魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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こんにちは、YT-3です。

今回、あとがきにお知らせがございます。よろしければご確認ください。

それではどうぞ。


第五話 戒め

「ナギ、こっちだ」

 

 お昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り、真由美お姉ちゃんの授業を見るために遠隔魔法用実習室、通称射撃場に入ったところで、見学スペースの最前列にいた達也(たつや)くんに声をかけられた。

 見るとその隣、幹比古(みきひこ)くんとの間に一人分のスペースがある。

 

「あっ、達也くん!

 ありがとう、席を取っていてくれたの?満員みたいだったから助かったよ」

「大したことじゃないさ。担当の教員の一人に、『来る予定だった友人が、生徒会に呼ばれていて遅れている』と言って席を取っておく許可を貰っただけだからな」

「それはそうと、ナギくんのほうはどうだったのよ?授業初日に、生徒会長から直々に生徒会室に呼ばれるなんて。

 もしかして、生徒会役員になってくれ、とかいわれたの?」

 

 達也くんを挟んで向かい側のエリカさんが、興味津々に聞いてきた。

 

「さすがにそれはなかったよ。それに生徒会役員には一科生じゃないとなれないって校則で決まっているからね、前提条件からしてムリだよ。

 まあ、真由美お姉ちゃんたちから聞いた話だといろいろと大変なことになってたらしくて。長くなるから次の時間でゆっくり説明するよ」

 

 他のみんなもいろいろ聞きたそうにしているし、別に隠すほどのことじゃないけれど、今は説明するには少し時間がない。

 

「それより、エリカさんたちこそ何かあったの?

 なんか不機嫌そうに見えるけど」

 

 一応取り繕って入るみたいだけど、前世も含めてそろそろ70年近く人を見る仕事をしてきたボクからすると、まだまだ隠し方が甘い。

 まあ、この歳でこれだったら十分だろうけどね。

 

「あはは、バレちゃった?

 別に大したことじゃないわよ。仲のいい兄妹との関係と、会ったばかりの学校のクラスメイトとの関係の差もわからないような選民思想者に見下されたのに腹が立っているだけ」

「……なるほど、だいたい分かったよ」

 

 つまり、達也くんとお昼を一緒に食べようとしに来た深雪さんについてきた一科生が、何か差別的な態度をとったんだろう。

 で、多分達也くんか幹比古くんがどうやってか(いさか)いを回避して、おかげで不満や怒りが不完全燃焼のエリカさん、美月さん、レオくんが不機嫌になっていると。

 

 でもねエリカさん。確かにそれは怒るのもムリはないだろうけど、もう少し周りを見て発言してくれると嬉しいな。ほとんどが一科生なんだよ。

 差別意識の強い人たちから怒りの目線で見られて、また苛立ちを貯めているのは本末転倒でしょ。

 

「ナギ、エリカ。もう授業が始まるみたいだよ」

 

 幹比古くん、ナイスタイミング!おかげでこっちを睨む視線が少なくなったよ。

 エリカさんたちも授業を見だしたし、ボクも見ておかなくちゃな。

 ちゃんと見てないと後で怒られるだろうし。

 

◇ ◇ ◇

 

「……七草(さえぐさ)生徒会長は随分と余裕があるようだな」

 

 真由美お姉ちゃんが次々と記録を塗り替えて、見学している生徒が盛り上がっている最中、達也くんがこんなことをつぶやいた。

 

「だな。さっきからパーフェクトしか取ってねえぜ」

「さすがは十師族って感じですよね」

 

 そのつぶやきは両端のレオくんと美月(みづき)さんまで届いたらしく、二人とも賛同の声をあげる。

 

「いや、俺が言いたいのはそのことじゃなくてだな」

 

 しかし、達也くんは他のこと(・・・・)にも気づいたようで苦笑している。

 

「?どういうことよ?別にそれ以外に何かあるようには見えないけど」

「達也はなにか気づいたのかい?」

 

 みんなは気づいていないようで、頭の上に疑問符を浮かべている。

 

「ああ。七草生徒会長は授業が始まってから、()()()()()()()()魔法を使っている」

「ハァ?でもよ達也、現に今はターゲットを見ているぜ?どういうことだよ」

 

 全員が余計わからなくなったようで、魔法を使っている真由美お姉ちゃんと達也くんを何度も見てる。

 声が聞こえていたらしい後ろの席の一科生に至っては、バカにしたような視線をしているのが分かる。

 

