魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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16000UA&249件のお気に入りありがとうございます!

今度は結構早く書けました、YT-3です。

それではどうぞ。


第三話 教師の資質

 

 予鈴が鳴ってそれぞれの席についているコンソールが立ち上がると、エリカさんたちも自分の席に向かったので少し時間ができた。

 多分、すぐに先生も来るだろうし、早く履修登録を済ませても時間が余っちゃうから、IDカードを挿しておくだけにしておこう。

 

 暇になったのでなんとなく周りを見てみると、生徒の行動が三通りあることに気づいた。

 一つ目は、ボクと同じように、カードだけ挿して先に進めないで待っているパターン。美月さんも同じようだ。

 二つ目は、カードを挿して、適度にガイダンスを聞きつつ履修登録を始めているパターン。エリカさんやレオくんもここに入っている。

 最後は少数派で、もう履修登録を済ませてしまっているパターン。コンソールの様子から分かったが、達也くんや幹比古くんがこれだ。

 

 それにしても、先に来ていた幹比古くんはともかく、達也くんはボクと一緒に来たんだから、かなりのスピードで履修登録をしたことになるなぁ。

 ボクもそれなりに文字を打つスピードには自信があるけれど、あの僅かな時間内で終わらせるのは難しそうだ。もしかしたら、千雨(ちさめ)さんといい勝負なんじゃないかな?

 

 そんなことを考えながら時間を潰していると、本鈴がなって、それと同時に教室の前側のドアから先生が入ってきた。

 ……多分スタンバっていたんだろう。

 入ってきたのは、大学を出たばかりぐらいの、スーツ姿の女性だった。

 美人というよりかは可愛らしい顔つきをしていて、体の方は顔とは逆の大人の体つきをした人だ。

 でも、うまく隠しているけれど、見かけとは違って結構体は鍛えている。たぶん、かなり腕の立つ師匠のもとで1〜2年ぐらい研鑽していると思う。

 

 ……ただ、大きめの携帯端末を抱えながら、()()()()()()()()()()()()()()()姿をみると、愛嬌のあって、いい先生っぽいかな?と思った。

 あっ、持ち直した。意外と早かったな。

 

「皆さんご入学おめでとうございます。

 初日から欠席者がいるようなことがなくてよかったです。

 こういう挨拶は緊張しますので何度もしたくないですから」

 

 柔らかく、嫌悪感を抱かせないように話すのはさすがだな〜。それに冗談も言って場を和ませている。

 

「私は第一高校の総合カウンセラーをしている小野(おの) (はるか)です。

 総合カウンセラーは、皆さんの相談相手になったり、専門のカウンセラーが必要な場合は紹介したりしています」

 

 ボクが2-Aで最初に挨拶した時は、トラップに引っかかり、揉みくちゃにされて、黒板には手が届かなくて……。

 こうして比べてみるとやっぱり先生としてはダメだったよなぁ。やっぱり九歳で中学生を教えるなんて無茶だったんだよ、おじいちゃん。教師は大人じゃないと。

 

「この学校には全部で十六人の総合カウンセラーがいて、二人一組で各学年一クラスずつを受け持ってます。

 このクラスは、私の他に柳沢(やぎさわ)先生が担当をしています」

 

 小野先生が教卓のコンソールに触れると、前方のスクリーンに三十代半ばぐらいの男の人が写った。

 

『皆さんご入学おめでとうございます。私は柳沢(やぎさわ)といいます。小野先生と一緒に皆さんのカウンセラーをさせていただきますので、よろしくお願いしますね』

 

 柳沢先生も丁寧に挨拶をしてくれて、信頼できそうな雰囲気を出している。

 ……ところで、慣れないはずの教卓のコンソールですぐに目的のものを写せたり、急に写されたはずなのに少しも驚いたり慌てることもなく自己紹介できたりしたってことは、この挨拶を何度も念入りに準備していたんだろうなぁ。

 それだけで、どれだけ生徒のことを考えているのかが分かって、生徒としては嬉しくなるし、元教師としては尊敬できる。

 クラスのみんなもその雰囲気は伝わったのか、どんな先生がつくのかと緊張していた気配が消えている。

 

