なのでUAとお気に入り件数が分かりません。すみません。
それではどうぞ。
「それで、二日連続で呼ばれるなんてホントに何したのよ、ナギくんは?」
「ボクが何かをしたのは確定なの、エリカさん?」
生徒会室から帰ってきたお昼休み明け、興味が抑えきれなかったようでエリカさんが話しかけてきた。
一応、これから実技で使う教育用CADに慣れることが目的のきちんとした授業なんだけど、まあ教員もいないし、そこまで厳格なものでもないしこのぐらいならいいか。
「それに達也くんも一緒だったんだよ。
ボクが何かしたってわけじゃあ……ない、かな?」
「いや、なんで疑問系?
それに達也くんは深雪のことだろうから、たまたま一緒だっただけで別口じゃないの?そうでしょ達也くん?」
「それが、奇妙な話になってな……。
向こう側からしたら俺とナギがセットだったらしい」
「どういうことだい?」
あー、やっぱりみんな気になるんだね。
「初めの内は、まあ大体予想通りの深雪の勧誘だったんだがな……。
深雪が書記になることに決まったら、風紀委員長にいきなり風紀委員にならないかと誘われたんだよ。
そのまま時間内では結論が出ずに、放課後また行くことになったんだ」
「そりゃ、またホントいきなりだな」
「それでも二人ともすごいですね。生徒会から直接スカウトされるなんて」
「いや、生徒会からというわけでじゃなくて、表向きは生徒会と部活連から指名される、ってことらしいよ。
実質的には風紀委員長からの指名みたいなものだったけど」
「ああ。ナギが部活連で、俺が生徒会からってことになるらしいな。
というか、理由もよくわかっていないんだ。簡単には喜べないよ」
そうなんだよね。
大体予想はついているけど、詳しいところがわからないとどうしようもないよ。
「それはそうだね。ところで風紀委員って具体的には何をするところなんだい?」
「えーと、大体しか分かっていないけど、校内で揉め事とか魔法の不正使用が起きた時にそれを取り締まる、ってのが主な任務だったっけ?」
「ああ、簡単に言うとそういうことになるな」
「喧嘩に割って入って止めるってことか。そりゃまた面倒くさそうだな……。少し面白そうではあるけどよ」
「……そんな危ないことに達也くんたちをほとんど一方的に巻き込もうなんて、あの風紀委員長勝手すぎるでしょ」
……やっぱりエリカさんは渡辺先輩となにかあったのかな。言っていることは正しいんだけど、妙に感情がこもっている気がする。
「うん。確かにエリカの言う通りちょっと自分勝手だね」
「いや、一応強制ではなく推薦という形だったが……」
「でも部活連の会頭って、たしか十文字家の次期当主でしたよね。
それに
これじゃあ強制と大差がないです」
そう言われればそうかも。
ボクはこれでも一当主、それも春原家は複数の戦術級魔法を伝えているってことに
「……確かにそうなんだよな。
まったく、俺には自由はないのか」
「だけどよ、俺としては昨日みたいなことがあった時に、威張り腐ってる一科生に取り締まられるよりかは、達也とかナギのほうが断然いいぜ。
たまたまあの風紀委員長だったから良かったけどよ、そうじゃなかったらこっちが一方的に悪いってことにされるかもしれねぇぞ?」
「さすがにそれはないと思うが……」
警察兼検察みたいなものらしいから不正はできないと思うんだけど……
「……でも、そう言われると確かにレオの言う通りかもね」
「昨日みたいなことがまたかもしれないと考えると、そっちのほうがいいかもしれませんね」
「ナギくんが喧嘩の仲裁に入って、聞かない奴は達也くんがビシバシ捕まえる。
うーん、そう考えると意外と似合ってるかも?」
「……ほらエリカ、次だぞ」
「あっ、ゴメン。教えてくれてありがと」
……達也くん、みんなが肯定する流れになってきたから話を逸らしたね。
◇ ◇ ◇
「…………」
「…………」
「……現代魔法が苦手だとは知っていたけど、ここまでなんだね……」
「うん……。最初に上手くいかなかったから、少し気合を入れたら、ね……」
「……というか、なんで加速と減速の起動式であんなんになるのよ……」
「……こう言っちゃ悪りぃけど、よくこれでこの学校に受かれたよな。いや規模はスゲェんだけどよ」
うん。これを見て自分でも不思議になっているよ。
やっぱり、起動式の処理だけに集中しちゃったのがいけなかったのか……。
「入試のときは、真由美お姉ちゃんに傾向と対策を散々叩き込まれたから、なんとかね……」
「そうだとしても、限度というものがあるだろう……」
