今回は若干の鬱展開がございます。
ご覧になる際はご注意ください。
「ナギー!そろそろ出るぞー!」
「はーい!今行きまーす!」
お父さんに呼ばれ、急いで支度をすませる。服装、鞄、何かあった時の指輪、全部OK。よし、行ける!
「ごめんなさい!遅くなっちゃった!」
「ふふ。はしゃいで遅くまで起きてるからよ。楽しみだったのは分かるけど。
お父さん、ここのところ忙しかったから、こうして皆で出かけるもの久しぶりだものね」
お母さんは、そう言ってコロコロと笑った。それを聞きながら急いで靴を履く。
お母さんの名前は春原
性格はとても温厚……というよりしずな先生そのままといった感じだけど、怒らせるとすごく恐い。だからお父さんもボクも、お母さんには頭が上がらないんだ。
「それは……仕方がないだろう? 国際テロ組織が密入国してるってタレコミがあって、休日返上で呼び出されたんだから」
「それが悪いとは言いませんけど、呑みに行く暇があったなら家族サービスして欲しかったと言ってるんですよ」
「ゔっ! そ、それは、その、情報収集で……はい、すみませんでした」
「……うふふ。冗談ですよ。私たちは分かってますから」
で。そのお母さんにあしらわれてるのが、ボクのお父さん。
名前は春原
魔法。そう、この世界にも魔法があったのだ。
と言っても、社会の裏に隠れているわけでもなく、あるいは単なる技術として知られているわけでもない。この世界の魔法の立ち位置は、その国家の"戦力"ということらしい。
尤もある程度は公開されていて、共同で魔法開発をしていたりすることもあるみたいだけど。
この国での魔法は、大きく分けて二つの種類があるらしい。
一つは現代魔法。もう一つが古式魔法だ。
現代魔法はその名の通り、最近になって開発された魔法なんだそうだ。CADと呼ばれる機械を補助具にした、高速での魔法の発動が売りみたい。
元々は百年ほど前に現れた超能力者の研究から端を発したらしく、理論的に研究・開発をしやすいことから現在の魔法の主流派となっているそうだ。
発動の方法は、イデアと呼ばれる情報の次元において対象の情報を一時的に上書きして、「影が動けば物も動く」という理論で現実の世界に影響を与える、というものらしい。お父さんからの受け売りだけど。
一般的には、古式魔法も理論的な面では大きくは変わらないみたいだ。
ただしこちらの方は長年社会から隠れてきた、いわゆる秘術的なものが多いらしく、現代魔法に比べて冗長な代わりに、幻術などの曖昧な現象や、現代魔法では個人での発動が難しい大規模な魔法を扱えるらしい。
また、伝統的な考え方が強く、新興の現代魔法とは仲が悪いそうだ。
春原家も、一応古式魔法の家系に数えられる。普通に現代魔法も扱うけど。
そうした魔法を扱う人を魔法技能師、通称"魔法師"と呼ぶそうだ。
特に、十師族という現代魔法の大家の人達は平均的に優れた力があり、社会に大きな影響力を持っているらしい。
……そう。魔法を扱える能力は、基本的に家系に左右される。
それ自体は、前の世界でも変わらなかった。現に、英雄と呼ばれるほど優れた魔法使いだった
でもこちらの"魔法"は、人によっては全く使えない。魔法演算領域っていうものがないと、簡単な魔法ですら扱えないらしい。
これは、ボクの扱っていた「魔法」にはなかった特徴だ。それだけじゃなく、物質の錬成といった向こうでは基礎に近い魔法ですら、こっちの魔法理論では"不可能な魔法"なんだそうだ。
「ナギ? どうしたんだいぼーっとして?」
「……なんでもないよ。ちょっと魔法について考えてたんだ」
「ふふふっ。興奮するのもわかるわ。私も昔はそうだったもの」
「そうだね。僕も初めて魔法に触れる前の晩は、色々と考えてたなぁ。血は争えないってことかな?」
そう。今まで伝聞系で話していた通り、ボクはまだ魔法を本格的に習っていない。今日、ようやくCADと簡単な参考書を買いに行く予定なんだ。
もちろん本格的に魔法理論を習うのは、魔法教育が認められている高校からになる。それまでは、あくまで自主勉強っていう扱いだ。
でも、ラカンさんに認められたボクの本質は「開発者」。やっぱり未知の魔法理論には興味があるし、前の世界の魔法との違いとか、その併用とかには心が躍るんだ!