「たしかに物理的には見ていないが、視覚拡張系の知覚系魔法を使ってこっちも見ているぞ。

 ターゲットを見ているのも実際にはこれだな。おそらく七草生徒会長は、逆を向いてでも中心を射抜けるだろう」

「達也くん、大正解。よく気づけたね、アレは感知がしづらいのに。

 たしかに真由美お姉ちゃんはこの授業の最初から、先天性の知覚魔法『マルチスコープ』を使っているよ。

 というか、別にこの授業だから使っているわけじゃなくて、普段から集会とかで聞いていない人がいないかとかも見ているらしいね」

 

 達也くんの解説とボクの説明で驚いたのか、レオくんたちも後ろの一科生たちも集中して、魔法を使用している痕跡を捜し始めた。

 1・2分ぐらいしてようやく感じ取れたのか、全員に納得と驚きの表情がでる。

 

「本当ですね。たしかになんかの魔法を使っています」

「達也はこんな感じにくいものによく気づけたね。

 きっと僕は言われなくちゃいつまでも気がつかなかったよ」

 

 たしかにね。真由美お姉ちゃんの『マルチスコープ』はホントに気がつきにくくて、ボクも一年半ぐらいはまったく気がつかなかったのに。

 

「俺は特に実技が苦手なぶん、解析だけでも上手くならなくちゃこの先大変だからな」

 

 達也くんの言葉を聞いて、全員が同じことを考えたと思う。

『これ以上を求められるって、いったいどこを目指しているんだ』と。

 

 そんな感じで、なんだか授業の内容よりも友人の能力の方が衝撃的な時間だった。

 

◇ ◇ ◇

 

「ほぉ。新入生の取り合いねぇ」

「うん。だから有名人のボクには先に決めておいてもらわないと、大混乱になりかねないんだってさ」

 

 真由美お姉ちゃんのクラスの授業を見学した後の自治活動時間、昔で言う自習時間に休憩のために一度教室に戻って、そこでお昼休みに呼ばれた理由を伝えていた。

 明日までは、先輩の授業見学をしやすくするために全ての授業が自習になっていたからこそできたことだけどね。

 

「たしかに、例年がそんな状況だったらそんなこともありそうですね。

 有名税、って言うんでしょうか。ナギくんも大変ですね」

「でもなんかムカつくわね、特に風紀委員。

 自分たちの実力が足りないからって、入学したばかりのナギくんに迷惑をかけるなんてさ」

 

 ?なんかエリカさんらしくないな。妙に感情が籠っている嫌悪というか。

 風紀委員に知り合いでもいるのかな?

 

「エリカ。個人に対する私的な感情で風紀委員全員を悪く言うのはよくないと思うよ。そこは区別をつけないと」

「うぐっ。た、たしかにミキの言う通りなんだけどさ〜。

 そう上手く割り切れたら苦労しないっていうか……」

「僕の名前は幹比古だ!」

 

 どうやら幼馴染の幹比古くんには理由がわかっているみたいだ。

 っていうことは、プライベートに関わりそうな話だからこっちから聞いちゃいけないかな?

 

「まあ、それはそれとして。

 そういうことなら深雪とか危ないんじゃない?

 あの容姿に一年主席でしょ?ナギくんと同じぐらい人気が出そうだから、アリのようにすごい群がってくるでしょ」

 

 エリカさんもあまり知られたくはない話らしくて、話を逸らしたいみたい。

 皆もさすがにそれは分かっているのか、気にはなったみたいだけど触れる気はなさそうだ。

 

「そうか、ナギの話からするとそうなる可能性が高いだろうな。

 ……あらかじめ深雪に注意しておいた方がいいか」

「達也さんは本当に深雪さんのことを大事にしてますね」

「というか、立派なシスコンでしょ」

 

 うん、達也くんのそれは『妹思い』って域を越していると思う。

 レオくんと幹比古くんはよく分かっていないみたいだけど、昨日初めて会ったエリカさんたちもすでに気付いているみたいだし、相当なものだと思うよ。

 

「どうしてそうなる……。

 仲がいいことは否定しないが、シスターコンプレックスではないと思うんだが」

「あはは。それはそうと、たぶん深雪さんには注意しなくても大丈夫だと思うよ」

 

 ボクも同じことが気になったけど、その答えはすでにもらっているしね。

 

