魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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ドウモ、種マラソン楽シンデマスYT-3デス。

ついに入学式編最終話です。

それではどうぞ。


第二十三話 事後処理と……

 

「達也くん、どうかしたのかい?今日は君らしくなかったよ?」

 

 色々あった土曜日も終わり、翌日曜の朝。

 九重寺の境内で息を荒げて倒れ込んでいる達也に水の入ったコップを渡しながら、(ここ)(のえ)八雲(やくも)が声をかける。

 今日は深雪はついて来ていない。いや、普段もついて来ているわけではなく、何かあったときに偶にという感じなのだが、彼らの普段の距離を知っているものからすれば意外なことだろう。

 

「俺らしくなかった、とは?」

「何か、焦っているというか、君にできない動きをしようとしていた感じかな?おかげで普段なら捌けていたはずのものも捌けていなかったよ。

 昨日、何かあったのかい?」

 

 達也は水を受け取りながら身体を起こす。

 何かあったか、と問われると、思い当たることは昨日のことだけだ。

 

「思い当たることはありますが、師匠なら既に知っているのではないですか?」

「おいおい、流石に僕を持ち上げすぎだよ。

 さすがに昨日の今日で得られる情報なんて限られている。ましてや十師族が関わっているとなるとね。

 精々、突入したのが達也や深雪くんを含めた8人で、双方ともに死者や重体者は無し、それと大部分に洗脳の兆候が観られたから警察病院に送られて罪に問えそうにない、ってことぐらいだよ」

「それだけ分かれば普通は充分ですが……。

 俺が気にしているのは、リーダーの司一が護衛に雇って洗脳していた人物のことです」

 

 そう言うと、八雲は薄眼にしていた左目を開いた。

 

「あの大刀を持った少女のことかい?」

「知っていたんですか?」

「忍び込んだときに気付かれかけたよ。明らかにレベルが違っていたから印象に残ってたんだ」

「そうですか。

 それでその少女、青山萃音と名乗っていましたが、彼女の剣が信じられなかったことが原因です」

 

 それだけではないのだが、と達也は内心で呟く。

 

「達也くんが信じられなかった、だって?

 それは穏やかじゃないね。

 今更千葉流程度で動揺する君じゃないだろう?相手の流派は分かっているのかい?」

「『シンメイリュウ』と名乗っていましたが……」

「神鳴流、だって……?」

 

 今度こそ、八雲は明らかな驚愕を顔に浮かべる。

 達也は、滅多に見られない師の顔に驚きながらも、話を促す。

 

「知っているのですか?」

「……僕たち、古式魔法師の中で、その中でもどちらかと言えば『魔』に近い者たちにとっては、まさに伝説の存在だよ。

 神が鳴る、と書いて神鳴流。

 人を超越する『魔物』にその身一つで挑み、その上で一騎当千を体現する剣士たち。飛び道具は効かず、剣を失っても戦闘力が落ちることはないと言われている。

 表立って、いや裏の世界でも千年は存在は確認されていないけど、『魔』に遭遇したという人たちからは目撃したという噂が絶えない。まあ、その遭遇自体も証拠がなくて噂に過ぎないんだけど」

「裏にも隠れて魔物を狩っていた、と言っていましたから、その噂は案外真実だったのでしょう」

「そうなのかもね。

 まあ、そんな流派を相手取ったのなら、達也くんといえど動揺するのは仕方がないか。むしろ、よく無事だったね?」

 

 達也は一瞬、それを言うべきか迷ったが、どうせこの師匠は何処からか情報を得るだろうと開き直り、言うことにした。

 

「いえ、俺は相手取っていません。戦ったのはナギです」

「ああ、春原家の。

 もしかして、それも君の不調の原因かい?」

 

 一度聞いて十を知ると言うか、この僅かな情報から言い当ててくるとは流石師匠だな、と達也は思った。

 

「ええ。ナギが戦っているところを見ると、言いようもない感じがしたというか……」

「『気持ち悪い』、だろう?」

 

