏を開拓する目的で建造されたのが、軌道エレベーター『ヤコブ』である。

 尤もその試みも、史上最強のイレギュラーと名高いシグマの八度目の争乱で見事に打ち砕かれてしまったのだが。その争乱の中、確かにVAVAの姿はあった。二度目の復活を遂げエックス、ゼロの前に立ちはだかった。激戦の末VAVAもシグマも倒され、それ以降再び姿を現す事はなかった……筈だった。

 

 

「さて、まだ返事を聞いていないがどうだ? オレに力を貸すか、それとも何もせずにこのまま朽ちていくか」

 

 

 その筈がどんな運命の悪戯か、今目の前に存在しているという事実。それもあろう事か自分に協力……いや、本当のところは恭順か隷属といったところか、を迫っているのだ。普通であれば突っぱねるか拒否するべきであろうが、ケインには中々それが出来なかった。更に言うならば、胸中に渦巻くある想いがその行為を押し留めていたのだ。

 

 

「……お前さんは、今のエックス様をどう思う?」

 

 

「……ぁあ?」

 

 

脈絡もなく出たその質問の意図をVAVAは理解できなかった。怪訝に思いつつも聞き知ったこの時代のエックスについて考えてみる。エネルギー危機に陥っている現在、その対応策として実施されているのが旧式であったり性能の低いレプリロイドの廃棄処分である。

 

 

「人間を守る為にレプリロイドの処分を推し進めているらしいが……有り得ないな。あの甘ちゃんにそんな決断が下せるとは到底思えない。仮に人間共がそう命令を下したのだとしてもあいつは反対こそすれ容認するような真似はしないだろうさ」

 

 

「そうか……」

 

 

 やはりそうなのだな。VAVAの言葉を何度も繰り返し脳内で再生する。静かに閉じた瞼の裏に映し出されるのはネオアルカディアにいた最後の日の記憶。イレギュラー処分が本格化してきた当時、罪の意識に耐え切れなくなったケインは不遜と知りながらエックスに直接抗議をした。

 エネルギーの問題は使用を制限したり開発・確保に力を注げばいいではないか。罪もないレプリロイド達を無慈悲に処分するのは間違っている。このままでは人とレプリロイドの溝は深まるばかりで、両者が手を取り合うという嘗て掲げられた理想が永久に失われてしまう。

 近衛兵に両腕を拘束されながらも必死に説いた抗議はしかし、救世主であるネオアルカディアの頂点の心には響かなかった。

 

 

「それでは人間達が不便をする。仕方ない事なんだよ」

 

 

 仕方がない。この偉大な英雄は表情一つ変えずにそう言った。ケインに向けられる眼差しも、処分されていく同胞を見る目も、まるで路傍の石を見つめるかのように静かで冷たかった。これが嘗て世界を救った人々の希望なのか。我が先祖が愛した慈愛と正義の象徴の姿だというのか。このままではいけない。本当に人とレプリロイドの未来は駄目になってしまう。そう思ったケインは処分を止められない罪の意識も手伝って、ネオアルカディアを後にした。いや、逃げだしたのだ。

 

VAVA達を迎え入れたのは、そんな今の現状を変えてくれるかもしれないという想いからだった。このままではいけない。彼がエックス様と対峙すれば良くも悪くも変化は訪れるだろう。

 

 

「……分かった、協力しよう」

 

 

ケインの答えにVAVAは満足した様子で頷く。

 

 

「ただし、こちらからも条件がある」

 

 

この申し出にVAVAは興味深そうにケインを見て、目で続きを促す。

 

 

「……エックス様を、止めてほしい」

 

 

その言葉を聞いて、ケインの様々な感情のない交ぜになった何とも言えない顔を見てVAVAの内に狂喜が一気に膨れ上がる。一瞬の間を置いて、それは大きな嘲笑となりその場に現れた。

 

 

「クッ……クハハハハハッ!!」

 

 

突然笑い出したVAVAにルカ達三人は何事かと思う。そんな三人の気持ちなどお構い無しに、VAVAは踵を返しドアへと向かう。

 

 ――ハッ、なんてザマだ! 周囲のヤツらから認められ、期待され、信頼された貴様が。今では同族(レプリロイド)には畏怖され、人間(ケイン)からは不信を抱かれている。

 永い年月が貴様をそうさせたのか? それとも同族を屠る下らん罪悪感とやらで気が触れたか?