「直接来てもらって相談する以外にも、こうやって端末を通じて相談することもできるので、気軽に来てくださいね。通信には専用の量子暗号が施されていますし、カウンセリングの結果は、このスタンドアロンのデータバンクに保存されるので、皆さんのプライバシーが漏洩する心配はないですよ」

 

 ああ、持ってきてたのって大型の携帯端末じゃなくてデータバンクだったんだ。この学校、そこらじゅうにコンソールがあって、携帯端末はいらなそうだったから疑問に思ってたんだよね。

 

「本校は皆さんの学校生活が充実したものになるように全力でサポートしていきます。

 ……ですので、皆さん、これからよろしくお願いしますね」

 

 多分、最初に入ってきたときの雰囲気からすると、突然の教師に混乱と緊張している初めは堅く説明して、最後に砕けることで安心させて心を掴む、という予定だったんだろう。

 ただ、ボクが入学案内に載ってなかった『教師が来る』ということをバラしてて、思っていた以上に混乱していなかったから、最初から砕けることで距離を縮めることにしたんだ。

 とっさの判断でそれまで決めていた方針を変えるのは意外と難しいけど、小野先生はそれが完璧にできた。

 頭の回転は速いし、カウンセラーとしても上手だろう。いい先生に担当してもらえることになった。

 ……柳沢(やぎさわ)先生をほったらかしにしていて、画面に向かってペコペコ頭を下げているから締まらないけど。

 

 画面を消して、小さく咳払いしたあと、再び大人の微笑みを浮かべるけれども、クラスのみんなから暖かい視線で見られていることに気づいて恥ずかしそうにしていた。

 わかります。教師なのに生徒にそういう目線で見られるとすっごい恥ずかしいですよね。

 

「こ、これから皆さんの端末にこの学校の施設とカリキュラムに関するガイダンスを流します。最後に選択科目の履修登録をしたらオリエンテーションは終了です。もし、わからないことがあったらコールボタンを押してください。施設案内とカリキュラムの案内を確認し終わっている人は、ガイダンスをスキップして先に進んでいていいですよ。……あら?」

 

 小野先生は疑問の声を上げたあと、ちらりと達也くんと幹比古くんを見た。もう履修登録まで終わっている人がいたとは思っていなかったのかな?

 

「……そうですね、既に履修登録まで終わっている方は退室していてもいいですよ。

 ただし、ガイダンス開始後の途中退室はできませんので、退室する場合は今のうちにしておいてくださいね。IDカードも忘れないように」

 

 達也くんは動く様子がないし、幹比古くんのほうを見ると、幹比古くんは達也くんたちの方を見て苦笑した。せっかく知り合ったんだからこのあとも一緒に行動することにしたらしい。

 

「はい。退室希望者はいないようなのでガイダンスを流しますね」

 

 さて、じゃあやろうかな、と?

 

「?」

 

 視線を感じて目線を上げると、小野先生と目があって、笑いかけられた。

 ?どうしたんだろう?

 とりあえず、何か用があるわけではなさそうなので、先にガイダンスを進めておこう。

 

◇ ◇ ◇

 

「なあ。達也たち、オリエンテーションの間ずっと小野先生に見られていたけど、なんかあったのか?」

 

 オリエンテーションが終わり、みんなで集まって早々、その話題になった。周りの人が気づくぐらいあからさまだったから、やっぱり気になるんだろう。

 

「あっ、あたしも気になってた!達也くんとナギくんとミキを交互に見て笑いかけてたよね。入学早々なんかしたってわけでもなさそうだけど。何が理由なのかね」

「僕の名前は幹比古だ!

 ……うーん、ナギも見られていたから、履修登録済みの人が気になったってわけではなさそうだし。理由って言われても特に思い当たることはないんだけど、達也はどう?」

「俺の方も特には。記憶を当たってみたが知り合いってわけでもないしな。ナギの方はどうだ?」

「そうだね……。ひとつだけ思い当たることがあるよ。まあ、あくまで可能性だけど」

 

 見られていたのがボクと、達也くんと幹比古くんだったからこれかな?って程度だけど。

 

「どんなことなんですか?」

「その前に。たぶん達也くんと幹比古くんの個人情報に関わることになるから、話すには二人の許可がないと」

 