 達也が敢えて口を濁した言葉を、八雲は躊躇いもなく口にした。

 

「いえ、そんなことは……」

「大丈夫さ。それは人として、ある意味正常な感情だ。

 友情を気にして目を逸らす、というのもそうだけどね」

 

 そう言うと、八雲は一高方面の空に目を向ける。

 達也もそれを追い、一高方面を見て、その近辺に一人で住む友人を思い浮かべる。

 

「彼は素晴らしい人間だ。

 優れた人格者で思慮深く、人当たりも良い。

 内面だけでなく、数々の失われた魔法を復活させたことといい、幼き日から積み重ねてきたという拳法の腕前といい、高いレベルで完成されている」

 

 そう、ナギはあまりにも()()()()()()()()()のだ。

 

「しかし、そのどれもがあまりにも年齢に対して不釣り合いだ。

『天才』、ではないよ。僕の隣にも天才はいるけど、それとは全く違う。

 ただの『天才』と言うのが宝石の原石、達也くんが研磨された宝石だとするのなら、彼は宝飾品として加工されて数々の有名人の手に渡ってきた由緒ある逸品、と言ったところかな?」

 

 そうだ。あの交渉術といい作戦能力といい、拳法の腕前もそうだし息をするような魔法行使もそうだ。

 あれらのものは、いくら『天才』であろうとも、五年や十年で身に着くものではない。

 二十年、三十年。いやもっと長い時間をかけて『経験』して、初めて身に着くものの筈だ。

 

 そんな思考をしながら、達也は師の言葉に耳を傾ける。

 

「僕も彼の経歴を当たってみたけど、特におかしな点はなかった。君たちのように分からない感じじゃなくて、ごく自然な物だった。

 でも、それじゃあ彼のあの能力は説明がつかない。

 それを恐ろしく思うのは達也くんだけじゃない、僕もだよ」

「……師匠も『恐ろしい』なんて感情を持っていたんですね」

「そりゃあそうさ。僕だってまだ世の柵から解脱出来てない人の子だからね。

 でもね達也くん。彼を警戒する必要はないよ」

 

 恐ろしく思うのは当然だと言いつつ、警戒するなと言う。

 矛盾した言い回しに、達也は説明を待った。

 

「何故かと言うと、彼の人となりが善人であることには変わりがないからだ。あれは演技だとか計算の結果だとかじゃあないよ。

 だから、君が彼の友人として接している限り、彼の方から裏切ることはありえないし、何か困ったことがあれば全力で力を貸してくれるだろう」

 

 でもね、と言って、八雲は達也の目を見た。

 

 

「彼が善人であり正義であるが故に、君と相容れなくなった時は……」

 

 

 その時は、最大の壁として立ち塞がるだろう、と。

 

 達也はその可能性を検討しようとて、それを止めた。

 いくら達也たちの家庭事情が複雑であったとしても、折角できた友人を、対立しているわけでもないのに疑るのはバカバカしい。八雲の言っていることも、つまりはそう言うことだろう。

 

「ありがとうございます、師匠。おかげで少し胸のつかえが取れました」

「いやいや、これも坊主の務めってやつだよ。

 まあ、与太話はこのぐらいにして、早く家に帰ってあげたらどうだい?」

「?どうかしたんですか?」

「はっはー。君が気付いていないのだったら、それを教えるのは僕の役目ではないね。

 さあ、いいから早く帰った帰った!」

「はあ?それでは師匠、失礼します」

「ああ、深雪くんに宜しくね」

 

 達也は八雲の不審な態度に首を傾げながらも家路につく。

 結局、家に帰り深雪に出迎えられるまで、その理由に思い当たることはなかった。

 

 —◇■◇■◇—

 

 ——その日の午前十時半、春原邸。

 

「おはようございます十文字さん。本日はわざわざ来ていただいてすみません」

 

 今日は周辺地域を守護する魔法師としての事後処理の協議と、警察などから得た情報の交換を行うために、春原家に集まることになった。

 ちなみに、今は『当主』としての会談のため、お互いに堅い口調で話している。

 

