ロックマンZERO イレギュラー   作:気分屋

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やっとこさ投稿……。


6.救出作戦

ゴゥン、ゴゥン――

 

 無音だった室内は、足を踏み入れた途端それまでが嘘だったかのように騒音で満たされた。招かれざる侵入者に反応したのだろう。室内の機器は明かりを灯し、床や壁からは高温の蒸気が白い吐息を漏らし臨戦態勢を取る。

 

 

『ゼロ! 皆そう長くはもたないわ。お願い、急いで!!』

 

 

通信機から漏れるシエルの緊迫した声に、ゼロは「ああ、分かっている」と静かに返し、目の前の存在を見据える。

 

まだ大分薄暗い部屋の奥、ソレはいた。赤い単眼を光らせるソレは徐々に近づき、やがて点灯した機器の淡い光に照らし出されてその姿を朧気に浮かべた。

 

 パンテオンだ。しかし続けて視認できるようになった胴体部を見れば、ソレが只のパンテオンでないのが分かる。

 橙色の光沢を放つその巨体には四肢はなく、備え付けられたレールと台座、壁に伸びる太いパイプ群で固定されている。

 『パンテオンコア』と呼ばれるその個体主は、陸路の補給・運搬の要である輸送列車群のマザーブレインであり、またその守り手だ。

 

 単眼を爛々と光らせ、侵入者を排除しようとするパンテオンコアに駆け出したゼロは、脳裏でこうなった経緯を回想していた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「輸送列車を襲う?」

 

 

聞き返したゼロの言葉に、提案者のシエルはコクリと頷き、手元の端末を操作する。すると室内に備え付けられた大型モニターにある施設の映像が映し出された。

 

 

「数日前、何者かによってイレギュラー処理施設が壊滅させられたのは知ってるわね?」

 

 

 今度はゼロの方が頷く。あの場所は無実のレプリロイド達が何人も処分されてきた所である。

それ故、多くのレプリロイドはこの朗報を聞いてとても喜んだ。勿論ゼロやシエルのいるレジスタンスも同様で、昼夜問わず喜び合っては正体不明の功労者を賞賛する声が至るところで上がっていたりする。

 

 

「施設が破壊された事によって、護送されていたレプリロイド達が本国に送還されるという情報を掴んだの。」

 

 

その発表に、ミーティングのためここ作戦会議室に集められた面々からどよめきが生じる。

 

 

「そのレプリロイド達が、輸送列車で運ばれるという事か?」

 

 

 頷くシエルを見てゼロは思案する。確かに本国に送られると、もう助け出す事は不可能に近い。可能性はゼロではないが、相応の危険を伴う事になるだろう。この場にいる他の面々もそれは理解しているだろうが、作戦の成否、そしてそれよりも自分達が生き残れるかの不安や恐怖が彼らの思考の大部分を占めていた。

 

 

「……ごめんなさい。難しい事なのは分かってる。でも、手が届くなら、出来るだけ沢山の人達を助けたいの。」

 

 

 心底申し訳なさそうに言う辺り、シエルもこの作戦が困難で、また皆を危険に晒す事も理解しているのだろう。

 理解していても、処分されようとしているレプリロイド達を見捨てる事が出来ずにいる。人間がレプリロイドに対して高圧的で軽蔑的な態度を取るのが一般的となってしまった現在、慈愛に満ちた彼女の心は彼らには暖かく眩しく、逆にネオ・アルカディアからは異端と称され蔑まれるものではないだろうか。

 

そういった事を考えていると、

 

 

「で、でもシエルさん。お気持ちは分かりますが、我々にそれが可能なのですか?」

 

 

 メンバーの一人が不安げに問い掛ける。彼を含めたレジスタンスの構成員は、その殆どが非戦闘型である。武器を携行する事は出来ても、精度や携行重量などパラメーター的には、パンテオンとすら比較しても見劣りがある。

 故にその疑問は尤もだ。他のメンバーもその問いを皮切りに談合し出し、室内はザワザワと騒がしい。

 

 

「大丈夫、今の私達には彼がいるわ。」

 

 