「台車が見事に壁に刺さってますもんね」
なにせ対象の情報を直接書き換える感覚って難しいんだ。
『精霊魔法』を使っていいなら、一瞬で100個でも200個でもぴったり動かしてみせるんだけどさ……。
あ、教員が来た。
……謝ったら許してくれる、のはムリだよね。
◇ ◇ ◇
そして放課後。当然懲罰委員会に呼ばれました。
「というわけで、魔法を暴発させてしまい実習室を壊してしまいました。すみませんでした」
「……あの手の実習で破損が起きたなんてことは聞いたことがなかったぞ」
「諦めて摩利。これがナギくんよ」
「……しかも前科があるらしいな」
はい。何度か教えてもらっているときに暴発させたことがあります。
その度に真由美お姉ちゃんには迷惑をかけました。
「ナギくんは、なんというか、起動式の処理だけに集中すると、変数が大雑把になるのよね。かといってある程度は集中しないと処理できないし。
前に七草で調べてみたんだけど、魔法演算領域が十師族と比べても大きすぎるみたいなのに、それに比べて処理能力が平均的な魔法師ほどもないせい、ってことらしいわ。
同時に処理する量が多いのにそれに相応しい能力がないから、構築が上手く出来づらいってことね。
これが古式魔法だったら、慣れてるからかかなり細かい調整も出来るんだけど……」
「現代魔法で、しかも授業初日で気合が入りすぎていたために起きてしまったということか……。大雑把にしては行き過ぎていると思うがな。
それで、
「そうね……。
あくまで授業中のことだし、注意ぐらいが妥当かな?って思うんだけど、摩利は風紀委員長としてどう思う?」
「まあ、初犯だし意図してのものでもないから、そのくらいでいいだろう」
「と、いうわけで。
「はい、わかりました!」
ふう。思っていたよりも重くはなかったな。
「あと、姉としての罰で、再発防止のために日曜の朝から夕方までみっちり練習ね。つきっきりで見ててあげるから」
「は、はい!」
うわ〜、あの目は本気でしごくつもりの目だ。
……頑張って出来るようにならなくちゃ月曜日に出てこられなくなりそうだなぁ。
◇ ◇ ◇
「そう。じゃあナギくんは風紀委員になってもいいの?」
「うん。週に何度もある部活の掛け持ちは無利だろうけど、一・二回ぐらいなら他にやることとなんとか両立できそうだから。
毎日出る必要があるのは今回みたいなイベントごとの時期ぐらいなんですよね?」
それに、風紀委員として活動すれば、未来の魔法師・魔工師に『春原の魔法は異常だ』という印象を与えることができるだろうし。
こうやって地道に違和感の種を植えて行くことが、ボクの目的のためになるしね。
「ああ、基本的にはその通りだ。普段は二人体制で行動している。
それに春原の事情はわかっているからな。さすがに減らすことまではそうそう無理だろうが、シフトの調整ぐらいは考慮するさ」
「ありがとうございます。それならなんとかできそうです」
「これでナギくんは確保できたわね。
ただ、問題は達也くんなのよね……」
「そうだな。まさかそこまで嫌だったとは」
「達也くんは個人的に魔法研究をしているって言ってましたし、そちらの方に時間を割きたいんじゃないですか?」
なにせ挑戦しようとしているのは加重系魔法の三大難問の一つ、のはずだからね。時間はいくらあっても足りないんだろう。
「うーん、それもあるんだけどね……」
「何か思い当たる節があるのか?」
「いや、達也くんの都合以外にも、はんぞーくんが……」
「あー。確かにあいつは反発するだろうな」
はんぞーくん……服部先輩か。
たしかに、森崎君みたいに
「そうか、あいつを説得しなければいけないのか、面倒だな」
「風紀委員の任命は生徒会長の権限だとは言っても、生徒会で全員一致じゃないと後で難癖をつけてくる生徒も出てきちゃうだろうしね……。
うーん。はんぞーくんが達也くんを認めてくれれば話は簡単なんだけど」
生徒会長もいろいろ考えなくちゃいけなくて大変なんだね。
「まあ、もう生徒会室に着くし、達也くんたちも来てるだろうから、後はなるようにしかならないわよ」
「それもそうだな。達也くんの有用性を挙げて、説き伏せるしかなさそうだ」
というか、さっきからボクのことは問題にならないみたいに話してるけど、ボクも二科生だからいろいろ言われそうだということは大丈夫なのかな。
まぁ、もう生徒会室に着いちゃったし、真由美お姉ちゃんの言う通り、なるようにしかならないか。
「ただいまー」
「お帰りなさい、会長。それとこんにちは渡辺風紀委員長、……春原も」
「………」
冷たっ!……ひっ!