「どういうことだ?」

「なんでも、入試で主席だった生徒には生徒会に入ってもらうのが通例なんだって。タイミング的に、明日にでも呼ばれるんじゃないかな。

 まあ、そういうことだから、深雪さんは狙われないだろうってことらしいよ」

「なるほど。昨日の入学式の後、生徒会長が深雪に会いに来たのはそういうことだったのか」

「むしろ、深雪さんと混同されているとはいえ筆記で一位だった達也くんのほうが危ないかも。

 あと、ここにいる皆なら見た目でほしがられるだろうね」

 

 ボクがそう言うと、皆が明らかに面倒くさそうな表情になった。

 

「つまり美人さんだって言われているんですから嬉しいんですけど、素直に喜べませんね」

「じゃあ、この時間を使って部活を決めちまおうぜ。

 候補だけでも決めておきゃあ、余計なトラブルに巻き込まれにくくなるだろ」

「賛成〜。試合だとかならともかく、そんなくだらない騒動に巻き込まれたくはないし」

「どこか見学したい授業があるわけでもなかったから、話しているぐらいしかすることもなかったしね」

 

 というわけで、その時間を使ってだいたい皆も部活を決めた。

 達也くんと幹比古くんだけは研究や修行があるからと部活に入らないことにしたらしいけどね。

 

◇ ◇ ◇

 

「あっいたいた!ごめんね待たせちゃった?」

 

 そしてその日の放課後、部活の決まったボクは真由美お姉ちゃんと昇降口前で待ち合わせしていた——

 

「大丈夫、今来たところだよ真由美お姉ちゃん。

 それで、渡辺(わたなべ)先輩はどうしたんですか」

 

 んだけど、渡辺先輩が来ることは聞いていなかったから少し驚いた。

 

「なに、風紀委員の見回りだよ。そのついでに、どんな部活にしたのかを聞きに来ただけさ。

 真由美が勝てないという弟がどの部活を選んだのかも気になるしな」

「そういうことですか。

 でも、大して面白くもないと思いますよ」

 

 ボクがどの部活に入るかなんてことで、そんなに面白くなるはずがないし。

 

「面白くないかどうかは私が決めるさ。

 それに、先輩からの情報は多いほうがいいだろう?」

 

 まあ、別にあとで知られるし、隠す必要もないからいいか。

 そんなやりとりをして、()()()()()()周囲の目線を集めたところで、本題に入る。

 

「それで。どの部活にしたの?」

「うん。『SSボード・バイアスロン部』っていうところにしたんだけど」

 

 ボクがそういうと、二人とも『えっ!?』っていう感じの顔をした。周りの人もざわざわと戸惑いの空気を出している。

 そんなに驚くようなことでもないと思うんだけど。

 

「そうか、あの部にしたのか……」

「何かあるんですか?」

「いや、部自体には特に何もないんだがな…。

 そこの三年……いやもうOGか。とにかく、そこに所属していた二人がとにかく問題的でな。さんざん迷惑をかけられたんだよ」

「しかも、部長の五十嵐(いがらし)さんと仲が良かったはずだから遊びに来ることも多そうだし、大変よ?」

 

 二人の表情を見ればボクを心配しての発言だとわかる。

 確かに少し怖いけど、個性的な女の人と接するのは慣れている。

 3-Aのみんなと比べたらその人たちもまだマシなはずだ。というかあのクラスにかなう個性的な人たちはそうそういないと思う。

 

「大丈夫だよ。それに『物に乗って移動する』のは春原の得意分野……だったはずだからね。楽しそうだし入ってみるよ。

 その先輩方とも接してみたら楽しいかもしれないからね」

「ナギくんがいいならいいんだけど……」

「わかったが、何かあったら遠慮せず言ってくれ。

 風紀委員として要注意対象だからな、あの部活は」

「はい。わかりました、渡辺先輩」

 

 さて、予定どおりに周りの先輩たちにも聞こえていたみたいだし、深雪さんを待っている達也くんたちと合流するかな。

 

「それでだな、春原。春原家には捕ば——」

「摩利、待って」

 

 渡辺先輩がボクに何かを言いかけたところで、真由美お姉ちゃんが深刻な声で割り込んだ。

 

「どうした真由美」

 

 渡辺先輩も何かが起きたのは伝わっているのか、割り込まれたことに不満を感じている雰囲気を見せずに話しかける。

 