「よし!じゃあ行こうか!」
「うん!」
扉を開けて、一歩踏み出す。
まだ見ぬ魔法に思いを馳せながら、ボクたちは目的地に向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
この世界に来てからまず初めに驚いたことは、交通システムの発達だった。
電車は小型化されたものが無数に走り、個人もしくは少人数での利用になってて、満員電車というものはすでに過去の話になっているらしい。
電車だけじゃなく家から駅までの道も、一部ではコミューターという完全無人タクシーみたいなものが普及していた。
向こうの世界では首都に人口が一極化していて交通システムは大きく衰退していたから、これには驚いた。向こうなんて、あのままだったらあと数年で完全に機能しなくなるぐらいだったのに……。
「ナギー?着いたぞー?」
「あっ、うん!」
昔の自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、覗き込むように声をかけられる。
そうだ。今はもう取り返しのつかないことだし、向こうに戻る手段もない。なら、落ち込んでても仕方がないんだ。
「ほら、ここが魔法専門店だよ」
「うわぁーー!!」
魔法は半ば戦力として認識されているとは言ってもやっぱり簡単に使えるわけでもなく、その必要な機器や書物は多いらしい。ここら辺は、世界を超えても変わらないみたいだ。
そういったものをまとめて売っているのが魔法専門店。CADなどの周辺機器から理論書などの参考書まで、幅広い分野が揃っているそうだ。
もちろん、CADも各メーカーの専門店に比べたら種類が少ないし、専門書なんかは普通に通販で買える。
それでもここに来たのは、ボクには必要なことだからだ。
「じゃあ、まずは測定を済ませてしまおうか」
「うん!」
そう。初めて"魔法"に触れるボクは、まずはどこまで出来るのかを調べなくちゃいけない。
もちろんそれは、年齢によっても変化する。魔法に慣れれば出来ることは増えるし、多くの人は加齢によって実用レベルの魔法力を失うそうだ。お母さんもその一人らしい。
でも、この世界の"魔法"を扱うために必要な魔法演算領域の大きさは、生まれつき決まっている。まずはそれを測定するためにここに来たんだ。
「すみません。予約していた春原ですけど」
「お待ちしておりました。早速始めますか?」
「ええ。よろしくお願いします」
「じゃあ、凪くんはこちらへ来てくれる?」
「は、はい!」
受付のお姉さんに呼ばれてついて行く。と言ってもそう奥に行くわけじゃなくて、扉を一枚越えただけだ。間の壁にはガラスも埋まっているし、向こう側がよく見える。
「まずはこの機械に手を置いてー……うん、そのままね。
次は、あの丸い機械をよーく見て。細かいところとかどこにあるのかとか、目を瞑っても思い浮かべられるようにね」
「はい」
言われた通りに手を置いて、その機械をよく観察する。
「大丈夫? それじゃあ、あのランプが赤く光ったら、測定を始めるわね?