 ピクリと、達也くんが反応した。まあ、個人情報って言われてどうして知っているのかとかいろいろ思うところはあるだろうからね。

 

「どんな内容かはわからないし、どこで知った情報なのかもわからないけど、あまり重要なことじゃなければいいよ。僕も理由が知りたいしね」

「そうだな。友人に話せる範囲での情報ならいいだろう」

「安心してよ。そんな、隠しておきたいような情報までは持ってないから。幹比古くんのに関しては完全に推測だし」

 

『持っていない』だけで『得られない』わけではないけれど。

 まあ、友達だしアレ(・・)を使うつもりはないけどね。

 

「さあ、二人の許可も降りたことだし、さっさと話してよ。オリエンテーションの最中から気になって気になって仕方がないんだから」

「わかったよ。それで、確か幹比古くんって普通の勉強の成績もすごく良かったよね?」

「確かに成績は比較的いい方だけど……」

「比較的いいなんてレベルじゃないでしょ!ミキがそのレベルならあたしはどうなるのよ!」

「エリカちゃん落ち着いて。それで、それがどうかしたんですか?」

「うん。一週間ぐらい前に真由美お姉ちゃんが愚痴ってたんだけど、今年の入試で、筆記のみだとトップテンに二科生が三人も入っているんだって」

「……つまり、その三人が達也たちってことか?」

「一位がダントツで達也くん、二位がボクらしいから、残りの一人が幹比古くんだったら、教員の間では目立ってるのかなと思ったんだけど」

「たしかに、それだったらあの行動にも納得がいくな」

 

 達也くんや幹比古くんはこの推測で納得しているみたいだけど、その後ろでエリカさんやレオくんが呆れている。

 

「というか三人ともそんなに頭が良かったんですね」

「いや美月、『頭がいい』のレベルに驚きなさいよ。ようはこの三人は勉強だけだったら学年トップレベルだってことなんだからね」

「だけど、試験でわからねーとこを質問するのにこれ以上の奴はいねーぜ?性格もいいし、友達としては最高じゃねーか」

「……そこが重要なんだね。まあ、いいけどさ」

 

 レオくんの発言に幹比古くんは呆れているし、達也くんも苦笑いしている。初めから人任せじゃなくて、あくまで『質問をする』なんだから、ボクは別にいいと思うんだけど。

 

「それで、理由もわかったことだし、これからどうするよ?」

「ボクはお昼に真由美お姉ちゃんに呼ばれてて、午後一の授業もお姉ちゃんの授業を見に来いって言われているけど、それ以外だったら大丈夫だよ」

「俺はここで資料の目録でも眺めているつもりだったんだが……。OK、せっかくだし付き合うよ」

 

 レオくんやエリカさんの顔が曇ったのを見て、達也くんは苦笑しながら頷いた。少し表情が分かりづらいけど、これで結構面倒見はいいみたい。年下の妹(みゆきさん)がいたからかな?

 

「それで、どこに行くつもりなんだい?」

 

 幹比古くんがレオくんに尋ねる。今日明日と、専門的な魔法教育を受けたことのない新入生が雰囲気をつかめるように、実際に行われている先輩たちの授業を見学できるから、どれにするのか決まっているのか知りたいのだろう。

 

「そうだな……。昼まで工房に行ってみねぇか?」

「え?闘技場とかじゃなくてですか?」

 

 レオくんの答えに、美月さんが驚きの声を上げる。それだけじゃなくて、ボクも含め多かれ少なかれみんなが驚いた。

 レオくんは、なんというか、体育会系な雰囲気だったから、工房という答えは意外だった。

 

「やっぱ、そういう風に見えんのかね。まあ、間違ってはねぇけどな」

 

 レオくんもそう見らているのはわかっているみたいで、苦笑こそしたものの傷ついた様子はなかった、

 

「単に俺の得意魔法が収束系の硬化魔法だからだよ。かけるときも素材だとかの知識があるかないかで効きが全然ちげーし、自分の使うものは自分でメンテぐらいできるようになっときたいしな」

 

 その言葉にみんな納得したように頷く。

 それにしても、レオくんは自分の長所を理解して、それに必要なものを考えている。この様子だと将来のことも考えているだろうし、高校生になったばかりということを考えたら、かなりきちんとした性格なんだな。少し意外だった。