「校門のところで1-Aと1-Eの生徒が言い争ってる。

 まだ手は出てないけれど一触即発の状況よ」

「なに?まったく。入学初日だろう、もう少しおとなしくできないのか!」

「それよりも真由美お姉ちゃん、1-Eってもしかして……」

 

 1-Aと校門にも思い当たる節があって、真由美お姉ちゃんの言葉を聞いて校門のほうを向く。

 遠目に見えるそこでは、ある意味予想通りの状況があった。

 

「ええ。今日ナギくんと一緒にいた子達ね。

 大方、達也くんと深雪さんが一緒に帰ろうとしたことに文句をつけた世間知らずの子でもいたんでしょう」

「とりあえず止めに行くぞ。ここからだと真由美の対抗魔法は野次馬が邪魔で狙いづらい。何かあったときに対処できない」

 

 渡辺先輩の言う通り、ここからだと真由美お姉ちゃんのサイオン粒子塊射出は使えない。

 あれは魔弾の射手と違って『自分から』射出しないといけないから、今のように周りに人が群がっていて射線が空いていないときは使えないんだ。

 

「そうね、急ぎましょ——あっ!」

 

 どうやら動き出すのが遅かったようだ。

 1-Aの先頭にいた男子が素早くCADを抜いたけれど、直後にエリカさんが警棒を抜き放ってはたき落した。

 

 そこまではいい。

 でも、これで終わったかのようにしているのはマズい!一緒にいた1-Aの人たちが魔法を使おうと動き出している!

 エリカさんたちはまだ気づいていないから、タイミング的に間に合わない!

 この状況で止める方法となると、()()しかない!

 

「ナギくんおねがい!」

 

 真由美お姉ちゃんも同じことを考えたらしくて、ボクに頼んでくる。

 法律とか校則とかがあるけれど緊急事態だ!やるしかない!

 

 攻撃をしようとしているのが四人!

 さらにそれを止めようとしてか、少し離れたところにいる女の子二人のうち一人も魔法を使おうと動いている!

 

「【魔法の射手(サギタ・マギカ)——」

 

 ——つまり、必要な精霊は五人!

 ——持続時間は1分もあれば十分!

 

 イメージを固め、詠唱を破棄して魔法を発動する。

 

 使う魔法は、風を編んで、弾丸として放ち、当たることで(おび)になり敵を縛りつけるもの。

 

 その魔法は——

 

 

「———戒めの風矢(アエール・カプトゥーラウェ)】!!」

 

 

 ——発動と同時にボクの手元から五つの風の弾丸が放たれる。

 

 ついに止めようと動いていた女の子がキーを入力した。

 

 ——弾丸は野次馬の上を通り、()()()()()()()()()進んでいく。

 

 魔法の飛んでいく方向を見て渡辺先輩が混乱する。

 それだけ方向がズレているんだ。

 でも、この魔法にはこれであっている。

 

 ——野次馬の最前列に差し掛かったところで、弾丸は()()()()()()五人(もくひょう)に向かう。

 

 ここで達也くんが魔法に気づいた。

 まだ、他の人は気づいていない。

 

 ——そして、背後の頭上から来たゆえに気づかれることなく、弾丸は狙い通り五人の背中に当たる。

 

 突然の攻撃に、攻撃を受けた五人だけではなく、相対するエリカさんたちも固まった。

 

 ——弾丸は当たった瞬間に(ほど)けて帯となり、怪我一つ与えることなく五人(もくひょう)を縛り上げる。

 

 そして戒めの風矢の効果によって、すでに起動式を入力していた女の子は魔法を使うことができなくなる。

 

 

 こうして、魔法を使おうとした五人は無傷で無力化された。

 

 

「ありがとうナギくん」

「ああ。助かったよ春原。

 ではいくぞ真由美。魔法の不正使用の現行犯だ」

 

 そう言うや否や、二人とも駆けていってしまったけど、知り合いのことなのでボクも行ったほうがいいんだろうなぁ。

 それに、一応捕まえたのはボクになるんだし。

 

◇ ◇ ◇

 

「すみません。見学のつもりが行き過ぎてしまいました」

「見学だと?」

 

 野次馬に阻まれて少し遅れて着いた時、渡辺先輩と向き合って、今回のことを達也くんが誤魔化そうとしていた。

 

「はい。森崎家のクイックドロウは有名なので、勉強のために見せてもらうだけのつもりだったんですが、あまりにも真に迫っていたため思わず手が出てしまったんです。

 そうだったよな、森崎?」

「え?あ、はい!そうです!」

 

 ああ。最初にCADを抜いてエリカさんにはたき落とされたのって、森崎家の長男か。確か、駿(しゅん)くんだったかな?