使う魔法は、加重系単一魔法。準備はいい?」
「大丈夫です」
「OK。カウントするわよ。3……2……1……始め!」
ランプが黄色から赤色に変わると同時に、
それを、逆らうことなく意識の底に送り込んでいく。その先にあるっていう、魔法演算領域に届くように。
もちろんそれだけに意識を奪われることなく、測定機械を見て、その情報を余すとこなく拾い上げるように意識を集中し続ける。
「行けっ!」
何かが抜けていく感触とともに、その抜けたものを操って機械の情報を塗りつぶすようにイメージする。
一拍置いて、ランプが緑色に変わった。
「はい。よく出来たわね。次も行ける?」
「はい!」
その後、似たようなことを何回かやって、ランプが変化しなくなったところで終了。ボクはガラスの前のお父さんのところに戻ってきた。
「お疲れさま。最初からできるなんてすごいなぁ。僕は初めはさっぱりだったよ」
「うん。でも、なんか上手くいった気がしないんだけど」
「最初はそんなものさ。特に春原家は……ね?」
春原家。
その言葉が示す意味は、ボクの手の中にある評価書に書いてある。
『魔法の発動に難あり。特に、起動式の処理と対象
簡易総合評価ランク : D』
そう。春原家は、魔法を伝える家系としては落第だった。
普通、古式魔法の家系だとしても、現代魔法を扱えばそれなり以上の結果は出せるらしい。ボクやお父さんみたいに、魔法を伝えてるのに現代魔法がからっきしというのはかなり珍しいそうだ。
加えて言うと、伝えてきたという魔法も、その多くが失伝している。正確に言うと「暗号化されてて読めない」だけど、使えないんだから大して変わらない。
二百年以上前、外国から来たという「化け物」を追ってきたご先祖様がこの地で封印。その謝礼としてかなり広い土地を貰い、封印の維持のために定住するようになったのが春原という家の始まりだ。
しかし、初代の春原
そうして、「ほぼ魔法を使えない魔法使いの家系」が誕生した。
「まあ、僕みたいに身体能力強化に絞ってもいいし、これからやっていくにつれて何か得意なことができるかもしれないからね。そこまで落ち込まなくて大丈夫だよ」
「うん」
正直に言うと、僕には向こうで覚えた「魔法」があるから、こっちの"魔法"が使えなくてもそこまで困らない。魔法師ランクは低くなるけど、自衛という意味ならあっちの「魔法」を使えばいいしね。
でも、それは誰にも言っていない話。それに、研究者という面では軽く落ち込んでいる。やっぱり、自分で出来るのと出来ないのじゃやりやすさが変わるから。
「じゃ、先にCADを見ておいで。僕はしずなの所に行って教科書を選んでくるから」
「分かった、また後でね」
手を振ってお母さんのところに行くお父さんを見送って、ボクもCAD売り場に向かう。まずは、目の前のできるところから始めなくちゃいけないよね。
◇ ◇ ◇
「うーん……。どれがいいんだろう?」
暫く悩んでいても、まだほとんど何も知らない自分では答えが出せず、ただただ頭をひねるばかりだ。
ボクの目の前には、様々な形の機械が置いてある。
銃のようなもの、携帯端末のようなもの、腕輪のようなもの、ちょっと変わった形のもの。しかも、それらがメーカーごとにそれぞれあるんだから、何がいいのかさっぱり分からない。ちょっと昔の携帯屋さんを思い出した。
「どうしたの、ナギ?」
「あ、お母さん」
暫く悩んでいると後ろから声をかけられて振り向くと、両手に紙袋を持ったお父さんとお母さんがいた。
……紙袋の中身をちらりと見ると、「基礎魔法幾何学入門」とか「初心者のための魔法理論」とかみたいな、いわゆる入門書の中に混じって、「よく分かる!発展型身体強化魔法と魔法併用戦闘!」とかいうのがあった。お父さん……自分の本があって嬉しいのは分かるけど、ボクは一応初心者なんだよ?