み、深雪さん!?なんでそんなに怒っているんですか!??
服部先輩の挨拶に何かおかしいところがありましたか!?
「深雪」
「……はいお兄様。
こんにちは七草会長。本日よりよろしくお願い致します」
「い、いらっしゃい深雪さん、達也くん。
えーと、それじゃあ、はんぞーくんとも顔合わせが済んでいるし、早速だけどお仕事を覚えてもらいましょうか。
あーちゃん、深雪さんに教えてあげてね」
「は、はいっ!ま、まずはこっちに来ていただいてもいいですか?」
「はい。よろしくお願い致します、中条先輩」
あー。中条先輩も怯えちゃって大変だなあ。
それで、結局、なんで深雪さんは怒ったんだろう?服部先輩の挨拶が原因っぽいけど、特におかしなところはなかったし。
「それで、ナギは大丈夫だったのか?」
「まあ、一応実習中の事故ってことだったから、学校からは注意ぐらいで済んだよ。心配かけちゃってごめんね」
「気にするな。その程度で済んだのだったら、過剰に罪悪感を持たれてもこっちが困るからな」
「ありがとう達也くん」
後でエリカさんたちにも謝らなくちゃね。みんなも同じことを言ってきそうだけど。
入学してすぐに、いい友達に恵まれたなあ。
「さて、話も終わったようだし、あたしたちも移動するとしようか」
「どこにですか?」
「風紀委員会本部だ。いろいろ見てもらった方が分かりやすいだろうしな。
この部屋の真下なんだが、中で繋がっているからすぐだよ」
「……それは変わった構造ですね」
消防法とか大丈夫なのかな?いくら魔法師の卵がすぐに対処できるからって、絶対に大丈夫だとは限らないと思うんだけど。
「あたしもそう思っているよ。だが、実際にあるんだから活用しないのももったいないだろう?」
それは、生徒会室に遊びに来る口実ですよね……。
まあ、お昼の感じを見た限りだとほとんど生徒会の一員になっているみたいだから、今更なのかもしれないけど。
「待ってください、渡辺風紀委員長」
あー。やっぱりきた。
「……なんだね、
「わざわざフルネームで呼ばないでください!学校に受理されている名前は服部刑部です!」
「それはお前の家の官職だろう」
「今の世の中に官職なんてものはありません!
……いえ、そんなことが言いたいわけではなくてですね!」
「お前が譲らないんだろうに……」
「まあまあ。はんぞーくんにも
「「「「「「「…………」」」」」」」
……真由美お姉ちゃんがそれを言うの?
「?」
しかも、やっぱり気づいてないし。
「……会長と渡辺風紀委員長にお話ししたいのは風紀委員の補充の件についてです。
私はそこにいる司波達也の生徒会推薦枠での風紀委員入りには反対します」
あ、突っ込まずに流すんですね。
「ほう?おかしなことを言う。
達也くんの風紀委員入りは、七草会長が指名した話だ。たとえ口頭であっても、その効力は変わりがないぞ」
「しかし彼は承認していないと聞いています。ならば、まだ確定はしていない話です」
「たしかに君の言う通りだ。だが、それを決めるのは達也くんであって君ではない」
「しかし、確定のしていない話ならば、私は副会長として会長に忠告する権利があるはずです」
「それは、確かにそうね……。
……それで、はんぞーくんが反対する理由は何?」
ごり押しでは通らないと思ったのか、真由美お姉ちゃんが服部先輩の意見も一応聞こうと提案した。
「過去一度も、ウィ……いえ、二科生から風紀委員が選ばれたことはありません。
これは、風紀委員がルールを守らない生徒を拿捕する為に動くという特性上、実力が重視される為です。
そして、一科生と二科生の実力差は、学校も認めている純然とした事実です」
服部先輩の言っていることはある意味では正しい。
それは、『第一高校の中の常識』では確かな事実なんだけど、広い視野で見たら必ずしもそうではないんだ。
「それを言うのならば、もう一人の春原を無視して達也くんだけに言うのはなぜだ。そっちも二科生だからやめろということか?」
「……春原は例外です。
古式魔法師であるために二科生になったため、実力を示しているわけではないのは周知の事実といってもいいです。
現に、昨日も七草会長からの要求で例の捕縛魔法を使って騒乱を納めたそうじゃないですか。必要な実力はあると言えるでしょう」
うん?実力主義なのは予想通りなんだけど、なんかボクを評価しているというよりは、真由美お姉ちゃんの目線を気にしているって感じがする。
チラチラと真由美お姉ちゃんを見てるし。
「そもそも彼は部活連の推薦です。生徒会の私が文句を言える立場ではありません。
ですが、生徒会推薦枠の司波には口を挟ませてもらいます。
実力も実績もない彼を入れるのは、いたずらに反発を煽るだけでメリットがありません」
「確かに君の言う通りだが、実力にもいろいろあるんだ。
春原は違反者の拿捕のために入ってもらうが、達也くんには別の役割がある。
達也くんには起動式を読み取って、使われる魔法を予測できるという目と解析能力がある」
「……そんな馬鹿な!起動式はアルファベット数万文字分以上の情報量があるんですよ!そんなことができるはずがない!」
まあ、これに限ってはほぼありえないのが社会の常識だから、信じられないのは仕方がないか。
「しかし、実際に昨日の『見学』でのトラブルで、その能力を見せた。
もしその能力が本当ならば、いままで出来なかった魔法の発動を止めた際に的確な処罰が出来るようになる。
これならば、彼の存在が未遂犯に対する強力な抑止力になるんだ」
「しかし、問題が起きた時に止められないようでは……」
「実際に単独でそれができるのはこの学校に何人いる?
