魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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宣言通り早く来ましたYT-3です。

今回は少し短めですが、どうぞ。


第十七話 有志同盟

 

 それから一週間は特に何か問題が起きるわけでもなく、平和な日々を送れた。

 ただ、工場のほうは人の出入りが増えているから、嵐の前の静けさなんだろう。

 

 土曜日の夕方に、工場の話は(さえ)(ぐさ)さんに伝えておいた。

 ただ、相当の手練がいることも伝えて、先走って踏み込まないようにも伝えている。情報が集まり次第春原で踏み込む予定、つまり師匠(マスター)レベルの人が動く必要があるということに驚いていたけど、理解して情報収集に徹してくれるらしい。

 

 そうして情報も集まってきて、ついに次の日曜に踏み込む予定で調整していた木曜日、21日の放課後——

 

『皆さん聞いてください‼︎』

 

 スピーカーから流れる声から、遂に事態が動いてしまった。

 

「うおっ!うるさっ!」

「うっさい!あんたの声の方が大きいわよ!」

「エリカの声も同じぐらいの大きさだ思うけど……」

 

 こんな時でも皮肉の言い合いは変わらないんだね……。

 

『失礼いたしました。全校生徒の皆さん、聞いてください!』

「どうやら、ボリューム調整を間違えてたようだな」

「いや達也くん、そういう問題じゃないでしょ」

 

 こんな放送の予定は聞いていないから、異常(イレギ)事態(ュラー)なんだろう。

 

『私たちは、学内の差別撤廃を目的に集まった有志同盟です!』

「有志同盟、ねぇ……」

「有史以来、政治的集団の形成メンバーが自発的に『有志』となった例はどれぐらいあるんだろうな」

 

 そうそうないんじゃないかな?

 基本的に誰かに扇動されて、か妄信して、だろうから。

完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』だって実際は造物主(ライフメイカー)が扇動してたようなものだし。

 

『私たちは生徒会をはじめとする学内運営組織に対して、対等な立場での交渉を要求します!』

「行った方がいいんだよね?」

「そうだな。放送室の不正占拠は間違いないだろうし、委員会から呼ばれるだろう……、おっと。噂をすればだな」

「そうだね。じゃあ、行ってきます!」

「はーい。頑張ってね〜」

 

 ……エリカさん。なんでそんな楽しそうなんですか?

 

◇ ◇ ◇

 

「お兄様、遅れて申し訳ございません!」

「いや、俺たち教室の方がここに近いからな。早く着くのは当然だ」

 

 そして放送室前。当然のように扉が施錠されていて、しかもマスターキーもスペアキーもなくなっているから立ち往生していると、深雪さんたち生徒会役員が来た。

 

「よく来たな。

 それで、肝心の真由美はどうした?」

「会長なら、先生方と今回の対応を協議するために職員室に。情報は私の方からリアルタイムで伝えることになっています」

「そうか、よろしく頼む市原。

さて、そうなると、放送が止まったのもあいつの手柄かな?」

 

 中に踏み込んで放送を止められないから、この部屋の電源自体を止めちゃったのかな?

 

「それと、やはり鍵はマスター、スペアともに無くなっているそうです。なんらかの手段で盗み出して、既に中に持ち込んでいるのでしょう」

「明らかな犯罪行為ですね」

「そうですね。

 ですので、私たちはこれ以上の暴発を防ぐためにある程度慎重に行動した方がいいです。

 どのみち、今まで確認してきた組織員候補だけでも、この部屋に入りきるわけありませんし、中にいるのはごく一部でしょう。ここに風紀委員会、部活連幹部、生徒会が揃っているうちに、より大きな問題を起こされるかもしれませんし」

「だが、こちらが慎重に動いたからといって、向こうの聞き分けが良くなるかは微妙だ。

 多少強引でも、短時間の解決を図った方がいいと思うが」

 

 市原先輩の言うことも、渡辺委員長の言うこともどちらも正しいな。

 ここは……

 

「十文字先輩は、部活連会頭としてどう考えてますか?