「実は、CADってどれがいいのか分からなくて」
「あー。まあ、最初は分からないよね。戦闘方法が決まってくると、あとはメーカーを選ぶだけなんだけど」
……まさか、戦闘方法は決まってるなんて言えないや。
「例えば、これみたいな小銃型は、銃身部分に照準補助装置がついてるんだ。だから、狙いをつけるのが下手な人とか精密な魔法が必要な時に使われる。
それに対して端末型は、補助装置がない代わりに持ち運びがしやすいのが特徴かな。起動式の展開補助機能がついてるのも多いから、狙いはいいけど魔法の構築が下手な人とか身分を隠したい人が使うね。
最後は腕輪型だね。これは両手が塞がらないから、他に武器を併用したり、僕みたいな素手での戦闘をしたりする人が好むタイプだ。特別な機能はあまりないけど、基本的に頑丈さは優れてるんだよ。
他にも色々あるけど、スタンダードなのはこの三つかな?」
「へぇ〜」
やっぱり、現役の実戦者の解説はわかりやすい。それに、欲しい形も決まった。
「どう?何か気になるのはあったかい?」
「うん。腕輪型にするよ」
「「……え?」」
ボクが即答したのに驚いたのか、二人がびっくりした声を上げる。
でも、ボクの基本的な戦闘方法は「魔法拳士」。古老師に教わった中国拳法を無駄にしないためにも、それはこの世界でも変えるつもりはないんだ。
「……そうか。なら、後はメーカーをどれにするかだな」
——そう言葉を区切って各メーカーの説明に入ろうとしたところで、事態は急変した。
パァン!!と、鋭い炸裂音が響く。
危機感が警鐘を鳴らし、それに従ってその音の方向を見ると、そこにいたのは血溜まりを作って倒れ込む女の人。そして、重厚そうな長銃を構えた男だった。
——あの銃はまともな銃じゃない。対人仕様にしては、明らかにオーバーキルな大きさだ。
——多分、対魔法師用のハイパワーライフル!
「き、きゃあああ!」
「
倒れた女の人の子供なのか、顔面を蒼白にして叫ぶ女の子に対し、男は再び引き金を引いた。
男が動転していたからか、幸いなことに直撃はしなかったようだけど、女の子は衝撃波で気絶して血の海に倒れ込んだ。
それでも男の気は済まないのか、狂った様子ながらも女の子に銃を向ける。
「くそっ!」
流石にそれを見て驚愕から舞い戻ったのか、お父さんが慌てて魔法を使う。
とは言っても春原の魔法師であるお父さんは、普通の魔法師のように襲撃犯自体を吹き飛ばしたり、頭を揺らして気絶させることはできない。唯一得意としているのは、自分の身体を扱うことだけ。
だけどここからでは、障害物はないけど少し距離がある。普通に近づくのでは、まず間に合わない。
それでもどうにかできるからこそ、お父さんは特殊部隊にいられるんだ。
フォン、と空気の揺れる音すると同時に、襲撃犯が透明な何かに勢いよく吹き飛ばされる。
——無音拳。向こうでタカミチが得意としていたそれを、お父さんは魔法で再現して見せたのだ。
魔法としては簡単な部類だ。腕を加速・移動系複合魔法で高速で動かすだけ。収束系は使わず、拳圧だけで砲弾を作る。
と言っても、魔法としてではなく身体的な技術としてかなり高難易度らしく、公開しているにもかかわらず未だに他の使い手の現れない技術でもあるらしい。
しかし、その威力は折り紙付きだ。
「これで……っ!??」
——だからこその油断もあったのだろう。まさか、防御魔法や防具なしで直撃して、意識を保っているとは思わなかったようだ。
ただ、男も体を起こすのが精一杯な様子。しかし、銃口はしっかりとこちらを向いていた。
そう。"ボク"に向いていた。既に引き金に手をかけた状態で。
(まずい、撃たれる!
正直に言うと、止められる自信があった。
例え普通の魔法師の障壁を突破できるハイパワーライフルだとしても、龍宮隊長の
展開速度も、
(………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?)
果たしてその自信は正しく、現にボクの障壁は貫かれなかった。動揺こそしたものの、今も五体満足でここにいる。
——じゃあ、なんで動揺なんてしたんだ?
——じゃあ、なんでアカイ血が流れてるんだ。
——そして、目の前に倒れているのはダレなんだ……?
「お、とう、さん……? おかあ、さん……?」
「は、は、ははははっ! オレの邪魔をするからそうなんだよ!! 仲良く胸に穴を空けてお寝んねかぁ!?この腐れ魔法師がっ!!」
視界の片隅で男が立ち上がったような気もするが、そんなことは知らない。何事かを大声で叫んでいるが、全く聞こえない。
今、ボクの目の前にあるのは、
『
その、変えられない事実だった。
「う、嘘、だよね……? 生きてるんだよねっ!??」
手を伸ばして触れてみても、ピクリとも動かない。
胸に空いた大穴からは、生命が喪われていることをボクに示すかのように、とめどなく赤い液体が流れ出している。
「ぅ、あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
なんでボクは、「魔法」を使えることを教えてなかった!? 二人が知ってたら、ボクを庇うこともなかったのに!!?