その点では一科生も二科生も大差ない。ならばそれ以外の付加価値で判断してもいいだろう?
そして、これは春原にも言えることだが、もう一つ理由がある。
服部の言う通り、いままで風紀委員には一科生しかいなかった。つまり、二科生の違反者も一科生が取り締まり、その逆ということはなかった。
これは一科生と二科生の精神的な溝を助長する一因になっていた。この学校の風紀を任される組織としてはいつまでもこのままにしてはいられない。ゆえに達也くんと春原に風紀委員に入ってもらいたいんだ」
「はぁ、意外と考えていたのね。
てっきり達也くんに一目惚れしたからだと思ったわ」
「達也くんの能力にってことだよね!」
真由美お姉ちゃん!深雪さんからまた氷の雰囲気が漂ってきてるから、勘違いするような言葉は言わないで!
「……会長。私は司波達也の風紀委員の登用には反対です。
渡辺風紀委員長の言うことにも一理あるとは思いますが、やはり風紀委員の主な任務は違反者の鎮圧及び摘発です。実力に劣る人物ができる役職ではありません。
このまま彼が就いた場合、任命した会長の責任が問われてしまいます。
どうかご再考を——」
「待ってください!」
「深雪!?」
ああ、ついにブラコンの深雪さんが爆発しちゃった……。
「僭越ですが服部副会長、確かに兄の実技の成績は芳しくありませんが、それは兄の能力と試験がかみ合っていないのが原因なのです!
実戦なら誰にも負けません!」
「司波さん。身内のことですから感情的になるのも分かりはしますが、魔法師には常に冷静に、客観的に物事を見る力が求められます。
贔屓目に目を曇らせるのはいけませんよ」
「私は目を曇らせてなどいません!お兄様のお力は本当は——」
「深雪!!」
「!!も、申し訳ございません!
……お兄様?」
達也くん?
何か隠しているのはわかるし、それについては何も言わない。言える立場じゃないしね。
だけど、服部先輩の前に出て、一体どうしたの?
「服部先輩、俺と模擬戦をしてください」
「えっ!?」
「なっ!?」
あんなに嫌がっていたのに?もしかして……。
達也くん、君は——
「……俺を舐めているのか、補欠の分際で!」
「いえ、そんなことはありません。それに、風紀委員になりたいというわけでもありません。
ですが、妹の目が曇っていないことを証明するためならば仕方がないですから。実力を分かりやすく示すためにはこれが一番でしょう」
———シスコンだよね。
「……いいだろう。司波さんがそこまで言う実力を示してもらおうか。
たが、俺が最低限の実力もないと判断した場合は、お前の風紀委員入りは認めないからな。
会長、渡辺風紀委員長。試合の許可をお願いします」
「本当にいいのね?
それでは、生徒会長の権限により、正式な試合として、二年B組・服部刑部と一年E組・司波達也の模擬戦を認めます」
「風紀委員長として、生徒会長の宣言に基づき二人の試合が校則によって認められた課外活動であることを認める」
「場所は……第三演習室が空いていたわね。時間は30分後とします。試合は非公開、双方にCADの使用を認めます」
「了解です」
「分かりました」
なんか、また大変なことになったなぁ。
補足です。
・風紀委員の任務回数
一応オリジナルです。
原作魔法科で部活と掛け持ちができていることなどを考慮して、1日2人体制のシフト制としました。
これなら週1〜2日になるはずです。
今回はミスをしていまい、申し訳ございません。
こんな私でよろしければ、これからもよろしくお願いします。