 シエルの言葉に、全員の視線が彼ことゼロに集中する。しかしその目は、不安、困惑、疑心と複雑な感情で染まっている。

 無理もない。彼らからすればついこの間会ったばかりの人物を、信頼し命を預けろと言われているようなものだ。

 数日前、遺跡に向かい帰ってきたのはシエルと、見馴れないレプリロイドの二人だけだった。シエルの無事を喜び、その後隣の男が今回の作戦対象の『ゼロ』だと知らされた彼らは、複雑な気持ちになった。

 目標は達したのだから、仲間は犬死にではなかったろう。しかし思うのだ。目の前の男が散っていった命に見合う価値があるのだろうか、と。

 中には敵意の籠もった視線を向ける者もいたが、その感情をゼロに向けるのも筋違いであるのが分かるだけに、解消されない蟠りは日を追うごとに膨らんでいった。

 次にゼロが発した何気無い一言に、彼らのソレは爆発したのだ。

 

 

「オレが敵を叩く。アンタ達は後方でバックアップを頼む。」

 

 

「……!! それはあれか、オレ達が足手纏いだってことか!?」

 

 

「冗談じゃあない!! オレ達も行くぜ!!」

 

 

「新参者にデカイ顔させてたまるかよ!!」

 

 

 無論ゼロにそんな意図はない。しかし最早、怒りが引き金となった血気に逸る皆を抑える事は、信頼はあっても指導力に乏しいシエルでは残念ながら無理だった。

 

 そういった経緯から、今回の作戦ではゼロとは別に十数名からなる実働チームが襲撃に参加した。物資を搬入するためプラットホームに停車していた輸送列車を襲撃、作業をしていたメカニロイドや警備のパンテオンを撃破し、列車に取り付いたまでは良かった。

 

 襲撃を察知した輸送列車が、搬入途中で動き出したのだ。それに気づいたゼロやメンバー達は駆け出し、列車に飛び乗った。十数名中八名が乗り込み、救出対象が幽閉されている車両へと向かう。

 扉を抉じ開ける。状況を理解出来ず、身を寄せあって怯えている人々の姿を確認して安堵したのも束の間。通路の先から数体のパンテオン兵が姿を現した。

 

 

「ちっ、きやがった!」

 

 

「応戦しろ!」

 

 

ドアの前にバリケードを作り、それに隠れつつ相手に銃撃し応戦するレジスタンスメンバー達。ゼロもバスターで援護してパンテオンを撃破していくが、倒しても倒しても次々と通路の先から現れる。

 

 

「っ……、このままじゃキリがねぇ。おい、あんた!」

 

 

ゼロを呼んだメンバーの一人、確かコルボーといったか。彼はライフルを撃ちながらこちらに問い掛ける。

 

 

「このままじゃここを死守できたとしても、向こうに着いてオレ達まで一網打尽だ! この列車を止めなきゃマズイ。あんた、ここの制御中枢を壊しにいけるか!?」

 

 

それはこの状況を打破すべき問い掛け。同時にゼロを試そうとするコルボーの思惑でもある。仲間が命を懸けて連れて来た男は、造作もないと高飛車に言ってのけるのか。それとも自分にはそんな事ムリだと物怖じするのか。だが、ゼロの答えはそのどちらでもない。

 

 

「分かった、行ってくる。」

 

 

 ただ、ただ簡潔に。慢心する事もなく萎縮する事もなく、言われた事を実行に移そうとした。放たれる弾幕の中を掻い潜り、バスターを構える。チャージされた緑色のエネルギー弾が通路の真ん中にいるパンテオンを撃ち倒し、その間隙を縫ってゼロは通路の先へと消えていった。

 敵の何体かがゼロを追いかけようとしたが、それはコルボー達の援護射撃によって阻まれた。

 

 

「はっ、無愛想な奴だ。だが――」

 

 

だがその方が信頼も、好感も持てるってもんだ!