 

「それなら私も工房に行ってみたいですね。達也さんと同じで私も魔工師志望なので」

「あっ、なんかそれは分かる気がする。美月ってあまり身体動かすのは得意そうじゃないもんね」

 

 たしかに、エリカさんの言う通り、美月さんが魔工師っていうのはピッタリだと思う。

 

「オメーはどう考えても肉体労働系だな。闘技場の方がいいんじゃねぇか?」

「野生動物のあんたには言われたくないわよ」

 

 さて、クラスのみんなも動き出しているし、そろそろ決めないとな〜。

 

「んだと!一瞬もためらうことなく断定しやがったな!」

「そう感じたから言って何が悪いのよ」

「二人とも……今日あったばかりだろ」

「……ナギはもう止めないのかい?」

「こういうのは止めようとして止まるものじゃないからね。横から何かが来て仕方なく休戦するか、取っ組み合いのケンカになって決着がつくかでしか基本的に終わらないよ」

 

 アスナさんといいんちょさんがこんな感じだったからよくわかる。このタイプのいがみ合いを止めるのは大変なんだ。

 

「はっ、前世からの因縁かなんかがあるんだろうさ」

「あんたが畑を食い荒らす猪かなんかで、あたしがそれを仕留めた猟師だったんじゃない?」

「こ、このアマ……」

「ほら!二人とも行きましょう!時間がなくなっちゃいます!」

「そうだな!このままじゃ教室に残っているのが俺たちだけになるぞ」

 

 おお!強引に軌道修正しようとしてる!二人とも苦労人だなぁ。

 レオくんたちもわかっているのか、不機嫌にそっぽを向き合うだけで終わりにした。流石にアスナさんたちよりかは物分かりが良かったみたいだ。アスナさんたちだったら、このくらいじゃ止まらないからなぁ。

 

◇ ◇ ◇

 

 あの後、午前中はレオくんの提案通り工房を見て回ったけど、達也くんの目が輝いていたのが印象的だった。

 特にCADのハードウェアの授業では、二年生の中性的な顔立ちをした男の先輩に質問をしたそうにしていたし、本当に魔法工学関連が好きなんだなぁ。

 

 今はお昼になったのでみんなと別れて、真由美お姉ちゃんに呼ばてた場所に向かっている。

 

「それにしても、生徒会室に呼びだすなんて何があったんだろう」

 

 小野先生に見られていたとき以上に心当たりがないんだけど。電話じゃなくてわざわざ呼び出すのもおかしいし。

 

「っと、ここかな?

 失礼します。1-Eの春原(はるばら)です。真由……、七草(さえぐさ)生徒会長に呼ばれてきました」

 

 この時代にもマナーとして残り続けていたノックをして、所属と名前を告げる。するとすぐに返事があった。

 

「はーい。遠慮せずに入って」

「失礼します」

 

 真由美お姉ちゃんの言う通りに、扉を開けて入る。

 部屋の中には六人の先輩がいた。

 

 直接の面識がないのは二人。

 髪の長い、クールな印象を受ける女の人。

 それとは対照的に髪の短い、かっこいい印象の女の人。

 髪の長い人は入学式で紹介があった。会計の市原先輩、だったと思う。

 髪の短い人は紹介はなかったけど、九校戦で見たことがある。たしか、渡辺(わたなべ)先輩だったかな?

 

 面識のあるのは四人。

 一人目は真由美お姉ちゃん。

 二人目に、入学式の前に会った中条(なかじょう)先輩。

 三人目は、入学式の後に会った服部(はっとり)先輩。

 そして最後は……

 

「久しぶりだな、春原」

「おひさしぶりです、十文字(じゅうもんじ)さん」

 

 十文字家代表代理、十文字(じゅうもんじ) 克人(かつと)さん。

 

「さて、これで全員揃ったわね」

 

 ……思っていた以上に大事になりそうだ。




ナギはボスのへやにはいった。にげられない!

はい、不穏な空気になったところで次回に続く!です。
今回は特に補足もないのでまた次回となります。

一高ボス陣に呼び出されたナギ!一体彼らの要件とは!
次回、『春原の名』!
ご期待ください!

ヒロイン&アーティファクト募集はまだまだ行っています!是非ともご一考ください!

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