「気にする必要はありません。春原家の管轄内で起きたことです。春原殿が主導になって行うのが自然でしょう。

 それで、七草殿はすでに来られているのですか?」

 

 参加者は春原家当主のボク、十文字家当主代理の十文字さん、そして七草家から当主の七草弘一さんの予定()()()

 

「いえ、実は急なことだったので、やはり時間の都合がどうしてもつかなかったようです。

 代理として真由美おね……長女の真由美さんが来られています」

「……そうか。ならばわざわざ堅苦しい口調をする必要もあるまい」

 

 そう言って十文字さんは言葉を崩した。

 

「いいんですか?」

「形式とは、所詮形式以上の意味はない。

 目上の人間である七草殿が来られているならともかく、ある程度気心の知れてた仲であるのなら、いつも通りの口調の方が息が詰まるような関係にならずに済むだろう」

「一応、ボクにとってはお二人とも先輩(めうえ)なんですが……」

「それはそれ、という奴だ」

 

 ちょっと暴論気味だけど、確かに十文字さ……先輩の言うことも尤もだ。

 

「そうですね、分かりました。

 まずは部屋に移動しましょうか。こっちです」

「ああ、失礼する」

 

 そうして客間に案内する。

 客間には、普段は(マス)(ター)の作成途中の人形が置かれていたりするけど、こういう来客の時は片付けて貰っている。ブツブツ文句は言うけど。

 

「こちらです」

「おはようございます十文字さん。今日は当主の都合がつかなくなってしまい申し訳ございません」

 

 部屋に入ると同時に、真由美お姉ちゃんが立ち上がり深々と頭を下げる。

 

「気にするな七草。もともと急な話だったのだ、仕方あるまい。

 それと、春原にも言ったが口調はいつも通りでいい。同じ一高生徒だ、今更形式を気にする必要もあるまい」

「そう?なら、そうさせてもらうわね」

 

 そう言うと真由美お姉ちゃんは外行きの表情を崩す。

 と言うかそれよりも……

 

「真由美お姉ちゃん。だいぶ御茶請けのスコーンが減っている気がするけど?」

 

 緑茶じゃなくて紅茶だけど。

 

「だって、ナギくんお手製のスコーンって美味しいんだもの。自由に食べて、って言ってたし」

「それは確かにそうかもしれないけど……。ふt、いえなんでもないです!」

 

 し、視線だけで殺されるかと思った……。

 

「ほう?それは楽しみだ」

「それじゃあ、話しながら食べましょうか」

 

 そう言って席に着く。十文字先輩も席に着いて、話し合いが始まった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 情報交換は、ある程度全員が予想していた通りに進んだ。

 十文字先輩の情報では、やはり工場の上位陣も洗脳されていたらしく、十文字先輩たちが突入した方に立ち塞がっていたらしい。

 その後、情報の公開はどこまでするかや今後の対応などについて協議する中、二人に気がかりだったことを告げた。

 

「実は、萃音さんのことなんですが……」

「萃音さん?それって確か、洗脳されて護衛に雇われてた、伝説の古流剣術の伝承者だっけ?」

「ああ。正直な話、春原が彼女を抑えてくれなければ、俺たちは殺られていただろう」

 

 十文字先輩がそう言うと、真由美お姉ちゃんが『また危ないことをして!』っていう表情で睨んできた。

 仕方がなかったんだって!神鳴流を知らずに相手できる相手ではなかったんだから!