 

ゼロの事を少しだけ認めて笑みを浮かべ、見事やってのける事を信じて、コルボーは仲間たちと共に銃を構え再び迎撃に意識を集中した。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 連続した発砲音が響く。その後に鳴ったのは弾かれたような渇いた音。パンテオン・コアの堅牢な装甲は、ゼロのバスターを受けてもびくともしない。今度はチャージショットを頭部に撃ち込むが、緑のエネルギー弾はパンテオン・コアの目の前で霧散してしまった。何らかのフィールドを張っているようだ。

 

――流石に守りが堅いな。

 

 ゼロはならばと近接格闘を仕掛けた。セイバーを抜き放ち、パンテオン・コアに接近する。

 すると突然ゼロのいる床部分が競り上がった。バランスを崩したゼロを乗せたまま、床はどんどん上がっていく。ゼロはそこで、真上にある天井が開き、鋭利な棘が出現しているのに気がついた。

 すんでのところで床を転げ落ち、串刺しにされるのを回避。着地した後、次々上昇する床を右へ左へ躱し肉薄、セイバーを振るう。それに対してパンテオン・コアは自身の下部に装備された火炎放射器を作動させ、ゼロの攻撃を阻んだ。

 

 

「くっ!」

 

 

 体勢を崩されたゼロは後ろへ下がりつつ、牽制にバスターを撃った。その攻撃は先程のように弾かれる――ことはなく、パンテオン・コアの頭部側面を削り幾らかのダメージを与えた。

 

 

「……!」

 

 

 それを見たゼロは、火炎が収まるのを見計らって再度バスターを連射。しかしこれは最初のように装甲に弾かれ、或いはフィールドの前に掻き消された。

 ここでゼロにはある仮説が浮かんだ。そしてそれは、次に火炎攻撃をしてきたパンテオン・コアにバスターが命中した事で立証される。

 つまりこのパンテオン・コア、攻撃と防御を同時には出来ない弱点があるのだ。

 

 そうと分かれば対応は難しくない。上昇する床に注意しつつ、火炎を放つ瞬間を待つ。

 自らの弱点に気づかれ、反撃のタイミングを窺っているのを察知したのか、パンテオン・コアはここで戦い方を変えてきた。

 先程よりも激しい勢いで火炎を振り撒く。その範囲は広く、反撃しようにも燃え盛る炎で狙いが付けられない。そのままコア自体が前へじりじりと進んできて、ゼロは壁際まで追いやられてしまう。

 

 ゼロの退路を塞ぐとガクンと床が揺れ、これまでとは比較にならない勢いで上昇する。視界の中どんどん迫り来る棘の天井。

 

ゴシャアッ!!

 

逃げ道のないゼロは為す術もなく床と棘天井の間に挟まれた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

ズズゥン!

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 突如爆発が起きた。爆風から身を庇ったコルボーが目にしたのは、車両の上部が消失しそこから覗く青空と、その中を飛び交う飛行モジュール装備のパンテオン『パンテオン・フライヤー』の姿だった。

 

 先程の爆発はフライヤーがグレネードを放ったもののようだ。

 

 

「コルボー、このままじゃ全滅だぞ!?」

 

 

仲間の一人が叫ぶ。彼の言う通り、防衛するのもそろそろ限界だった。

 

 

「堪えろ、あいつが…ゼロが向かってる!」

 

 

「どうだか、なっ…! やられちまってんじゃ、ねぇのか!?」

 

 

 銃撃しながら言う彼の言葉は、ゼロに対する不信から出たというのも多分にあるだろうが、それだけでもないだろう。

 輸送の要である列車群、その制御中枢ともなれば守りが手薄な訳がないのだ。果たして、そんな中単独で向かったゼロが無事でいられるのか。そういった懸念も込められている。

 しかしコルボーは、確信に満ちた表情でそれはないと言う。

 

 

「大丈夫さ。上手く言えないが、あいつはそう簡単にくたばるような奴じゃない。やってのけるさ。」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 外敵を排除したパンテオン・コアは、その後の行程について考えていた。このまま本国まで襲撃者らを護送した後、損傷した車両を交換し再び処理場跡に戻る。他の路線からも何両か動かせば、襲撃のロスも取り戻せるだろう。

 そうすればこれまでと変わらない通常運行だ。『パンテオンシリーズ』は分類的にはレプリロイドであるが、従来のソレと比べると思考回路は簡略化されている。

 言ってしまえばレプリロイドとメカニロイドの中間のような存在で、このパンテオン・コアもその例に漏れない。

 

 故に外敵を排除した歓喜や達成感など感じず、与えられた指令をこなそうと各地の車両操作をしていたパンテオン・コアは、ここで異変に気付く。

 

 

「……?」

 

 