 生徒会と風紀委員会の意見はこうらしいのですけど……」

 

 もう一つの三大組織の意見を聞いて判断するべきかな。生徒会は真由美お姉ちゃんがいない今、唯一の三年生である市原先輩が実質的なトップだし。

 

「俺としては、彼らの交渉に応じるべきだと考えている。

 そもそもこの学校に差別意識はあっても、三つを除いてシステム的な差別はない。元より言いがかりに近いのだ。

 問題が表面化した今、しっかりと反論しておけば後顧の憂いを断つことにつながるだろう」

「では、ここはこのまま待機しておくべきだ、ということか?」

「いや、それについてはまだ決断しかねているな。

 不正行為を放置するのは今後のことも考えると好ましくはないが、かといって学校施設を破壊してまで早急に解決するべき犯罪性があるとは思われない。

 学校側に、警備システムから鍵を開けられないかも聞いてみたが、回答を拒否されている」

 

 つまり、市原先輩の考え方に近いってことか。

 これで二対一だけど……

 

「……そうか。確かに十文字の言うことも尤もだな。生徒会と部活連がそういう結論を出したのだったら、風紀委員としても文句はない」

 

 これで満場一致だ。

 それじゃあ、これからどうしていくのかだけど……、全員何も案がないのか口を閉ざしている。

 前世では、こういうは……

 

「交渉する気はあるんだし、こういう時はとりあえず中にいる人と交渉して開けてもらうのが一番だけど……」

「中にいる人……?

 委員長、どうにかなるかもしれません」

 

 達也くん?端末を取り出してどうしたの?

 

「……もしもし、壬生先輩ですか?はい、司波です」

 

 えっ!?

 

「……それで、今どちらにいらっしゃいますか?……放送室ですか。それはお気の毒です。

 いえ、馬鹿にしているわけではなくてですね……。ええ、すみません。

 ……はい、落ち着きましたか?それでは本題に入りたいんですが……」

 

 本当に中の人と交渉してるよ……。さっきのは独り言だったんだけどなぁ。

 

「交渉の話ですが、十文字会頭は応じると言っています。

 渡辺委員長も文句はないそうです。

 七草会長の意向は不明ですが、市原先輩も同様……」

 

 そこで市原先輩が自分の端末を指差して、指で丸を作る。

 真由美お姉ちゃんも賛成ということだろう。

 

「いえ、七草会長も同様だそうです。

 ということで、学校側から横槍を入れられる前に日程や形態の打ち合わせをしたいらしいのですが……ええ、今すぐに。……いいえ、先輩の自由は保証しますよ。警察ではないので、牢屋に入れる権利などありませんし……はい、では」

 

 どうやら交渉に成功したみたいだ。

 

「全員に説明して、すぐに開けるそうです」

「今のは壬生さんですか?」

「また手が早いな、君は……」

「誤解ですよ。この前の待ち合わせのためにプライベートナンバーを教えられたまま消し忘れていただけです。

 ……だから、そんな目で見ないでくれ深雪」

「一応、そういうことにしておきます。帰ったら詳しくお聞かせくださいね?」

 

 ひいっ!そ、その笑顔は氷属性の魔法でも発しているんですかっ!

 

「それよりも、拘束する態勢を整えたほうがいいですよ。

 鍵を盗み出すような人物が、CADや武器を持ち込んでいないわけがありませんから」

「拘束、って。

 達也くん、さっきは安全を保証してたよね?」

「俺が保証したのはあくまで壬生先輩だけだ。他の人物には保証していない。壬生先輩だけなら司法取引とも言えるが、他の人間の罪状まで無視するわけがないだろう?

 それに、俺は風紀委員会などを代表して交渉しているなど一言も言っていない」

「……まるで詐欺ですね」

 

 ……ほんと。魔法師よりも詐欺師のほうが向いているんじゃない?