 

「その青山萃音さんなのですが、彼女が預けられていた孤児院が身元の引き受けを拒否しているそうでして……」

「どういうことだ?」

「実は、彼女は素行が悪い、とまではいかないものの協調性に欠けていて、他の子に怖がられていたそうなんです。

 それに、時間があれば裏山に進んで行っていて、小さい子の面倒を見ることを手伝ったりもしていなかったらしく、職員の評判のよくなかったようで……」

「なにそれ‼︎都合よく厄介払い出来そうだから利用しようっていうの!?」

「落ち着け七草」

 

 あまりのことに、真由美お姉ちゃんが声を荒げて立ち上がり、十文字先輩がそれを諌める。

 

「でも、このままじゃ」

「安心しろ。そういうことならば、彼女は十文字家で引き取る」

「「……え?」」

「タダで引き取るわけにもいかないが……そうだな、俺付きのメイドとしてでも働いてもらうか」

 

 その瞬間、ボクと真由美お姉ちゃんは、10センチほど十文字先輩から距離をとった。

 

「?どうした二人とも」

「……ねぇ、十文字くんって年下好きなの?」

「いや、別に年齢は関係ないが。それがどうかしたか?」

 

 あまりにもあっけらかんとした表情に、ボクと真由美お姉ちゃんは体勢を元に戻す。()()()()()()で言ったんじゃないのね……。

 

「なんでもないわよ。

 それで、どうしてまた?それに、そんな簡単に決めていいものなの?」

「今回の会談については、その後の事後対応まで含めて俺に一任されている。そこは問題ない。

 それに、彼女を引き取りたい理由もある」

 

 理由?

 

「正直な話、他の十師族なら兎も角、障壁に特化している十文字家にとっては彼女の『すり抜ける剣術』は死活問題なのだ。他のところで門下生を増やされるよりかは、十文字家の下で開いてもらった方がいい」

 

 なるほど。そういう事か。

 

「そういう事ならば、彼女の事は十文字家に任せてもいいですか?」

「七草家としてもお願いするわ。

 ただし、もし立場を盾に無理やり手を出すような事があったら……」

「安心しろ、そこまで外道に堕ちるつもりはない。

 それでは青山萃音は十文字家が対応するとして……他に何かあるか?」

 

 特にはないので首を横に振る。真由美お姉ちゃんも同じみたいだ。

 

「それでは、各々対応などで忙しくなるだろうから、ここまでにしておくか」

「そうね。ナギくん、今日の鍛錬はどうする?忙しいようなら止めとこうか?」

「事後処理はそこまで急ぐものはもう無いけど、ちょっと用事があって午後は『アイネブリーゼ』に行かなくちゃいけないんだ。だから、今日の鍛錬は休講で」

「『アイネブリーゼ』?ケーキが美味しいあそこ?

 そんなところに用事だなんて、なにがあるの?」

 

 その質問に、「多分だけど」と前置きして答える

 

「一年に一度のおめでたい事だよ」

 

 —◇■◇■◇—

 

「それじゃみなさんご一緒に!せーのっ!」

「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」

 

 午後三時、アイネブリーゼ。

 エリカがテンション高く音頭をとり、集まった全員がグラスを高く上げる。

 

「さあさあ!今日は飲んで食べて騒ぐわよ〜!」

「エリカがいつもにも増してテンション高いね」

「と言うか、まさか酒でも入ってるんじゃねーだろーな」

 

 最も、そこまでテンションが高いのはエリカだけで、なぜ集められたのかは知らされていない参加者は、多少浮かれている程度だったが。

 

「私たちも来て良かったの?」

「ええ、もちろんよ。むしろ、是非来て欲しかったわ」

「そうそう。例えクラスが違ってももう友達なんだから、遠慮はする必要ないよ」

 

 若干遠慮気味の雫とその隣で萎縮しているほのかに、直接の関係がある深雪とナギが答える。

 エリカほどではないにしろ、深雪も比較的浮かれていて、ナギはそれに気づいていながらも口に出すことはしない。理由などわかっているのだから。

 

「賑やかでいいねぇ。今日は何の集まりなんだい?」

 

 顎鬚を生やした、三十前後のハンサムなマスターが、料理を運びつつ質問する。

 なんの集まりなのか気づいていない、前日に突然集合を言い渡されたメンバーは首を捻るばかり。

 

「まあ、お疲れ会のような感じで——」

「違う違う!達也くんの誕生日会だよ!」

「「「「「……ええっ!?」」」」」

 

 それに無難に答えようとした達也を遮り、この会を主催したエリカが答えた目的に、それを知らされていなかった5名は驚きの声をあげた。

 特に、達也に対し特別な思いを抱いているほのかと、それを応援している雫は血の気を引かせて、次の瞬間にはエリカに詰め寄っていた。

 

「ちょ、エリカ!?なんで誕生日を知ってたなら教えてくれなかったの!?」

「いや〜、正確な日付は知らないけど、四月中なら誤差かな?って」

「そうね。昨日聞かされた時は()()()()()()()()()って驚いたわ」

「……え?