 侵入者を潰した床が徐々にだが押し返されているのだ。ギギギッと軋む音を響かせながら開く隙間から見えたのは、緑色の霞。いや、正確にはエネルギーの奔流だ。

 その下には、五体満足の侵入者ゼロがいた。両腕を頭上で交差させ、腕部アーマーの継ぎ目から流れ出るライトグリーンの輝きで串刺しになるのを防いでいた。

 

 

「……!?!?」

 

 

 予想外の事にパンテオン・コアは狼狽した。今のコアは、その思考の殆どを輸送列車群の操作に向けているため、防御や反撃が出来ない状態。つまりは丸裸なのだ。

 

 ゼロは片手を腰に回し、マウントされていたバスターを構える。チャージされたライトグリーンのエネルギー弾がパンテオン・コアの頭部を貫き、身体を突き抜けて動力炉に達した。

 

 内部を荒れ狂う破壊の力が駆け巡る。行き場を失ったエネルギーが装甲を突き破り、爆発として外へと流れ出た。ブレーキ音を響かせ徐々に減速する輸送列車。完全に停止したのを確認すると、残存していたネオ・アルカディア軍は戦域から離脱していった。

 

 ここでの戦いはレジスタンスの勝利で幕を閉じたのだ。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 一方、三人のクズ(VAVA視点)とVAVAは砂漠地帯に来ていた。あの後直ぐに「ついてこい」と言われて移動を開始したのだが、行き先については何一つ教えてもらえずにいた。

 

 

「……なぁ、こんなとこに何があるってんだ?」

 

 

「さあのぉ……あの御仁何を聞いても教えてくれなんだ。」

 

 

 前を歩く少年のライドアーマー、その肩に乗っている自分達の(というよりはアーマーの)命の恩人を見て、青年と老人はお互いに首を傾げる。

 

 

「おまけにこんなモン運んでどうしようってんだ?」

 

 

青年が振り返った先、自身の乗るライドアーマーの背中には、何やら白い布に包まれた細長い包みが括り付けられている。そしてそれは、大きさこそ異なるものの老人の方にも同様に取り付けてあった。

その問いに老人は答えられず、黙した二人は再び恩人の後ろ姿を眺めた。

 

その恩人であるVAVAも、唯面倒だとかそういった理由で話さないわけではない。

どう話せばいいか分からないのだ。“頭の中で誰かがここを、この場所にあるモノの事をを囁いているなど”。

 

 

「……ここだ。」

 

 

そこは通ってきた所と変わらない、荒寥とした砂の荒野。動く物の姿もなく、聞こえてくるのは砂塵の吹き荒ぶ音だけだ。

 

 

「何もないじゃ――」

 

 

ルカが言いかけたとき、その景色に変化が生じた。何もない砂の地面が盛り上がり、複数の砲台が姿を現したのだ。その砲口がVAVA達を捉えるより早く、VAVAはその全てを撃ち抜き破壊する。すると今度は、何処からともなく声が聞こえた。肉声ではない、通信機越しのノイズ交じりの音声だ。

 

 

『ザッ、ザザッ……何者じゃ?』

 

 

しゃがれたその声は老人のそれだ。人かレプリロイドかすら不明な謎の人物は、VAVA達がここに現れたのに驚きや困惑を感じている様子だ。

 

 

「クククッ、世界のはみ出し者、とでも言っておこうか。」

 

 

可笑しそうに名乗るVAVA。確かに、廃棄処分が下されたレプリロイド三人と、過去にイレギュラーと認定されているVAVAは、最後の生活圏という意味では現在の地球上で唯一の『世界』と言ってもいいネオ・アルカディアから排斥された存在である。いい得て妙だ。

 

 

「尤もそれは、アンタにも言える事だろうがな。」

 

 

『!!……キサマ、何を知っている……!?』

 

 

「……単刀直入に言う。オレに協力しろ。アンタもこのまま終わるつもりはないだろう。なぁ――」

 

 

 はみ出し者、協力しろ。幾つかの言葉からルカは、この老人は自分達と同じく処分から逃れたレプリロイドなのかな、と考えていたが、次に発したVAVAの爆弾発言でその考えが間違いである事を知る。

 

 

「――『Dr.ケイン』。嘗て史上最強のイレギュラーを生み出した科学者の末裔よ。」

 

 

 

 


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