 フン、まぁどちらだろうが構わん。今の貴様がどんな顔をしているのか益々見たくなったぞ。早く会いたいものだ。

 

 

「いいだろう、止めてやる」

 

 

ケインらの方へ振り返る事もせず、言葉で了承の意を伝える。

 

 

――ただし、オレのやり方でな……! VAVAは心の中でそう付け加え、しかしケインはその真意を敏感に感じ取っていた。自動ドアの奥に消えていく後ろ姿を見送りつつ自分は間違った選択をしたのではないかという不安が脳裏に過ったが、最早遅い。賽は投げられたのだ。

 それを示すかのように、ドアは無情に閉じられた。

 

◆◆◆◆

 

 その頃ゼロは、とある工場の一角に赴いていた。だだっ広い部屋の中には彼の他に巨大な影があった。それは八つの頭を持つ機械の異形。

 古の伝承に登場するヤマタノオロチを彷彿とさせるその異形の名はガード・オロティック。ここエネルギー精製工場の守護者としてネオ・アルカディアが配備した大型メカニロイドだ。

 

 

『高エネルギー反応確認。ゼロ、気をつけて……!』

 

 

 シエルが通信で注意を促す。不安や心配といった感情が含まれているのが、通信越しにも容易に分かった。それは勿論強敵の前に立つゼロを気遣っての事だ。しかしそれとは別に、ゼロが勝利するか否かが彼女達レジスタンスの生命線を左右するという違う面での不安も存在していた。

 

 実は、この場所を襲撃したのにはレジスタンスの備蓄事情が深く係わっている。元々組織としては惰弱な彼らは、運用する物資や設備も当然自分たちで調達する。彼らレジスタンスだけならそれで何とか遣り繰り出来ていたのだが、前回の作戦で救出したレプリロイド達が加わり、徐々にベースの備蓄が心許なくなってきたのだ。

 もう暫くは大丈夫だろう。しかしいずれはこの問題が組織の崩壊にも繋がる可能性が大きい。放置していていい問題ではなく、打開策として考案されたのが今回の工場奪取だった。

 

 

「ああ、分かってい――」

 

 

 ゼロが言い切る前に、オロティックが口火を切った。展開していた二つの首が口を開けゼロを襲うが、難なく躱したゼロは一つを一刀のもとに切り落とした。するとオロティックは首を引っ込め胴体部の側面を回転、別の首を二つ展開する。

 

 ガード・オロティックは円形の胴体に、八本の蛇型のフレキシブルアームを持つ。側面にあるアーム――外見上は八本の首だが――接続部分を回転し、それぞれ属性の違う攻撃を繰り出し侵入者を苦しめるのだ。今度はプラズマの塊を吐き出しゼロを追い詰めようとする。

 ゼロはそれも躱しバスターを構える。床に命中したプラズマが着弾点を黒く焦すのには目もくれず、トリガーを数回引く。数発のエネルギー弾がオロティックの胴体に突き刺さるが、外部装甲に阻まれ大したダメージにはならない。ダメージを与えられないどころか先程切断した首もパーツを交換し、元の状態に戻ってしまっている。

 この部屋はオロティックの整備場も兼ねているようで天井の作業設備で破損したパーツと予備パーツを交換することができるようだ。

 

 次に展開されたアームの砲口から出たのは極低温の冷気ガスだった。ゼロは咄嗟に右腕で顔を庇い、冷気の射出が止まったと同時に移動しようとする。が、ガクンとするだけで彼の足はビクともしない。

 

 ゼロの片足は床と共に凍りついていた。ゼロは動じる事なくそれを一瞥する。身動きを封じたことでオロティックはチャンスと見たのか、新たに展開した首で攻撃を仕掛ける。今度は炎だ。轟々と音を立て紅蓮の炎がゼロを呑み込んだ。

 

 数秒間炎を吐き出していたオロティックは、充分だろうと判断し放出をやめた。大抵の相手なら今ので戦闘不能ないし機能停止に陥る筈だ。

 燃え盛る炎をジッと見詰めていると変化があった。突然揺らめきだした炎の壁を掻き分け姿を現したのは翠の光。見ると今しがた相手をした侵入者が両腕を交差させ、その眼前に光が主を守る盾のように存在していた。

 

 敵性存在の生存を認識したオロティックは再度炎を放とうと口を開ける。だが迂闊だった。相手はその口許、正確には炎の噴射口をバスターで攻撃。放たれたエネルギー弾は噴射口を破壊し、それに留まらず内部を蹂躙。エネルギー弾と行き場を失った炎が逆流し、内部に内蔵された燃料タンクに引火する。

 内部爆発を引き起こした首は悶え苦しむように仰け反り原型を留めない程に破壊され、それだけでなくアームの接続部分と本体である胴体部にもダメージは及ぶ。

 

 感情を持たないメカニロイドもこれには危機感を覚えた。危険レベル大という警告を発したオロティックの電子頭脳は、自らのリミッターを解除するコマンドを実行した。

 残された首が一斉に首を擡げ、侵入者を見たデュアルアイが怪しく光を点す。開いた顎からそれぞれ灼熱の火の粉や極寒の吐息、帯電したプラズマがチラチラ洩れだし臨戦体勢を取った。