ナンデボクは、"魔法"なんかを習いたいなんて言ったんだ!?ほんの少し興味を抑えてたら、コンナトコロに来なかったのに!!?
ナンデ、ナンデ、ナンデ。頭の中がそれ一色になっていく。
自責の念と、理不尽さと。ゴチャゴチャになった心が、遠い記憶を呼び起こした。
————燃え盛る村。石化した村人。徘徊する悪魔。未熟な自分。そして、自分を庇って石になる老人。
ぞわり、と、心の中で何かが動いた。
「うるせぇな!テメェも天国のパパとママんとこに連れてってやるよ!!」
…………アア。ソウダ。コイツガ殺シタンダ。
オ父サンヲ。オ母サンヲ。
ヤット手ニ入レラレタ、ボクノ
《………死ね。死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネッ!!》
溢れ出すその
それは当たり前。だってそれは、ボクとずっと一緒にいたんだもの。
今更怖がることもないし、恐れることも、拒絶することも、目を逸らすことも、そんな必要、どこにもない。
ならば、再び受け入れよう。その上で飼いならそう。
闇は全てを飲み込み、それ故に闇なのだから。
一瞬の停滞もなく、自らの身体が置き換わっていく。
ヒトを離れ、バケモノになるその道を、しかし拒絶することなく受け入れていく。
今更
「
「な、なんなんだよっ!?なんなんだよテメェはっ!??」
何発も何発もハイパワーライフル弾を乱射する男だけど、その程度じゃ障壁は小揺るぎもしない。
「…………」
「く、来るなっ! 来るなぁっ!??」
ボクは見せつけるようにゆっくりと立ち上がり、一歩、また一歩と足を進める。当然、流れ弾が出ないように周りを見て。
そうして男の前まで来ると、既にカチカチという音しか鳴らしていないライフルを
「……殺しはしません。運が良ければ、普通の生活に戻れるでしょう。
でも……」
「ひ、ひぃっ!??」
腰を抜かしてへたり込む男の胸元を掴んで立ち上がらせると、胸のうちから湧き出る殺したいという衝動を抑えながら、ナギはこう告げた。
「死ぬほどやりますから、頑張って生きてください」
◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇
通報を受けた警察が到着すると、そこにはボロ雑巾のようになった男と、一組の夫婦の死体の前で目を伏せる少年の姿があった。
死者三名。うち一名が現役の警察官、それも特殊部隊所属の有名人だった。
容疑者は全身のほとんどを骨折に加え重度の火傷を負っていて、奇跡的に一命を取り留めこそしたものの健常に回復する見込みはほぼゼロ。
男の動機は、行き過ぎた反魔法思考。容疑者は反魔法を掲げる世界規模の過激派カルト宗教に属しており、それがテロ行為に及んだ原因とみて間違いがなかった。
そして、警察の頭を悩ませたのは、容疑者にそこまでの重傷を負わせたのが僅か10歳の少年だったことだ。
最終的に、警察は容疑者の現状を伏せて事件の詳細を公表した。下手に公表すると、反魔法師運動を助長することになりかねないからだ。
その場に居合わせた魔法師にも
しかし、人の口に戸は立てられない。
犯人を半殺しにしたのが少年であることは、背びれ尾ひれを付けて瞬く間に広がっていった。
『ネギ君はこんなことしない!』と思う方もいらっしゃるでしょうが、目の前で親を殺された為としてください。
むしろ、侵食が進んでたとはいえ、ゲーデル総督に言われただけで暴走したぐらいでしたから、目の前で殺されてもこれくらいで抑えられる程度には飼い慣らしたんだなぁ、という感じで。
改編済みの話に関して、特に説明がない場合、ネギまの魔法を「魔法」、魔法科の魔法を"魔法"と表記します。会話文の中では、「」→『』となります。
分かりづらくて申し訳ございませんが、そういうものだと心の片隅にでも置いておいて頂けると幸いです。
2016/01/14
全面改稿。