 ご当主には何度か会ったことはあったけど、彼とは会ったことはなかったから気が付かなかった。

 

「では、その後にそこの五人が魔法を行使しようとしていたのは何故だ?

 ましてや実際に発動こそしなかったとはいえ、うち一人は起動式の展開までいった。君の友人も攻撃されそうになっていたんだぞ」

「手を出してくるなんて思ってもみなかったため、驚いてしまったんだと思います。

 そのまま攻撃されてはたまったものではないので、条件反射的に魔法を行使しようとしてしまったんでしょう」

 

 うーん。明らかに違うのはわかっているのに、達也くんの話も整合性が取れているから必要以上に責められない。

 達也くん、誤魔化すのが上手いなぁ。

 

「それに、彼女が展開していたのはせいぜい怯ませる程度の閃光魔法の起動式でした。

 攻撃魔法と呼べるものではありませんでしたよ」

 

 えっ!?

 達也くんの言い方だと『起動式を読み取った』ということになるけど!?

 

「ほう?君は展開された起動式を読むことができるということだな?」

「実技はこの通り苦手ではありますが、解析に関しては自信があります」

 

 いや達也くん、もうそれは解析というレベルじゃなくて、一種の異能だよ。

 

 最も単純な、加重系統プラスコード(インビジブル・ブリット)ですらアルファベット三万文字相当の情報量があるんだ。しかもそれが起動式を展開している零点何秒の間に()()()

 他にそんなペースで情報を処理できるのは、力の王笏(スケプトルム・ウィルトゥアーレ)を使った千雨(ちさめ)さんか、茶々丸さんしか思いつかない。

 彼女たちと()()()匹敵するという時点で人間離れしているよ……。

 

「……誤魔化すのも得意なようだな」

 

 そこで兄を庇うかのように深雪さんが前に出て、深々と頭を下げて謝罪した。

 

「今回の件は兄の言ったとおり、ほんの少しの行き違いが原因だったんです。

 わざわざ先輩方のお手を(わずら)わせてしまって、申し訳ありませんでした」

 

 深雪さんの態度に毒気を抜かれたのか、渡辺先輩も追及する雰囲気を消した。

 

「私たちは特に何もしていない。

 今回、君たちが怪我を負うこともなく沈静化できたのはそこの春原の協力があったからだ。

 感謝するならそっちにするといい」

 

 渡辺先輩、ここでボクに振ってきますか。

 周りからいろんな視線で見られて恥ずかしいんですけれど。

 

「達也くん、本当にもともとは見学だけのつもりだったのよね?」

「はい、そうです」

 

 真由美お姉ちゃんも、このまま続けても意味がないと思ったのか、話を終わらせようとしている。

 

「そう、だったらいいでしょう。

 ただし、魔法の行使には起動するだけでも細かな制限が存在します。

 このことは一学期のうちに授業で教わると思うので、それまでは魔法の発動を伴う自治活動は控えたほうがいいでしょう」

「……生徒会長もこう(おっしゃ)られていることだし、今回の件は不問にする。

 今後はこのようなことはないようにしてください」

 

 生徒会長と風紀委員長の二人がこう告げたことに、当事者たちはバラバラながらも頭を下げて謝意を示していた。

 

「確か君は1-Eの司波(しば) 達也(たつや)くんだったな」

「はい」

「……覚えておくことにするよ」

 

 渡辺先輩は達也くんに興味を持ったみたいだ。

 まあ、達也くんが起動式を読み取れると言った時に、一番目を輝かせてたからね。風紀委員としては、その価値は計り知れないんだろう。

 

「さて春原。少し話したいことがあったんだが、今日は時間もなくなってしまった。また後日でもいいか?」

「はい、都合がよければ。もし予定が入っていたらまたその時に伝えます」

「ああ。それではな」

 

 そう言って渡辺先輩は去っていった。

 多分巡回に行ったか、風紀委員室で今のことを書くのだろう。

 

「ナギくん。私もそろそろ生徒会室に行かなくちゃ」

「わかった。生徒会頑張ってきてね、真由美お姉ちゃん」

「ありがとう。それじゃあまた明日ね」

 