 

「まったく、お兄様は悪い人ですね?」

「そんなこと、前から知っていただろう?」

「そうですね。フフ」

 

 開き直っちゃてるし……。

 

「まったく……。

 まあいい。では風紀委員は捕縛態勢を——」

「いいえ、その必要はないわ、摩利」

 

 真由美お姉ちゃん?

 

「七草、それはなぜだ?」

「生活主任の先生は、今回の一件を生徒会に一任しました。

 壬生さん一人では交渉の段取りも打ち合わせもできないし、当校の生徒である以上逃げられるってこともないでしょう?

 私は、今回は今まで対応してこなかった先生方や歴代生徒会などにも問題があったとして、厳重注意に留めることにしたわ」

「なるほど、そういうことなら部活連としてはその決定に従おう。

 渡辺はどうだ?」

「……いろいろと思うところはあるが、仕方があるまい。わざわざ捕まえてもメリットは無いしな。

 そういうわけだ。そこでうっすら扉を開けて聞いていないで出てきたらどうだ?」

 

 渡辺先輩が扉を見ながらそういうと、放送室から五人、堂々とした態度で出てきた。あの可愛らしい女の人が壬生先輩かな?女性は一人しかいないし。

 

「……過去の過ちを反省したのは評価するわ。この先も間違え続けてたらまったく意味がないけど」

「そうならないために交渉するんだろう?

 それに、そう言うのならまずは自分の過ちを直して貰おうか?まずは放送室の鍵を返してもらおう。それから、これからも校内に居続けるならCADを預けに行け」

「なんで貴女が仕切っているのか分からないけど、分かったわよ」

「よし。鋼太郎と沢木は見張りだ、ついていけ」

「分かりやした、姐さ……いえ委員長」

「了解です」

「じゃあ、預け終わったら生徒会室に来て頂戴ね」

 

 そうして、立て篭り犯五人は辰巳先輩と沢木先輩に連れられて、窓口に行った。

 

「それじゃあ、あーちゃん、はんぞーくん、深雪さん。今日はもう帰ってもいいわよ。お疲れ様」

「風紀委員も、今日当番の岡田と関本以外の奴は帰っていいぞ。明日から大変になるだろうからな」

 

 ボクは今日から大変だろうなぁ。

 

◇ ◇ ◇

 

「……なんだそれは」

 

 夜。師匠(マスター)に今日のことを報告すると、呆れ声が返ってきた。

 

「その気持ちはすごく分かります」

「それでは、討論会の日に動くことを宣伝しているようなものでは無いか。今までの隠密行動はなんだったんだ」

「七草さんも同じことを言ってましたよ」

 

 春原には下部組織とかが無いから、春原だけだとボクと師匠(マスター)、チャチャゼロさんしか動けない。

 それだと包囲して逃がさない、ということもしづらいから、日曜の突入には七草家に協力を頼んでいたんだけど……、そちらの方も問題なんだ。

 

「来週以降になればいいんですが、明日か明後日になると部隊の招集が間に合わないそうです。

 できれば来週以降になってほしいですけど……。討論会前に突入すると、討論会が中止になるかもしれません。ボクは、個人的には討論会は開いたほうがいいと思ってるんですよね」

「まあな。せっかく差別意識をなくせるタイミングなんだし、お前の話ではお前の姉はそのためにいろいろ動いてきたんだろう?それを宣言する場にもできるわけだ。襲撃さえなければ学校としてはそちらのほうがいいに決まっている」

「襲撃さえなければ、ですけど」

 

 でも、それは難しいだろうなぁ。

 

「七草さんも警戒を強化してくれるらしいですけど、襲撃自体を止められるかとなると……」

「厳しい、か。

 まあ、それはそうだろう。いつの世も、攻めるよりも守るほうが難しいのは変わりが無い。

 だから、こちらから攻め入る予定だったんだがなぁ」

「下手に動けなくなりましたね。

 それに、問題はそれだけじゃないんですよ」

 

 そう、厄介なのはそこじゃない。

 