 達也くん、もしかして本当に今日だったの?」

「ああ。丁度今日だな。俺も今朝深雪に言われるまで忘れていたが」

 

 その答えを聞いてわずかに震えながら、エリカは深雪を横目で睨む。

 

「み〜ゆ〜き〜!あんた謀ったわね!」

「あら、否定はしていないわよ?」

 

 そんな、ある意味首謀者同士の言い合いを背景に、その他の友人たちは暗い空気を纏っていく。

 

「どうしよう雫!?プレゼントなんて用意してないよ〜!」

「それは私も同じ……」

「俺らも全く知らなかったしな。いや、四月中ってことは知っていたんだけどよ」

「せめてエリカちゃんが昨日言ってくれてれば用意できたんですけど……」

「主賓以外にもサプライズ、ってエリカらしいというかなんというか……」

 

 暗い雰囲気を前に、目的を予測して用意していたナギは何も言えずに、どうしようかと狼狽えるだけ。

 そんな中、マスターが用意していたザッハトルテを持ってくると、五人に声をかけた。

 

「それなら、とりあえず今日のところはこのザッハトルテを僕と君たちからのプレゼント、ってしたらどうだい?それで後日ちゃんとしたものを渡せばいい」

「「「「「ありがとうマスター‼︎」」」」」

 

 五人にとっては、まさに天から垂れた蜘蛛の糸だったのだろう。暗い空気が払われ、安堵をした表情を見せた。

 

 

 その後、達也を除く参加者が2本ずつケーキにロウソクを立て、達也がそれを吹き消すなど、『誕生日会』らしい光景が行われた。

 そして、皆の食べる手が約1名を除いて止まった頃、達也がナギに声をかけた。

 

「ナギ。事後処理の最中なのに来てくれてありがとな」

「気にしなくていいよ。

 それに、ここはお祝いの席。暗い話題は無しだよ?」

「それもそうだな。

 それで、そのデカイ包みはもしかして……」

 

 達也がナギの足元にある、縦横30センチ、高さ40センチほどの包みを指差す。

 

「そう、誕生日プレゼント」

「えっ?ナギくんは誕生日がいつだか知ってたんですか?」

 

 美月の疑問は尤もだが、ナギも達也の誕生日を特定していたわけではなかった。

 

「ううん。

 ボクも詳しくは知らなかったけど、エリカさんがパーティーをするって言ったから、そろそろなのかな〜って思って」

「やっぱりそうだよね。ところで、何を渡すつもりだったの?」

「これ?それは開けてからのお楽しみ。

 はい。達也くん誕生日おめでとう」

 

 ほのかの疑問に対して、ナギは答えをはぐらかして達也に渡す。どうせすぐに分かるのだから、主賓が一番最初に知るべきだと考えたのだ。

 

「ああ、ありがとう。開けても構わないか?」

「もちろん」

 

 ナギがそう答えると、達也はラッピングしている包装紙を丁寧に剥がしていく。

 友人たちの視線が集まるなか、封の下から出てきたのは木で作られた箱だった。

 その側面にある蓋を開けると、そこには……

 

「わあっ!かわいい〜!」

「お兄様の人形ですね。すごく良く出来ています!」

 

 身長35センチほどの、デフォルメされた達也の人形があった。

 

「すごい縫い目が丁寧ですね……もしかして手縫いですか?」

「うん、ボクのお手製」

「「「「「「「「……えっ?」」」」」」」」

 