 通常であれば過負荷を伴うそれは実行しない。実行をしたのはゼロがそれだけの難敵だと認識したからだ。その認識は正しく、自身の損傷も正しさを立証していると言えよう。

 

 異なる属性の攻撃が破壊的暴風雨と言って差し支えない物量でゼロに迫る。その中をゼロは鋭いフットワークで猛然と突き進み、オロティックとの距離を詰めていく。

 とそのとき、一つの雷弾がゼロに炸裂した。手応えあったと思われたが、先程の翠の光が再び出現し攻撃を阻んでいた。ゼロはそこで力を込めると、先程まで不鮮明な形しか成していなかった光が収束し、盾のような形に成形。

 それを振りかぶって投げてきたが、オロティックを逸れて斜め上に飛んでいったためオロティックは意識をゼロの方へと向けた。それが決定的な敗因となるとは知らず。

 

 バスターを撃ち込みつつ再び疾走を開始するゼロ。がやはり強固な装甲に阻まれダメージは通らない。残る全ての首がゼロを屠らんと砲口を向け、エネルギーやガスを充填し始めたところでゼロは脚にグン、と力を込めた。

 オロティックの敗因は、そのとき後方から弧を描いて戻ってきた翠の盾『シールドブーメラン』の存在に気付けなかった事だ。

 

 放物線を描き飛来したブーメランは上方の首三つを袈裟懸けに切り落とし、役目は果たしたとばかりに離れていく。

 その陰から飛び出す人影が一つ、ゼロだ。オロティックがブーメランに気を取られるタイミングを狙い跳躍したゼロは、その手に新装備、『トリプルロッド』を持ちオロティックの上方を取る。

 

 そうはさせまいと残りの首をゼロに向けるオロティックだが、下方や横の首では射角が制限される上に稼働範囲というリーチまで著しく低下してしまう。

 そのため、やはりというかゼロを阻む事は出来なかった。放つプラズマは目標のいない空間の大気を焦がすだけに止まり、噛み砕かんとする首も空を切っただけだった。

 

 空中で翻り、自身の質量と運動エネルギーを乗せた光刃ががら空きの胴体に突き刺さる。その一撃で装甲は抜いたものの、まだ致命傷には到っていないようだ。ゼロを振り落とそうと激しく暴れるオロティック。

 振り落とされまいと全身に力を籠めたゼロは、ロッドの持ち手部分を捻った。カキン、という作動音の後ロッドの刃の付け根に仕込まれた炸薬が爆ぜる。その衝撃により更に一撃、ニ撃。 計三度の突きを放つ。

 

 翡翠の槍は八頭の大蛇の急所を貫き、遂に異形は冷たい床面に崩れ落ちた。

 

◆◆◆◆

 

 

「目標の排除に成功した」

 

 

『お疲れ様、工作班を向かわせるわ。ゼロ、大丈夫だった?』

 

 

「ああ。セルヴォの製作してくれた武器のお陰でな。いい武器だ」

 

 

 シエルの気遣うような通信に、安心させる意味も込めて多少柔らか目に返答する。

 

 

『ふふっ、彼が聞いたら喜ぶわ』

 

 

 返答の効果はあったようだ。肩の力が抜けたのか先程までの固くなった感じは無くなり、可笑しそうに話すシエル。年端も行かない少女のこの細い肩にレジスタンスの責任が圧し掛かっていると思うと何とも言えない気分になる。彼女には会ってからそれほど経っていないが、出来る限りの事をしようと思っている。初めて会ったとき彼女は『助けて』と言った。そのときから守ると決めたのだ。

 

”ゼロ、後ろだ!!”

 

 

「!?」

 

 

咄嗟に振り返ったゼロの目の前を何かが過ぎる。勢いよく地面に激突したソレは、オロティックのアームだった。どうやら本体が機能停止する直前にユニットを分離して機会を窺っていたようだ。態勢を整える前にセイバーを蛇頭に突き刺し、今度こそ動かぬよう回路を焼き切る。

 

 

『――ど、どうしたの、ゼロ!?』

 

 

「オロティックだ。まだ生きていた。今度こそもう動かん」

 

 

『よかった……』

 

 

「それよりさっきの声は……」

 

 

『え、声? 何も聞こえなかったけど』

 

 

どうやら自分にしか聞こえなかったらしい。危機を回避できた事から空耳などではないのは明白だが、一体誰が囁いたのか。

 

 

「……なんでもない。このまま工作班の到着を待つ」

 

 

シエルに通信を入れつつゼロは、動く物の無くなった工場内の虚空を暫く見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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