「なんだ?」

「土曜までに襲撃があったとすると、襲撃犯を例の有志同盟が手引きした形になります。

 その場合、あまり認めたくはないんですけど、学校側は有志同盟を処分することで責任を取らせる形になります」

「それのどこが問題だ?」

 

 そう。そこはあまり問題じゃない。

 学校は生徒を守るものだけど、それにも限度がある。そうなるのは仕方がない。

 

「問題はそこじゃなくて、それを受けて事なかれ主義の権力者がどう動くかなんですよ。

 そうなった時、まず『将来性のある魔法師を守るため』という理由で、事態をもみ消しにかかると思います。

 その時、もしその場で襲撃犯のアジトが分かった時……」

「その場で集められる、()()()()()生徒で突入部隊を編成して突入しかねない、か。生徒の義憤を放出させるために」

「はい。しかも魔法科高校です。襲撃犯の口を割らせる能力のある人間も高確率でいるはずです。

 百家は分かりませんが、十師族はそれを可能にするだけの力があります。七草さんには忠告しているからそんな中途半端な準備では動かないでしょうが……、十文字さんは動きかねません。若い魔法師に実戦経験を積ませるいい機会、とか考えて」

 

 そうなったら最悪だ。チャチャゼロさんの目が正しければ、例の護衛はそのレベルで収めていい相手じゃないはず。相性によっては十文字さんでも劣勢に立たされる。

 

「しかも、独自に動けるだけの力があるから手に負えない、と。

 …………おい、これは……」

「はい。ぼくも同じことを考えました。

 討論会を囮にした襲撃自体が囮。

 

 本命は……そこから誘い出しての返り討ちです」

 

 突入部隊は、確実にトップレベルの実力者しかいない。

 どの程度の人数になるかは不明だけど、ただのテロと甘く考えていることや屋内戦ということを考えれば、十人に届かないだろう。そこを潰せれば……

 

「確実に、将来有望な魔法師の卵を潰すことができます」

 

 そして、それを予想しているということは、十師族が来ても返り討ちにできる自信があるということだ。

 

「おい、その十文字とやらにはこのことを伝えたのか」

「七草さんを介して伝えてはみたんですが……。

『そのような事態になったら、魔法師の卵を守るのが十師族の使命』『時間をかけてしまってテロリストを逃すわけにはいかない』と譲らず、最後には『だが、春原が突入する予定だったのでしょう?』と言われてしまったそうです……」

「そうか、私の名前は出せないからな……。

 同じ当主で戦術級魔法が使えるとは言っても、所詮十師族でもない古式魔法師、とでも考えているんだろう」

「はい……。まあ、十文字さんは当主代理ですが」

 

 本当にどうしよう……。

 予定を早めて踏み込んでも、そこで逃がして仕舞えばより防ぎづらい二回目、三回目を計画される。やっぱり包囲しないと。

 

「こうなったら、逆転の発想だ」

「逆転の発想?どうするんです師匠(マスター)?」

「ふふん。よく聞けぼーや。

 その方法とは・・・」

 

◇ ◇ ◇

 

「確かに、それならいけるかもしれません」

「だろう?まあ、少々不安ではあるが、まだだいぶマシなはずだ」

「はい!ありがとうございます師匠(マスター)!」

「ふふん。もっと褒めるが——」

「それじゃあ、その方向で七草さんと調整してきます!」

「あ!オイ、ぼーや!」

 

 これでなんとか道筋はついた。あとは動くだけだ!




吸血幼女「もっと褒めてくれてもいいじゃないか……」

というわけで入学式編も佳境に入ってきました。

果たして『逆転の発想』とは?
そして護衛の実力は?
楽しみにお待ちください!

アンケート②は本日(2015/09/12)を持って締め切らせてもらいます。数々のご意見ありがとうございました。
アンケート①、ヒロイン・アーティファクト募集の方はまだまだ受けつけております。何卒宜しくお願いします!

それではまた次回!

・・・巌男「ひどい言われようだ」

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