 予想だにしない回答に全員が固まる。

 彼らはクォリティの高さから、てっきり業者に頼んで作ってもらったものだと思っていたのだ。まさかナギの手縫いだとは思ってもみなかった。

 

 しかし、ある意味このくらいは出来て当たり前なのだ。

 何故なら彼の師匠は、欧州では言わずと知れた人形使い(ドールマスター)。当然、彼女基準で『嗜み』程度だが教わっている。

 そして、そんな人形が普通のものであるはずもない。

 

「ちょっと貸してくれる?あ、あと少しスペースを空けてくれた方がいいかも」

「あ、ああ」

 

 未だ衝撃から抜けきっていない達也は、ナギに言われるがまま人形を差し出す。友人たちも言われた通りに離れてスペースを作ると、ナギは人形を床に置き、(サイ)(オン)を込める。

 すると……

 

「わあっ!」

「人形が動いてる……」

「それに音楽も」

 

 達也人形は優雅なクラシックを響かせながら、それに合わせてステップを踏む。

 パートナーがいないため少々不恰好だが、それでもステップを間違えることなく踊り続けている。

 

「まさか、傀儡式?」

「刻印型で動かすゴーレムか。振動系で音を奏で、移動系と加速系で踊らせているな」

「正解。刻印は内側に特殊な糸で縫いこんであるんだ。

 ボクの人形(ドール)じゃ戦闘では使えないけど、このぐらいならできるから」

 

 実際は十分戦闘にも耐えられるのだが、比較対象が(エヴ)(ァン)(ジェ)(リン)なので評価が低くなるのは当然だろう。

 

「では、サイオンを流し込むだけで踊り出すのですか?」

「うん。循環させることで溜め込む部分を作ってあるから、最大で10分弱踊り続けられるよ」

「でも、いいのかこんな物?」

 

 達也の疑問は尤もだろう。

 こんな物、普通に買うとなったら7桁はする。CADとして扱われず、補助金の対象外となる魔法工芸品は高いのだ。

 

「大丈夫だよ。手縫いだから材料費だけだし、それもそんなに高い物は使ってないから。

 それに……」

「それに?」

「それに、こういう物を渡しておけば、みんなのプレゼントを悩まなくて済むしね」

 

 なるほど、パートナーがいないのはそういうことだったのか、と納得させられた。

 

「それじゃあ、遠慮せず受け取るよ」

「うん。大事にしてね」

 

 

 ナギは心から幸せを感じている。

 この一月、いろいろなことがあったけど、最後にこうしてみんなで笑っている、それだけでいいんだと。

 

 達也は自分を恥じている。

 こんなにも自分を思ってくれている友人を疑おうとしたことを。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 そうして少年少女は絆を深め、季節は移ろい青葉が生い茂る夏に向かう。

 そこでは全国各地のライバルがひしめき合い、裏では利権渦巻く闘争が待っている。

 

 

 しかし、その前に少し寄り道をしよう。

 差し当たっては約一週間後、金色の日々に起こった不可解な御伽噺でも話そうか。




神鳴流「!?なぜか貞操の危険を感じた」

祝‼︎入学式編完結‼︎

ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて入学式編終了でございます。

少なくとも来訪者編までの大まかなプロットが出来ていることを考えると、いつまでかかるのかはわかりませんが、途中で投げ出すことはしませんので末長くお付き合いください。

また、アンケート①ですが、間章の展開も定まり、しばらくアーティファクトの出番がないことが確定したので、受け付け締め切りを九校戦編終了までと延長させていただきます。是非お力をお貸ししてください!作者ページの活動報告欄で行っております!

あと、前書きの謝辞等ですが、考えるのが大へ……、UA数が増えて長くなってきたので、次回以降から無くさせていただきます。あとがきはこういった案内や補足が載るので無くしませんが。

それでは次回、間章1【日本選手権編】でお会いしましょう!

・・・生徒会長「太ってなんかない体重計の計り間違いだわそうよ計り間違いよ!」

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