徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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短期集中連載予定


オーバーロード二次 マスクドライダーが逝く

 「俺さ、日朝の変身ヒーローになりたかったんだ。」

 

 その夢を追うために、俺はユグドラシルを始めた。

 何せ未知への探求こそがテーマとされる当時最新型のMMORPGだ。

 絶対に何処かにあると思ったのだ、俺の求める仮面のヒーロー達の似姿が。

 

 しかし、現実は残酷だった。

 

 調べれど、調べれど、見つからない。

 最初は人間種で装備を幾度も改造し、しかし微妙にしっくりこない(コレクションとして取っておくが)。

 次に亜人種(エルフやドワーフ等)を試し、ダメだった。

 そして最後、僅かな躊躇いと悩みの果て、遂に異形種を選んだ。

 昆虫人という種族。

 文字通り人型に近い蟲の種族。

 だが、異形種はPKの的に成り易く、そのため育成が難しい。

 だがしかし、以前からの経験により、初プレイで異形種を選ぶよりも遥かに楽に育成は進んだ。

 無論、幾度となく異形種狩りのPKに合ったが、手を変え品を変えもとい狩場を変え装備を変えレベルを上げ、ログイン時間を調整した結果、何とか己の思う仮面のヒーローの形へと近づいていく。

 しかし、ちょっと足りない。

 仮面の変身ヒーローなのだから、普段は人で戦いの時に変身するべきだろう。

 そんな拘りのため、ユグドラシルではゴミアイテムとされる人化の指輪を正・副・予備含め三つも持っていた。

 後々になってこれで大いに得をするのだが、それはさて置き。

 重戦士ではなく軽戦士、それも外骨格+素手の戦闘に特化したモンクやグラップラーをメインにし、ロール目的でサブに雷撃系を中心とした魔法詠唱者を取得する事でかなり理想に近づいていき、レベルも更に上がった。

 その頃にはPKや異形種狩りのアホ共も返り討ち&闇討ちできる様になり、やがてソロでクランに入る事もせずにそれなりに名が売れた頃に彼らと出会った。

 アインズ・ウール・ゴウン。

 異形種の自警団からPKKを目的とした悪役ロール系ギルド。

 彼らの長であるたっち・みー氏よりスカウトを受け、ソロでの限界も感じていた事もあり、自分はあっさりと加入した。

 それからは楽しい事ばかりだった。

 スキルやレベル、ステータスや装備等を全て最初から皆で見直し、デスペナでレベルを下げてからの再構築。

 理想に近かったキャラがより理想に近づいていく快感。

 そしてロール重視というギルドの方針もあって本当に自分が物語の悪役になったかの様に色々な場面でロールするのは楽しかった。

 当初は正義の味方の仮面のヒーローだったのに、ウルベルトとたっち・みーさん、そしてタブラさんの影響を受けてダークヒーロー化してしまったのは想定外だったが、それもまた楽しかった。

 多くのイベントやワールドエネミーからの強襲と討伐戦、レア鉱山の奪取と防衛戦、ナザリック地下大墳墓攻略及びギルド拠点化、そして命知らずにも挑んでくる輩への迎撃戦。

 どれもこれも、あっという間に過ぎ去り、そして終わったリアルでの生活よりも遥かに輝いていた。

 しかし、どんな祭りにも終わりがあり、日はいつか沈み、夢は覚めるものと相場が決まっている。

 

 もう、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーでナザリックに来る者は殆どいなくなってしまった。

 

 声優のぶくぶく茶釜さんも、変態な弟のペロロンチーノも。

 女教師であるやまいこさんとその妹の明美さんも。

 警察官でギルド長のたっち・みーさんも、厨二病のウルベルトもタブラさんも。

 自然大好きなブループラネットさんに至っては、病気で亡くなってしまった。

 

 最早、栄光のナザリックは完全に斜陽の時を迎えていた。

 そして今日、ユグドラシル自体もまた終わりの時を迎えようとしていた。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第10階層 玉座の間

 

 「結局、ヘロヘロさんだけでしたね。」

 「そうですね。」

 

 赤い三つの宝玉と金で縁取られたローブが特徴の死霊使い系魔法詠唱者のオーバーロード、モモンガ。

 漆黒に血管の様な金色のラインが走った細身の外骨格、背に裏地が赤、表が黒に虫の顔に似た象形文字の様な金色の紋章が刺繍されたマントを羽織ったヴァーミンロード、空我。

 第9階層の戦闘メイドと執事達を侍らせた状態で、二人の異形種プレイヤーがそこにいた。

 

 「まぁ、どんなお祭りも何時かは終わるもの。こうして二人だけとは言え懐かしむ事が出来たのを良しとしましょう。」

 「そうですね…。」

 

 意気消沈するモモンガ。

 その姿にリアルでは天涯孤独同士で低学歴仲間であるウルベルトやペロロンチーノら悪友組すら来なかった事に本気で残念に思っているのだろう。

 

 「モモンガさん、最後にスクショ撮りません?」

 「へ?」

 「最後位うちららしい最後を飾りましょうよ。」

 

 で、ゴニョゴニョと相談する。

 

 「いいですねそれ!」

 「ではモモンガさんは玉座に、オレはその前でー。」

 「位置は…あ、もう少し手前で。」

 「はーい。」

 

 そして、モモンガが玉座に腰掛け、空我が玉座の前で跪き、準備が終わる。

 

 「申し開きもない。我らが王モモンガよ。結局、私は世界の終わりに抗えなかった。」

 「何を言うのだ友よ。我ら二人、こうしてここに残ったではないか。何より世界樹ユグドラシルが枯れるは定められたもの。来るべき時が来ただけに過ぎぬ。」

 

 そのモモンガのセリフに、嘗ての栄光が頭を過る。

 困った時も、怒った時も、悲しんだ時も、喜んだ時も。

 全て全て、大事な思い出だった。

 

 「さぁ、それよりも最後なのだ。何時までも跪くのではなく、皆で華々しく最後を飾ろうではないか。」

 「解った。では、隣に立たせてもらおう。」

 

 すっと空我が立ち上がり、玉座の右側に並び立つ。

 

 「楽しかったですねぇ…。」

 「えぇ、本当に…。」

 

 じわじわと、もう戻らない時を懐かしみ、胸が痛くなる。

 何だか涙腺まで熱くなってきた……年は取りたくないなぁ。

 

 「では我が友よ、最後はやはりアレで締めようか。」

 「あぁアレだな。随分久々だな。」

 

 うん、とモモンガさんと頷き合い、声を揃えた。

 

 「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」」

 

 その言葉を最後に、全ては消える……

 

 

 

 「「あれ?」」

 

 筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは死の支配者の蹂躙劇ではない。

 

 

 「これは……えらい事になったな。」

 

 

 悪を討つ悪、仮面の悪漢の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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