 真由美お姉ちゃんを見送って、達也くんたちのほうに向かう。

 それにしても『また明日』か。明日は今日ほど忙しくなければいいなぁ。

 

◇ ◇ ◇

 

 達也くんたちのほうでは、森崎くんと一悶着あったみたいで、森崎くんと四人の一科生が、少し離れたところにいる二人を残して立ち去っていった。

 

「大変だったね、達也くん」

「ああ、そうだな。

 ただ、ナギのおかげで大事にならなくて済んだから助かったよ」

「ありがとうございました、ナギくん」

 

 他の四人からも感謝の言葉をもらったけど、これはすごい恥ずかしい。

 

「偶々タイミングとかが良かっただけだから、そこまで褒めないでよ。実際に問題を誤魔化したのは達也くんなんだし」

「そうそう!達也くん一歩も引かなくてカッコよかったよ〜」

「厄介ごとにはできるだけ首を突っ込みたくはないからな」

 

 そうだね、それは同感だ。

 でも、厄介ごとっていうのはたいてい向こうからこっち目掛けて突っ込んでくるからなぁ。

 

「お兄様。ずっとこのままというのもアレですし、そろそろ移動しませんか?」

「それもそうだな。帰りにどこか寄り道でもしていけばいいか」

 

「あ、あのっ」

 

 全員がとりあえず移動するために動こうとした時、残っていた二人の女の子が達也くんに話しかけてきた。

 

光井(みつい) ほのかです!先ほどは失礼なことを言ってすみませんでしたっ」

北山(きたやま) (しずく)です。私も止められなくてごめんなさい」

 

 皆、いきなり頭を下げられて面食らっている。

 でも、きちんと謝ることができるだけ森崎くんとは大違いだ。

 周りの空気に流されてしまっただけで、本当はいい子なんだろう。

 

「森崎くんはああ言っていましたけど、大事にならなくて済んだのはお兄さんが庇ってくれたおかげですし、魔法を使わなくて済んだのは春原くんのおかげです。

 本当にありがとうございました!」

 

 二人は達也くんに向かって頭を下げているので、ここは代表して達也くんに答えてもらおう。

 

「どういたしまして。それと、お兄さんはやめてくれないか。同じ一年生なわけなんだし」

「では、なんとお呼びすればいいでしょうか」

「普通に達也でいいさ」

 

 まあ、確かに深雪さんのお兄さんではあるけれど、達也くんは同級生だしね。あまり同級生にお兄さんなんて呼ばれたくはないか。

 

「それで、あの……。

 一緒に帰らせてもらってもよろしいでしょうか」

 

 見ればエリカさんたちが呆気にとられてる。

 ただ、今回光井さんはきちんと礼儀に(のっと)ってお願いしてきたんだし、いいんじゃないかな?

 

「反省もしているみたいだし、一緒に帰るぐらいならいいと思うんだけど、どうする?」

「俺もナギと同意見だが、皆はどうだ?」

「お兄様がよろしいのでしたら、私も大丈夫です」

「そうね。反省してるんなら、あたしはべつにいいわよ」

「私もです」

「そうだな。こうして聞いてくるんだったら文句はないぜ」

「僕も構わないよ。さっきの時は光井さんたちは周りの空気に流されてた感じだったしね」

 

 皆にも反省しているのは伝わったのか、特に反対されることはなかった。

 

「ありがとうございます!」

「ありがとう」

 

 さて、それじゃあ帰ろうか。




モブ崎「僕のセリフが一言だけとはどうゆうことだ!」

第五話「戒め」ですがいかがだったでしょうか。
とりあえず書いた時に、テンポの都合から気づいたらモブ崎が本当にモブになっていた時は驚きました。
これで彼の出番は追加した後ですよ(^_^;)


さて、前書きに書いたお知らせの話です。

今回、魔法を使うシーンを書いてわかったことがあります。
それは、『一人称視点は、日常だと進めやすいが、バトルは描きづらい』ということです。

そのため、戦闘描写の際などに別視点を加えることにしました。
その形式をアンケートで決めたいと思います。

詳しい話は活動報告の『立派な魔法師アンケート②』にかいてありますので、ご意見をお聞かせください。期限は現在未定です。


それではまた次回お会いしましょう。


・・・???「贅沢言わない。私もそうなんだから」

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